第93話 ダンジョン攻略開始
波乱のダンスパーティが終わり、ようやくと本番のダンジョン攻略が始まる。
アルブレヒト領の山間。苔むした鳥居。崩れかけた石段。そして、その奥に口を開ける黒い洞穴。洞穴の前には、風に揺れる無数の御札。
これ、明らかに入るなって警告しているよなぁ。
しかし、『学園合同ダンジョン攻略、夏の陣』の代表メンバー達は、こんな明らかな和風ホラー演出を気にも留めていないご様子。
無知は罪と言ったところだが、知らぬが仏って言葉もあるよね。
「みんな聞いて欲しい!!」
わらわらと集まる三〇名の中から、ルベリア王女が大きな声を張り上げ、自分へと注目を集めた。
「今年も例年の如く未開拓のダンジョンだ。なにがあるかわからないため、固まって行動する。だが、戦闘の際は、編成した三人パーティに分かれて戦い、ダンジョンを攻略していくぞ!!」
流石はルベリア王女。リーダーシップ抜群の仕切りを見せてくれる。
ライオ兄さん。あなたじゃルベリア王女にはそういった点では勝てないから歯ぎしり立てないでね。
「命大事に!! 無事にここで再会しよう!!」
おおおおおお!!
アルブレヒト領でステラシオン節が炸裂。
ホラーって理解しないとホラーにならないんだな。
♢
ダンジョン内は広い。三〇名一〇パーティが入っても余裕がある広さ。
湿った土と石の匂いが鼻につく。
「ひゃ……」
後ろの方で女性の悲鳴が聞こえて来た。なんだろうと振り返ると、どうやら天井から滴る雫が肌に当たったみたいだ。
「みんな、足元がスベリやすい。注意してくれ」
先頭に立つルべリア王女が後ろに聞こえるように注意を促す。
頼りになる王女様だと思う反面──。
「俺らが先頭か……」
そりゃまぁ、あんだけ仕切り発言をしたルベリア王女が先陣を切らないわけにはいかないよなぁ。
「ひぃぃ。貴族達を従えてりゅぅぅ……」
エリスさんはビクビクしながら武器だろう本を持って移動している。
そりゃ、そうなるよね。
まぁ本当の一番前ってわけではなく、最前列はルベリア王女だ。そこがまだ不幸中の幸いってところかね。
『リオン、男らしくないぞー』
ふと、どこからともなく声が聞こえてくる。
『女性に前を行かすなんてヒモ男めー!』
『そうだー! アルバートの男子なら前を行けー!』
これがフーラの言っていた遠隔魔法で見守りながら応援の声を出すってやつか。こっちの行動は応援側に筒抜けみたいだね。
『むっ! アルバートのヒモ共!! それは我が姫では筋肉が足りないってことか!?』
『ヒモはお前のところのリオンだっ、ぼけっ!!』
『あいつはお前らのところだろ!!』
いるかいらんかジャンケンホイ、でいらんを選択された気分なんですが。悲しい過去が蘇りそうなのですが。
『我が姫は国唯一の脳筋! 脳が筋肉でしかできていないのだぞ!』
「お前ら! 脳筋、脳筋言うな!」
ルべリア王女……お気持ちお察しします。
『知性の欠片もない。ステラシオンの連中はともかくとして、アルバートに知性がないのは期待外れですね』
『うるせーよ三軍がっ。二軍の陰キャと一緒にするなっ。しばきまわすぞっ』
『自分を一軍陽キャと勘違いして痛々しい種族ですね。黙って腕立てでもしとけ』
『だまれ! 我らはダンベル派だ!』
応援側知性のレベルの低い対戦が始まった。
「ひぃぃ。貴族達が荒ぶってるぅ……」
エリスさんがかなり怯えている。そりゃ声だけの野次合戦は怖いよね。俺も怖い。
励ますようにエリスさんの肩にポンッと手を置く。
「大丈夫ですよ。気にしないでいきましょう」
「は、はひぃ」
『追放野郎が調子に乗ってぞ!!』
『そうだ、そうだ! 昨日のダンスで良い気になるなよ!』
『お前のところの王女は可愛いくせに踊れてないぞぉ』
「ぐふっ」
流れ弾がフーラに炸裂しちゃった。
♢
最初は野次が飛びまくっていたけど、実際に魔物が出てくると、
『上から来るぞ、気をつけろょ』
みたいに指示が入る。
そもそも、この遠隔魔法っていうのはそういう使い方なんだろう。
ここのダンジョンの魔物もまた和風。小鬼や鬼火。提灯の化け物みたいなのも出て来る。そして数が多い。向こうもパーティを組んで一気に俺達に襲いかかる。
「はああああああ!!」
だが、それはこちらも同じことだ。
各パーティのステラシオン騎士学園の人達が率先して剣を振るう。
『アースグレイブ!!』
『サンダーボルト!!』
遠方からアルバート魔法学園の人達も杖を振る。
「魔法(物理)!!」
俺は違う意味で杖を振り、魔物を真っ二つにしてやる。
『キュア』
魔物の群れを倒すと、アルブレヒト回復学園の人達が自分達のパーティの傷を癒す。
うんうん。実にバランスの取れたパーティ編成。
『アルバートのくせになにを物理でいってんだ!』
どうやら応援側は納得のいっていないご様子。
『魔法使いらしく魔法でいけや! 合同ダンジョンの意味がねぇだろうがっ!!』
他の学園からブーイング飛んでくる。
さっきまで応援してくれていたのに、魔物がいなくなると野次が飛んでくる。正論なんでなにも言い返せない。
「うるせーぞお前らっ!! ウチの弟は魔法を使えないポンコツなんだ、許せっ、ぼけ!!」
「ライオ兄さん。それ俺に対する追撃だからね。ドヤ顔でフォローしてやった感は出さないで」
♢
濡れて滑りやすい通路は、やがて行き止まりに突き当たった。
目の前には巨大な木の扉が見える。
古びた扉には太い注連縄が張られ、無数の御札が貼り付けられていた。
これ……絶対になんかを封印してるやつだろ。もう、見ただけでわかるやつ。
「皆、無事か!?」
ルベリア王女が全体を見渡す。ここまで魔物の数が多かったが、アルブレヒト回復学園の人達のおかげで、傷は少ない。体力にも余裕があるみたいだ。
「では進むぞ」
ルベリア王女が木の扉に手を置いて押してみる。
「──開かないな」
「やっぱり、なにかを封印して開かないようにしているんじゃないですか?」
「そう、かもな。エリス。なにか心当たりはないか?」
急にルベリア王女から質問が飛んで来たもんだから、エリスさんはビクンと跳ねてしまう。なんとか首を横に振り、知らないという意思を伝えていた。
「そうか。他の者はなにか知らないか?」
他のパーティメンバーに問いかけるが、全員知らない様子。そりゃここは未開拓のダンジョンだから知らなくても当然だよね。
「ぉらぁぁぁああああああ!!」
聞き覚えのある声が聞こえて来たかと思うと、その声の主がハルバートを持って高くジャンプしている。
そのまま落下の勢いで注連縄と共に木の扉を真っ二つに斬った。
ドゴンと扉が壊れると現場には土煙が舞う。その中からハルバートを持ったライオ兄さんが出て来た。
「おら、開いたぞ」
「ライオ!! お前はなにを勝手なことをしているんだ!!」
「あ? なに勝手にリーダーぶってんだよ、ぶりっ子が」
「ぶりっ!?」
「お前ら、道が出来たから進むぞ、おらっ!!」
『おおおおおお!!』
応援側から歓声がわく。
「もうやだ脳筋」
「すみません。ほんとすみません」
身内がやらかして謝る構図。あの思春期の次男は大人になった時にこの黒歴史を思い出して悶絶しろ。
なんて呪っている場合じゃない。
ガンガン進んでいくパーティがいるもんだから、俺達も続いて進んでいく。先頭を走っていたのに、あっという間に最後尾になる。
「あでっ。すみません」
歩いていると前の人が立ち止まってぶつかっちゃった。
「──って、ヴィエルジュ?」
「ご主人様。あれ……」
ヴィエルジュの指差す方向。
そこには黄金の瞳をした巨大な鬼の姿がある。頭には錆び付いた王冠が歪んだまま残っていた。
持っている巨大な金棒を構えた。
「虫ケラが……邪魔をするなっ」




