会議と自嘲の二十三話
よろしくお願いします。
「アタシ達は明朝、鐘の音と共にこのメリエルを立ち、地竜の洞窟へと向かう! よって日の出前には準備を整えて東門に集合だ! ここにある物資は、アタシたち金色の虎が荷車に載せて運び出しておく! アンタ達は各々装備を整えるのは勿論だが、ゴンザとゲインの指示に従って『囮』の準備を頼むよ!」
出立は明朝。
セラフィナが作戦に参加する事になった場合、日の出前にはこの酒蔵に集合し、金色の虎の面々と共に物資の運び出しという事になるだろう。
その後は地竜の洞窟のある町の東側、メリエル東門で赤色の牙、赤色の爪の面々と合流し、教会からの日の出を告げる鐘の音を目安に出発という流れになる。
セラフィナは赤色の両パーティが準備するという、囮と称されるモノについて何も説明を受けていなかったが、いずれエキドナの口から説明されるであろう事が予想できた為、口をはさむ事無く、そのまま話を聞くに徹していた。
「地竜の洞窟までは大体一時間程度で辿り着くが、その間に魔獣が襲ってきた場合は金色の虎が物資の護衛に、殲滅は赤色の両パーティに任せる事になってる! 出発後は直ぐに態勢を整えるんだ! ……まぁ最近はヤツの影響か、洞窟周辺に魔獣が出る事も少なくなってるから心配無いとは思うんだがね?」
メリエルや地竜の洞窟近辺、大陸の端々といった辺境といって差し支えない場所は、少ない人口に反して魔獣の数が頗る多い。
当然このメリエルと地竜の洞窟の周辺も例外ではないのだが、彷徨う騎士の存在が確認された時期とタイミングを同じくして、魔獣の出現頻度が極端に減少していたのだ。
この現象について、エキドナは考えられる理由を幾つか挙げていったが、いずれも推論の域を出ないとして不意の襲撃に油断なく対応できるよう総員に促し、作戦の確認へと話を戻した。
「洞窟に到着したら直ぐに野営地の構築に入る! この際陣地の周辺は勿論だけど、囮の運び入れが終わり次第、洞窟の入り口にも聖水を撒いといた方がいいね! 前回ヤツに出くわした時に、洞窟から出て来ない様に入り口周辺にバラ撒いてから帰って来たんだが、あれから結構経つからね……念には念を入れておいた方が良いだろうさ。その後、準備が整い次第作戦開始だ! 物資は五日くらいは粘れる量を用意したけど、できれば早々に仕留めたいからね!」
エキドナの話によると、地竜の洞窟の入り口には、彼女たち金色の虎が彷徨う騎士と遭遇した際に聖水を撒いてから撤退してきたとの事であり、その日の内に冒険者ギルドから洞窟を監視する者を派遣しているとの事であった。
また、食糧や飲料水等の物資の都合上、五日の作戦決行期間を経ても彷徨う騎士と接触できず、交戦に至らなかった場合は、一度作戦を打ち切ってメリエルまで補給に戻り、後日改めて作戦を展開するとの事だった。
底知れぬ深さの洞窟で作戦が展開される以上、標的となる彷徨う騎士と直ぐに接触できるとは限らないのだから、当然と言えば当然の事だろう。
「ヤツの活動範囲や活動時間は未だよく分かっちゃいないが、集められた目撃情報によれば、その全てが昼間、更には地表から浅いフロアで確認されている! アタシたち金色の虎が遭遇した時だってそうさ! よって聖水による結界トラップを仕掛けるのは、洞窟に入って直ぐのフロアにするよ! あのブラッディ・ヘルハウンドの死骸が転がってるフロアだ! あそこはアタシ達がヤツに接触した場所でもあるからね……ヤツの活動範囲内である事に間違いは無いさ!」
地竜の洞窟に立ち入った事の無いセラフィナには知る由も無かった事だが、洞窟に入って直ぐのフロアにはCランクの魔獣、ブラッディ・ヘルハウンドの死骸の他、多数のヘルハウンドの死骸が散乱している。
それらは洞窟に住み付いた魔獣によってか、既に骨だけとなるまで喰い尽されており、腐臭の類も大して感じる事は無いのだが、残された骨に刻まれている美しささえ感じる切断面は、圧倒的強者……彷徨う騎士による蹂躙の痕跡として、見る者に畏怖の念を与えるオブジェと化していた。
今回の作戦で標的となる、彷徨う騎士を誘き出すのは正にその場所であり、エキドナ達自身という確かな目撃証言も有る事から、確実に彷徨う騎士の活動範囲内に入っているが故の決定だ。
「先ずはウチのイーサンとアーネが先行して、周辺のフロアにヤツが居ないか確認してもらう! トラップを仕掛ける前に接触しちまったら勝ち目が無いだろうからね! よってヤツが近くに居た場合は出直しだ! 安全にトラップを仕掛けられる距離までヤツが移動するのを待つよ! 当然ヤツの姿が見えなければトラップの設置を開始する! 設置ポイントはコイツを見ての通りだ!」
そう言ってエキドナが取り出したのは、該当フロアの見取り図と思しき羊皮紙だった。
既に何度も確認して来たのであろう図面には、多くの書き込みが目立ち、所々破けている部分も見受けられる。
そんな図面に記されたトラップの設置ポイントは、洞窟の奥へと向かう方向にあるフロアの出口の両端と、出口を中心に半円形に囲い込む様に記されていた。
これらの樽を何らかの方法で遠距離から破壊、炸裂させ、内部の聖水を周囲に撒き散らす事が出来れば、聖水が付着した地面から立ち上る光属性の魔力が、その内部に居た存在を封じ込める結界となるのだ。
まして現場となるのは天井の閉ざされた洞窟内である。
例え空を飛べたとしても、聖水の効力が切れるまで、脱出は不可能と言えるだろう。
「仕掛けるのはそこにある樽に入った聖水だ! 見ての通りそれなりの大きさが有るからね……ヤツにどれ程の知能が備わってるかは知らないが、馬鹿正直に設置しといたら警戒して下さいと言ってるようなモンだ! 当然ある程度の偽装は必要にる! そこでこのフロアに転がってる、数匹のヘルハウンドの死骸を利用させてもらうのさ! 偽装にはそれを使うよ!」
エキドナが顎で示した聖水の入った樽とは、ゲインの仲間と思しき冒険者が浅く腰かけている、セラフィナの腰程度の高さの樽だった。
取り立てて変わった所の無い、ありふれたものではあったが、改めて注目してみると、セラフィナにはどことなく見覚えが有る様にも感じる。
「……。(あの樽はアーネ様とイーサン様がハリエルから引いて来た荷車に載せられていた物でしょうか……? エキドナ様はハリエルからも聖水を集めて来たと仰っておりましたし、不思議では御座いませんが……。思えばあの時既に、皆様は作戦に向けて動き出していましたのね……)」
つい先日セラフィナが請けた、ハリエルからメリエルまでの護衛の依頼。
その際アーネとイーサンが引いていた、冒険者には不釣り合いな荷車と、それに載せられた樽の様子をセラフィナは思い出す。
自分の居ない状況下で既に動き出していた作戦に、セラフィナを陥れる為に張り巡らされた策謀の余地など無い。
これ以上の勘繰りは自意識過剰なだけだと、自嘲気な笑みを口元に浮かべつつ、セラフィナは静かにエキドナの話に耳を傾け続けた。
ありがとうございました。




