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焦燥と勝機の三十四話

よろしくお願いします。

 激情のままに放たれた土塊の槍は、屍竜の尾を容易く貫通し、その先に位置していた本体を諸共に撃ち砕いた。

 その衝撃は凄まじく、投擲された槍の軌道を中心に、屍竜の体に円形の大穴を穿ったかの様に爆散させている。


 「ァ……?」


 眼前にまで迫っていた屍竜の尾が消えうせ、衝突の危機から逃れた彷徨う騎士は、自らの悪足掻きが生んだ思いもよらない結果に僅かな間、我を失う。

 しかし投擲の反動により跳躍の勢いが削がれ、空中で体勢を崩しかけている現状に気が付くと、直ぐ様体勢を整えるべく行動を開始する。


 「ッ! イチ、ド……ヒイ、テ……!」


 爆散した屍竜は石や砂となり、フロア全体に土煙を漂わせながら地面に降り注いでいる。

 その中を着地した彷徨う騎士は、バックステップで壁際まで後退しながら魔力を用いて強化した視力で屍竜の様子を窺う。

 相手はアンデッドなのだ、土で出来た体を爆散させた所で決着がつくとは思えなかった。


 「……! コレ、ハ……!」


 間も無く彷徨う騎士はその目に屍竜を捉えた。

 骨だけの姿となり、無造作に地面に転がっている屍竜。

 しかし頭蓋骨を始め、その他諸々の骨は悉く薄い靄の様な魔力に包まれており、未だ屍竜がアンデッドモンスターとして活動可能である事を示していた。

 だが彷徨う騎士の目には、もう一つの事実が見えていた。

 それは屍竜の魔力が、明らかに減少しているという事だった。

 彷徨う騎士の斬撃をもって削る事が出来なかった屍竜の魔力、それを減少せしめた理由とは一体何なのか。


 「キレ、イ……ニ、キリ……ス、ギテ……イタ……カ?」


 考えられる理由として直ぐに思いついたのが、斬撃によって与えた屍竜への傷が綺麗過ぎたのではないか、という点である。

 彷徨う騎士の極めて高い身体能力と、卓越した剣技によって繰り出された斬撃は、無駄な破壊を行わない。

 人間等の綺麗に裂けた傷口が縫合しやすいのと同じ様に、アンデッドも傷が綺麗であればある程修復に必要とされる魔力が少ないのではないかと考えたのだ。

 無論どれだけ考えようとも答え合わせの方法は無い。

 しかし現に、洗練さの欠片も無い、先の投擲が与えた魔力的ダメージは決して少なくは無い。

 然るに傷口が粗く、衝撃が派手に広がる攻撃手段が屍竜に対し有効なのではないかという結論に彷徨う騎士は思い至った。

 そして同時に、その手段は先程の様に、土塊の槍を投擲する事くらいしか自身には無いという現実にも。


 「ア……」


 肝心の槍は、屍竜を貫くも止まる事無くフロアの壁面へと到達し、そのまま壁に大穴を開けていた。

 3m近い長さの土塊の槍は、その柄すら確認できないほど深く埋まっており、掘り出すには相応の時間が必要だろう。

 当然、戦闘中に掘り出している余裕は無い。

 こうしている間にも、屍竜はその姿を再生し終えようとしているのだから。


 「サ、ァ……ドウ、ス……ル?」


 有効な攻撃手段を発見したにも関わらず、肝心の槍は使う事が出来ず、再び攻撃手段の乏しい自分に逆戻りである。

 彷徨う騎士は、内心で自らの体の一部である漆黒の剣を投擲してみようかと、本気で考える程に攻めあぐねていた。

 何も出来ないまま無情にも時は過ぎ去り、やがて屍竜は元の姿を取り戻していく。

 魔力こそ減少しているが、このままでは完全に回復されてしまうのを待つばかりである。

 現に今も、ほんの少しずつではあるが、屍竜の魔力が回復していくのを彷徨う騎士は感じ取っていた。

 屍竜の頭蓋にある謎の物質。

 そこからは、まるで心臓が脈打つかの様に魔力が放出され続けているのだ。


 「……! シン、ゾ……ウ?」


 彷徨う騎士は、我知らず呟いた。

 まるで〝心臓〟が脈打つかの様だと、自らが感じた事に、現状を打破する為の手掛かりを掴んだ気がして。


 「アレ、ガ……シ、リュ……ウ、ノ……?」


 彷徨う騎士の感じた通り、屍竜の頭蓋に存在する謎の物質が、屍竜の全身へと魔力を送り出す心臓の様な役割を果たす重要なモノであったなら。

 それは正しく屍竜の急所、所謂〝弱点〟となる部位なのではないかと考えられた。

 彷徨う騎士は知っている。

 アンデッドの身体を構築する数々のパーツを集め、束ねているのは他ならぬ魔力であるという事を。

 彷徨う騎士は思い出す。

 眼前のアンデッドが放つ魔力が発生したのは、他ならぬ自身が謎の物質から槍を引き抜いた後だという事を。

 彷徨う騎士は考える。

 魔力の発生源と思しき謎の物質を破壊すれば、一体どの様な結果が生まれるのかと。

 彷徨う騎士は辿り着く。

 身体を構築する魔力を奪い、屍竜を土へ還す、その方法に。

 彷徨う騎士は断言する。

 身体を再び構築し終え、自身を睥睨する屍竜へと、漆黒の剣を突き付けて。


 「オマ、エ……ハ、オワ……リ、ダ……ッ!」


 言い放った強気なセリフは、自分を鼓舞する意味合いの方が大きかった。

 何しろ失態を犯したばかりなのだ、弱気になる心を奮い立たせ、見出した勝機を確実に掴むべく、彷徨う騎士は自らに活を入れる。


 「ネラ、ウ……ハ、ヒト……ツッ!」


 剣を向けるのは屍竜の額、そこにある謎の物質ただ一つ。

 彷徨う騎士は、そう自分に言い聞かせる様にして足を踏み出した。


 「オォォッ!」


 彷徨う騎士の眼前では、再び屍竜が尻尾を長く伸ばし、攻撃を開始しようとしている。

 それに対し彷徨う騎士は、先程の失態を踏まえ、屍竜の頭部目掛けて一直線に跳躍するような真似はしなかった。

 地面を滑る様にして駆け抜け、自身の進路を即座に変える事が出来るように備えたのだ。

 急速に屍竜との距離を縮める彷徨う騎士に、屍竜もまた攻撃を開始する。

 屍竜はその場で半回転すると、その勢いのままに長い尻尾を振って彷徨う騎士を薙ぎ払わんとする。

 更には太く頑強な尻尾の付け根を彷徨う騎士の進路上に配置するという、先と同じ防御行動も取っていた。


 「……ッ!」


 自身に迫る尻尾に対し、彷徨う騎士は地を駆ける足に力を籠め、背面跳びの要領で宙を翻って攻撃を躱す。

 そして着地と共にサイドステップで進路を変え、自身の進行方向から屍竜の尻尾を外し、再び力強く地面を蹴る。

 しかし屍竜も、そんな彷徨う騎士に対応して見せた。

 彷徨う騎士が進路を変える度、再び尻尾の付け根が彷徨う騎士の行く手を阻むよう、その巨体を動かすのだ。

 勿論その間も尻尾による攻撃は休む事無く続いている。

 彷徨う騎士は焦れる心を必死に抑えつつ、サイドステップや時にはバックステップによる後退すらしながら徐々に屍竜との距離を詰めて行く。

 薄暗いフロア内を、右へ左へと彷徨う騎士の蒼い魔力の残光が煌めく。

 その輝きは地面に稲妻の如き軌跡を残しながら徐々に屍竜へと迫り、やがて彷徨う騎士は屍竜まで一足飛びという距離にまで辿り着いた。


 「オチ……ツ、ケ……!」


 急いては事を仕損じる。

 逸る心を抑え、彷徨う騎士は自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 彷徨う騎士の動きは速く、やっと縮めた屍竜との距離も、時間で言えば1分程度の間に出来た事だ。

 しかし僅か1分程度の出来事とは言え、精神を研ぎ澄ませて臨んだ攻防は、決して軽くない疲労感を彷徨う騎士に与えている。

 その果てが攻撃の失敗では、心が折れかねないというものだ。

 彷徨う騎士は自身の精神状態を保つ為にも、次の攻撃で屍竜を倒すつもりで勝機を窺う。

 屍竜は巨体を盾とし、その陰から覗き見るようにして彷徨う騎士の様子を窺いながら、長く伸ばした尻尾による攻撃を続けている。

 彷徨う騎士は屍竜の攻撃を躱しながら、攻撃の手順を組み立てる。

 彼が屍竜の頭部にある謎の物質を破壊するには、現状では剣を直接突き立てる他に方法は無い。

 攻撃の障害となるのは今尚攻撃を続けている尻尾と、巨大な盾の如き体躯、二本の逞しい両腕、そして最後に顎であろう。

 彷徨う騎士は、それらを潜り抜けて攻撃を完遂せねばならない。


 「デキ、ル……ノカ?」


 障害の多さに、思わず弱気な言葉を発する彷徨う騎士。

 求められるのは速さと威力だ。

 障害となる屍竜の体の部位を潜り抜け、攻撃目標となる額まで到達できる速さと、目標の謎の物質を確実に破壊できるだけの威力。

 彷徨う騎士が土塊の槍を引き抜く際に体感した、謎の物質の硬度は並大抵のものではない。

 攻撃する事が出来ても、破壊に手間取れば両腕による反撃を受ける事は確実であろう。

 そうなれば回避行動の為、屍竜の額から離れなければならなくなり、攻撃の失敗は彷徨う騎士の精神に極度の負担をかける事になる。

 それは彷徨う騎士にとって、事実上の敗北と言える事であり、絶対に避けなければならない事態だ。


 「イヤ……ソレ、デ……モッ!」


 こんな所で行き詰っていられるかと言わんばかりに彷徨う騎士は声をあげ、勝利への一歩を踏み出した。

 自身に迫って来た屍竜の尻尾を空中を翻って躱し、擦れ違い様に先端を斬り飛ばすと、着地と同時に一気に踏み出す彷徨う騎士。

 先ずは巨大な盾の如き屍竜の体躯の直ぐ横に跳び、着地と同時に再跳躍、屍竜正面のフロア壁面に到達すると同時に身体を反転させ、壁を蹴りつけるようにして三度目の跳躍を行う。

 こうして彷徨う騎士は、屍竜の背後から終点となる屍竜の正面へと回り込み、巨体を支える為に地についている二本の両腕の間に到達した。


 「ヤル、シカ……ッ」


 凄まじい速度で接近し、屍竜にとっては突如懐に現れた恰好の彷徨う騎士。

 屍竜は突然手元に現れた彷徨う騎士に瞠目し、弾かれたように上体を起こすと二本の両腕を振り上げ、彷徨う騎士を上から押し潰さんと全体重をかけて振り下ろす。

 圧倒的な威力を誇るであろう攻撃。

 その攻撃を彷徨う騎士は……待った。

 屍竜の攻撃が、二本の腕が自身に迫るのを、その場に留まり、待ったのだ。

 屍竜の攻撃が、屍竜自身でも中断出来なくなる、その時まで。


 「ナイ、ダ……ロッ!」


 彷徨う騎士は、眼前まで迫った屍竜の指の隙間を潜り抜けて跳ぶ。

 魔力を籠めて、真っ直ぐに。

 その先に有る屍竜の頭部、その下顎部分を目掛けて。


 「サァ……」


 屍竜は彷徨う騎士を視界に納める為に下を向いている。

 故に彷徨う騎士の視界にも謎の物質は入っていたが、このまま直接攻撃する事にはリスクがある。

 リスクとは他ならぬ屍竜の口であり、彼の接近を察知して屍竜が口を開こうものなら、たちまち彷徨う騎士の視界は屍竜の口内で埋め尽くされる事になるだろう。

 それを避けるために、彷徨う騎士は先ず、屍竜の顎を狙って跳躍したのだ。

 屍竜の下顎を、全力で跳躍した事によって生まれた速度のまま、剣の腹で叩き上げる為に。


 「シリュ、ウ……ッ!」


 彷徨う騎士の接近に、案の定開かれようとした屍竜の顎は、漆黒の剣によって軽々と撃ち砕かれた。

 屍竜の下顎を砕いた彷徨う騎士は、体勢を反転させフロアの天井を踏みつけると、眼下の屍竜を見る。

 天井から見下ろす二度目の屍竜は、下から叩き上げられた衝撃で、長い首が反り返った様に天井にいる彷徨う騎士の方へと向いている。

 無論、首の先端に有る下顎を失った頭部も一緒にだ。

 彷徨う騎士は魔力を籠める。

 全ての魔力を身体強化の為だけに用い、彼の身体の節々から、蒼い魔力が炎の様に吹き上がる。

 最早、屍竜との間に障害は無い。

 先端を斬り飛ばした尻尾は既に再構築が終わろうとしていたが、彷徨う騎士の迎撃には間に合わない。

 二本の腕は彷徨う騎士を押し潰さんとした為、深々と地面を貫き未だ地中に埋まっている。

 巨大な体を盾にしようにも、首から先を体より上に叩き上げられてしまっていては、天井にいる彷徨う騎士との間に割って入れる事など不可能だ。

 最後の砦となる大きな口も、下顎を砕かれた現状では使い物にならない。

 そんな屍竜と、第三の目の様な謎の物質と、彷徨う騎士は目が合った気がした。

 毒々しい赤い光を放つ物質を真っ直ぐに見据え、彼は天井を蹴る。


 「クダ、ケ……チ、レェェェッ!!!」


 蒼い魔力の煌めきが、一条の光の柱の如く、屍竜の額を貫いた。

ありがとうございました。

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