第97話 骨を埋めて待っています
煙が晴れると、中から出て来たのは威厳がありそうな中年の男性だった。
「こ、こは……?」
中年の男性は白昼夢から覚めたかのように辺りを見渡した。
「お父様あああ!!」
ホネコがいきなり中年男性に抱きつくもんだから、彼がビクリと警戒した。
でも、すぐに警戒を解いてみせた。
「その声は……我が娘ホリーかい?」
「はい。お父様の娘、ホリーです」
「そうか……ホリー、そのような姿になっても、また会えて嬉しいぞ」
中年男性がホネコの頭を撫でてみせる。
「お父様……」
俺から見ると親子の感動の再会。
しかし、エリスさんから見るとホラー演出。
ガタガタ震えて、なにがなんだかわからないといった様子だ。
「大丈夫ですか、エリスさん」
彼女へ手を差し出す。
「だ、だだだ……」
声も手も震えて到底大丈夫そうではないが、なんとか俺の手を握って立ち上がる。
「ぁ……」
「おっと」
足がもつれてこちらに倒れて来るもんだから、受け止める。偶然、ホネコ達と一緒の抱き合った形になってしまう。
「すす、すみま──」
「気にしないでください」
そりゃ、ガイコツ見て気絶して、気が付いたら鬼がいて、鬼が人間になってガイコツと抱き合ってたら意味不明なホラーで震えるよな。事情がわかってなかったら俺も同じ気持ちになる。
「もし、そこのお方」
ホネコ達の感動の再会は終了したみたいだ。「大丈夫ですか?」とエリスさんに声をかけると、焦って俺から離れてしまう。そして小さく、「はい」とだけもらった。
「魔人化から救っていただきありがとうございます。私はホセ・ネポ・チリンドロ・ディエゴ・アルバロ・レメディオス・パラ・ネポ・クリスピン・チノ・トリニダ・イ・アルブレヒト」
流石ホネコの父親。名前が長いや。
「長いため、ホネチチと呼んでください」
ホネ要素が一つもないが、ホネコのチチということで、そう呼ぶのに抵抗はない。
「俺はリオン・ヘイヴンです」
視線をエリスさんにやると、彼女は到底自己紹介なんてできる状況ではないのが目に見えてわかる。
「こちらはエリスさんです」
「リオン殿にエリス殿。此度は私を魔人化から治していただきありがとうございます。もしや、お二人はマリン殿の親族であられますか?」
驚いた。まさかこんなところでもマリン・アルバートの名前を聞くとは思いもしなかった。
「いえ。血は繋がっていませんし、会ったこともありません。ですが、話だけは伺ったことがあります。どうやら俺とマリンは同じ魔力らしいと」
「……あなたも?」
言葉足らずな疑問形。だけど、それが俺を転生者と尋ねたいと予想して、「はい」と頷いておく。
「そうでしたか。あなたも……でしたらエリスさんも?」
言いながら彼はエリスさんに視線をやる。
主語なき質問とこの状況にエリスさんはなにも答えられずに黙っているだけだった。ここは代わりに俺が答えておく。
「彼女──エリスさんとはまだ出会って数日なのでわかりませんが、おそらく俺とマリンとは違いますよ」
「そのようには見えませぬが……」
どこか納得していない様子のホネチチさん。エリスさんを転生者と言いたいのかな。けど、これ以上その話を引っ張るつもりもないみたいだ。
「なんにせよ、魔人化から救ってくれたのは事実に変わりはありませんな」
「ホネチチさん。魔人化……ということは、ホネチチさんはヴァンパイアに襲われて?」
「はい」
苦い顔をしながら頷くホネチチさんは、魔人化した真実を教えてくれる。
「アルブレヒトは長らく朝が来なかったのです。それはアルブレヒトが神の怒りを買ったと思い、怒りを鎮めてもらうため、我が娘ホリーを生贄として捧げました」
それはホネコが教えてくれた事実と同じ。だが、次の言葉がホネコと違った。
「しかし、それは神の怒りでもなんでもない。ヴァンパイアの仕業と発覚したのです」
「ヴァンパイアの仕業……というと、ヴァンパイアがなにかしらの魔法で朝が来ないようにしていたということですか?」
「おそらく……。この贄の祭壇を根城とし、アルブレヒトの技術を奪い取ろうとしたのです。それは神を冒涜した技術だったため、我々は後ろめたさを感じていた。だからみすみすと娘を生贄に捧げてしまった」
思い出しているのか、ホネチチさんは怒りに満ちた顔をしていた。
「私は単独で贄の祭壇に来たのですが、既に手遅れでした。娘は魔人化してしまい、私も呆気なく魔人化してしまった。私は魔人化する直前、アルブレヒトの技術も、ヴァンパイアも、魔人化した自分と娘と、全てをこの場所に封印しようと思い、扉に封印を施しました」
ヴァンパイアというのはこの前浄化してやった奴のことだろうか。それとも、他にもいるのか。それは定かではないが、ここにヴァンパイアの姿はない。ホネチチさんも逃げられたと思っているのだろう。
しかし、あの封印はホネチチさんがしたもの。それをライオ兄さんが斬り、封印を解いたって感じか。
ふとホネコを見る。
その視線でなにを言いたいのか察したのか、ホネチチさんが答えてくれる。
「ホリーがヴァンパイアから魔人化を受けたのは数年前の話。肉体が朽ちてしまい、もう血が流れていないため、意識は元の人間。ですが、ヴァンパイアの魔人化は続いている状態なのでしょう」
「だからガイコツとして動けるってことなのか」
「おそらくですが」
「ホネチチさんはどうして肉体が朽ちないのですか?」
「そうですね。確証を得られませんが、私の魔力もまた特別なもの。だから長いこと魔人として生きているのではないでしょうか」
「特別な魔力……というのが、アルブレヒトが神の怒りを買ったと勘違いした事に関係はあるのですか?」
尋ねると、ホネチチさんは被っていた王冠を取り外した。
「クローン魔術。私はクローンを作成できます」
「く、ローン……」
想像もしていなかった単語が放たれ、途方もない声が漏れてしまった。
「ある人間を素材にし、同じ存在を作り出す禁じられた魔術。神を冒涜する魔術です」
「な、ど、うして、そんな、クローンって……」
クローンなんて聞くとどうしてもネガティブな感想が出る。悪役がやりがちな開発。ホネチチさんはそんな悪役には見えないのだが。
「マリン・アルバートがクローンだからですよ」
「え?」
ここに新たな情報が入り、困惑の声が漏れる。
その発言を皮切りに視界が歪んでいくのがわかる。
「リオン殿。元の場所に戻ったのなら、ホリーを元の姿に戻してあげてはくれませんか?」
答えたくても視界が揺らぎ、答えることができない。
それが相手もわかっているみたいで、なにも言わずにいてくれた。
「リオンさん。また会えますよね。骨を埋めて待っています、ダーリン」
ホネコの言葉を最後に、俺の視界は白く染まっていった。




