誓いと生き様の二十七話
よろしくお願いします。
「結果から言えば、討伐には成功したさ。だが全員無事にってワケには行かなかった」
オルバ率いる冒険者パーティの先導により、オーロ・ティグレの住処へと辿り着いた一行は、機を待って作戦を展開。
住処としていた洞穴に閉じ込められたオーロ・ティグレは、その敏捷性を活かす事が出来ないまま討たれた。
だが、その死に際に放たれた斬撃のような衝撃波により、最前線で剣を振るっていたオルバと兵士の一人が深手を負う事態に見舞われてしまう。
共に即死には至らなかったものの、それは致命的な負傷であった。
メリエルを救った英雄である二人を救うため、急ぎ町へと戻り、あらゆる手段が用いられたが、結果は無念極まるものとなる。
兵士も、そしてオルバも、一日と持たずに息を引き取ったのだ。
「息を引き取るまでの間、アタシが止めるのも聞かずにアイツは話し続けたよ……ほとんどはどうでもいいようなことばかりだったんだが、一つだけ……たった一言だけ、三年経った今でも鮮明に思い出せる言葉があるのさ」
夫を失った、その時の話をしているにもかかわらず、エキドナの表情は穏やかだ。
そっと閉じられた瞼の裏側に、当時の光景を見ているかのように彼女は語り続ける。
「それが……〝恐れるな〟って言葉さ」
「……」
セラフィナは何も口にせず、静かにエキドナの話に耳を傾け続ける。
その瞳から、エキドナの姿を決して逸らさぬようにして。
「死期ってヤツを悟っていたみたいだからね……その時は自分が死ぬことを恐れるなって意味かと思っていたんだが、落ち着いてから考えてみると、どうやら違う意味が有るんじゃないかと思えてきたんだよ」
エキドナはそこで言葉を区切ると、閉じていた目を開き、セラフィナの姿を視界に収めてから改めて口を開く。
「立ち向かう事から逃げるな。恐れずに、挑み続けろ……って事なんじゃないのかってね」
「……!」
エキドナは笑う。
この上ないほどに朗らかな様子で。
「そりゃ実際のところは分からないさ。でもアタシたち冒険者は、敵に、困難に、立ち向かうことを止めちまったら生きて行けないからね。だから恐れるなっていうアイツの言葉は、戦う事を、挑む事を恐れるなって意味だと思ったのさ、生き続けるために……!」
冒険者は生涯現役の職業だ。
中には現役の間に資金を貯え、何らかの事業を興し、老後に備えるという者もいる。
だが多くの冒険者達が戦いの中で生き、戦いの中で死ぬというのが実情であった。
「そう、アタシは……いや、アタシ達は誓ったのさ。生きるために、立ち向かい、挑み続けるってね!」
エキドナは金色の虎の面々を見渡し、全員が同じ気持ちなのだと確認し、力強く語る。
それもそのはず〝金色の虎〟というパーティ名は、オルバ亡き後に志を同じくしたメンバー達が、原因となったオーロ・ティグレの姿に因んで名乗った名前なのだ。
故にメンバー達はエキドナの視線に今更確認するまでも無いと、力強く頷き返していた。
「確かに生きるってだけなら、何も脅威度Aランクの化け物に挑む必要は無いのかもしれない。だがね……アタシ達は知っちまったのさ、例えAランクの化け物が相手でも、決して倒せない相手じゃないんだってね」
犠牲は出てしまったが、それでも脅威度Aランクの魔獣、オーロ・ティグレは倒す事が出来たのだ。
ならば、あの時以上の人員と装備を整えて挑めば、犠牲を出さずにAランクの魔物を討伐する事が可能かもしれない。
勿論、戦場に絶対など有りはしない。
必ず上手く行く保障など、どこにも無いのだ。
しかし、可能性が有るにもかかわらず、戦いを挑まないのは、彼女たち金色の虎が、自らに誓った生き様に反しているのではないか? ……と、エキドナは語った。
「と、まぁ……こんなワケなのさ。誓いだとか格好つけた言い方をしたけど、結局の所は自分の中で決めたルールを貫きたいから力を貸してくれっていう自分勝手な話なんだよ……」
これまで朗らかな微笑みを絶やさなかったエキドナは、ここにきて自嘲気な表情を浮かべる。
「自己満足以外のなんでもない、そんな願望を叶えるために、アタシはアンタを巻き込もうとしているワケだね……ホント最低な女さ!」
自らを卑下する言葉。
これまでにセラフィナが見知った、エキドナの人柄には似つかわしくない言動。
恥も外聞も捨て去り、形振り構っていられないといった様子で彼女は言う。
「自分の力だけでは自分の生き様さえ全う出来ない。そんな情けない女が、厚かましくもアンタに頼む! セラフィナ! アタシに力を貸してくれ!!」
いつの間にか静まり返っていた店内に、咆哮にも似たエキドナの叫び声が響いた。
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