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仲間達と噂話の十四話

よろしくお願いします。

 「もしかしたら……の、話だよ? そこまで驚くような事かい?」


 仲間達の返した予想以上の反応に、エキドナは苦笑を浮かべて口を開いた。


 事実、『亜人種』とは決して珍しい存在ではなかった。

 『エルフ』に代表される亜人達は、人間と同じくこの世界で普通に生活しているのだ。

 しかしその多くは種族で纏まった国を作り、閉鎖的な生活を送っている為、人間の住む街に出て来る事は滅多に無い。

 勿論閉鎖的な種族ばかりでは無いのだが、とりわけエルフは選民意識が高く、気難しい種族として知られており、あまり他種族の住む場所に顔を出す事は無かった。

 故にエルフとの遭遇例は少なく、彼等が驚き息を飲むのは、実は無理も無い事だったのかもしれない。


 「いえ、しかし……なるほど。確かに種族として高い魔力量を持って生れて来るというエルフならば、例え子供であっても……いや、長寿の彼等ならば既に大人という事も有り得るのか?」


 ウルガがそんな疑問を抱くのも無理は無い。

 エルフはその身に秘める豊富な魔力の影響からか、非常に長寿な種族である。

 また成長の速度が寿命に合わせて穏やかであり、人間で言う大人と同等の時を生きて尚、その容姿は非常に若々しく、中には幼ささえ感じさせる者が居るほどだ。


 「さて、どうなのでしょうか? 私もエルフについて詳しく知りませんので何とも言えませんが、戦闘技能については私とイーサンが既に確認済みです。魔力量についてもエキドナさんが確かな量を感じ取っていますので、先のウルガの疑念については問題ないのでは?」


 「おう。戦闘での立ち回りについては問題ない! 魔術によるサポートのタイミングも大したモンだったぜ?」


 とある事情から既に魔術師の女性の戦闘能力を把握しているアーネとイーサンは、確かな事実に胸を張って答えた。


 「ってワケだけど、どうだいウルガ? 他に気になる事はあるかい?」


 「いえ、問題ありません!」


 「よっし! それじゃアンタ達もいつまでも立ってないで早く座んな! 明日に備えて今日は飲むよ!」


 エキドナは冒険者パーティ金色の虎の総意を纏めると、彼等を座らせ再びグラスを傾け始めるのだった。






 「ふぅ……あの子がパーティに入ってくれたら、もう少し理性的な行動が取れるようになるかしら? 明日は他のパーティを含めたミーティングなのに……」


 アーネは明日に備え、それこそ早めに切り上げる事を提案したのだが、他の三人、特にエキドナとイーサンの賛同が得られるはずもない事を経験から熟知してしまっている為、早々に説得を諦め自らもグラスを傾けていた。


 「ははは……まぁ大丈夫だろう。なんだかんだ言っても、やる時はやる人だ。それはアーネだって知っているだろう?」


 「それはそうですけど……って、どうしてウルガも一緒に止めてくれないんですか! 貴方も一緒に止めてくれればエキドナさんだって……!」


 「おいおい無茶を言わないでくれ! 俺にリーダーを止める事なんて不可能だ! 少し飲み過ぎてるぞアーネ! お前は酒に弱いんだから程々に……!」


 「そんな事は有りません! いいですか? 私達にはあの子が必要なんです! 明日のミーティングを無事に終わらせ、彼女の勧誘を絶対に成功させるのです!」


 あまりアルコールへの耐性が強くないのだろう、僅かな酒量で頬を赤く染めたアーネは、平時よりも感情の起伏が激しくなっていた。

 そんな彼女に絡まれているウルガも既に慣れているのか、いつもの事といった様子でアーネを宥めつつ、その手に握られた酒の入ったグラスを水の入ったグラスと入れ替えている。


 「まったくアーネは飲み始めると直ぐにこれだからな……。それにしても随分と気に入ってるみたいだが、実際どんな娘なんだ?」


 「良い子ですっ!!!」


 木製のテーブルにグラスの底を叩きつけ、酒場中に響き渡るほどの声量をもって言い切ったアーネ。

 ウルガは比較的酒に強く、未だ酔った雰囲気の無いイーサンに対して問うたのだが、瞬時に反応して答える辺り相当に気に入ったらしい。


 「お、おう……。良い子なのは分かったが、俺が聞きたいのはそうでは無くてだな……」


 身を乗り出し、捲し立てる様に魔術師の女性について語り始めたアーネを何とか落ち着かせようと、ウルガは四苦八苦しながら問い直した。


 「魔術の腕についてか? 実際に良い腕してたぜ~? 攻撃に回復と補助、パーティが魔術師に望む魔術は一通り使えるみたいだしな!」


 苦労しているウルガの様子をエキドナと話しながら見ていたイーサンは、苦笑を浮かべながらウルガの問いに答える。


 「っと、イーサン……それは本当か?」


 「おう。この目でキッチリ確認済みだ。言っただろ? 今日終わったギルドの依頼で組んだ時に見たってよ」


 「西のハリエルの街から商人を護衛してきたってヤツか……」


 ウルガはイーサンが口を開いた事でアーネを放置し、彼の話に耳を傾ける。

 アーネはアーネで魔術師の女性に関して語り続けているのだが、その内容は彼女がパーティに入る事で如何にアーネ自身が救われるかについてに偏っており、とてもウルガの問いに答えているとは言い難いものになっていた。

 本来の彼女は非常に真面目で賢い女性であり、中身の無い話などしないだが、酒の入った今の彼女は既に見る影もなく、ただの酔っ払いに成り果てていた。


 「おう! ハリエルまで物資の調達に行ったついでにギルドを覗いてみたんだが、丁度このメリエルまで護衛の依頼が出てるのを見つけたって訳だ。帰るついでに稼げる仕事だってんでアーネと一緒に請け負ったんだが……」


 「その依頼に参加したメンバーの中に彼女が居たんだな?」


 「そういう事だ!」


 『ハリエル』とは、メリエルから西へ進んだ先にある最寄りの町である。

 最寄りとは言っても徒歩で三日はかかる距離に有り、戦闘技能を持たない商人や、一般人等が移動する際には、護衛として冒険者を雇う事が常となっている。

 雇われた冒険者は魔獣を始めとした様々な脅威から依頼主を死守する事が務めとなる訳だが、脅威と成り得るモノの中には、盗賊に身をやつした人間等も当然含まれている。

 彼等は徒党を組んでの襲撃が常套手段で有る為、それに対抗するべく護衛として雇われる冒険者達も複数で依頼に臨む事が好ましいとされていた。

 当然その分依頼主の出費も増える訳なのだが、やはり命あっての物種である。

 自分の命を金で買えると思えばこそ出費を惜しむ者は少なく、そんな例に漏れない者の依頼によってイーサンとアーネ、そして魔術師の女性は出会う事となったのだ。


 「最初見た時は俺もビビったぜ? 俺も大してでかくは無いが、それでも彼女はかなり小さい方だからな。一目見てガキだと思ったし、正直舐めていたんだが……いやいやいやいや」


 イーサンは魔術師の女性の実力のほどを思い返し、見た目で彼女を侮っていた自らを、恥じる様に苦笑を浮かべ、語る。


 「勿体ぶらずに教えてくれ。実際どうだったんだ?」


 苦笑を浮かべて自嘲していたイーサンだが、ウルガは焦らされている様に感じたらしく、彼を急かす様にして問う。


 「ははっ……いやホント参ったぜ? 戦闘に関しては前に話した通り全く問題ない。接敵直後の広域攻撃魔術による先制攻撃に、無詠唱魔術による素早い援護攻撃。負傷者が出れば回復魔術で癒し、野営時には結界魔術で安全を確保してくれる。それをハリエルからの三日間毎日だぜ? アーネで無くても気に入るだろうよ!」


 「それは……確かにな。やはりリーダーの言った様に相当な魔力量を備えているのだろうな。普通それだけ派手に魔術を行使すれば魔力の回復が追い付かず、三日どころか二日持たずに魔力が枯渇するのが目に見えている。彼女がエルフかもしれないというのも納得の話だが……。なあイーサン。彼女の顔……というか、耳は確認できなかったのか?」


 エルフという種族を判別する上で最も簡単な方法は、耳の形によるものだ。

 人間と大差の無い姿形をしているエルフではあるが、人間の丸く短い耳とは違い、その耳は長く尖った形状をしている。

 体格も人間に比べると比較的小柄な者が多いが、当然個人差があるので体格で判別するのは難しく、エルフとは〝魔力が豊富で耳が長い種族〟である……というのが、人間がエルフを判別する一般的な見解であった。


 「いや~……そいつは流石に無理だったぜ。何せ鉄壁のフードに阻まれちまって、耳どころか顔もよく分からない有様だからな。アーネの話じゃ野営時の見張りの時も、交代で仮眠をとる時すら外さなかったらしい。何か理由が有るんだろうが、それがどんなモンなのかまでは……な?」


 イーサンはハリエルからの三日間で魔術師の女性の実力を知った後、エキドナに彼女をパーティメンバーとして推薦するべくアーネと共に彼女の素性を探っていたのだが、その結果は芳しいものでは無かった。

 分かった事と言えば、明確な意思に基づいて自身の姿を頑なに隠している事くらいであり、その顔はフードによって隠され、鉄壁と言って差し支えないほどに他者の視線を拒絶していた。


 「顔に魔術でも治しきれない傷を負ってる可能性もあるし、あまり詮索するのも無粋だろ? 話してみれば社交的だし、人格的には俺より余程人間出来てるんじゃねぇか? 人種なんざ大した問題じゃねぇよ」


 「そうだな……。確かにその通りではあるのだが……」


 一度はパーティの方針として彼女を勧誘する事に納得したウルガではあったが、顔も知らない人物である事に一抹の不安を拭い切れないでいるようだ。


 「ふぅ……いいですかウルガ?」


 その手に握ったグラスに注がれた琥珀色の液体を見つめ、眉間に皺を寄せたまま黙り込んでいるウルガに、一頻り語り終えて満足した様子のアーネが、不出来な弟に言い聞かせる様な口調で語りかける。

 それはつい先程まで、酔いに任せて一人で語っていた人物の取る態度とは思えず、彼女を生温かい目で見守っていたエキドナも呆れ顔だ。


 「イーサンもです……よく聞いて下さい。女性とは秘密の一つや二つ当然の様に抱えているものなのです。それを無遠慮に勘繰るのは、無粋に過ぎるというものですよ!」


 「アーネの貧乳のようにかい?」


 「!!!」


 したり顔で女を語っていたアーネは、エキドナからの手痛い仕打ちに、哀れにも口を開けたまま沈黙した。


 「まぁ……なんだ。そう急ぐ必要は無いさ。徐々に互いを理解して行く過程で顔を見せてくれる日がくるかもしれないし、そうでなくても見せられない理由を教えてくれるかも知れないじゃないか。最初から全てを曝け出すなんてのはアタシでも無理な話さ」


 エキドナはしたり顔で口を開けたまま硬直している酔っ払いを放置し、ウルガに諭すように語りかけ、ウルガは哀れみの視線をアーネに送りつつも、エキドナの話に静かに耳を傾けていた。


 「リーダー……そうですね。俺達も最初から腹を割って話せる仲だった訳じゃ無い。当たり前の事を忘れてましたよ」


 「アタシ達が組んでから随分と経つからね……無理も無いさ」


 「そう言やもう五年経ちますね! いや~早いモンだ……」


 冒険者パーティという小さな組織で、いつの間にか当たり前の様に思っていた事が、新参者にとっては決してその限りでは無く、嘗ては自身もそうであったという事を思い出したウルガは、当初の自分を思い返し、懐かしさに目元を緩めながらグラスに注がれた琥珀色の液体を喉に流し込む。

 エキドナとイーサンも同様に過去を思い返しているのだろう、どこか懐かしそうな、それでいて気恥ずかしそうな複雑な表情を浮かべてグラスを傾けている。


 「あ~……そういやあの御嬢ちゃん、やたら御丁寧な口きいてたけど、もしかすると、どこか良いトコの生れだったりするのかもしれないね?」


 場に満ちた空気が性に合わないのか、照れ隠しをするようにエキドナは魔術師の女性について口にした。


 「エルフの御嬢様が家出してきたとかっスかね? ははっ! 確かにやたら御上品っスよね!」


 「そうなんですか? 口調までは分からなかったな……。他には何か分かっている事は有るんですか?」


 イーサンとウルガも同様なのか、それともエキドナの意を酌んだのか、彼等も空気を切りかえる様にエキドナの話に乗って魔術師の女性について語り始める。


 「そうだねぇ……フードの下からチラチラ見えてたけど、艶の有るキレイな紫色の髪してたよ。やっぱり顔を隠したいのか、前髪が相当伸びてたね~……ちゃんと前が見えてるのか心配になったよ」


 「心配と言えばやたら色白っスよね? あまり体が丈夫そうには見えなかったんスけど、冒険者として普通に行動出来てるらしいから、単に日に焼けてないだけとは思うんスけど……あっ!」


 ウルガの質問に答える形で魔術師の女性に関して話していたエキドナとイーサンだったが、不意にイーサンが悪戯を思いついた子供の様な顔をしてウルガを見る。


 「耳を貸しなウルガ! 聞いて喜べ!!」


 「ど、どうしたんだ突然……」


 ニヤついた顔をして迫ってくるイーサンに、ウルガは心底気持ち悪そうな顔をしながら耳を寄せると、イーサンは囁く様にして告げる。


 「ローブに隠れてパッと見分からないが、あの御嬢ちゃん小柄なクセして結構出るトコ出てるぜ? 間違い無いね、アレは隠れ巨にゅ―――」


 「なんだと!? それは本当かっ!?」


 イーサンが言い切る前に反応し、喜色満面を絵に描いたような顔でイーサンを問い質すウルガは、会話の内容が内容だけに非常にキモかった。


 「お、おう……」


 話を振ったイーサンが、思わずドン引くほどに。


 「ったくアンタ達は! あの子とは長い付き合いにしたいんだ! 妙な気起こして手を出したりでもしたら承知しないよ!」


 「す、すみません! 取り乱しました……!」


 「お、俺もっスか!?」


 ウルガとイーサンの会話は、エキドナに直接聞こえはしなかったのだが、ウルガの反応から二人の会話の内容を経験に基づいて察知したエキドナは、男女間のトラブルで消滅した冒険者パーティを数多く知るが故に先んじて二人に釘を刺す。

 もっとも、イーサンはウルガをからかっただけであるため、巻き添えもいい所なのだが、それもこれも元はと言えば彼が余計な事を口にしたためなので、結局は身から出た錆であった。


 「ほらいつまで呆けてるんだいアーネ! アンタもいいね!? あの子を可愛がるのは結構だが、構い過ぎるのも問題だよ! 前に入って来た子もアンタが構い過ぎるから……!」


 「え……えっ!? 違いますエキドナさん、誤解ですっ! 寒かったので一緒に寝ようと提案はしましたが、実際には何も!」


 「真っ裸で迫っておいてかい!? アンタはその時点で既にやらかしてるんだよっ!!」


 「!!!」


 エキドナに一喝され我に返ったアーネは、続け様に放たれた言葉に反論するも、更なる一喝を受け再び口を開けたまま沈黙した。


 「明日は大事な打ち合わせなんだ、しっかりしてもらわなきゃ困るよ!? そんでウルガっ! 他に聞きたい事は有るのかい!? 無いなら今日はもう全員寝ちまいなっ!!」


 「は、はい……え~と、あ、名前! まだ彼女の名前を聞いていませんでした!」


 イーサンが硬直したまま動かないアーネを引きずって場を辞していく中、ウルガはその大きな体躯を縮こまらせながら、最後にその質問を口にする。


 黒いローブを身に纏い、フードで顔を隠した魔術師の女性。


 彼女を示す、その名前を知るために。




「セラフィナだよっ!!」




 間もなくして、その名は紡がれた。


ありがとうございました。

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