牙と爪の十九話
よろしくお願いします。
「さて……それじゃ始めるとしようか」
エキドナがそう口にしたのは、酒場の裏口から外に出た所にある酒蔵の中だった。
複数ある酒蔵の内、現在使われていなかった蔵を、金色の虎が作戦に用いる物資保管の為に借りているものだ。
その内部は使われていなかった事も有り、御世辞にも綺麗とは言えないものであったが、セラフィナを含め十人以上の人間が入っても窮屈さを感じない程の広さがあった。
日の光が差し込まない蔵の中は真昼であるにも関わらず薄暗いが、作戦用の物資が入っていると思われる木箱の上に置いてあった魔照石にエキドナが魔力を込めると、仄かな光が周囲を照らし、不自由が無い程度の照明が確保された。
そして、エキドナは改めて口を開く。
「先ずはアタシの呼び掛けに応じ、集まってくれた事に礼を言いたい。ゴンザ率いる赤色の牙に、ゲイン率いる赤色の爪、そして金色の虎の仲間達。この場に集った全員に、心から感謝するよ! 本当にありがとう!」
魔照石を木箱の上に戻し、その正面に立ったエキドナは、その場に集う者達を見渡しながら感謝の言葉を口にする。
彼女の両脇には金色の虎の面々が控える様に立ち並び、満面の笑みを浮かべたアーネに手を引かれる形でセラフィナも一緒に並んでいた。
「がはははっ!! いいって事よっ!!」
礼を述べるエキドナに対し豪快に笑って答えたのは、酒場にて彼女に『ゴンザ』と呼ばれた恰幅の良い、髭を蓄えた男だった。
彼は魔照石の転がる木箱を挟んでエキドナの対面に立ち、その背後には彼の仲間と思しき冒険者達が、作戦物資が入っていると思われる木箱や樽に寄り掛かったり、浅く腰かけるようにして話を聞いていた。
セラフィナには彼等との面識は一切無く、互いに自己紹介が有った訳でも無かったが、エキドナの弁から察するに彼等こそが共に彷徨う騎士に挑む冒険者パーティ『赤色の牙』であり、そのリーダーがゴンザなる人物なのだと推し量る事が出来た。
ならばもう一方の、『ゲイン』なる人物が率いる『赤色の爪』とは、一体どの人物を指しているのか?
そんな疑問をセラフィナが抱き、周囲に視線を巡らせていくと、ゴンザの背後から赤色の牙の一員だと考えていた人物の一人が声を上げて進み出た。
「アニキの言うとおりだ! エキドナさんには世話になってるからな! オレがシメる赤色の爪も、アニキ達共々力を貸すぜ!」
進み出た男はゴンザの肩に親しげに手を掛けると、威勢良く共闘を承諾する旨を口にする。
彼が口にした言葉からは、彼こそが赤色の爪を率いるゲインなる人物である事が窺い知れ、ゴンザに対する親しげな言動や、同じ赤色を名乗るパーティ名からも、ゴンザと彼、ゲインは、兄弟またはそれに近しい間柄にあるのだとセラフィナは察していた。
「……。(なるほど、よく見れば確かに顔つきは似通っておりますの)」
二人の顔を見比べ、そう感じたセラフィナだったが、逆に言えば良く見なければ兄弟とは思えないという事でもある。
ゲインは高めの身長と鍛えぬかれているのが一目でわかる体格をしており、顎には無精髭があるものの短く切りそろえられた頭髪もあってか、粗野な雰囲気の中にも精悍さを感じる事が出来る姿をしている。
一方ゴンザは低めの身長に恰幅の良さが目立ち、顔の半分を濃い髭で覆われている事もあってか顔が分かり難い。
頭髪も伸ばし放題で、手入れがされていないためか衛生面での心配を見る者に感じさせ、まるで浮浪者の様な印象を与えてしまうだろう。
たが、その両腕はセラフィナの腰よりも太く逞しい筋肉に覆われ、まるで人間以外のとある人種の者だと言われても信じてしまえそうな風貌だ。
セラフィナはそんなゴンザの辛うじて見える目や鼻に、ゲインと通ずるものを感じ取る事が出来たという訳だ。
「ゴンザ……ゲインも、そう言ってくれると本当に助かるよ」
エキドナは対面に立つ二人の目を順番にしっかり見つめると、小さく微笑み頭を下げる。
「よしっ! それじゃ改めて作戦を確認しようじゃないか!」
「「おうっ!!!」」
気を締め直したエキドナにゴンザとゲインが応じ、威勢の良い声が薄暗い酒蔵に響いた。
ありがとうございました。




