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会議と疑念の二十二話

よろしくお願いします。

 「さて……と。どこまで話したっけね? ウルガ?」


 「え? あ、確か……ヤツが間違いなくAランクの化け物だって所までです。リーダー」


 「あ~……そうだったね、ありがとさん。それじゃ気を取り直して……そう! ヤツは間違いなくAランクの化け物さ! だが決して太刀打ち出来ない相手ってワケじゃ~無い! 何故ならヤツには二つほど付け入る隙があんのさ!!」


 アーネの奇行によって会議の進行状況を失念してしまっていたエキドナは、ウルガの助けを得て、再び会議を進行させる。

 図らずも強張りの抜けた面々は、アーネとイーサンを除いて誰一人欠ける事無くエキドナの話を聞いていた。


 「先ずは一つ目、それはヤツがアンデッドだって事さ!」


 エキドナは顔の前で人差し指を立てると、彷徨う騎士に見た付け入る隙、その一つ目について語り始める。


 「ヤツは……彷徨う騎士は、その鎧の節々から蒼い炎のような光を放ってたんだが、あの光はスケルトン系の魔物が骨と骨の合間を繋いでいる魔力の光と同種のモノだったよ。恐らくヤツは『スケルトン』の上位種である『スケルトン・ウォーリア』、その更に上に位置する魔物なんだろうね……!」


 スケルトン……それはアンデッド系の魔物の中で、非常にポピュラーな存在として知られている。

 脅威度としては最低のEランクであり、一対一で戦えば、冒険者でなくとも負ける可能性は低いだろう。

 なにしろ動きが遅く、そして脆いのだ。

 その遅さは子供の足でも逃げ切れ、その脆さは農具の一振りで粉砕される始末、更には攻撃手段が至近距離で噛み付くしか無いというのだから哀れである。

 そもそもスケルトンとは、死者が生に執着するあまり、自らの亡骸にその魂が無理矢理しがみ付いている状態だと言われている。

 それらは動く屍であるゾンビの状態を経て、やがて骨だけのスケルトンとなるのだが、生への執念だけで辛うじて存在しているだけのそれらに知性などは欠片も無く、その挙動は緩慢にして鈍重、ただ生前の原始的欲求である食欲に従い、決して満たされる事が無いとも知らずに彷徨い続ける哀れな魔物なのだ。

 しかし中には冒険者の戦士などといった、秀でた魔力と装備を持つ者が命を落とし、同様の理由でスケルトンとなった場合、通常よりも脅威度の高いCランクの魔物、スケルトン・ウォーリアと化す事が有る。

 それらは魂に戦士として生きた記憶が刻み込まれているのか、武具を自在に使いこなし、秀でていた魔力の影響からか、身体能力も格段に高い。

 加えて死して尚も戦士としての本能なのか、食欲ではなく戦闘意欲を満たす為に、生ある者に襲いかかるのだ。

 こういったスケルトンの特徴として、亡骸にしがみ付く魂が本能的に魔力で骨格を覆い、骨と骨の合間を繋ぐ事で生前の骨格を留めているのだが、その魔力が夜間や洞窟などの暗い場所では不気味に光を放っている様子が見て取れるのだ。

 今回エキドナ達が彷徨う騎士をスケルトン系の魔物だと認識したのは、そういった外見的特徴による理由からだった。


 「アンデッドだって分かっちまえば弱点は知っての通りだよ。徹底的に光属性の魔術で攻めればいいのさ! 基本に忠実に……ってね! これが一つ目の付け入る隙さ!」


 攻撃対象の弱点を見極め、攻める。

 それは確かに基本的な事では有るが、決して当たり前に、当然の様に出来る事では無い。

 何故なら単純に魔獣や魔物の弱点を見極めるというのは誰にでもできる事では無く、加えて遭遇に際し、あらゆる弱点に備え、あらゆる攻撃手段を用意しておく事など不可能に近く、現実問題として非常に難しいからだ。

 更には一定の経験と実力を備えた冒険者ならば、あえて弱点を突かずとも単純な戦闘技術で補える事もあり、所謂ゴリ押しでどうにでもなってしまうという実情もあった。

 今回の様に明らかに格上の存在を相手取る場合、前もって弱点を把握するために偵察を行い、弱点を重点的に攻める準備をしておく事は、攻略上必須であるとも言えるのだ。

 この場に集った冒険者達は、その辺りを身をもって知っているからこそ、エキドナの話を当たり前だと冷やかす事無く、神妙な面持ちで聞いているのだった。


 「そして二つ目の隙なんだが、正直こいつが無ければヤツに挑もうなんて考えなかったね。そう、ヤツはどういうワケか、接近しても自分からは攻撃してこないのさ……!」


 エキドナは顔の前で立てた人差し指に加えて中指を立てると、彷徨う騎士の二つ目の隙について説明を始める。

 それは数ある目撃情報でも共通した事柄であり、エキドナたち金色の虎が身をもって経験した、間違いの無い事実であった。

 彼女にとって、この二つ目の隙こそが、彷徨う騎士に戦いに挑む決定的な理由となっていた。


 「自分からは攻めて来ない……つまりは確実に先手を取れるって事だね! 今回の作戦は、要するに先手を取って弱点を攻めて攻めて攻めまくる! それだけの事さ! だが、それにしたって備えは必要さ! ウルガの例も有るし、攻撃の素振りを見せただけで反撃が予想されるからね! そこで……コイツさ!」


 そう言ってエキドナが示したのは、酒蔵内に所狭しと並べられた木箱や樽といった物資の数々だ。


 「このメリエルからは勿論、隣町のハリエルからも『聖水』を掻き集めて来た! 先ずはヤツを誘き出し、コイツで結界を構築して閉じ込める! 確実に先手が取れるなら、ヤツに反撃の余地を与えず、一方的に攻撃できる状況を作り出す事が可能ってワケさ! 何せアンデッドであるヤツに、聖水は致命的だからね! 反撃したくても近づく事さえ出来ないだろうさ!」


 聖水……それは魔獣避け等として一般でも広く知られている、光属性を付与された液体の事だ。

 光属性という魔獣や魔物の多くが弱点とする魔術属性を付与されているため、ほぼ全ての魔獣などに効果を発揮するが、とりわけアンデッドに対する効果は高く、それこそ触れただけで浄化、消滅させてしてしまうほどである。

 故にこの聖水によって清められた場所に魔物などは近寄ろうとせず、もしも魔獣等を囲い込むように聖水を撒く事が出来たならば、それは光属性の結界となって、対象の動きを制限する事だろう。

 エキドナの作戦は彷徨う騎士のアンデッドという特徴と、聖水の特性を利用した堅実で確実な効果が期待できる作戦であった。


 「……。(なるほど……確かに反撃を防ぎ、一方的に攻撃し続ける事が出来れば、どれほど強大な相手であっても、いつかは倒す事ができますの。それに万が一攻撃が通用しなかったとしても、聖水による結界が有れば追撃の心配無く撤退できますものね……堅実な作戦だと思いますの。ですが……彷徨う騎士とは本当にアンデッドですの?)」


 当初よりエキドナから彷徨う騎士はアンデッド系の魔物だと聞かされていたセラフィナは、Bランクの冒険者である彼女がその目で確認し、断言するのであれば間違いないのであろうと考えていた。

 しかし今しがたエキドナの口から聞かされた話によれば、彼女は彷徨う騎士の身体的特徴である、鎧の節々から放つ蒼い炎のような光が、スケルトン等のアンデッド系の魔物と一致する特徴である為、彷徨う騎士はアンデッド系の魔物だと判断しているとの事だった。

 それに対し、セラフィナは言いようの無い、不安にも似た疑念を抱いていた。


 「……。(スケルトンに代表されるアンデッド系の魔物が放つ光は、とても炎と表現できるものではありませんの……。私としては霧や靄といったような表現の方が当て嵌まり易いと思うのですけれど……。物事の感じ方、捉え方とは、人によって、これほどまでに異なるものなのでしょうか……?)」


 セラフィナにとってアンデッドの放つ光とは、霧や靄といった様な印象が強く、エキドナが口にした炎の様な印象とは酷くかけ離れたものだった。

 勿論セラフィナ自身も理解しているが、物事の感じ方、捉え方は人それぞれだ。

 ポピュラーなアンデッドとはいえ、Aランク相当の未知の魔物なのだ、感じ方に変化があっても不思議はなく、何より自身より格上のBランクの冒険者がその目で確認し、断言しているのだから、セラフィナの気のせいだという可能性も当然ある。

 しかし……


 「……!(炎のような光……まさか!? ですが人間と大差の無い大きさである以上そんなはずはありませんの……そんなはずは……)」


 セラフィナはエキドナの口にした〝炎のような光〟という表現から、不意にとある存在を連想するに至ったが、続いて連想した特徴が噛み合わず、即座にその可能性を否定する。

 しかし一度胸中に芽生えた言いようの無い不安を消し去る事が出来ず、フードに隠されたその表情が晴れる事はなかった。

 そんなセラフィナを余所に、エキドナは作戦の確認を進めて行く。


 「それじゃヤツの誘き出し方も含めて、順を追って確認して行こうじゃないか!」


 「……っ!(確証の無い疑念を口にしても仕方ありませんの……。今は作戦の手順を正確に理解しなければ……)」


 セラフィナは疑念を振り払うかのように小さく頭を振ると、作戦の流れを正確に掴むべく、エキドナの話に意識を傾けていくのだった。


ありがとうございました。

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