情報と考察の十七話
よろしくお願いします。
冒険者ギルドにて情報収集を終えたセラフィナが外へ出ると、既に日は高く昇り、町は賑わいを増していた。
思いのほか長くギルドに居座った挙句、依頼の一つも受ける事無くギルドを後にした事に多少の気まずさを感じながらも、新たな目的地に歩みを進めながら集める事の出来た情報を整理する。
重点を置くのはエキドナの行動の真意がどこに有るのかという点だ。
拾う事の出来た情報によると、冒険者パーティ金色の虎の構成員の懐事情は決して苦しくは無い。
むしろ名の通ったパーティであるため彼らに直接依頼を持ち掛ける者も多く、確かな実力で見事に依頼を達成している事から十分な報酬を得ているらしい。
つい先日も大きな依頼を達成しているらしく、今現在は随分と余裕のある生活を送れるだけの蓄えが有ると予想できた。
それにもかかわらず彼等は危険なAランクの魔物に挑もうとしている、それは一体何故なのか?
考えられる理由はいくつか有った。
金色の虎の面々は純粋に強者との戦いを望む戦闘狂である可能性。
Aランクの魔物を討伐した事によって得られる名声を欲している可能性。
敗走の経験がある事から、雪辱を果たす事を誓っているという可能性。
……等と、並べて行けばそれなりに冒険者らしい理由はそろっている。
しかしその何れもがセラフィナの知るエキドナや、拾った情報による彼女の人となりからすると考え難いものばかりだった。
戦闘狂と呼ばれる輩は得てして自らの命を顧みない傾向に有る。
彼女達、金色の虎の面々が戦闘狂であるのならば、彷徨う騎士と初めて接触した時点で命尽きるまで立ち向かって行く事が予想される上、名声を求めているにしては彼女は自身の敗北を語り過ぎている。
そして以前敗走したというAランクの魔獣、ワイバーンに対して特に拘りを感じさせない語り口であった所を考慮すれば、彷徨う騎士を執拗に敵視し、雪辱を誓うという事も考え難かった。
ならばやはり褒賞金が目的なのか?
冒険者が生活に不自由の無い状況であるにもかかわらず、更なる金銭を求める。
それは決して有り得ない話では無いのだが、少々考え難い事だった。
何故ならば、一般的に冒険者は必要以上の金銭を持ち歩きたがらないのだ。
理由は単純であり、金貨の類は重く嵩張る為、旅の最中は邪魔になりやすいという点。
加えて大金を所持しているという情報が野党の類にでも知られたならば、旅の道中は勿論、街の中であろうと宿の中であろうと気の抜ける場所など無くなってしまうだろう。
それは高ランクの冒険者であったとしても同じであり、所有物を〝盗む〟という点に重きを置いて事にあたれば、盗む側に必ずしも高い戦闘能力は必要無いからだ。
そういった事情を含め、冒険者が必要以上の金銭を持ち歩く事は少ないが、勿論少数ながら例外も存在してはいる。
まずは拠点となる場所を用意し、解錠や破壊、持ち運びが困難な金庫の類を設置する。
そして金庫番としてパーティメンバーを割いても尚、冒険者として活動できるだけのパーティ構成員の頭数、それらを賄える事の出来る大型の冒険者パーティが数少ない例外として憂いなく金銭を貯め込めるという訳だ。
ならばその点において、冒険者パーティ金色の虎はどうだろうか?
セラフィナが拾う事の出来た情報の限りでは、彼等は個別に部屋を借りておりており、アジトとでも呼ぶべき拠点を所有していない。
加えてパーティの構成メンバーは少なく、リーダーのエキドナ以外には三人だけしか居ないという事だった。
これでは余程高性能な金庫でも無い限り、彼等が褒賞金目当てに彷徨う騎士に挑もうとするとは考え難かった。
「(他に考えられる理由となりますと……)」
『オルバ』
「(やはり、その御方に関する事ですの?)」
他の可能性に思考を巡らすその瞬間、脳裏を過ったあの名前。
その者について、ギルドに居合わせた冒険者から拾う事の出来た情報は非常に少ない。
オルバという名前である事と、エキドナと何らかの関係が有るという事のただ二つだけだ。
それらを口にした冒険者によれば、オルバなる人物に端を発した何かが、エキドナを危険な戦地へと駆りたてているのではないか……との事だったが、これはあくまでもその冒険者による予想の域を出ず、事実であるかどうかはエキドナ本人にしか分からないだろう。
「はぁ……。(結局どれほど考えてみても、答えは出ませんの。人様の真意を推し量るには時間も情報も全く足りませんもの……)」
既に予定されているミーティングまで、それほどの時間は無い。
この町にも情報屋の類は存在しているのだろうが、昨日この町に来たばかりのセラフィナにはそういった者達と接触する方法が分からない。
情報というものは知っているかいないかで人生を左右する事も有る重要なものだ。
故に情報の売買を生業とする者は、その商品の取り扱いに細心の注意を払い、それら情報を直接仕入れる自分自身の安全確保には極めて慎重なのだ。
昨日この町に現れた人間が、そう簡単に接触できるという事は有り得ないと言っても決して過言ではない。
万が一ギルドにて接触の方法を拾う事が出来たとしても、情報を売ってもらえるかどうかは別の問題であり、その販売価格にも不安が残る。
セラフィナが自分自身で可能な限りの情報を集めようとしたのもそのせいだった。
「……。(やはり直接エキドナ様に問い掛ける他にありませんの。最低限ご自分の意思で彷徨う騎士に挑まれるのだと確認さえ出来れば……)」
それがエキドナ達自身の意志であるならば、他の〝何者〟でも無い、金色の虎の総意であるならば、例え命を落とす結果に終わったとしても、それは冒険者として迎える一つの結末として認めなければならない。
だが、それが彼等の意思ではなかったとしたら……?
結局のところ、セラフィナにとって気がかりなのはそこなのだ。
何者かの意図により金色の虎のメンバーの意思が歪められ、本来望まないはずの戦場へ赴こうとしているのかもしれない。
例え考え過ぎであろうとも、〝何者か〟よる策略を想定出来てしまうセラフィナには、どうしても確認せずにはいられない事だった。
如何に付き合いの短い者であったとしても、自身の事情に他人を巻き込み、知らぬ存ぜぬを貫けるほど、セラフィナは冷淡には生きられない。
それがエキドナの様に、セラフィナの実力を高く評価し、認めてくれた存在ならば尚の事だった。
「……。(今はエキドナ様方の御意志を確認させて頂く事が先決ですの。事と次第によっては思い止まって頂かないといけませんし……)」
依頼を受けるか否かの判断はエキドナの意思を確認し、作戦の内容を聞いてからでも遅くは無い。
セラフィナの決断はそれからだ。
粗方考えをまとめたセラフィナは、心なしか歩幅を広げ、新たな目的地としていた冒険者用の装備を取り扱う店へと足を運ぶ。
ギルドにて拾う事の出来た情報によれば、価格の割に品質が良く、品揃えも良好であるらしい。
エキドナからの依頼の件は別として考えても、冒険者として常に最善を尽くせる状態を整えるため、装備は念入りに整えておきたかった。
「(こちらの御店ですのね……。最低限、魔力回復用のポーションは買い足しておきたい所ですの)」
やがて到着した店で装備を整えたセラフィナは、店を出ると日の高さを確認し、直ぐに部屋を借りている宿へと足を進める。
じきに教会から正午の鐘が鳴り響き、人々の生活は一つの区切りを迎える事になる。
それはセラフィナにとっても同様であり、場合によっては彼女の人生でも極めて大きな区切りとなるかもしれないのだ。
「………それでは、参りますの」
自分自身を鼓舞するように、セラフィナはその一歩を踏み出した。
ありがとうございました。




