第87話 アルバート代表が濃い
えらい目にあった。
倒れたあと、数日間眠っていたらしい。
あんのぉくそ杖。なにが時の杖だよ。まったり会話の代償が数日間の眠りって、どんだけ燃費悪いんだ。使いもんにならんぞ。
しかも最後に頼んでもないのに杖を光らせて代表にしやがって。あの杖、いらんことしぃやんけ。
そんなわけで『学園合同ダンジョン攻略、夏の陣』の代表に選ばれちまった。
他の代表者は既に顔合わせを済ませているらしい。俺だけ魔力切れで寝てたもんだから、改めて代表者同士で集まり、自己紹介と軽くダンジョン攻略の説明をしてくれるみたい。
「あ、来た来た。リオンくーん。こっち、こっちー」
アルバート魔法学園、魔法円卓室(ただの会議室)に入ると、既に他の代表者が円卓のテーブルに着席していた。俺はフーラに手招きされ、ヴィエルジュとフーラの間に腰を下ろす。
「これでアルバート代表の一〇名が揃ったな」
俺が座るのを合図に声を出す短髪の男子生徒。この人は知っている人だ。
三年生のグランツ・フェルヴェルト先輩。
ステラシオン騎士並のガタイをしていて頼れるお兄ちゃんタイプ。寮でもリーダー的存在だ。朝とか挨拶してくれる。
「今回はリオンのための顔合わせだから、一年の自己紹介はいらないよな?」
「はい。大丈夫です。以前は出れなくてすみません。ご迷惑をおかけしました」
ペコリと謝ると、「いがーい」と女子生徒の声がする。
「案外謙虚じゃん。噂と違くてウケる」
すげぇギャルみたいな女子生徒に手を叩いて笑われてるんですけども。
「ル、ルクシアさん、いきなり、し、失礼、ですよ」
女子生徒の隣に座っていた眼鏡の男子生徒が注意すると、「ごめーん」と反省という言葉をどこかに忘れた言い方で謝罪されちゃった。
「アタシ、二年のミレイネ・ルクシアね。よろ」
ギャルピースってこの世界でも流行ってんの?
「こっちがオタクくんね」
「オタっ!? ぼ、ぼ僕はそんな名前じゃありません!!」
「わかってるっての。あだ名じゃん。必死なのウケる」
このギャルすぐウケてる。
「僕は二年のウルガ・ヴァルガです」
「こんな見た目だけどパイセンだから敬ってあげてね、リオンっち」
「はは……あはは」
ギャルのパイセンが濃すぎてオタクパイセンの名前が覚えられない。てかギャル先輩の名前も覚えられない。ま、ギャルパイセンとオタクパイセンでいっか。
「なんか知らん内に自己紹介が始まったが、俺も一応自己紹介しておくか」
グランツ先輩がニカッとスポーツマンみたいな爽やか笑顔を振りまいた。
「三年のグランツ・フェルヴェルトだ。得意な魔法は土魔法。尊敬するカンセル先生と同じ属性を得意として感激のあまり常に失禁寸前だ」
現場はシーンと沈黙。ギャルパイセンもウケずに爪をいじってる。
「冗談、だぞ?」
「グランツ様。以前も同じことをして多大なる損害を受けたではありませんか。笑いというのは過ちを繰り返してはいけませんことよ」
お嬢様ボイスで笑いについて解いている、超絶ボリューム縦ロールドリルお嬢様が優雅にこちらに振り返る。
「申し遅れましたわ。わたくし、セラフィナ・アストレアですわ。師匠とお呼びくださいまし」
二年より強烈なのきたぞ、これ。
「師匠……ですか?」
「ええ。師匠ですことよ」
意味不明ですわ。
こういう時強烈な奴が現れた時の対処方法は自分も強烈になること。
「わかりました。縦ドリルパイセン」
「なるほど。それもまた一興。わたくしのことをそう呼ぶのを許可致します」
だめだ勝てん。
俺はヴィエルジュとフーラとウルティムを見て泣きそうになる。
「俺、みんなと仲良くできて本当に良かったよ」
「ご主人様……」
「リオンくん……」
「マスター……」
ガシッ。
一年代表の結束が固まった。
「はいはいはーい。みんな静粛にぃ」
パンパンパンと手を叩いて先生みたいに仕切るグランツ先輩。
「さっすがグランっち。仕切るのうっめー」
「はいそこのギャル。あんまり褒めるとまたボケるぞ」
「つまんないのはきらーい」
「だったら静かになさい」
グランツ先輩に注目がいくと、コホンと咳払いをしてから本題に入る。
「軽く自己紹介をしたところで今回の『学園合同ダンジョン攻略、夏の陣』の説明をするぞ」
「すみません。同じ話を二回させてしまって」
「いや、実はこの話は以前できなかったんだ」
「そうなんですか?」
「おーっほっほっほっ」
縦ドリルパイセンが急に笑い出した。
「前回、グランツ様はスベリ倒し」
「す、スベってないわい」
今もスベってますよ、先輩。
「ギャル様は一生喋り」
「ギャルとかウケる。どこがーって感じ? みたいなー」
うるせーよギャル。見たまんまだよ。あと古いよ。
「オタク様は一生黙り」
「僕、オタクで固定されてる……」
心中お察しします、オタクパイセン。
「フーラ様はかわいいし」
「当然」
「ヴィエルジュ様は美人だし」
「当然」
「ウルティム様は麗しいし」
「当然」
「──一年レベルたっかっ」
「「「当然」」」
ウチの女子軍団はドヤ顔してる。
「そしてこのわたくしは師匠だしで、まーったく話が進みませんでしたのっ!!」
「全くもって意味不明ですが、とりあえずこの面子じゃ話し合いも困難を極めているということがわかりました」
「わかってくれるか、リオン」
「あなたも原因なんですよね、グランツ先輩」
「俺だって、ボケたい」
この人のことを詳しくは知らないけど、真面目に生きてきた人なんだなぁと察した。
「とにかく!! 今から説明するぞ」
グランツ先輩が杖を振ると、資料がどこからかやって来て各々の前に行儀良く整列した。
「各学年一〇名、合計三〇名で一斉にダンジョンを攻略することになる。ただし、全員で固まってダンジョンを攻略するわけじゃなく、三人一組、一〇班に分かれることになる」
なるほど。小隊行動ってわけね。
「三人一組のパーティはステラシオン騎士学園、アルバート魔法学園、アルブレヒト回復学園の中から一名ずつ。三校が混合するように編成する」
『学園合同ダンジョン攻略、夏の陣』だもんな。そうしないと意味はないか。
「あとは、最優秀パーティとか、最優秀功労者とか、そういうMVPみたいなものも選出するぞ。選ばれたらそれ相応の報酬がある」
へぇ。そういうご褒美みたいなものもあるんだね
「おーっほっほっほっ!! MVPは当然このわたくしが貰いますわ」
「MVPとかウケるからアタシが貰っちゃうもんね」
「僕がMVPになれば、なんかカッコよくなれるかも」
おっと、パイセン達の熱が上がったんだが。
「おいおい。これはあくまでも授業の一環だからな。あんまり気張り過ぎるなよ。気張ってクソが出ても知らんぞ」
あ、わかった。グランツ先輩って小学生が言いそうな下ネタ言うからスベるんだね。
「……こ、これは攻略であると同時に、将来を見据えた連携訓練でもある──って、こんな感じかね」
ふぃぃ、と説明を終えた感じでスベったのを誤魔化したグランツ先輩。
「それから」
グランツ先輩が一息ついている間に、縦ドリルパイセンがパチンと指を鳴らすと、渡された資料が独りでにめくられる。
「前夜祭はダンスパーティもございますわ。こちらも、ベストカップル賞なるものがございまして、報酬があります。是非とも上を目指してくださいませ」
「おお。ダンスパーティ」
なんか楽しそうだな。
そう思っていると、ウチの女性陣が全員顔を青くしていた。




