会議と受難の二十話
よろしくお願いします。
「十日ほど前の話になる。東にある地竜の洞窟に、ヤツは突然現れた。漆黒の剣に同色の全身鎧。蒼い眼を輝かせながら、獲物を求めて彷徨い続ける化け物だ! 目撃情報によっては灰色のマントや杖なんかを身に付けていたなんて話も聞くが、アタシら金色の虎が遭遇した時にはそのどちらも身に付けてはいなかったからね……恐らく噂話に尾鰭がついたってトコだろうさ」
その目で見た彷徨う騎士を思い返しているのだろう、エキドナは腕を組み、目を閉じたまま彷徨う騎士の特徴を確認して行く。
「体格はそこのウルガより細く感じたが、兜に付いてる悪魔みたいな角飾りを
含めると、身長はヤツの方が高いかもしれないね。まぁ見た目についてはこんなモンだが、問題なのは見た目からは想像もできない速さと力の方だ! 不意を突いて仕掛けた筈のウルガが、その槍を突き出すよりも速く懐に入られて、次の瞬間にはブッ飛ばされてたからね……!」
金色の虎のメンバーであり、Cランク冒険者のウルガ。
その実力は確かなものであり、メリエルの街を拠点にする冒険者ならば、エキドナほどでは無いにしろ、知っている者は多い。
この場に集う者たちならば、セラフィナを除く全員がその実力を知っている強者である。
そのウルガをも容易く圧倒する敵、それこそが彷徨う騎士という存在なのだ。
「……っ」
エキドナが言葉を切り、誰かが喉を鳴らす音が酒蔵に響く。
ウルガもその時の事を思い返しているのか、我知らず額に汗を浮かべ、奥歯を強く噛みしめていた。
「アタシがヤツから感じた威圧感は、前にワイバーンとやり合った時以上だった。間違いなくAランク相当の化け物さ! アタシらはそれに挑む……!」
本来であれば目撃情報も少なく、甚大な被害を出した訳でもない彷徨う騎士が、Aランクという高いランクでギルドから手配されるのは稀な事だ。
にもかかわらず手配が進められたのは、情報の出所が他ならぬエキドナからのものだからだろう。
彼女は既に二度Aランクの魔獣と交戦しており、とある事情により広くは知られていないが、一度は討伐に成功した事も有るという、実績に基づいた信頼をギルドや冒険者達に寄せられているのだ。
そのエキドナが間違いなくAランクだと認識する魔物である以上、メリエルのギルド職員や、この場に集った者達に、彷徨う騎士の脅威度を疑う者はいなかった。
「話を……続けるよ?」
その言葉には、暗に「降りるなら今のうちだよ?」という確認の意図が含まれていた。
彷徨う騎士の脅威度を再び確認し、それでも挑む覚悟は本当に出来ているのかと。
セラフィナとしては今直ぐにでも断りを入れ、この場を離れたい心境だったのだが、この後に語られる作戦に、本当に勝機が有るのならばと、そして何よりエキドナを戦場へと駆りたてるその理由を問うまでは……と、何とかその場に踏み止まる事が出来た。
「大丈夫だよ、セラちゃん」
そんなセラフィナの心境を察したのか、隣で話を聞いていたアーネが、突然そんな事を呟いた。
「っ……!?」
フード越しとはいえ、耳元で突然告げられた言葉に驚き、反射的にアーネから身を離そうとしたセラフィナだったが、蔵に入って来た時から頑なに離そうとしない手を振り解く事ができず、何事かとアーネを見る。
しかし場所の薄暗さもあってか、彼女の表情からその意思を推し量る事は難しかった。
「あ、あの……アーネ様?」
次第に得体の知れない何かを感じ始めたセラフィナは、その小さな身体を微かに振るわせながらアーネの様子を窺う様に声をかける。
するとアーネはフード下を見透かすかのような眼をセラフィナに向け……
「セラちゃんは私が守るから」
身の毛もよだつ微笑みを浮かべてそう言った。
「っ!? は、離して……!!」
使い方を間違えなければ非常に頼もしい言葉であるにも関わらず、下心が透けて見える程の凄惨な微笑みは、セラフィナに凄まじい生理的嫌悪を抱かせるに十分なモノであった。
会議中であるため、なりふり構わずアーネの手を引き剥がす訳にもいかず、四苦八苦していたセラフィナの様子から大体の事情を察したイーサンがアーネを引きずって酒蔵を出て行くまで、セラフィナの受難は続く事になる。
ありがとうございました。




