会議と囮の二十四話
よろしくお願いします。
「トラップの設置が終わり次第、いよいよヤツを誘き出すワケなんだが、釣り出すにしても当然エサが必要になってくる! ヤツにとって有効な釣り餌といえば……ゲイン! 説明を頼むよ!」
「おうっ! まかせてくれ!」
作戦の確認が、狩場となるフロアに彷徨う騎士を誘き出すという段階に入ると、エキドナは内容の説明をゲインへと委ねた。
エキドナの声を受け、ゲインが一歩前に進み出ると、セラフィナを含めてエキドナに視線を向けていた冒険者達が、彼女からゲインへと視線を向ける先を切り替える。
「彷徨う騎士! ヤツは洞窟の中で魔獣を殺しまくってるってぇ話じゃねぇか! それならよぉ! 当然喰いつきの良い餌も魔獣って事になるよな! そこでオレたち兄弟が手懐けた魔獣の出番って事よ! なぁアニキ!」
「がはははっ!! そういう事だ!!」
「……!(まさか……ご兄弟お二人とも『魔獣使い』ですの!? し、失礼ながら、本当に人は見かけによりませんの……!)」
魔獣使いとは、『契約魔術』によって魔獣と主従の関係を結んだ者達を指す俗称であり、契約魔術とは、術者が被術者と魔力を用いた契約を行い、様々な取り決めに基いた関係、有り体に言う所の主従を結ぶ事を可能とする魔術である。
契約内容は術者によって当然違いが有るが、契約魔術のシステム上、魔力的に格下の存在としか契約する事ができず、対象が格下であっても自我の強い相手であった場合は契約が成功しなかったり、逆に魔力的に格上であったとしても、自我の弱い相手であった場合は成功しやすい等といった例外も有るのだが、契約さえ結んでしまえば便利な下僕として、あるいは戦場でのパートナーとして……等と、非常に有益な存在として使役する事が可能となるのだ。
また、契約魔術は双方の距離がどれだけ離れていようとも、術者が被術者の存在を感知する事を可能とし、契約に背いた場合は即座に命を奪うといった戒めを施す事が可能である為、対象が魔獣や魔物以外の〝何者か〟であっても安全に使役する事が可能である。
こういった契約魔術を用いた魔獣使い達は、魔力には自信が有るが、体力的に不安を残しているという者達が多く見られ、手懐けた魔獣を前衛として運用し、自身は純粋な魔術師として後衛に回るといった戦闘スタイルを常とする者が非常に多い。
一見して精強な戦士といった風貌であり、実際にも相当に腕の立つ戦士なのであろうゴンザとゲインが魔獣使いだったという事実は、セラフィナに少なくない衝撃を与え、それは決して無理からぬものであった。
「オレたち兄弟が手懐けた魔獣『クリムゾン・フォックス』は、実際それほど強くはねぇ! 所詮はDランクの魔獣だしな! だが頭のデキは中々のモンでよ! 今回の作戦で必要になる、釣り餌としての役割は十分にこなせるぜ!」
魔獣クリムゾン・フォックスは、ヘルハウンドと同じく体長一メートル程の四足歩行生物だ。
外見上の特徴として、深紅のフワフワとした毛並みをしており、その毛皮は安価な防寒具として冒険者達に重宝されている。
そんなクリムゾン・フォックスは主に群れで行動し、鋭い牙と爪を武器として狩を行う所まではヘルハウンドと大差が無いのだが、最大の違いとされるのは強者に靡き易いという点である。
ヘルハウンドは群れのリーダーや、仲間たちへの義理に厚く、如何に強者に降されたからといって、仲間を裏切り他者に与するといった事は殆ど無い。
対するクリムゾン・フォックスは、群れの仲間達へ対する義理よりも、個としての生命存続に重きを置いているのか、強者には従順な姿勢をとる事が多い。
よって冒険者等に言わせれば、身の程を弁えないヘルハウンドよりも、潔く強者に従う姿勢を見せるクリムゾン・フォックスの方が利口だとされていた。
「トラップの設置が終わったら、コイツ等クリムゾン・フォックスを洞窟の奥へと向けて放つ! 用意できたのはアニキとオレとで合計十匹! 一フロア一匹の間隔で、十フロア先まで餌を撒く! 後はどれか一匹にヤツが引っ掛かってくれれば、トラップ設置ポイントまで誘き出す手筈は整ってる! オレとアニキにまかせてくれ!」
「そういう事だ!! がはははっ!!」
説明も程々に、胸を張って自信を示すゲインと、豪快に笑ってみせるゴンザ。
この場に居る多くの者達は、既に作戦の内容を何度か確認している為か、不安を抱いている様子は見られなかった。
「……。(なるほど、囮とはクリムゾン・フォックスの事ですのね……。ですが本当に大丈夫ですの? 一瞬で殺されてしまっては、トラップの設置ポイントまで彷徨う騎士を誘き出す事など出来ませんのに……)」
しかし今、初めて作戦を聞かされているセラフィナにしてみれば、それは説明不足にも程が有る、あまりに粗末な内容であった。
「やれやれ……アタシから少しばかり補足させてもらうよ」
そんなセラフィナの心境を感じ取ったのか、エキドナは囮となるクリムゾン・フォックスの動きについて、補足となる説明をするべく口を開く。
彼女にしてみれば、今回の会議の内容次第でセラフィナの作戦参加が成るか否かが決するのだ。
故に可能な限り分かり易く、丁寧な説明を心がけるのは、エキドナにとって当然の配慮だったのかもしれない。
「囮になるクリムゾン・フォックスがヤツと接触すれば、確かに囮は瞬殺を免れないだろうね。だが……それでも問題は無いんだよ。ゴンザとゲインには、クリムゾン・フォックスに一定の間隔で遠吠えを上げるように仕込んでもらってあるからね。魔獣を手当たり次第狩殺しているヤツの事だ……最初の一匹に喰らいついて、隣のフロアで遠吠えを上げる次の獲物の元へと向かわない筈が無いさ!」
その工程を繰り返し、彷徨う騎士をトラップの設置ポイントまで誘き寄せるのだとエキドナは語る。
底の知れない地竜の洞窟では、トラップを設置したポイントで囮に遠吠えを上げさせても、肝心の彷徨う騎士の元まで届かないという可能性がある。
それ故に十フロア先まで囮を配置するのだという事と、洞窟内の魔獣は彷徨う騎士が粗方狩り尽くしてしまっているであろう事が予測される為、彷徨う騎士以外の魔物に囮となるクリムゾン・フォックスが殺されてしまう可能性は低いだろうとの考えが続けて補足された。
「更には契約魔術が作用している限り、被術者となるクリムゾン・フォックスが絶命すれば、術者であるゴンザとゲインはその事実を……彷徨う騎士が囮に喰いついた事を察知する事が出来るからね。ヤツがトラップの設置ポイントに足を踏み入れる前に、アタシ達は態勢を整えてヤツを待ち受ける事が出来るって訳さ……そういう事だねゲイン? ゴンザも囮の扱いについてはよろしく頼むよ?」
「お、おうっ! へへ……まぁ任せてくれ!」
「任せろっ!! がはははっ!!」
補足の最後にエキドナに名を呼ばれ、自らの説明不足を言外に指摘された格好のゲインは、少々気まずそうな顔をしながらも威勢よく応じ、ゴンザは相変わらず豪快に笑いながら応えた。
「さて、これで作戦準備に関しての説明は一通り終わったね。ここまでで質問のあるヤツは居るかい? 居ないなら次の説明……戦闘に関しての話しに移るよ?」
エキドナはそう言ってこの場に集った面々の顔を見渡して行き、最後にセラフィナの姿を視界に収めて彼女の反応を窺う。
既に何度も打ち合わせを行ってきたエキドナやゴンザとゲイン達に、この期に及んで新たな質問など有る筈が無い。
エキドナのこの問い掛けは、事実上セラフィナ個人に向けてのものであった。
「……。(囮に関しての詳しい説明も頂けましたし、特に質問はございませんの……お気遣い、感謝致しますエキドナ様)」
エキドナの視線の意味を正しく理解したエキドナは、小さく頭を下げて感謝の意思と取り立てて質問が無いという事をエキドナに示した。
「質問は無いみたいだね……よし! それじゃ戦闘に関して確認を始めるよ!」
「 「 「 お う っ ! ! ! 」 」 」
セラフィナの反応から特に質問が無い事を確認し、エキドナは会議を次の段階へと進める。
エキドナの声に続き、気合いに満ちた冒険者達の声が薄暗い酒蔵に響いた。
ありがとうございました。




