第86話 選考会(後編)
『学園合同ダンジョン攻略、夏の陣』の代表選考。各学園一〇名の代表を決めるこの選考で、既に二人決まってしまった。
一人はヴィエルジュ。もう一人はフーラ。
ポンポンっと決まっていたところだが、ここで失速。
一年生は折り返し地点を超えたんだけど、今んところだぁれも杖が光らない。
つかさ、これ何順? 一年一組から名前順と見せかけたら、二組の子が呼ばれたり、かと思ったら一組に戻ったり。バラバラなんだけども。流石異世界。適当が過ぎる。
『続いて、ウルティム』
さて、後半戦も佳境に入ったところで、「よっしゃぁ」なんて手を叩いて周りを煽りながら壇上に上がって行く元勇者。
いや、記憶戻ってから陽キャが過ぎるんよ。あの子。
うぉぉぉぉ──おい! おいっ!! おおおおい!!
んで、周りもサッカー観戦してるみたいなノリなんですけど。ノリがステラシオンなんですけども。
わああああああ──!!
そんでもってウルティムが杖を光らせたんだけども。七色に光ってんだけども。
「うおおおおおお!!」
ウルティムが杖を持って振り回してんだけども。ワールドカップでPKでも決めたんかよ。ってくらいの大盛り上がり。
試合終了のホイッスルでも鳴ったみたいな指笛が聞こえてくると、試合に勝ってダグアウトに戻って来るMVP選手みたく、ウルティムが席に戻って来る。
「んにゃぁぁああ!! 楽しいねえええ!!」
「お祭り娘だな、おい」
「踊る阿呆に見る阿呆。同じフーラなら踊らにゃ損々」
「待てこら。なんか私の名前が混じってなかったか?」
「フーラぁ、ぼく達代表に選ばれたよぉ。一緒に頑張ろうねぇ」
ガシッとフーラの手を握りしめ、潤んだ瞳でフーラへ上目遣いをプレゼントするウルティム。
「うっ……この子、『悶絶確定。彼ピを沼らせる激モテ指南書、虎の巻』を履修している……これは私に、効くっ!!」
そう言いながらフーラはその場でウルティムに悶絶した。
「あの本はヴィエルジュが破壊したはずじゃ?」
「ウルティム様の時代にもあったということですね」
紡がれしアルバート一族上目遣い。
『一年生ラストだ!! リオン・ヘイヴン!!』
俺がオオトリかよ。
「もうここはご主人様も一緒に選ばれる流れですね」
「ヴィエルジュ。変なフラグ建てんなよ」
「もう既にさっきの呪いの萌え萌えキュンで建ててありますよ」
「……これで俺も選ばれたら、お前は一級フラグ建築士だよ」
席を立ち、壇上へ向かう。
BOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!
なんで俺の時だけブーイングなんだよ。
さっきの大盛り上がりはどこへやら。俺が出て来た瞬間、放たれるブーイングの嵐。
こりゃあれだ。プロ野球のアウェーの試合で、守護神が出て来た時の感じだ。
「ふ、ふふ、俺が守護神……」
野球をやってた俺としてはこの妄想は大層嬉しい。8番ライトだったけども。
「リオンくーん。がんばれー」
「リオーン。ここでお前も光らせとけー」
ブーイングの中には、そんな優しい声もある。同じ寮の人達だ。
そうそう、世の中には絶対に敵になるやつ。どうでも良いやつ。絶対仲間になるやつがいるんだ。ネガティブな方だけに耳を傾けていちゃだめだな。アウェーと言えど、ポジティブな声も注入したいとね。
「一年生のオオトリ。任せたぞ」
壇上に上がり、学園長先生が学術の杖を渡して来る。
「学園長。わざと俺を最後にしました?」
「そっちの方が盛り上がるだろ」
「……そうみたいですね」
違う意味で、だけども。
鳴り止まないブーイングの中、渡された学術の杖を握った瞬間にブーイングが止んだ。
もしかして、俺も杖を持った時に七色に光って、観客達を黙らせたのかと思ったけど、違った。ぜーんぜん光ってない。
んだよ。オオトリで出て来て総スカンくらったからみんな黙っただけかよ。
「なんか盛り上がってたのにさーせん」
学園長先生へ杖を返そうとするが無視されちゃったぜ。
「や、流石に大人気なくないっすか? そりゃ俺だって盛り下がったのは責任感じますけど、なんかフォローしてくださいよぉ」
唇を尖らせながら反論するが、怒ってんのか、黙りこくっている。ま、この学園長に大人になれって言うのが無理か。
「学園長先生?」
いや、様子がおかしいな。
その前に待て。
俺自身も動いていない──。
『ウチが時を止めたで!!』
「なっ!?」
どこからか聞こえてきた女の子の関西弁。
キョロキョロと周りを見渡そうとするが、全く動けない。
『ここや、ここ。みおーろしてーごらんー』
「お前、新喜劇見ことあんだろ──じゃなく、動けねぇんだけど」
『あ、そかそか。堪忍なぁ。ウチはにいちゃんが手に握ってる杖やで』
「手に握っている……? 喋る、杖?」
『杖も喋る。それが異世界やね』
「異世界って言い方……もしかして転生者か? 杖に転生したの? かわいそー……」
『ちゃうよぉ。ちゃうちゃう。ウチは昔にマリン・アルバートって日本から来た転生者に発明された時の杖やで』
マリン・アルバート……ウルティム──セレス・アルバートの双子の姉、か。
「そのマリン・アルバートの作った杖がなんで時を止める魔法をかけてくんだよ」
『あ、ちゃうちゃう。これ、魔法やなくて魔術や』
「俺には違いがわからん」
『魔術はマリンが開発したんや。魔法は奇跡。才能や血筋で扱う。魔術は論理。魔法の理論と技術と手順を踏まえて発動させとる。ま、簡単に言えば魔法は才能。魔術は努力みたいな感じやで』
「努力次第で俺みたいな脳筋出身でも魔術が使える、と?」
『そゆことやね』
「それを教えるために時を止めたん?」
『いや、まぁ大した用やないねんけどね。ウチ、ここ最近、学術の杖や言われて毎年この時期に代表選考のためだけに使われてんねんな。でもなぁ、ウチは魔術の才能ある子に反応して光っとるだけやねん。ダンジョン攻略に相応しいかどうかの判断で光っとるんやないんよぉ』
「あ、そういやカンセル先生が去年は成績ビリな子が光ったって言ってたな。それって魔術の才能があるってことで光ってただけ?」
『せやねん。その子に悪いことしたわぁ』
「あ、わかった。その子の代わりに謝って欲しいからこうやってわざわざ俺に頼むために時を止めたのか?」
『そんなんでこんなんせぇへんやろ』
急に冷たいな。
「じゃあなんで?」
『いや、な。さっきからマリンと同じ血筋の子らがウチのこと握るやん。嬉しなってなぁ。いつもより多めに光らせてもろてん』
ヴィエルジュ、フーラ、ウルティム。確かに、全員がアルバートの血筋。つまりマリンと同じ血筋ってわけか。
『んで極めつけはマリンと同じ魔力感じるやん? そんなんウチの本領発揮するしかないやん』
「時止めはチートだなぁ。実際にくらうとどうしようもできん」
『マリンも会話はできるけど動けへんかったし、ウチもなんもできへんしな』
「意味ないじゃん」
『こうやってまったり、お喋りできるやん』
チート級の時止めがショボく感じるな。
「しっかし、時を止める魔術の杖……。そんなもんマリンは発明してどうするつもりだったんだ?」
『守れんかったもんのため、やろなぁ』
杖の言葉が胸に落ちる。
全てはセレスのため。あの約束の封印のため、か。
『マリンの発明品は世界各地にでも散らばってんで。探してみてなぁ』
なんかノリがスタンプラリーなんだけども。
「なぁ杖」
『んー? どったんや?』
「ぼちぼちこの態勢もきつくなってきたやでぃ」
『おいごら、口の効き方きぃつけろや!! 関西人はなぁ、エセ関西弁効くとしばき回したくなるじゃぼけっ!!』
「ひぃぃ、すみません」
『わかればええんやで。無理せず自分とこの方言で喋ってな。それが一番や』
「その言葉、胸に刻んだから、そろそろ解放してくんない?」
『おっと、ごめんやで。お詫びににいちゃん時、思いっきり光らせてたるわ』
「いや、そんなお詫びは──」
断りを入れようとすると、七色の光が会場を包み込む。その光は他の三人とは比べものにならないほどのレインボーであった。
「あはは……俺も代表入りだわぁ」
瞬間、立ち眩みがして俺はその場で倒れてしまう。
『あ、言い忘れてたんやけど、時止めたからにいちゃんの魔力、ごっそりもろたで』
「先言えや……クソ杖め……」
まったり会話しかできないくせに、魔力が枯れるとかゴミ性能じゃねぇ、かよ……。




