第91話 これは不正ではない。実力だ!!
先程までの優雅な時間はどこへやら。鳳凰の間は、喧嘩祭りみたいな喧騒に包まれてしまっている。
「こんなものはアルバートの不正だ!!」
「そうだ、そうだ!! 王族であるフーラ王女が踊れないはずがない!」
「そこの銀髪美人もツインテール美人も、踊れないフリをしてアルブレヒトに恥をかかせる魂胆に違いない!!」
喧騒の中、そんな言葉が飛び交っている。
これ、もしかしてあいつら……。
「リオン」
着物ドレスが少しはだけているルベリア王女が隣にやって来る。セクシーだな、おい。さっきステラシオン騎士学園の漢祭りの中心にいたもんね。
「あいつらなにやったんですか?」
「まぁ……その、なんだ……」
ルベリア王女がなんとか言葉を選んでいる。
「ど、くとくなダンスが相手の勘違いを生んでしまったみたいだ」
アブラートに包んだことによって、より嫌味感が増したね、これ。
「特にフーラ王女は王族だから、そのダンスがアルブレヒトの男子学生のエスコート不足を誘いこんだ罠だと思われたみたいだ」
「なるほど。ざまぁ、ってわけですかい」
「ざまぁ?」
「いえ、こちらの話です」
へん。モテた結果がこれじゃあ笑い話にもなんねぇなぁ、メイド三銃士。ざまぁみろ、べろべろばぁ。
「ふっ」
心の中であっかんべぇをしていると、フーラが不適な笑みを浮かべていた。
「さ、さささ、誘ったわりにぃ? エスコートもできないみたいね!! アルブレヒトの学生さんちゃち!!」
あの阿呆な王女はパニックにパニックになりながらも王族のプライドが勝ちやがった。
「た、確かにフーラ様の言う通りです」
「そうだ、そうだ。ぼくたちをエスコートできないのに誘ってんじゃねぇよ」
ヴィエルジュとウルティムがフーラの取り巻きみたいな感じで乗っかってる。
「ウチの王女に恥をかかせやがって!!」
ヴィエルジュとフーラの波に、アルバートの人達が乗った。
「フーラ様は踊れないんだぞ!!」
「え、あ、ちょ!?」
「王族なのに踊れもしない女性をエスコートするのが男子の務めだろうが!!」
やめてあげて、身内達。フーラのHPがゴリゴリ削られちゃってるから。
「そ、そうよ!! 王族なのに踊れもしない女性をエスコートするのが男子の務めよ!! あはは!! あはは!!」
フーラの奴、やけくそになってんな。猿みたいに顔が真っ赤。
「んなわけあるか!!」
「そんなに可愛くて」
「キュートで」
「可憐な王女が踊れないなんてあり得ないぞ!!」
「くっ、おっ……!?」
フーラはシンプルな褒め言葉三段活用を使われ、感情がぐちゃぐちゃになっている。
「つうか、エスコートしろってんならアルバートで証明してみろよ!!」
「王女様のエスコートの手本を見せろ!!」
あちゃー、なんかだるそうな展開になってきてんなぁ、これ。
んでさ、なぁんでフーラがいつの間にか俺の手を握ってんのかな? いつの間に俺のところに来た?
「ウチのリオンくんのエスコート最強だから。一生付いて行くから!!」
阿呆の王女に巻き込まれたのだが。
「チョップ」
「いでっ」
「これ以上煽るなっての」
そう言うと、フーラが涙目で見てくる。
「うう……リオンきゅん……。私、私ぃ」
「普段、いじられまくっている身なのに、今日はめちゃくちゃモテちまったから、王族のプライドがメキメキ出てきて、いい気になっちまったんだよな」
「ぐぅの音も出ないよぉ。私、もう、一生いじられ役で良い……」
見ていていたたまれない気持ちになる。
しょうがない……。
そのままフーラの顔を見ながら一言。
「踊ってくれますか? 姫様」
「へ……」
間抜けな声を無視して俺は、フーラの背に手を添える。
「まっ!? ち、近くない!?」
「俺のエスコートは完璧で一生付いて来るんだろ?」
「ちょぎ……!? そ、れは……」
「エスコートしてやるんだから、黙って付いて来い」
「は、はい」
ゆったりとした三拍子。
「ほら、右」
「み、右?」
拙い足取りで俺の足が踏まれてしまう。
「ごめんなさい」
「気にすんな。俺なんだし、どれだけ踏んでも大丈夫」
「……ありがと」
「ほら次、左」
「え、あ、ちょ、ちょっと待って!」
フーラの足がもつれ転びそうになる。
その前に俺が体を支えてやる。
「う、うわっ」
「だから言ったろ。大丈夫だって」
彼女の動きに合わせて、ゆっくりと歩幅を調整する。
一歩。
二歩。
三歩。
最初はぎこちなかった足取りが、少しずつリズムに乗り始める。
会場のざわめきが聞こえてきた。
「おい、フーラ様が踊れているぞ」
「さっきのはやはり陰謀? いや、違う、あの男のリードのおかげか」
「あれはヘイヴン家を追放された、リオン・ヘイヴン……」
フーラは驚いた顔で俺を見上げる。
「わ、私、踊れてる?」
「まあな」
本当は踊れているというより、俺が合わせているだけなんだけど。
それでもフーラは嬉しそうに笑った。
「すごい! リオンくんすごい!」
「フーラがもう少し落ち着けばもっと楽なんだけどな」
「無理っ」
くるり、と一度回す。
フーラの着物風ドレスの裾がふわりと広がった。
会場から小さな歓声が上がる。
「おお……」
「綺麗だ……」
さっきまで騒いでいた連中が、ぽかんとした顔でこちらを見ている。
フーラは得意げに顎を上げた。
「ほら見なさい!」
そして、わざとらしく声を張る。
「これがアルバート男子の完璧なエスコートよ!!」
調子の良いことをフーラがぬかした瞬間、会場は割れんばかりの拍手喝采に包まれた。
なんとかアルバートの名誉は守れたかな。




