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焦燥と反撃の三十三話

よろしくお願いします。

 闘志を籠めて大地を蹴った彷徨う騎士の最初の行動は、やはりと言うべきか回避行動であった。

 屍竜による二度目の突進からの喰らい付いてくる攻撃。

 一度目は横に避け、背後に回り込む様にして躱したが、闘争の意思を固めた今回は避け方も当然異なる。

 攻撃を躱す事だけに止まらない、反撃に繋ぐ為の回避行動である。

 彷徨う騎士は魔力を脚部へと集め、強化した脚力にモノを言わせて地を蹴ると、猛然と迫る屍竜へと自ら進んで跳び込んで行く。


 「ッ!」


 地面を踏み砕き、飛翔するかのように跳躍した彷徨う騎士は、自身へと迫る屍竜の巨大な口の直上、鼻先へと至り、そこを踏みつけ再び跳躍する。

 強化された脚力で踏みつけられ、体勢を崩す屍竜を眼下に、フロアの天井へ向けて跳躍した彷徨う騎士は、宙返りの様に体を反転させ、足から天井につく。

 そして、フロアの天井を足場に三度目の跳躍を行った。

 眼下にいる屍竜の首を目掛け、その手に握る漆黒の剣に、蒼い魔力の輝きを纏わせながら。


 「オォォォッ!」


 一閃。

 薄暗い洞窟のフロア内に、上から下へと一筋の蒼い魔力が煌めいた。

 彷徨う騎士は天井から地面へと跳躍し、屍竜の首をすれ違いざまに斬りつけたのだ。

 屍竜の直径1m以上はあろうかという太い首は、その表面を鉱石で出来た鱗によって覆われながらも、彷徨う騎士の剣によって容易く斬り裂かれる。

 その事実を四度目の跳躍をもってフロアの壁面近くまで離脱してから確認した彷徨う騎士の心中は、戦いを優位に進めているにも関わらず、余裕が有るとは言い難いものであった。

 それは先の攻撃に不備が有った訳では無い。

 一度目の跳躍で屍竜の攻撃を回避し、二度目の跳躍で攻撃に転じる為の準備をし、三度目の跳躍で攻撃を行い、四度目の跳躍で離脱する。

 全ての行動が彼の思い通りに進み、見事に完遂されたのだ。

 しかし、そんな見事な攻撃も、屍竜相手には効果が見られなかった。

 首を深々と斬り裂かれたはずの屍竜は、彷徨う騎士の視線の先で見る見るうちに完全な姿を取り戻して行き、今や何事も無かったかのように鎮座している。

 内包する強大な魔力を消費した気配も無く、彷徨う騎士の攻撃を受ける前と全く同じ姿のままだ。


 「ソン、ナ……キ、ハ……シテ、イタ……ガ」


 屍竜の体を構成しているモノは血肉では無く、その多くが土や砂といったモノだ。

 それ故にどれだけ斬りつけようと効果は薄く、有効打には成り得ない。

 その事実を引き継いだ知識から理解していた彷徨う騎士は、攻撃前から自身の攻撃が大した効果を生まないであろう事を悟っていた為に、特に落ち込んだ様子も無く呟いた。

 だが、しかしである。

 仮にも魔力によって体を構築しているアンデッドが、破壊された体を再構築したにも関わらず、魔力を消費していないとは一体どういう事なのか。

 彷徨う騎士はその不自然さに疑問を感じながらも、再び自身に対して向き直り、攻撃せんと迫る屍竜に相対するべく思考を切り替える。


 「ドウ……セメ、ル……カ」


 彷徨う騎士の攻撃手段は限られている。

 漆黒の剣による斬撃と刺突に、詠唱に不安の残る闇魔術による攻撃。

 加えて先程手に入れた土塊の槍による攻撃である。

 勿論素手……彷徨う騎士の身体その物である漆黒の籠手で殴るという手段も有るには有るが、拳を用いた格闘術を身に付けていない彷徨う騎士では、鞘に納めたままの剣で殴打した方が効果的だろう。

 つまりは現実問題として、剣による攻撃は効果が見込めず、詠唱の問題で闇魔術が使い難く、先程手にした槍の使い方など当然知らず、素手で殴るくらいならば鞘付きの剣で殴った方がマシ……という事なのだ。


 「マ、ジ……カ」


 自らの攻撃手段の乏しさに今更ながらに気が付いた彷徨う騎士は、新生後初めて口にする母国の言葉を我知らず呟いた。

 酷く打ちひしがれた様子で。

 だが、そんな彼の心情など御構い無しに屍竜は迫る。


 「……!」


 屍竜は再び彷徨う騎士を自らの攻撃範囲内に捉えると、懲りもせずに大きく口を開いて突進する。

 巨体故に攻撃の効果範囲が広く、太く強靭な四肢に力を籠めて繰り出された突進は、威力は勿論の事、その速さも大したものだ。

 だが、そんな並の人間であれば掠めただけでも致命傷となり得る攻撃を、彷徨う騎士は特に気負った様子も無く、淡々と対処して見せる。

 屍竜が如何に巨大な体躯と強大な魔力を持とうとも、彷徨う騎士という存在の性能は、更にその上を行っている。

 魔力も、それによって生み出される身体能力までもが屍竜を凌駕しているのだ。

 故に彼は、先程もそうした様に、屍竜の鼻先へと向かって跳躍し、顔面を踏みつけての再跳躍、そして屍竜の背後へと降り立った。

 剣による斬撃に効果が見込めない事は分かっていた為、今回は攻撃せず、大人しく回避行動に徹した彷徨う騎士。

 攻撃を考えなかった分、余裕を持って屍竜の攻撃を躱す事が出来た彷徨う騎士であったが、次の瞬間、彼は驚愕の光景を目にした。


 「……ッ!?」


 屍竜の背後に降り立ち、振り返った彷徨う騎士の目に飛び込んできたのは、先程まで彼が立っていた場所に頭から突っ込み、地中に頭部を埋めている屍竜の姿。

 しかし、その一部分だけが、屍竜の尻尾だけが先程まで彷徨う騎士が目にしていた姿と異なっていた。

 細く、そして長く、まるで鞭のような形状へと変貌を遂げていたのだ。

 それは大きさからは想定できない程の柔軟な動きで、彷徨う騎士に対し攻撃を開始する。

 巨大な鞭の如き尻尾による攻撃は、上から叩き付ける振り下ろしと、彷徨う騎士の左右からの薙ぎ払いの大きく分けて二通りであった。

 しかし僅か二通りの攻撃パターンとはいえ、フロア内を縦横無尽に動き回る屍竜の尾は、挙動の一つ一つがフェイントの様になっており、躱すには相応の見極めが求められる。

 戦闘経験の不足している彷徨う騎士に、積み重ねた戦闘経験による見極め、〝見切り〟が求められているのだ。


 「ッ……コレ、ハ……!」


 彷徨う騎士は身体能力にモノを言わせて屍竜の尾による攻撃を回避していくが、意外な躱し難さに焦燥感に駆られている事を自覚する。

 無論、直撃を受けた所でダメージは皆無であろう。

 だが死の記憶が、殺害された過去の記憶が彷徨う騎士を苛み、攻撃を受ける事に異常なまでの忌避感を与えている現状では、彼に〝防御〟の選択は有り得ない。

 その実情が、彷徨う騎士の精神を更に追い詰めて行く。


 「グッ……!」


 地中に頭部を沈めていた屍竜は、頭を抜き出した後も背後の彷徨う騎士の様子を窺いながら、尻尾による攻撃を続けている。

 まるで知性を持ち、標的に有効な攻撃手段を確立して見せたかのような屍竜の行動に、彷徨う騎士は苛立ちを募らせる。

 事実回避を優先するあまり、反撃に移れていないという現実が、更に彼を焦らせるのだ。

 やがて焦りは、彷徨う騎士に決定的なミスを生む事となる。


 「コ、イ……ツ!」


 それは焦燥の余り、強引に反撃に出ようとした瞬間であった。

 自身の左から迫る屍竜の尾を軽く跳躍する事で躱した彷徨う騎士は、足元を尻尾が通過したのを確認すると着地と同時に地面を蹴り、凄まじい速度で屍竜へと迫る。

 狙うは屍竜の頭部。

 右手に握る漆黒の剣で、縦に両断するつもりであった。

 無論、斬撃の効果が薄い事は理解していたが、反撃を行う事で少しでも状況が変わればそれで良いとの考えである。

 正に苦肉の策ではあったが、度重なる尻尾による攻撃を躱し続けた結果、彷徨う騎士は一つの事実に気が付いていた。

 屍竜の尻尾による攻撃は、その細長い尻尾の先端で彷徨う騎士を打ち据えようとしたものであるという事だ。

 それ故に縦横無尽に動き回る長い尻尾全体に気を取られず、尾の先端の位置を注視していれば、回避行動に余裕が生まれる。

 そして回避直後、尾の先端は攻撃時の勢いを殺せないまま、最も自身から遠く離れて行く。

 その瞬間に彷徨う騎士は反撃の機会を見出したのだ。

 斬撃が効果的ではない以上〝攻撃〟としては粗末なものの、状況を動かすための〝反撃〟として、それなりの自信を持っての行動であった。

 焦燥に駆られながらも見出した反撃の機会。

 彷徨う騎士の見極めは、決して間違いではなかった。

 経験の浅さを考えれば、褒められた事ですらあっただろう。

 しかし、その見極めは、攻撃を〝躱す〟事に限っての見切りであり、必ずしも〝反撃〟の隙には成り得ない。

 その事実を、決定的なミスを、彷徨う騎士は地を蹴った直後に悟った。


 「ッ!?」


 屍竜目掛けて真っ直ぐに飛び出した彷徨う騎士の眼前に、〝それ〟は突然現れた。

 彼の視界の左脇から突如として現れた〝それ〟は、何の事は無い、屍竜の尻尾である。

 付け根付近の最も太く、頑強な部位。

 それが彷徨う騎士の眼前に現れたモノの正体だった。

 屍竜は彷徨う騎士に対して背を向けた状態で攻撃を続けているのだ、そんな屍竜に背後から真っ直ぐ迫るのは、屍竜にとって、この上なく対処の容易な攻撃であっただろう。

 何せ真っ直ぐに飛び込んで来る相手の眼前に、強固な尻尾を〝置く〟だけで防ぐ事が出来るのだから。

 そう、縦横無尽に動き回る尻尾は攻撃に用いられる先端の位置を撹乱する以外にも、相手の動きを妨げる意図が有ったのだ。

 彷徨う騎士は屍竜の攻防一体の攻撃の内、攻の見極めは出来ていたが、防の見極めが出来ていなかった。

 その結果が如実に表れてしまったのが、現在の彷徨う騎士が置かれている状況である。


 「ク、ソ……ガァァァァァッ!!!」


 現在、高さ5m程の位置にある屍竜の頭部を目掛けて地を蹴った彷徨う騎士は、空中を飛翔するかの様であり、当然地に足はついていない。

 空中に有って自身の勢いを殺す事も、進路を変える術も持たない彼は、放たれた矢の如く屍竜の尻尾へと迫る。

 急ぎ体勢を整え、尻尾に足から着地する時間的猶予は無く、右手の剣で斬り払おうにも斬撃によって生じる狭い傷口では、彷徨う騎士の身体が通り抜けられる程の幅は作れないだろう。

 最早、激突は避けられない。

 頭ではそう考える彷徨う騎士。

 しかし例え攻撃的な行動でなかったとしても。

 防御行動による副次的な効果であったとしても。

 敵の身体に全身が打ち付けられるという現実は、彷徨う騎士にとって攻撃を受ける事と同義であった。

 攻撃を受ける。

 そう意識してしまった瞬間、彷徨う騎士の精神は爆発的に溢れ出た激情に支配され、共に膨れ上がった膨大な魔力は、蒼い炎の様に鎖帷子に覆われた全身鎧の関節部から噴き上がる。

 そして、激情のまま、形振り構わず、我武者羅に、左手に握っているだけであった土塊の槍を、眼前の屍竜目掛けて投擲する。

 見る者が見れば投擲と呼ぶには余りに拙い槍投げ。

 しかし、彷徨う騎士の膨大な魔力を余す事無く注ぎ込み強化された身体能力によって放たれた槍は、瞬時に屍竜へと到達する。

 直後、まるで風船が破裂するように、屍竜が弾けた。

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