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ダンジョンブレイカー/ザッツ  作者: 暮内薄野
第三章 運命集うは千尋の闘技場
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 首都リーヴァルト。

 人口はおよそ五万人で、面積はそれに対して少し広め。しかし人口密度は疎らというわけではなく、その地に住む人々はひしめき合って暮らしている――というのも、首都の中央を陣取るように巨大な湖があるためだ。

 豊富な水源と気候に恵まれ、この国では稲作と水産業が盛んに行われている。隣国と比べると豊かといえるだろう。

 その湖を中心に、白を基調とした壁と円錐の形をした屋根が乗っている建築物が放射状に広がっていき、それを囲う形で城壁が続いている。


 といった内容が、城門で旅人に配られるパンフレットに記されていた。


「まさかあそこでも関税を徴収してるとはな。…姫さんのフリーパスがなかったら危うかったぜ」

「商人以外は、本当に出入りするだけでお金取られるんだね」


 ザッツとサカナはひとつのパンフレットを一緒に持って内容に目を通していた。

 その後ろにニナは控え、


「なんでも、領主のグレイアル様がさいきん力を入れている、観光業ってやつらしいよ」


 とうんちくを口にした。


「ニナちゃん、観光ってなに?」

「国中を巻き込んだ見世物ってやつかなっ、冒険者のダンジョン巡りとおんなじ感じだよ」


 確かに商売を考える冒険者なら、慣れたダンジョン付近の街で生活すればいいものだが――自分の代わりはたくさんいるとか、ロマンだのなんだの言って、ひとつの場所に留まらない者が多いことをサカナは思い出した。冒険者も観光目的で活動しているのはあるだろう。


「平和な商売だなあ。国防を考えたら都市部の構造なんてフツー書かねーだろ」

「別にそれが正しい情報とは限らないよ?」

「そいつもそうか、地下闘技場なんてどこにも書かれてねーもんな」


 そう、ザッツたちの目標はそこだ。

 ニナが言っていた、賭け試合が行われているという地下闘技場。

 それが首都リーヴァルトのどこかにあるらしく、参加して一儲けしようという魂胆である。


「ふつうに、ダンジョンでモンスターを狩って――っていうのはだめなの?」

「この近くにはあるといえばあるんだけど、監視の目がきつくてさ。基本的にはギルドに冒険者登録を済ませてないと、入れさせてくれないはずだよ」

「ギルドが独占してるのか?」


 滅多にはないことだが、冒険者ギルド各支部の方針で、ダンジョンの私有化などもされているところがあるらしい。


「いんや、管理してるのは国の方だよ」

「国が? ダンジョンすらも観光地になってるってやつか」

「理由は国家機密ってなってるけど、裏事情に詳しいボクは知ってる」


 そこでサカナは閃いた。


「まさか、シレット様がダンジョンに入らないように――ってだけなんじゃ」

「すごいっ、よく分かったね」

「本当にそれだけの理由なのかよっ」

「本当だよ? ここの国民はだいたい知ってるみたいだし、訊いてみればいいじゃん」

「裏事情ですらねえっ」


 というわけで、ダンジョンで稼ぐという案はなくなったのである。



 三人はなけなしのお金でやや早い夕食を取ることにした。

 新鮮な魚介を活かした米中心のリーヴァルト料理に舌鼓を打ち、前回の反省を活かして――ゆっくり楽しみながら食事をしてから外に出ると、すっかり日も暮れていた。


「それで、地下闘技場ってのはどこにあるんだ?」

「こっちこっち」


 ニナは大通りをずいずいと先導していく。

 彼女は、湖に隣接して建てられているという都市の中心――リーヴァルト宮殿方面に向かっていることが分かった。


「まさかそこも、国が管理してるとかじゃないよな?」

「あはは、さすがにそんなことはないよ。…あっ、そろそろ曲がるよ」


 ニナは直進しようとするザッツの手を無理やり引いて、大通りを外れて住宅街に続く道に入っていった。周辺に建てられている住まいはどれも広い敷地を持っていて、王都でずっと目にしてきた円錐屋根のものはなく、どれも立派なお屋敷と呼べるような建物ばかりだった。どうやら上流階級の住民が暮らしている区画らしい。


「こんな場所にあるんだな。…てっきりスラム街とか廃墟を隠れ蓑にしてるのかと思ったぜ」

「違うよ。闘技場を主催しているオーナーの敷地内でやってるの。そこにお友達をいっぱい呼んで夜な夜な試合観戦を楽しんでるってわけ」

「ろ、ろくなお友達じゃなさそうだね」

「そうじゃない? お金持ちってなんだか知らないけど、血なまぐさい闘争みるのが好きなんだよね――って、話ししてる間に付いちゃったね」


 いかにもお金持ちが住んでますよ、といった豪華な邸宅をニナは指さした。

 しかし、この場所からではまだ遠いような気がする。


「正門はオーナーのお友達用だから、もちろん入れないよ? 基本的に挑戦者チャレンジャーはこっちの下水道の管理口から入っていくんだ」

「またじめじめする場所なんだ。…なんか、やだなあ」

「大丈夫だってっ、ボクが頑張って稼いで――サカナちゃんをシャワーお風呂備え付きのすんごい宿屋に招待するからさ、もちろんお洗濯の代行サービスもあるやつねっ」


 まだ勝ってもいないのに、ニナは胸を張ってそう言った。

 皮算用にならなければいいのだが。


 地下水道に入っていくと、いやな匂いとじめじめした湿気がサカナを苦しめる。

 分岐路の至るところに目印が記されていて、迷わずに歩を進めることができた。

 ダンジョンコアの気配はなかったので、手ごわいモンスターなどに遭遇することもないようだ。


「けっこう、足跡が残ってるね」

「それだけ活気があるってことか。…よく足がつかないな」

「? おにーさん、足がつかないと足跡にならないよ」

「そういう意味じゃねえよっ」


 じゃあどういう意味、とニナは問う。


「いいか、リーヴァルト領がどんな法で動いているのか知らないが、フツーはこういう場所って国が認めないだろ」

「なんで」

「なんでって……、公序良俗に反するし、そのお友達とやらがヤバイ取引に利用してるかもしれないし、国が認可してない賭け試合から税を徴収できないし」

「うんうん」


 ニナはこくこくと頭を振った。


「なんだかよくわかんないけど、ザッツって頭いいんだねっ」

「真面目に聞けよっ」

「うーん、ザッツが悪いっていうなら悪いのかもしれないけどさ――ボク一度もこの地下闘技場に関係した仕事、したことないよ? それって、偉いひとが存在を認めてるってことだよね。きっと暗殺者ギルドみたいに、社会を回すために必要な暗部なんだよっ」

「だからその偉い人っていうのは――まあいいや」


 すぐにはニナの成長は見込めないだろう、とザッツは諦めて歩き続ける。

 しばらく黙々と三人が進んでいくと、頑丈な鉄扉が目の前に現れた。


「あれが入り口かな?」

「うん、ちょっと待っててね。…みんなちょっと静かに頼むよ?」


 ニナは扉を小さく三回ノックする。

 すると、扉の向こうから何らかの魔力結界が広がってくる。

 魔術式までは見抜けないが、きっと周辺を探知するためのものに違いない。

 続いて、扉の先から囁くような声が聞こえてきた。


「三人か」


 そして、問われる。


「貴殿にとって、金とは」

「『命より重い』」

「貴殿にとって、命とは」

「『闘争にて食いつぶすもの』」

「ならば問おう――貴殿にとって、闘争とは」

「ええとなんだっけ……、ああそうだ、『肯定して然るべき人の営み』だ」

「よろしい。参戦の意思ありと見なし入場を認める。一人は必ずエントリーせよ。違えば二度と日の光を拝めぬと心得よ」

「りょーかい」


 ニナと番人がやり取りを終えたあと、その頑丈そうな扉は開かれた。

 扉の先には誰もいなかったが、不自然に番号札が三枚落ちていた。


「これが団体用の識別カードだね、みんな一枚ずつ持っておくといいよ。持ってないと命の保証はできないしっ」

「やっぱりやべー場所じゃねーか! ……ニナ、本当にお前大丈夫かよ?」

「わ、わたしが酒場とかでアルバイトしてもいいんだよっ」

「へーきへーき、前に同業の先輩に連れてってもらったときは、大したことなさそうなのばっかりだったしさ」

「戦ったのか?」

「ううん、ボクじゃなくて先輩がね」

「……ってことは、地下闘技場ここで戦った経験ことねーのかよ!」

「まあまあ」


 ザッツとサカナは止めようとするのだが、ニナがどうしてもと聞かないので、三人は扉の先へ進んでいき、番号札を拾った。

 そこは広い通路になっていた。鮮血を思わせるような赤黒い絨毯が通路の中央を貫いていて、その終わりにとても装飾が豪華な扉があった。上の階とは吹き抜けになっていて、そちらにも通路があった。

 それよりも気になるのは、通路の両脇に置かれているものだ。サカナは『ソレ』を見てゾッとしている。


「ザ、ザッツ、これ」


 『ソレ』は通路脇に均等に置かれていた。


「檻だ」


 見紛うことなく、それは檻だ。


「入ってるのが珍獣なら、まだ良かったんだがな」


 中には――やはりというべきか。

 檻の中に、手錠や足枷に繋がれた人間たちが閉じ込められていた。

 手負いで倒れている者もいれば、凄まじい形相で檻を揺らしている者もいる。口を開けて絶叫している"らしい"者もいた――というのも、『消音の術式』が檻に刻まれており、そこからは何も聞こえないのである。


「奴隷を売ってるのか。グレーどころか完全にアウトだな。…アースアルムじゃ一発で売人は斬首刑だ」


 ザッツは上の階を顎で示した。

 その通路には、品定めをしているらしい『オーナーのお友達』らしき人たちが居た。


「でも、しょうがない――と思うよ」


 ニナは悲しそうな表情を浮かべた。


「この人たちは、そういう価値しかないから」

「なんか冷てーな。…ニナは奴隷って考え方を、毛嫌いしてたと思ったんだが」


 先日の地下水道。ザッツのサカナに対する荷物的な扱いを『奴隷的だ』とニナは非難・激昂し、彼に殺意を向けてきた。

 ということは、ニナは奴隷制度の在り方を悪として見ている――とザッツは判じたのだが、気のせいだったのだろうか。


「ううん、奴隷って考え方は本当に嫌い。できることなら助けたい」


 だけど――とニナは続ける。


「だって、あの人たちは『自分を賭けて』負けたんだもん。…それは自分の意思で奴隷になったのも同じだから」

「ちょっと待て、『自分を賭けて』って、どういうことだよ!」

「試合に出るのも無料ただじゃないんだよ? 闘技場にエントリーすると一試合は必ず出場しなきゃいけないんだけど、挑戦するための料金――つまり賭け金が必要なわけだね。で、この額は挑戦したい相手の賞金と比例していく感じ。賞金が高いほど賭け金も高くなっていくんだ」


 それで、ここからがキモなんだけど――とニナは人差し指を立てる。


「もし賭け金が支払えない場合は、『自分を賭け金』として挑戦することができるんだ、誰でも好きな相手にね」

「……」

「けど、それで負けたら奴隷になっちゃうって感じ、だから自己責任ってわけ」


 ザッツとサカナは顔を見合わせる。


「そ、その賭け金ってやつはよ――今のオレちゃんたちに払える額なのか?」

「そんなわけないじゃんっ」


 そして、二人は血の気が引いていく。


「大丈夫大丈夫、ボクが負けるわけないでしょっ」

「ば、」


 馬鹿かお前は! と奴隷売り場にザッツの声が響き渡った。

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