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再会と紹介の十八話

よろしくお願いします。

 「……! 来たねセラフィナ、待っていたよ!」


 セラフィナが作戦会議場となる宿屋兼酒場に足を踏み入れると、酒場のカウンターに背を預ける様にしてグラスを傾けていたエキドナが、セラフィナの姿を認めるや否や声を掛けてきた。

 カウンター内にいる酒場の店主に背を向け、店の入り口が視界に入る様にして座っていた事から、彼女が何者かの到着を心待ちにしていた事が見て取れ、すぐさま声をかけた事からも、その目的の相手とはセラフィナで間違いないだろう。


 「エキドナ様、御機嫌麗しゅう。お待たせしてしまいましたか?」


 エキドナが声を上げた事により、酒場中に居た冒険者と思しき者達からの視線を集めてしまったセラフィナだが、それらの視線を黙殺しつつエキドナのもとに向かうと、どこか気品さえ感じさせる物腰で挨拶を交わす。

 約束の時間まで未だ余裕が有ると分かっていたセラフィナだが、自分を待っていたというエキドナの言葉から、お約束の様な台詞を口にしていた。


 「いやいや、そんな事は無いよ! アタシも今起きて来たトコだしね。気にする事は無いさ!」


 対するエキドナも、お約束の様な台詞を苦笑を浮かべて口にするが、エキドナの浮かべた苦笑の原因となったのは、なにも台詞の事だけが理由では無かった。


 「それにしてもアンタ……冒険者にしては随分とお上品じゃないか。冒険者になる前は、どこぞのお嬢様でもやってたのかい?」


 「っ!」


 そう、セラフィナの言葉使いや、挙動の節々から感じさせられる気品、上品さは、一介の冒険者が同じ冒険者相手に用いる作法としては、少々場違いが過ぎるものなのだ。

 勿論ランクの高い冒険者ともなれば、高貴な身分の人間と仕事上の関係を結ぶ事も有る為、ある程度の作法を身につける必要が有るのだが、その多くは付け焼刃であるためか、一目見て無理をしているのが分かってしまう。

 しかしセラフィナからは、そういった取り繕ったような歪さが一切感じられず、どこまでも自然に、気品ある振る舞いが出来ている。

 いや、出来てしまっている。

 本来ならば褒められるべき事柄も、時と場所を誤ってしまえば逆に不自然でしかなく、エキドナが思わず苦笑を浮かべてしまうのも無理からぬ事だった。

 当のセラフィナも、自分の身に染み付いた振る舞い方が場違いで不自然なモノだという事は故郷を出て早々に学んでいたのだが、幼い頃から当然の様にしてきた行動だけに、強く意識していなければ反射的に身体が動いてしまうのだ。

 その身について回った事情により、他者の視線を集める事を嫌うセラフィナは、なるべく不自然な行動を避けるためにも立ち振る舞いを改める様にしていたのだが、彼女の性分では如何にも冒険者らしいとされる粗野な振る舞いや物言いをするには少なくない抵抗があり、加えて今回はエキドナの真意を問うという大切な目的が有った為、振る舞い方までは気が回らなかったのだ。

 その結果、この様な時の決まり文句でその場をやり過ごすという、セラフィナの常套手段が用いられる事となる。


 「……ふふ、エキドナ様はご冗談がお上手ですの」


 彼女の生れは客観的に見ても十分にお嬢様と呼ばれるだけの条件を満たすものなのだが、その事実を認めた所で彼女に得する事は何も無く、むしろ不測の事態を招く恐れがある為か、その返答は明言を避けつつも否定的なものになる。

 もっとも、フードの陰から微かに覗く口元に手を添えながら、唇をほころばせ微笑む姿は、顔の半分以上が隠されているにもかかわらず、見る者に十分すぎるほどの気品を感じさせ、口にした返答はひどく説得力を欠いたものとなってしまっていた。


 「冗談……ね。まぁそういう事にしておこうか?」


 説得力に欠けた返答は、案の定エキドナには通用しなかったが、大事を前に余計な詮索をし、セラフィナの機嫌を損ねるのは得策ではないと、彼女はそれ以上の追及を避ける。


 「は、はい……そ、そのような事よりエキドナ様! 少々御伺いしたい事が―――」


 対するセラフィナも上手くやり過ごせたとは思えていなかったが、エキドナがそれ以上追及してこないのを幸いと、強引に本題ともいえる話を切り出そうとするが―――


 「セラちゃん!」


 親しげにセラフィナの愛称を呼ぶ、若い女性の声が響いた。


 「っ!?」


 意を決して本題に入ろうとしたその瞬間であったためか、見ていて気の毒になるほど肩を振るわせて驚くセラフィナ。

 しかし声が響いた酒場の入り口の方へと振り返り、セラフィナの視界に入った人物は、彼女の予想通りの人物だった。


 「アーネ様……」


 そう、つい先日知り合い、ともにギルドの依頼を達成した彼女、Cランク冒険者のアーネ以外に、彼女を愛称で呼ぶ者は存在しないのだ。

 少なくとも、故郷を離れた今となっては。


 「もう! 様なんて堅苦しいから付けなくても良いって言ってるのに! それにどうしても様付けじゃないと嫌なら、お姉様って呼んでもらいたいな~!」


 「あの、アーネ様? あまり近づいて来られますと、その、困ってしまいますの……」


 アーネは興奮も露わにセラフィナに駆け寄ると、抱きしめんばかりの勢いで彼女に迫る。

 その様子は相手が同性である事を考慮しても、酷く危ういものがあり、セラフィナは少なくない恐怖を感じて自身に迫るアーネの腕を、割と本気でかわしている。

 その動きは、酒場という場所を考慮しての必要最小限の挙動なのだが、まるで軟体生物の触手の様に蠢くアーネの二本の腕の間を、触れるか触れないかの所で器用にすり抜けて行く。


 「……!」


 眼前で始まったアーネの奇行に呆れ顔を浮かべていたエキドナだったが、次の瞬間その表情は驚きのものに変わっていた。

 一見して魔術師を絵に描いた様な姿をしており、話に聞いた戦いぶりからも、純粋な魔術師としての戦闘スタイルをとるものだと想定していたセラフィナが、俊敏さを活かして前衛で戦う軽装の戦士や剣士もかくやという動きを眼前で見せているのだ。

 基本的に魔術師とは、パーティにおける戦闘において、後衛に立つのが常である。

 それ故に近距離での戦闘経験に乏しい者が多く、そんな魔術師達の回避行動とは、そもそも敵の接近を防ぐ事に重きが置かれている。

 具体的には馬鹿正直に大きく跳び退ったり、それこそ魔術で敵の接近を許さない結界を張ったりと、挙動が大きく、派手なものが多いのだ。

 ところが今、眼前でセラフィナが見せている動きと言えば、派手さも無ければ大きな動きも無く、しなやかな身のこなしで無駄なく紙一重の所を避けて行く。

 戦場に在らず、戯れの範疇とはいえ、それは相手の取る次の行動を、その予備動作から瞬時に見切り、直ぐに回避行動に移せるだけの優れた動体視力が成す、極めて高度な技術だった。

 恐らくこれが戦場であったならば、実戦相応に昇華させた同様の技術を用い、見事に至近距離での戦闘に対応して見せる事だろう。

 そう確信できる程にセラフィナの見せる挙動は洗練されており、その姿はエキドナに、まるで踊っているかの様な優雅さを感じさせるほどだった。


 「……。(こいつは期待以上だね。是非とも協力してもらいたいモンだが……)」


 目的とする彷徨う騎士を討伐する為に、改めてセラフィナの協力を得たいと内心で強く願うエキドナ。

 そのためにも、これから行う作戦会議は、セラフィナに勝算が有る事をアピールする上で非常に重要あり、彼女を仲間に迎える事で更なる作戦成功率の向上を図りたかった。

 と、エキドナがそこまで考えた時、アーネに続いて酒場に入って来ていた二名の人物の内、比較的小柄な男が呆れ顔で場の仲裁に入る。


 「おいおいアーネ……じゃれつくのもその辺にしておけよ。あんまりしつこいと嫌われちまうぜ?」


 「イーサン様……! 良い所に来て下さいました! どうかアーネ様を……」


 仲裁に入って来た人物が、アーネと同様に先日知り合った人物、Cランク冒険者のイーサンである事に気付いたセラフィナは、素早くイーサンの後ろに回り込み、彼の背後に隠れてしまう。


 「イーサン……! 感動の再会なんですから邪魔しないで下さい!!」


 「感動してんのはお前だけなんだよ! セラフィナが困ってんじゃねーか!」


 未だ興奮冷めやらぬ様子で間に入ったイーサンを排除しようと掴みかかるアーネ。

 アーネのその異常とも思える剣幕に、イーサンは顔を引きつらせながらも押しとどめようとするのだが、暴走するアーネは普段とは比べ物にならないほどの腕力でイーサンを引き剥がそうとする。


 「うおおっ!? なんて力だ!? 普段からこれくらい本気でやりやがれってんだ! つーかおいウルガ! お前もボケっとしてねーで手伝えよ!」


 「はっ!? ……あ、ああ! ほらアーネ、いい加減にしろ!」


 予想以上の腕力を発揮するアーネに手を焼いたイーサンは、ともに酒場へと訪れた同じくCランク冒険者のウルガに助力を求める。

 当のウルガと言えば、イーサンの背後に隠れるセラフィナを、まるで観察するかのように見つめていたのだが、自分を呼ぶ声に慌てて場の収拾に動き出した。


 「くっ! ウルガ……! 貴方まで私とセラちゃんの再会を邪魔をするのですね!?」


 「他ならぬ彼女の為に止めているんだ!」


 「こ、この女相当やべぇ……! 早くなんとかしねーと!」


 背後からウルガに羽交い絞めにされ、前からはイーサンに手首を掴まれて尚、我が道を行こうとするアーネ。

 どうやらアーネの中で、彼女達二人は同じ気持ちという事になっているらしい。

 これにはアーネと短くない付き合いのあるウルガとイーサンも流石に引いており、セラフィナに至っては―――


 「ひぅっ!」


 かわいそうに……怯えていた。


 「大丈夫よセラちゃん! 貴女はそこで見守っていて!」


 そんなセラフィナ対し、アーネは見当違いの微笑みをイーサンの肩越しに向けると、我が道を阻まんとする者達を排除するべく、更なる行動に出ようとする。


 「誰にも私達の邪魔は……させませんっ!」


 そう口にしたアーネの魔力が、その身体を内側から包み込むように広がって行き―――


 霧散した。



 「アーネ。そこまでにしな」



 エキドナの発した、ただ一言で。

 少なくとも、その場に居た者はそう感じた事だろう。

 しかしそれは、彼女の言葉に特別な力が有った訳ではない。

 正確には、エキドナの言葉がアーネの魔力を霧散させた訳では無いのだ。


 気が付けば、酒場中が静まり返っていた。

 だからこそ、彼女の言葉は真っ直ぐにアーネに届いたのだ。

 ならば何故、この場は静まり返ってしまったのか?


 「まったく……こんな場所で魔力を使おうとするとか、一体何を考えてるんだい!? おかげでアタシまで威圧こんなマネしちまったよ!」


 『威圧』。

 その身に宿す魔力を放出せずに、体から溢れ出す限界直前まで張り詰めさせる事で、相対する者に魔力相応の威圧感を効果を与える『魔技』の一つである。

 魔力を用いるにもかかわらず、魔術では無く魔技と称するのは、その発動に詠唱が必要とされない為であり、魔力を用いる技を魔技、用いなければ単純に『技術』と称される。

 そんな魔技の一種である威圧の主な効果は、魔力的に格下の者を畏縮させ、その行動力を下げる事なのだが、魔力の格……魔力の濃度によっては威圧の範疇に留まらず、別の魔技として昇華される事も有る。

 たった今酒場中を支配した静寂と、アーネの魔力が霧散した原因は、エキドナの威圧によってこの場の全員が畏縮してしまった結果であり、この場で最も魔力濃度の高い存在がエキドナであるという証明でもあった。

 止めるだけならば言葉は要らないにもかかわらず、あえて口にしたのは、恐怖で上から抑えつけるのではなく、アーネを諭すためだったのだろう。


 「うぅ……すみませんエキドナさん……。酒場の皆さんも、お騒がせしてしまい申し訳ございませんでした……!」


 アーネは自らの非を認めると、エキドナは勿論、酒場に集う他の冒険者と思しき者達にも頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。

 すると謝罪を受け入れた者達は「気にするな」といった体で手を振ると、それぞれの会話に戻り、酒場は徐々に喧騒を取り戻して行く。


 「店主もすまなかったね。許してもらえるかい? ほらアーネ! アンタも謝んな!」


 「は、はいっ! 申し訳ございませんでした!」


 渋い顔をしていた酒場の店主も、二人の謝罪に苦笑を浮かべて自分の仕事に戻る。

 一言も発する事は無かったが、謝罪を受け入れてくれた事は雰囲気から察する事が出来た。


 「さて、さっきはアーネが失礼したね……って、セラフィナ? どうしたんだい?」


 「……はい? あ、いえ……何でも御座いませんの! それよりエキドナ様は……その、こちらの御二方とは親しい間柄なのでしょうか?」


 エキドナの発した威圧によって、少なからず畏縮していたセラフィナだったが、気を持ち直してエキドナに問う。

 その二人とは当然アーネとイーサンの事であり、彼女達の雰囲気から大体の察しは付いていたのだが……。


 「ん? あ~……そういえばまだ話してなかったね。それじゃミーティングの前に改めて自己紹介といこうか! アタシは冒険者パーティ金色の虎のリーダー、エキドナだ。冒険者ランクはB、改めてよろしく頼むよ!」


 そこまで言って子供の様に笑うエキドナ。

 自己紹介の内容は全て知っている内容ではあったが、その笑顔は先程の威圧を放った人物とは思えないほどに清々しい。


 「はい……改めまして、よろしくお願い致しますの」


 そう返すセラフィナの方まで晴れやかな気分になるような、実に気持ちの良い笑顔だ。


 「次は俺が挨拶させてもらおう」


 そして次にセラフィナの前に進み出たのは、この場で唯一面識のない、大柄な男の冒険者だった。


 「初めまして……だな。名をウルガという。冒険者パーティ金色の虎の一員だ。ランクはC……よろしく頼む」


 「ウルガ様……ですのね、丁重な御挨拶、心から感謝致します。わたくしはDランク冒険者のセラフィナと申します。お見知りおき頂ければ幸いですの」


 雰囲気に違わず、寡黙で実直な人柄が伝わってくる様な自己紹介をするウルガ。

 対するセラフィナも初対面の相手故に相応の自己紹介をし、ローブの裾を僅かに広げると片足を後ろに軽く膝を折り、低姿勢を持っての礼をとる。

 そんな彼女を見つめるウルガの視線は何故か険しく、セラフィナのある一点を射抜くかの様だった。


 「……ぬぅ」


 「……? あの、ウルガ様?」


 ウルガの様子を不審に思い、セラフィナがその視線を辿ろうと自らの身体を見降ろして行く……が、セラフィナより先にその視線の在りかに気付いたイーサンとアーネが、慌てた様子で二人の間に割って入る。


 「おいウルガ!? 正々堂々とナニを凝視してんだよ!?」


 「……最っ低ですね! 死んでくれますか!?」


 「はっ!? お、俺は一体何を!?」


 セラフィナが礼をとった際、ローブによって隠されながらも確かに存在を主張した彼女の女性的な部分を、あろう事か真正面から凝視しして見せるという、ウルガの果敢極まる行動は、この場においてあまりに無謀で愚かな行為だった。

 ウルガにしてみれば眼前で発生した事態だけに、反射的に目を奪われてしまったのだろうが、他者に覚られてしまっては糾弾は避けられない。

 せめてもの救いは、セラフィナ自身がその事実に気付いていない事だろう。

 幼い頃よりその身にコンプレックスを抱くセラフィナは、異性が自身を女性として意識しようなどとは夢にも思わなかったのだ。

 現に今も―――


 「……?(やはりフードで顔を隠していた事が気に障られたのでしょうか?)」


 ―――等と考えていた。

 決して異性に対して無防備という訳では無いのだが、性別問わず素肌を曝す事を嫌っているが故に、異性だからと過剰に気負う事も無く、そういった視線には鈍感になってしまっているのかもしれない。


 「まったくアンタ達は……自己紹介くらいまともにできないのかい!? ほらイーサン! アーネ! 次はアンタ達の番だよ!」


 「っ!? すみませんリーダー! セラフィナも、不躾にすまなかった」


 「はい! すみませんエキドナさん! ゴメンねセラちゃん……」


 「っと、すんませんあねさん! ……悪いなセラフィナ。待たせちまった」


 当のセラフィナを置き去りにウルガを糾弾していた二人だが、見かねたエキドナに急かされ自己紹介に戻る。


 「ふふ……いいえ、お気遣い無く」


 三者三様違いはあれど、どこか似ているその在り方に、可笑しさと羨ましさの様なものを同時に感じ、セラフィナは薄く微笑む。


 「それじゃ改めて挨拶させてもらうぜ、それがセラフィナの問いへの答えだ。俺はCランク冒険者のイーサン! 何を隠そう金色の虎の一員だ!」


 「同じくCランク冒険者のアーネ! 私も金色の虎の一員なの。改めてよろしくね、セラちゃん!」


 同じ冒険者パーティ、金色の虎の一員。

 それこそがセラフィナの「親しい間柄なのか?」という問いへの返答となった。

 冒険者は請負う依頼によって即席のパーティを組む事も有るのだが、それは当然その場限りのものであり、パーティ名など存在しない。

 依頼が終わればそれを最後に、二度と会う事が無いのかもしれないからだ。

 故にパーティ名を名乗るという事は、彼等が常日頃から密接な関わりを持って依頼に取り組んでいる事の、親しい間柄である事の証明でもあった。

 もっとも、彼等が親しい間柄である事など、その様子を見れば一目瞭然であったのだが。


 「こちらこそ、改めてよろしくお願い致しますの。……ですがパーティを組んでいらっしゃるという事は……やはり?」


 セラフィナはイーサンとアーネに礼を返すと、再びエキドナの方へと向き直り、新たに質問を一つ追加する。

 しかしそれはセラフィナも半ば確信しているようなニュアンスが含まれており、質問というよりは、むしろ確認に近かった。


 「ははっ……まぁそういう事だね。人を見る目は有るつもりだ~……なんて格好つけた事を言ったけど、その〝目〟ってヤツは要するにアーネとイーサンの事だったワケよ!」


 「なるほど。そういう事でしたの……」


 なるほどとは言うものの、エキドナから返って来た答えは、セラフィナの予想に違わぬものだった。

 先日の依頼によって臨時パーティを組んだアーネとイーサンが、彷徨う騎士討伐のため戦力を集めているエキドナに彼女の事を伝え、セラフィナの実力を聞いたエキドナがパーティのリーダーとして勧誘に来た。

 その事実はアーネとイーサンが、エキドナのパーティ構成員だと分かった時点で予測出来ていために驚きはしなかったのだが、彼女が懸念する何者かの意思によってエキドナがセラフィナを勧誘していた……という訳ではないと確認出来たが故に、セラフィナは一先ず胸をなでおろした。

 もっともそれは勧誘の理由についてであり、エキドナが彷徨う騎士に挑む理由とは別の問題であるため、セラフィナの心境としては本当に一先ずといった所である。


 「だがね、これだけは信じてほしいんだ……」


 胸をなでおろすセラフィナの様子をどの様に思ったのか、エキドナは至って真面目な表情で続きを口にする。


 「セラフィナ、アンタを一目見てピンときたってのは、誓って本当の事さ。いくら確かな実力が有ったとしても、自分の目で見て納得できない輩を、命を預け合う戦場に連れて行く気にはならないからね。アタシはね……アンタの実力以上に、その人柄が気に入ったのさ。話してみて確信したよ、アンタは信頼に足る女だってね。」


 「……!」


 その言葉に、セラフィナは心が温まる思いだった。

 それは一切の偽りを感じさせない真っ直ぐな瞳と、とても真摯な響き伴ってセラフィナの元へと届いたのだ。

 まして故郷に在った時すらも、そのような言葉をかけられた事の無いセラフィナには、その喜びも一入のものとなっていた。


 「エキドナ様の御目に適った事、大変嬉しく感じておりますの。貴方様に心よりの感謝を……ありがとうございます、エキドナ様」


 礼には礼を。

 その心を温かい思いで満たしてくれたエキドナに、セラフィナは精一杯の気持ちを込めて、僅かに見える口元に微笑みを浮かべると、感謝の言葉を口にする。

 フードに覆われ、その全貌を見る事は叶わない微笑み。

 しかし紡がれた言葉は、込めた心は―――


 「……! ははっ! いやいや参ったね……」


―――確かにエキドナへと届いたようだ。

 黒いローブ身に纏い、そのフードで頑なに顔を隠すセラフィナは、一見すると不気味な印象さえ与えかねない。

 まして口元に笑みを浮かべようものなら恐怖すら感じさせる事だろう。

 しかし今は、この時だけは、知りもしないセラフィナの笑顔を幻視してしまいそうな程に、温かい微笑みだと感じさせる事ができていた。

 それほどまでに、彼女の纏う雰囲気と声色には、感謝の念が込められていたのだ。


 「「……………」」


 これにはすぐそばで見ていたイーサンとウルガは言葉も無く立ち尽し、アーネに至っては―――


 「っ!?!?!? ………………ぁ」


 息絶えたようである。


 「……エキドナ様?」


 「え? あぁ~……その、まぁ、なんだ……し、信じてもらえてよかったよ!」


 エキドナも一瞬呆けた様にしていたが、セラフィナに話しかけられ我に返ると、頭をかいて照れ臭そうに笑う。


 「と、とにかくだ! アタシは本気でアンタが欲しいと思ってる! だからセラフィナ、このミーティングで少しでも可能性を感じる事が出来たなら、そん時は是非、アタシ達に力を貸して欲しい!」


 照れ臭さを誤魔化す為か、普段より少し大きな声で改めてセラフィナを勧誘するエキドナ。

 しかしその褐色の肌は、未だ頬を中心に赤く染まっており、男勝りなイメージの彼女しか知らない人が見れば、腰を抜かすほどに女性的だった。


 「ふふ……勿論ですのエキドナ様」


 そんなエキドナの見せた新たな一面に、セラフィナは驚き以上の好ましさ感じて微笑む。

 そして―――


 「……ですがその前に、一つ御伺いしておきたい事がございますの」


 改めてエキドナの真意を問うべく、話を切り出した。


 「ん? なんだい? アタシに答えられる事なら何だって―――」


 ……と、未だ呆然としているウルガとイーサンを放置し、とても人様にお見せできる状態ではない酷い顔をしたまま息絶えているアーネを無視したまま、再び切り出されたセラフィナの話しにエキドナが耳を傾けようとしたその時。


 「エキドナさんよぉ!! もう来てるかい!?」


 大変に威勢の良い、必要以上に大きい声と共に、宿屋兼酒場の入り口の扉が、壊れんばかりの勢いで開け放たれた。


 「……ふぅ、またですの?」


 またしても入った横やりに、入り口の方を半ば睨むような目をして振り返ると、そこには恰幅の良い冒険者と思しき髭面の男が、十人ほどの男達を従えるようにして酒場に入って来た所だった。


 「はぁ、相変わらず五月蠅い奴だねぇ……ゴンザ! こっちだよ!」


 どこか諦めた様な苦笑を浮かべて彼に、ゴンザと呼ばれた男にエキドナは右手を上げて返事をする。

 すると予想違わずゴンザなる男は、手を上げたエキドナを見つけると豪快な足音を立ててて大股で歩み寄ってくる。

 このタイミングで現れたのだ。

やはり彼が、彼を含めた冒険者と思しき者達が、合同で彷徨う騎士に挑む冒険者パーティの者と考えて間違いないだろう。


 「おう!! 来ていたか!! 準備は出来たぜ!! 始めよう!!」


 セラフィナが大切な話を聞く前に、役者は揃ってしまった。

ありがとうございました。

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