第90話 波乱のダンスパーティ
「さぁお待ちかねのダンスパーリィィィですわね、リオン様!!」
夜になり、アルブレヒト城の鳳凰の間はダンス会場に大変身。
そして、縦ドリルパイセンも大変身。ドリルをこれでもかって盛り、着物風のドレスにメイクアップ。
「えらい気合いが入っていますね、縦ドリルパイセン」
「当然ですわ!! このダンスパーリィィィにも報酬があります。ダンスパーリィィィィのMVPはもらいましたわぁぁぁ!!」
そんなことを叫びながら縦ドリルパイセンはダンス相手を探して旅立ってしまった。MVP、取れるといいね。
「あ、リオーン!!」
ルベリア王女の声が聞こえて来て振り返るが、目の前に広がるのはガチムチ騎士学生達の群れ。なんでステラシオンのガチムチ達はふんどしなの? 漢祭りなの?
「通せ! 通さんかーい!」
あ、ルベリア王女の声が聞こえる。ま、あれだけの美貌だ。ステラシオンの連中は彼女にメロメロだろ。
南無──。
「お、おい。なんだあの美女のグループは……!?」
「ふつくしい……」
ぬ?
ステラシオンの学生と、アルブレヒトの学生達が驚愕の声を上げている。
ダンス会場の視線を独占するのは、着物風のドレスに身を包んだメイド三銃士。ヴィエルジュ。フーラ。ウルティム。
気分はランウェイを歩くトップモデル。歩くだけで歓声がわくなんて、ヴィジュアルつよつよ過ぎるんだが。
「銀髪の人も、ツインテールの人も綺麗だが、アルバートの王女様が可愛い過ぎる件」
「アルバート王女のレベルが違い過ぎるよぉぉ」
一番人気はフーラかよ。おい、お前ら、そいつはいじられキャラだぞ。騙されるなっ。
「「「ぁ……」」」
三人と目が合うと微笑みかけてくれる。こちらに歩み寄って来ようとした時に、大勢の男性陣が彼女達の前に立つ。
「僕と素敵な一夜を、マイスィートハニー」
「キモイ台詞を吐くな。あっしとワンチャンのワンナイトラブを!!」
「お前が一番キモイんだよ!」
一気に彼女達を囲む男性陣にフーラは、「えー、どうしようかなぁ」なんて悪くないって感じの顔をしていた。普段いじられているからこういうのが気持ち良いのかな。
ウルティムは、「にゃははぁ。モッテモテ♪」なんて他人事みたいに陽気な声を出している。
ヴィエルジュは、これだけの男性に迫られたことがないため、「あ、えと」と困惑状態。
わちゃわちゃとなる会場。こりゃメイド三銃士に近付くことができない。
ルベリア王女もメイド三銃士もおモテになること。
あいつら男に迫られて嬉しそうにしやがって、薄情者ぉ。
ぷいっと視線を無意味に逸らすと、廻縁への扉が空いていた。なんとなしに出てみると、城をぐるりと囲む外廊下に黄色い髪の女性がいる。
アルブレヒト女王……。ここで王族と絡むのは遠慮願おう。なんか面倒なことになりそうだし。
あ、やべ。こっそり中に戻ろうとしたけど、運悪く振り返られちゃった。
「ひゃっ!? リオン様!?」
一方的な悲鳴は傷つくなぁ。
しかし、アルブレヒト女王だと思ったら、エリスさんだったか。
なら、まぁ、別にいっか。このままどっか行った方が彼女のためかもしれんが、無視を決め込むというのもこっちの気が滅入る。
「こういうのは苦手ですか?」
「ひゃ、ひゃい」
その返事だけでどれくらい苦手なのかは理解できる。
「俺もこういうのは苦手なんですよ」
「こ、侯爵家なのにですか?」
「俺は侯爵家を追放になっているんです。こういうのが嫌いでね」
最早追放と呼べるのかわからんが、それをわざわざ言わなくても良いだろう。
「だから、俺は爵位のある家系とはちょっと違う。エリスさんと同じですよ」
そもそも前世も一般人だったわけだし、むしろエリスさんとは話が合うはずだ。
「で、ですが、リオン様には貴族のお知り合いが沢山いらっしゃいます。それに比べ、私はただの平民。私みたいなのがこんな所にいるなんて場違いなんです。みんなそう言う……」
こりゃあれだな。学園でも貴族定番の庶民への嫌がらせをされちまっているな。
「エリスさん。アルブレヒト女王も仰っていましたが、貴族とか平民とか関係ありません。この場にいるのはエリスさんの実力でしょ?」
「それは、本が勝手に……」
言い方から、アルブレヒトでは本が代表者を選定したみたいだな。
「人ではなく、本だからこそ、包み隠さずにエリスさんの実力を証明したのではないですかね」
「本、だからこそ……」
「貴族とか平民とか、家系とか血筋とか。どうでも良いと思うんですよ。もっと自信持って良いんじゃないですかね」
──って、やばいやばい。初対面の年上の女性になにを説教たれてんだ。俺は。
「す、す、すみません。お、俺は、なんか、えっと……」
あわあわと焦ってしまうと、「ぷっ」と小さく吹き出されてしまう。
「あ!? ええっと、今のは笑ったのではなく、あの、その……」
二人してあわあわして、顔を見合わすと、くすりと笑い合ってしまう。
「リオン様は、他の貴族とはなんだか違いますね」
「褒め言葉として受け止めておきます」
「も、もちろん。褒め言葉です。それと、先程のリオン様の言葉、とっても嬉しかったです」
彼女の長い前髪でよく顔は見えないが、その笑みはバルコニーから見える月よりも美しく見えた気がした。
『アルバートの不正だ!!』
美しいものを見ていると、中からそんな不穏な抗議が聞こえてくる。
「なんでしょうか?」
「喧嘩とか?」
「貴族同士の喧嘩……ひぃぃ……」
おいおい。せっかくエリスさんが心を開きかけてくれたってのに、なにをしてくれんだよくそ。どこのどいつだ。説教してやる。
「中の様子を見に行きましょうか」
「わ、わたわたわ、私はここで──」
ですよねー。
「わかりました。ではまた明日よろしくお願いします」
そう言い残して俺は中へと戻った。




