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戦う理由と昔話の二十六話

よろしくお願いします。

 作戦会議が終わり、金色の虎と赤色の牙、赤色の爪の面々は、会議場となっていた酒蔵を後にし、再び酒場へと戻ってきていた。

 理由は言うまでも無く、酒を飲む為だ。


 「野郎ども! 運が悪けりゃ明日から暫く飲めねぇぞ! 今の内に思う存分飲んでおけよ!」


 「 「 「 お ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ っ ! ! ! 」 」 」


 彷徨う騎士の討伐作戦が始まれば、作戦の成功か失敗、または食料や飲料水等の物資が尽きるまで地竜の洞窟前に留まる事になる。

 運が悪ければ数日の間、酒の飲めない日々が続くのだ。

 それ故に彼等は飲み貯めをするかのように、あるいは最悪の場合を想定し、思い残す事が無いようにと、浴びる様な勢いで酒を飲み進めている。

 まだ昼間だと言うのに酒場の中は冒険者達の賑わいで溢れ、これには酒場の店主も嬉しい悲鳴を上げている。

 そんな酒場の一角に、エキドナ率いる金色の虎の面々とセラフィナは居た。

 半ば金色の虎の特等席となっている酒場の隅の方にある卓の上には、軽食の類こそあれど酒は無い。

 少なくとも、今はまだ。


 「うるさい連中だけど勘弁しておくれよ? 作戦が始まったら、いつ戦闘になるか分からないからね……暫く酒とはお別れなんだよ。アタシ達にとっちゃ結構な痛手でね」


 「ふふ……御心配には及びませんの。 わたくし、賑やかな酒場の雰囲気は好きなんですのよ?」


 「そうなのかい? 意外だねぇ……まぁ、それなら良かったよ」


 申し訳なさそうに言ったエキドナに対し、セラフィナの返した言葉は少しばかり意外感のあるものであった。

 しかし彼女の言葉に嘘は無い。

 些細な切っ掛けでも後ろ向きな思考に陥ってしまう事が有るセラフィナにとって、酒場の騒がしさは時として強引に後ろ向きな思考を掻き乱してくれる、ありがたい一面を備えていたからだ。

 決して静かな場所が嫌いという訳ではないのだが、故郷を離れてからというもの、静かな場所に居ると色々と考え事をした挙句、後ろ向きな思考へと囚われてしまう事が多々あった為、最近では静かな場所に身を置く事は少なくなってきていた。


 「それじゃセラフィナ、早速だけど本題に入ってもいいかい?」


 金色の虎のメンバーとセラフィナが卓に着き、落ち着いたのを見計らってエキドナは切り出した。

 エキドナの周囲には酒蔵での会議の際、姿を消したアーネとイーサン、そしてウルガが彼女の脇を固める様に座り、エキドナの正面に腰を下ろしたセラフィナを見据えている。

 アーネは相変わらず異様な熱を含んだ視線をセラフィナに向けており、イーサンはと言えば、顔に爪で引っ掻いたかのような傷が所々に見受けられ、酒蔵から二人が姿を消した後、イーサンがどれ程の苦労をしたのかがセラフィナには察せられた。

 しかしセラフィナはあえて触れずにエキドナに答える。


 「その前に、皆様に対して御伺いしたい事がありますの。先にそちらをお答え頂いてからでもよろしいでしょうか?」


 「おっと、そういえば何か聞きたがってたね……勿論さ。何でも聞いておくれ?」


 「……感謝致しますの」


 セラフィナが会議前に抱いていた不安……彼女を陥れる為に金色の虎が利用されているという可能性は、会議中既に解消されている。

 しかし、それでもセラフィナは問いたかった。

 エキドナや他のメンバー達の人柄を知り、策が有るとはいえ危険な戦いに身を投じる理由を知りたかったのだ。

 純粋に彼女達の身を案じるが故に。


 「それではお言葉に甘えさせて頂きまして……一つ。皆様は何故、彷徨う騎士の討伐に挑まれますの?」


 「―――うん? 何故ヤツに挑むのか……かい?」


 満を持してといった様子で告げられたセラフィナの問い。

 しかし問われた側であるエキドナは、彼女の口にした問いが意外なものであったのか、肩透かしを受けた様子で問い返してしまう。

 エキドナの周りに集う金色の虎のメンバー達も、セラフィナの問いに秘められた意味を測りかねた様子で成り行きを見守っていた。


 「はい。皆様には今回の作戦の為に投じた多額の費用という、十分な活動資金がございました。勿論、彷徨う騎士の討伐に成功すれば、作戦で掛かった費用を帳消しにするだけの褒賞金を得る事は出来ますの。しかしながら作戦に伴うリスクを考慮すると、如何に策が有ろうとも、危険を冒してまで手にしたい額の報酬とは思えませんの」


 「なるほど……ね。ん~……そうだねぇ……他にも疑問に思っている事は有るのかい? 有るならこの際に全部ぶちまけちまいなよ?」


 エキドナに問い返され、疑問の種を細かく噛み砕いて話すセラフィナ。

 彼女の言葉に耳を傾けるエキドナや金色の虎の面々は、次第にセラフィナの問いの意図を察しつつあったのだが、エキドナは彼女の言葉に相槌を打ちながら、更なる疑問の吐露を促した。


 「そう……ですね、他の疑問という訳ではないのですが―――」


 その後、セラフィナの口から語られたのは、他の疑問と言うよりも、先の疑問に対して彼女なりに考察した結果、やはり危険な戦いに挑む理由として納得できるものが無いという、先の疑問を深める事柄の数々であった。

 その内容を掻い摘んで纏めれば、金色の虎の面々は戦闘狂という訳でも無ければ名声を欲しているという様子も無く、金銭的に困窮している訳でもない事から、やはり危険な戦いに身を投じる必要性を感じられないという事などである。

 その内容には、エキドナ達自身が彼女に告げていない筈の情報も含まれており、それらを耳にしたエキドナ達は、セラフィナの情報収集能力に軽く驚きながらも、彼女の話を聞き終えるまで沈黙を守っていた。


 「―――と、以上の事から疑問を感じた次第ですの。差し支えなければ理由を御聞かせ願えますでしょうか……?」


 「なるほどねぇ……確かにアタシ達の現状でAランクの魔物に挑もうなんてのは、傍から見りゃ妙な話でしか無いか……よし!」


 自分達の行動が、冒険者としての常識の範疇に無い事を、エキドナ自身十分に理解していたのだろう。

 彼女はセラフィナの疑問に理解を示し、彷徨う騎士に挑む理由を話す事を決めたのか、大きく頷いて見せる。


 「リーダー……いいんですか?」


 エキドナの決断を察したのか、彼女の隣で事の経緯を見守っていたウルガは口を開いた。

 実際にエキドナに語りかけたウルガは勿論だが、イーサンとアーネも揃って気遣わしげな表情でエキドナを見詰めている。

 その雰囲気から未だ理由を知らないセラフィナも、軽々しい気持ちでは聞いていられない理由が有るのだと悟り、今まで以上に姿勢を正してエキドナの言葉を待つ。


 「構いやしないさ。別に隠している訳でもないし、実際この町の冒険者なら大抵のヤツが知ってそうなモンだしね」


 パーティメンバーの心配そうな雰囲気とは裏腹に、エキドナは事も無げに苦笑してウルガに答えると、セラフィナへと向き直る。

 セラフィナを見る彼女の表情は明るく、目元には笑みさえ浮かべていたが、セラフィナは気を緩める事無く、エキドナが語り始めるのを静かに待ち続けている。


 「……うん? そう身構える事は無いよ? 言っちまえば一言で片付く事さ」


 神妙な雰囲気で待つセラフィナに苦笑しながら、エキドナは特に勿体つける事も無く、一言で片付くという当の答えを口にしようとする。

 セラフィナの抱く疑問の答えを。

 脅威度Aランクの魔物、彷徨う騎士に戦いを挑む理由を。


 「〝誓い〟なのさ」


 セラフィナが待ち続けた答えは、拍子抜けするほど簡単に、本当に一言で紡がれた。


 「誓い……ですの?」


 だがそれは、あまりにも簡単過ぎて、あまりにも簡潔過ぎて、はいそうですか、とはいかない答えであった。


 「そうさ……アタシ達は誓ったんだ、三年前にね」


 エキドナ自身、本当に一言で片付けてしまっては、セラフィナの疑問の解消には至らないという事を重々承知しているのだろう。

 誓いという、たった一つの言葉へと至る経緯を、静かに語り始める。


 「ちょっとした昔話になるが、気を楽にして聞いておくれよ?」


 そう前置きしてからエキドナが語ったのは、三年ほど前に起こった出来事の話であった。

 彼女の話によれば、当時メリエルの住人達は、一匹の魔獣の存在に、生活を脅かされていたという。

 魔獣の名は『オーロ・ティグレ』。

 金色の毛皮を持ち、前後四足で歩行する、比較的大型の魔獣である。

 その体長は個体差はあれど最低でも五メートルはあるとされ、巨体に似合わぬ俊敏な動きと、発達した顎に並び立つ鋭い牙、そして異様なまでに長い前足の三本の爪による攻撃、そして極めつけとなるのが、三本の爪に風を纏わせ、大きく振り抜く事で発動する、斬撃の様な衝撃波による遠距離攻撃だ。

 以上の事からオーロ・ティグレは高ランクの冒険者であっても討伐が困難とされる、脅威度Aランクの魔獣とされていた。

 メリエルの住人達を脅かしていたオーロ・ティグレは、メリエル北東の森の中にある美しい泉の近くに住み付き、メリエルから北へと延びる街道に現れては、メリエルとハリエルを行き来する者達を襲い始めた。

 街道を通る以外にもメリエルとハリエルを行き来する方法はあったが、それは酷く険しい森の中を強引に突っ切るといったものであり、一般の人々は勿論、冒険者であっても低ランクの者では不安が残る方法であった。

 程なくしてハリエルとの交流が絶たれ、物流は滞り、事がメリエルの住人全てに甚大な影響を及ぼすに至ると、ついに国が事態の解決に向けて動き出す。

 エルバラム王国が誇る少数精鋭の兵士達による討伐作戦が決行されたのだ。

 当初は大部隊を動員し、オーロ・ティグレが現れる街道での作戦展開を想定していたのだが、標的は俊敏なオーロ・ティグレである。

 土地の開けた街道では、戦況が標的の優位に進みかねないと考えられた為、オーロ・ティグレの住処とされる、泉近くの洞穴に標的を閉じ込め、身動きを封じてからの精鋭による集中攻撃で討伐する作戦へと変更されたのだった。

 しかし如何に精鋭とはいえ、場所は辺境のメリエル。

 土地勘の無い兵士達だけでは、不測の事態に対処しきれない可能性があった。

 そこでエルバラム王国は、必要に応じて冒険者を雇い、彼らとの共同作戦を展開する事としたのだ。

 先ずはハリエルで高ランクの冒険者を雇い、険しい森の中を突破してメリエルへと至り、今度はメリエルでオーロ・ティグレの住処への案内役を務める事が可能な冒険者を雇った。

 この時メリエルで雇われたのが、オーロ・ティグレの住処を突き止めたメリエル最強のAランク冒険者、〝オルバ〟率いるパーティであった。

 パーティを構成するはリーダーのオルバに、その〝妻〟であるエキドナ。

 そしてウルガ、イーサン、アーネの合計五名である。


 「……っ!」


 エキドナの口からここまでの事が語られ、セラフィナはギルドで耳にしたオルバなる人物とエキドナの関係性を、ついに知る事となった。

 夫と妻。

 互いに惹かれあい、結ばれた男女。

 しかし彼の、オルバの姿は今ここに無い。

 その事実が意味する所を、セラフィナは既に察していた。

 故にこれ以上の話を聞く事は、憚られる。

 憚られたのだが、そんなセラフィナの心境を余所に、エキドナはただ静かに語り続けるのだった。


ありがとうございました。

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