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選択と決断の二十八話

よろしくお願いします。

 魂の咆哮。

 耳にした者に、そう感じさせるだけの想いが、その叫びには籠められていた。


 「っ……エキドナさん……」


 「(あね)さん……」


 「リーダー……」


 エキドナは確かな実力を備えた冒険者だ。

 当然、それなりの自負もある。

 そんな彼女が見せる、恥も外聞も捨てたその姿に、金色の虎のメンバーは勿論、彼らとは別のテーブルに着いていた他の冒険者パーティの者達も、我知らずエキドナ名を呟いていた。


 「策は練ったし、戦力も整えた。これ以上は望めない……そう思っていたところにアンタは現れた。確かな実力を備えた魔術師がだ! アタシはもう運命かと思ったよ……勝手な言い分だけどね」


 「エキドナ様……」


 運命などという言葉を使ってしまった自分自身に、多少の照れ臭さを感じているのか、エキドナは頬を指先で掻きながら続ける。


 「どうだろうセラフィナ……アタシ達に、アンタの力を貸しちゃくれないかい?」


 先ほどの咆哮にも似た言葉とは打って変わり、ただ静かに告げるエキドナ。

 だがその瞳に宿る、想いの強さは何一つとして変わってはいない。

 そんな彼女に対し、セラフィナは自らの進む道を選択する。

 そして……


 「喜んで、御助力させて頂きますの」


 決断は下された。


 「……いい、のかい?」


 「はい、(わたくし)でよろしければ」


 セラフィナの答えに、呆けたかの様に目を丸くして返すエキドナ。

 望んでいた答えを得る事が出来たにもかかわらず、想定外といった様子でセラフィナに問い返していた。


 「そ、そうかい……恩に着るよ……」


 「ふふ、一体どうされましたの?」


 らしくない様子のエキドナに、セラフィナが微笑みながら何事かを問う。


 「あ、ああ……いやね、妙に感情的になっちまったし、情けない所も見せちまったもんだから、こりゃダメだろうなと内心諦めてたんだ……本当に助かるよ。改めて、よろしく頼む」


 「情けないだなんて、そんな事ございませんのに……。こちらこそ、よろしくお願い致しますの」


 本来であれば、もっとスマートに口説くのがエキドナの勧誘スタイルであったのだが、昔話をした影響か、今のエキドナは少々感情的になりすぎていたようだ。

 表面上は平静に語っていたエキドナだが、やはり胸の内までそうはいかなかったのだろう。

 もっともセラフィナにして見れば、エキドナの言う情けない所も、人間味をうかがわせる好ましい部分として感じられていたのだが。


 「それでは皆様、私も今回の作戦に参加させて頂く事になりました。改めて、よろしくお願い致しま―――」


 セラフィナはエキドナに続き、成り行きを見守っていたアーネ、イーサン、ウルガに順次視線を送ると、改めて挨拶をするべく言葉を紡ぐ。

 しかし言い切る前に、待ってました言わんばかりに口を開いた人物がいた。


 「やった……やった! セラちゃん! よろしくね! 一緒に頑張ろう!」


 勿論、アーネである。


 「あっ……はい」


 アーネはセラフィナの挨拶をぶった切った挙句、強引に握手を求めてにじり寄り、ついにはアーネを押し止めようとしたセラフィナの右手を両手で大切そうに包んで胸元に寄せると、形容しがたい表情を浮かべて身悶え始めた。

 セラフィナは食事時などを除き、大抵は黒い手袋を身に着けているため、素肌を直に触れられている訳ではないのだが、アーネが浮かべている表情を含め、非常に気持ち悪そうにしている。

 しかし、これから同じパーティとして戦闘に参加しようとしている手前、如何に気持ちが悪くても、好意をあまり無下にするのは如何なものかと耐えていた。

 そう、耐えていたのだ……が、セラフィナが抵抗しない事に気を良くしたアーネは、胸に寄せていたセラフィナの手に唇を近づけ、あろうことか彼女の手の甲にキスをしようとする。


 「っ!? は、離して……!」


 アーネのあまりな暴挙に、セラフィナの我慢は瞬時に限界を超え、空いていた左手でアーネの顔を遠ざけようと、彼女の頬に手を当て強引に押し返す。


 「お、お前いい加減にしやがれっ!」


 「止せ! やり過ぎだぞ!」


 「やだちょっと邪魔をしないで下さいっ! ああっセラちゃん……!」


 「っ! そ、そのような目で見られても困りますの!」


 アーネの暴挙に際し、呆れ顔をしていたイーサンとウルガもついに止めに入る。

 二人がかりで引き剥がされ、アーネは渋々といった様子でセラフィナの手を離したが、隙あらば再度の接触を試みるべく、熱っぽい目で見詰めてはセラフィナを怯えさせていた。

 セラフィナを求めて行われるその行為こそが、他ならぬセラフィナを遠ざける原因となっているという現実に、アーネが気づく日は果たして来るのだろうか。


 「ったく、困ったもんだよコイツらは……くくっ」


 相変わらずな仲間たちの様子に、エキドナは呆れながらも笑みを浮かべる。

 作戦開始を明日に控えて尚、変わらない仲間達の様子に頼もしさを感じて。


 「エ、エキドナ様! アーネ様を何とかして下さい! 私困っておりますの……!」


 「ん? ははっ! そうだねぇ……どうしたもんか」


 「エキドナ様!?」


 いつしか酒場は賑わいを取り戻していた。

 昼過ぎから始まったこの酒盛りは、明日の早朝に作戦決行を控えながらも深夜まで続くことになる。


 尚、リーダー権限により、アーネはセラフィナに対する肉体的接触を禁じられた模様。


ありがとうございました。

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