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会議と鬨の声の二十五話

よろしくお願いします。

 セラフィナが薄暗い酒蔵の中で、エキドナの主導する彷徨う騎士の討伐作戦会議に耳を傾け始めてから暫くの時が経った。

 会議の内容は作戦準備段階の説明を終え、ついに戦闘についての説明に入ろうかという所である。

 自然、セラフィナは勿論の事、何度も打ち合わせを重ねて来たエキドナ達の表情も、これまで以上に真剣なものとなっていた。


 「ヤツが……彷徨う騎士が囮に喰い付き、トラップ設置ポイントに姿を現すまでは、基本的にその場で待機する事になる。だが、いつ囮に引っ掛かるとも知れない以上、常に気を張っている必要は無いよ。勿論最低限の警戒姿勢はとるが、ヤツが囮に喰い付いた事をゴンザとゲインが察知するまでは、各々楽にしていて構わない……いよいよって時に、万全の状態で戦えるようにね!」


 現状の地竜の洞窟は、彷徨う騎士に根こそぎ狩り尽くされたかの如く、魔獣の姿が無い。

 それ故にトラップ設置ポイントとなる入り口付近の安全は確保しやすく、如何に洞窟内とはいえ、常に厳戒態勢で彷徨う騎士の出現を待ち続ける必要は無いのだ。

 必要な時に最大限の力を発揮する為、必要の無い時には極力体と精神を休ませる。

 エキドナの発言はそういった考えに基くものだ。


 「そして、ヤツが囮に喰いついた事をゴンザとゲインが察知したら、直ぐに行動を開始するよ! 即座にステルス・フィールドで気配を隠し、ヤツが現れるのを待つ! 囮はヤツが喰い付いた時点でゴンザとゲインに全てを呼び戻してもらい、トラップ設置ポイントまでヤツを誘導してもらう……が、それまでの間に全て狩り殺された場合を想定し、ゴンザとゲインの二人には、ステルス・フィールドの効果範囲外で待機してもらう! ヤツは自分から攻撃を仕掛けて来ないとはいっても、この人数が堂々と待ち構えていたら流石に警戒するだろうからね……!」


 今回の会議では説明されなかった事だが、万が一の囮役としてゴンザとゲインが選ばれたのは、エキドナを始めとする金色の虎の面々が既に彷徨う騎士と接触済みであり、警戒される可能性が高いという事と、彼ら二人の実力ならば、守りに努める事で彷徨う騎士の一撃を辛うじて受け切る事が出来るのではないか? ……という期待からであった。


 「自分からは攻撃して来ないって話だしな……まっ問題無いと思うが、万が一の時は任せてくれ! 一撃くらい凌いでやるさ! なぁアニキ!」


 「がはははっ!! 任せろっ!!」


 無論、このようにゴンザとゲインの両名ともが納得した上での決定である。

そんな彼らに視線を贈りながらも、エキドナは特に言葉を挟むでもなく会議を進行させるべく口を開く。

 彼女の視線は、魔獣使いとしてでは無く、戦士として確かな実力を備えている事を知っているが故の信頼感を、周囲に感じさせるものであった。


 「さて、ヤツが姿を現したら、設置したトラップに嵌めるワケなんだが……聖水の入った樽を破壊するのはヤツが十分にフロアに足を踏み入れてから、ステル・スフィールドの効果範囲内からのストーン・ブリットによる狙撃でもって行うよ! 誰がどの樽を破壊するのかは前もって決めた通りだが、設置ポイントに着いたらもう一度入念に確認するからそのつもりで頼むよ!」


 ストーン・ブリットとは地属性の魔術であり、拳大の石の塊を目標として定めたものに向かって打ち出す攻撃魔術である。

 その威力には使用者の力量によって個人差が有るが、最低でも木製の樽を破壊するだけの威力は十分にあり、樽に直撃すれば内部に満たされた聖水を弾ける様に飛散させる事が出来るだろう。

 樽の破壊にあえて手段を選ぶのはそのためだ。


 「無事に結界が完成したら、いよいよ攻撃を開始する! 攻撃手段はアンデッドであるヤツの弱点を突き、光か火属性の攻撃魔術に絞るよ!」


 作戦の説明は大詰めを迎え、ついに最終局面……彷徨う騎士への攻撃段階へと入る。

 しかし事ここに至ってしまえば、やる事は簡単だ。

 アンデッドの弱点である、光と火属性の攻撃魔術による飽和攻撃により、彷徨う騎士が力尽きるまで攻め続ける……それだけなのだ。

 これは如何に結界に閉じ込めようとも、剣による反撃を想定すれば武器による近接攻撃は避けるべきだからであり、彷徨う騎士が全身鎧を纏った存在である以上、遠距離攻撃であっても弓や投げ槍による攻撃は効果的では無いとの考えからであった。

 また、光や火の属性効果を持つ武器の調達が出来なかった事も、理由の一つに挙げられている。


 「攻撃を魔術に絞れば、当然魔力の消費量が気になるだろう……が、心配はいらない! 魔力回復用のポーションは十分に用意してあるからね! 全員! 出し惜しみは無しだ! 攻めて攻めて攻めまくるよ! いいね!?」


 「 「 「 お う っ ! ! ! 」 」 」


 作戦の大詰めと言う事もあり、説明に熱の入るエキドナに全員が応じる。

彼女に応える者達も、皆一様に熱の籠った目をしていた。

 しかし次の瞬間、エキドナは打って変わった様に静けさを取り戻し、次の言葉を紡ぐ。


 「……一応、作戦失敗に備え、撤退についての事も話しておくよ? いいかい?」


 その言葉には、つい先程まで熱に浮かされていた一同に冷静さを取り戻させる〝何か〟が含まれたいた。


 「……?(エキドナ様……?)」


 少なくとも、一歩引いた位置で会議を見守っていたセラフィナにはそう感じられた。


 「これは〝最悪の事態〟を避ける為に、全員が必ず頭に入れておいて欲しい事だ。よーく聞いておくれよ?」


〝最悪の事態〟……その言葉が意味する事を理解できない者は、この場にいなかった。

 冒険者である以上、仕事に危険はつきものだ。

 危険に曝される事に、覚悟が出来ていない者などいない。

 しかし、それは死を恐れない事でも、死を覚悟する事でも無いのだ。

 皆、日々を生きる為に、冒険者を生業としているのだから。

 それ故に最悪の事態、〝死〟を避ける為に、生き延びる術を……この場合の撤退条件を決めておく事は、至極当然の事であった。


 「先ずは一つ目……作戦の肝である、ヤツを結界に閉じ込める事が出来なかった場合は即時撤退だ。速やかに洞窟外まで退避……いいね?」


 彷徨う騎士の性質上、先制攻撃が可能であるとはいえ、一撃で仕留められる確証が無い以上、結界の完成を成せずして作戦の続行は有り得ない。

 故にこの決定は当然であると言えるだろう。

 加えて事前に洞窟の入り口には聖水を撒いておく手筈になっている為、彷徨う騎士が追跡してきた場合への対処も成されている。


 「次に二つ目。魔力回復ポーションを使い果たしても尚倒せなかった場合……悔しいが出直すよ。ヤツの状態によっては魔力の回復を待って再度仕掛ける事も考えるが、基本的には撤退する。くれぐれも近接攻撃なんてするんじゃないよ?」


 多額の資金を投じて物資を集めた金色の虎にしてみれば、このケースで撤退を余儀なくされるは非常に手痛い事態だ。

 故に魔力が尽きた時、彷徨う騎士が十分に弱っていれば、魔力の回復を待って再度攻撃を仕掛ける事も考慮に入れたいというのが偽らざる本音であった。

 しかし、それでも尚、頑なに近接攻撃を禁ずるのは、何よりもメンバー全員の帰還に重きを置いている為であろう。


 「そして三つ目。ヤツが結界内から何らかの手段で攻撃を仕掛けてきた場合だが……基本的にアタシとゴンザとゲインが盾になっている内に撤退だ。まぁ剣を投げつけるとか一度限りの攻撃だった場合はその限りじゃないが、万が一魔術なんか使ってきた場合は脇目も振らずに逃げるんだ! いいね?」


 この作戦は彷徨う騎士の反撃を封じ、一方的に攻撃できる状況を作る事を前提にして成り立っている。

 故に結界内からの攻撃手段が彷徨う騎士にあった場合、当然作戦は成り立たなくなってしまう。

 魔術の使えないスケルトン・ウォーリアの上位種であると考えられるアンデッド系の魔物、彷徨う騎士に、魔術が扱えるとは考えられないというのが現状だが、万が一を想定しておくのは冒険者として当たり前の事だろう。


 「最後になるが……作戦の総指揮を執るのはアタシだ。そのアタシがもしも行動不能に陥る様な事があれば、その時はゴンザとゲインの指揮に従うように! その後はアタシを欠いてもヤツを倒せそうであるならば作戦続行。無理そうならば速やかに撤退だ。ゴンザ、ゲイン、任せるよ?」


 「……ああ!」


 「うむ!! 任されよう!!」


 これまでは豪快に笑いながら答えていたゴンザも、内容が内容であるだけに、今回はかりはゲインと同様、神妙な面持ちでエキドナに応える。

 その姿にはパーティを率いる者としての覚悟と貫録が垣間見え、彼等を見るエキドナの視線も、強い信頼を感じさせるものとなった。


 「よしっ! ……っと、言うまでも無い事だけど、アタシ達が三人ともやられちまった時は一目散に逃げるんだよ!? アタシ達に息が有ろうが無かろうが構う事は無いさ! 自分達が生き延びる事を最優先に考えて行動するんだ! いいね!」


 もしもの時は身捨てても構わない。

 そう言われて「はい、そうですか」と簡単に見捨てられるようなパーティリーダーでもなければ、メンバーでも無い。

 皆、一言も発する事無く、しかし無視する事も出来ずに、神妙な面持ちで小さく頷き了解の意思を示す。

 その反応にエキドナ達リーダーは苦笑を浮かべながら、内一人は豪快に笑いながら会議を締め括るべく、最後の議題へと話を移す。


「ったくよぉ……へへっ」


 「がはははっ!!」


「ふぅ、まったく仕方が無いねぇ……まぁアタシ達が無事ならそれで済む話しだからね。それじゃ最後に褒賞金についての話しだ! 基本的に作戦に参加したメンバー全員で均等に分配するよ! 戦利品についても換金した上で同様に分配する! この決定は絶対だ! 万が一に備えて受取人を指定しておきたい奴は予め言っといておくれよ! 受取人の指定がなかった時は、生き残った奴だけで分配する事になるからね……! それと割り切れなかった分は、その日の飲み代の足しにするから、そこんとこヨロシク頼むよっ! さぁ! 文句のある奴は居るかい!?」


 気の早い話ではあるが、褒賞金について、先に決めておく事は後の諍いを避ける為にも非常に重要な事だ。

 報酬の確認を怠ったが故に、思わぬ不利益を被ったという話も冒険者の間では珍しくなく、今回の様な複合パーティでの作戦では勿論、単独パーティでの場合でも事前に決めておく事が後の禍根を断つ上で、最も簡単で大切な事とされていた。

 不満が有るなら交渉すれば良いし、それで駄目なら参加しなければいいだけの話しなのだから。


 「……どうやら居ないようだね? よしっ! なら会議はこれで終わりだ! 各自! 明日に備えて―――」


 エキドナはそこまで語ると言葉を区切り、この場に集った者達の顔を一人一人見渡して行く。


 「……?(エキドナ様? まだ何かお話が……?)」


 エキドナの様子を不審に思い、セラフィナは内心でそんな事を考える。

 するとエキドナは唇の端をつり上げ、会心の笑みを浮かべて言い放つ。


 「飲むぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」


 「 「 「 お ぉ ぉ ぉ ぉ っ ! ! ! 」 」 」


 これは一種の鬨の声なのかもしれない。

 セラフィナはフードの上から自身の耳をそっと塞ぎ、現実逃避気味に考えた。


ありがとうございました。

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