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死刑執行後に目覚めたら滅びかけた異世界だった ~終焉種を討伐するまで帰れない~  作者: れさ


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15/21

――第15話 前途多難――

エレジアの屋敷で一通り説明を受けた後、朔夜たちは待機していた装甲車へと乗り込んだ。

それはもはや乗用車というより小型の戦車だった。


分厚い装甲板に覆われた車体、天井には旋回式の機関銃まで備え付けられている。

乗り込んだ瞬間、重厚な金属の匂いと油の匂いが鼻をついた。


「なんとも物騒な車だね。電車とかないの?」


朔夜が周囲を見回しながら尋ねると、向かいの席に腰掛けたフィアは肩をすくめた。


「ないわ。人類領域とはいえ、国と国の間には動物型の原罪種がうじゃうじゃいるもの。そんな場所に線路なんて敷いても誰も維持できないし、定期的に襲われて終わりよ。それに外は"汚染"の影響で空気も悪いから、外に出る時はこれを忘れないで」そう言ってフィアは黒いマスクを朔夜へ放り投げた。


鼻と口だけを覆う簡素なものだが、内側には魔法陣のような細かな紋様が刻まれている。


「終焉領域にしか原罪種はいないんじゃないの?」マスクを受け取りながら朔夜が首をかしげる。


「違うわ。世界樹が隔てているのは"領域"だけ。世界樹の上は見えていたでしょう? 飛行能力を持つ原罪種や終焉種なら、あそこを越えて人類領域へ侵入できるの。それに人類領域内で自然発生する原罪種は止められないわ」そこまで説明すると、フィアは運転席へ顔を向けた。


「準備できたわ。発車して大丈夫よ」


「了解。」


低い返事とともにエンジンが唸りを上げる。

重々しい振動が床から伝わり、巨大な車体がゆっくりと動き始めた。


車内は見た目以上に狭く、左右に向かい合う簡素な座席が並んでいるだけだった。

朔夜とフィアの膝の距離はわずか数十センチしかなく、向かい合って座ると自然と視線が合ってしまう。


ほかにも数名の兵士が乗っていたが、誰一人として無駄口を叩かず、銃を抱えたまま静かに揺れに身を任せている。

張り詰めた空気が車内を支配しており、これからの旅路が決して安全ではないことを嫌でも実感させられた。


やがて装甲車は世界樹の都市を抜け、巨大な門へと近づいていく。

厚さ数メートルはあろうかという鋼鉄製の門がゆっくりと左右に開き、その向こうには灰色の世界が広がっていた。


乾いた大地、朽ちた建造物、どこまでも立ち込める薄黒い霧。

そして風に混じって流れ込んでくる、鉄錆と腐臭が入り混じった重苦しい空気。


朔夜は無言でマスクを着けた。


装甲車は唸りを上げ、汚染された荒野へと走り出した。


「それで? エレジアの依頼は結局何だったの?」朔夜は窓の外へ視線を向けたままフィアに尋ねた。


装甲車の外には、どこまでも荒廃した大地が広がっている。

世界樹の内部は澄んだ空気と豊かな緑に満ち、食料にも困らない楽園のような場所だった。


しかし、その外側はまるで別世界だ。

ひび割れた地面、朽ちた建物、灰色の空。


その光景は、この世界が今なお滅びへ向かっていることを嫌というほど物語っていた。


「やっぱりあなた、何も聞いてなかったのね。ご飯、美味しそうに食べてたもの。」フィアは呆れたようにため息をつく。


「……腹減ってたから。」


「知ってるわ。」フィアは肩をすくめる。


「今回の依頼はぁ、技術連邦ネオスで起きている連続猟奇殺人事件の調査。容疑者は原罪種――《喰葬》グラト。」朔夜の隣に座るミントが口を開く。


その声音は、まるで今日の天気でも話しているかのように軽かった。


「三年前、汚染の影響で精神が壊れてねぇ。発作的に恋人を殺して、その遺体を鍋にして食べたのぉ。」


「……。」あまりにも淡々と語られる内容に、朔夜は言葉を失う。


「それ以来、完全に壊れちゃった。今はアビスになった人間ばかりを狙って殺して、内臓を持ち去るのぉ。現場には決まって煮炊きした跡が残るから、向こうじゃ《人喰いの料理人》なんて呼ばれてるわぁ。」


「そんな奴が、放置されているのか。」


「ええ。アビスを処分してくれる分には軍としても都合がいいものぉ。」ミントは蠱惑的こわくてきな笑みを浮かべた。


「今回の任務は、そいつを殺すことか?」朔夜は窓の外へ視線を戻す。


「そうなる可能性はあるわ。」フィアが足を組み替えながら口を開いた。


「もし今回の連続猟奇殺人事件の犯人が本当にグラトだったなら、“罪”が確定次第、グラトは即座にアビスへ堕ちるでしょうね。」


「でも、エレジアは違うことを考えてる。」


「違うこと?」


「あいつを生け捕りにしたいのよ。」


「……あんな奴を?」


「原罪種がどうやってアビスへ堕ちるのか、その過程を調べたいんですって。ネオスの研究機関も協力してるらしいけど、私は反対。」フィアの表情から笑みが消える。


「アビスなんて生かしておく理由はないわ。放っておけば犠牲者が増えるだけ。」


「じゃあ俺たちは?」


「まずは無力化を最優先。拘束できるならそれでいい。でも、それが無理なら――」フィアは一切の迷いなく朔夜を見据えた。


「殺して構わないわ。」




———ガガガガガガッ—————!!




突如、装甲車の天井から激しい銃声が鳴り響いた。車体全体が細かく震え、金属音が車内へ反響する。


「——ッ!」朔夜は反射的に腰を浮かせ、いつでも飛び出せるよう身構えた。


「落ち着きなさい、朔夜。」フィアはそう言うと、朔夜の手の上へそっと自分の手を重ねる。


「これは威嚇射撃。原罪種を近づかせないために撃ってるだけよ。それに今は"私がいる"から、本気で襲ってくる個体はいないわ。」その一言で朔夜は少しだけ肩の力を抜き、窓の外へ目を向けた。


そこには鹿によく似た原罪種がいた。

しかし、その姿はもはや鹿とは呼べない。


体長は五メートルを優に超え、全身は黒紫色の硬い外殻に覆われている。

額には巨大な一つ目、その周囲を囲むように四つの眼球が不規則に蠢き、五つの瞳が一斉に装甲車を見つめていた。


その視線には敵意も殺意もなく、ただ獲物を値踏みするような静かな執着だけが宿っている。


「そういえば……動物も原罪種になるんだな。」朔夜はぽつりと呟いた。


人間なら分かる。

欲望も、嫉妬も、憎しみもある。

だが、弱肉強食の世界で生きる動物に"罪"など存在するのだろうか。


「そうよ。なるのよぉ。」ミントが角で窓を軽くコンコンと叩く。


「例えばあれは鹿の原罪種。あの個体が群れの長だったとするでしょぉ? 冬を越えるために、病気や怪我で足手まといになる仲間を切り捨てる判断をすることがあるわぁ。」


「それが罪なのか。」


「混沌から見ればねぇ。生き延びるためとはいえ、自分の仲間を見捨てるという選択をした。その瞬間に"罪"として刻まれるのぉ。」ミントは肩をすくめる。


「だから、人間よりも動物や昆虫の方が原罪種になる数はずっと多いの。あの子たちは生きるためなら迷わず仲間を切り捨てるし、縄張り争いや共食いだって珍しくないでしょう?」


「……なるほど。」朔夜は窓の外を見つめた。


遠くの荒野には鹿だけではない。

狼のようなもの、巨大な昆虫、鳥とも竜ともつかない影がいくつも見える。


どれもこちらへ踏み込む機会を窺うようにこちらを見つめていた。


「それじゃあ、放っておけばどんどん手が付けられなくなるんじゃないのか。」朔夜はフィアへ視線を向ける。


「そうね。一応、各国とも定期的に巡回して、危険な個体は間引いてるわ。でも世界は広すぎるし、人手も全然足りない。」フィアは腕を組み、小さく息を吐いた。


「終焉種への対処だけでも精一杯。原罪種まで完全に管理する余裕なんて、今の人類にはないのよ。」


「そうか……。」朔夜は再び窓の外へ目を向ける。


灰色の空の下、数え切れないほどの異形たちが世界を埋め尽くしている。


「前途多難だな……人類は。」


その言葉は誰に向けたものでもなく、ただ胸の奥から自然と漏れ出たものだった。



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