夕方、橋、帰り道
写真部の活動は放課後がメインになる。
自分が通う学校の写真部は、基本方針として部活開始時間のミーティングに参加した後自由となる。
校内で写真を撮っても、部室にあるパソコンで写真データの編集をしても良い。
そのまま帰宅がてらどこかに写真を撮りに行くもよし。
月に一回行われる作品発表会で、その月一番の出来の写真を見せ合うのが恒例となっているので、それに合わせて部員たちはそれぞれ写真を撮るのだ。
しかし部員の方針もそれぞれでコンテストを目指す人、面白い写真を撮る人、パソコン操作を習得したいからとみんなの編集を請け負っている人もいる。
そんな部活で、自分はコンテストを目指している。
今は下校がてらの撮影スポット探しの真っ最中なのだ。
いつも時間がある時はすこしだけ遠回りをして、どこか良い風景はないかと歩き回っている。
自宅から通っている高校までは、最寄り駅まで歩いて十分。電車で四十分。そして駅から高校まで徒歩十分弱だ。
少し遠かったけれど偏差値や、校風、何より写真部があることに惹かれて選んだ。
撮影スポット探しでは下校の時の電車を途中下車することも多い。
でも今日は自宅の最寄り駅から少し回り道をしている。
目的地もあった。
自宅から少し歩いたところに川がある。そこに歩行者専用の橋がかかっており、今の時間帯夕暮れがとても綺麗に見えるのではないかと思い、向かっている。
橋に着く頃、ちょうど良く夕陽が差し、川を朱色に染めていた。煌めきとゆらめきが相まって、とても写真映えしそうな状態だった。
「あれ?」
数枚シャッターを切ったところで、声をかけられた。
ファインダーから目を離し、声の方向に顔を向けるとそこには幼馴染の姿があった。
相沢笑里。彼女とは家が隣同士で、幼い頃から親同士の仲の良さも相まってよく遊んでいた。
でも別の高校に進学してからは関わることも減ってすっかり疎遠になっていた。
そんな中、彼女の写真を撮る機会があった。それ以降特に連絡はしていなかったがこんなところで会うとは思わなかった。
「こないだぶり。写真撮ってるの?」
「うん。今の季節この時間なら綺麗な写真、撮れると思って」
「へぇー熱心なんだね」
「まぁね、コンテスト用にとにかくたくさん撮ってるんだよ」
この間はどぎまぎしてしまったが今日はスムーズに話せている。懐かしい気分だ。中学までは登下校も同じ道だったから結構よく話していた。
「あれ、そういえばなんでこっちにいるの?」
たしか彼女の通う高校は自分とはまた違う駅から電車に乗っていく。しかも彼女はそこまでバスで行っていたはず。
制服を着ている様子を見ると学校帰りなのは間違いない。
なんでここにいるんだろう?
「ちょっと買い物があってあっちの駅まで行ってたの」
その手にはビニール袋が握られていた。柄からして駅前の本屋のようだ。そういえば大きな本屋はあっちの駅にしかなかったはずだ。
「ダイエットの本?」
「違うよっ!」
イタズラ混じりにそういうと少し怒られた。
「まったくもぉ。これは編み物の本。最近学校で流行ってて私もやってみようと思ってね」
「へぇマフラーとか?」
「最初はそうかも。でも編みぐるみとか色んなの作れるんだよ! 友達で上手い子がいてクラスで話題になったの」
すごく楽しそうに話している。
「バッグにすんごいかわいいぬいぐるみが付いてて、どこで買ったのって聞いたら作ったって言うんだもん! 話聞いてたら楽しそうだしやってみよって」
「すごい行動力だね。あっちの駅まで遠かったでしょ」
「まぁね。でも思ったらすぐ行動しないとなんだかんだ人間ってやらないでしょ?」
そういえば彼女は小さい頃から行動力のある子だった。興味を持ったら率先して行動に移していろんなことを一緒にやった記憶がある。
光る泥団子とかペットボトルロケットとか。テレビで見た面白そうなものはすぐやった気がする。メントスコーラをやって洗濯物をベタベタにした時はすごく怒られたっけな。
「もう写真はいいの?」
「うん,とりあえずいい感じのは撮れたよ」
さっき撮った写真を見返すと、なかなかいいものが撮れていた。夕陽と夕闇のコントラスト、川面の煌めき。いい具合だ。
「見せて見せて〜」
また手元を覗き込んでくる。カメラを受け取ろうと言う気持ちはないのか。行動力はあるのに変にめんどくさがり屋なところもあるんだよな。
彼女は撮ってある写真を何枚か見る。
「また景色ばっかり。私を撮ってから誰も撮らなかったの?」
「被写体にしたい人もいないしね。そもそも景色を撮るのが好きなんだよ」
「ふーん」
少し間が開く。彼女が少し離れて、自分の呼吸が少し浅くなっていることに気がついた。
二人で夕陽が差し込む川面を見る。
心なしか先ほどより煌めきが増している気がした。
川のせせらぎ、夕方になってやや冷たくなってきた風につつかれた。
彼女をちらりと見ると、夕陽に照らされた顔と、風に靡くセミロングの黒髪がまるで眼下の川面のように輝いていた。
(撮りたいな……)
思ってしまった。写真を撮り始めて一年が経つ。人物を被写体として意識したのは初めてだ。
ほんの少し、カメラを持つ手に力が入る。
「ねぇ、また撮ってよ」
「はえ?」
変な声が出てしまった。
撮りたいと思った瞬間、彼女の方から撮って欲しいとお願いされた。
「すごく綺麗な夕陽でしょ? 可愛い私と撮ったらすんごい良い写真になると思うんだよね」
夕陽なのか照れなのか、少し顔が赤くなった彼女は早口でそう言った。
「じゃ、じゃあ、こっちで」
動揺を隠すかのように早口になってしまった。
それでも写真だけはしっかり撮ろうと夕陽をバックに撮るため、撮影スポットへ誘導する。
「今日もポーズは無し?」
「うーんそうだなぁ……今日は何枚か撮ってみよう」
「いいね」
そうして彼女にポーズ指導をしながら何枚か撮っていく。
振り返るようなポーズ。橋の手すりを持ちながら、ただの棒立ちも試しに撮ってみた。
「よし」
「どれどれ〜」
二人でモニターを覗いて撮った写真を見てく。
「すごーい! めっちゃ綺麗!」
我ながらほんとによく撮れた。
夕陽と雲のコントラストも良い。人物を撮るときの逆光の光度なんかは少しむずかしかったけれど、綺麗だ。
「上手く撮れたよ」
「モデルがいいからねー」
にししと笑う彼女。
「ダイエットの甲斐はあったのかもね」
「また言う!」
肩を小突かれた。
夕方の空気は春の暖かさを忘れたかのようで、輝く水面は宝石のようだ。
「帰ろっか」
「そだね」
二人でだべりながら歩く。
どんどん暗くなる空の中、彼女と話していると気分は明るくなっていった。
水面のきらめきは常に変化して同じ表情を見せない。
彼女から感じた輝き。
また同じものを見ることはできるだろうか。




