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死刑執行後に目覚めたら滅びかけた異世界だった ~終焉種を討伐するまで帰れない~  作者: れさ


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13/20

――第13話 覚悟――

朔夜は頭をタオルで拭きながら、2階の一番奥にある部屋へ向かっていた。

浴場では散々騒がされたせいで、疲れが取れたのか逆に増えたのか自分でもよくわからない。


それでも、不思議と悪い気分ではなかった。

むしろ胸の奥が軽くなったような心地よさすらある。


これまで朔夜は、どこへ行っても腫れ物に触るような扱いを受けてきた。

恐れられ、距離を置かれ、必要以上に警戒される。


それが当たり前だった。

しかし、この場所では違う。


誰も朔夜を避けようとはせず、ごく自然に接してくれる。

その空気が妙に居心地よく感じられた。


ガチャ。


一番奥の部屋へたどり着き、ドアノブを回して中へ入る。


「やっほー。私の自慢のバスルームはどうだったかしら?」ベッドに腰掛けたフィアが、ひらひらと手を振りながら朔夜を迎えた。


「あれ? 部屋、間違えた?」朔夜は思わず身を引き、廊下の部屋番号を確認する。


2階の一番奥の部屋で間違いない。


「合ってるわ。ここは私の部屋でもあるの。今日から相部屋よ。ありがたく思いなさい」フィアは得意げに笑いながら、隣のベッドをぽんぽんと叩く。


部屋には同じ大きさのベッドが二つ並んでいた。


「そうなんだ。施設じゃ何十人も同じ部屋で、床に雑魚寝なんて当たり前だったから、ベッドがあるだけで十分すぎるくらいだよ」朔夜は肩をすくめて答える。


「サクヤって、本当にロマンチックの欠片もないわね」フィアは呆れたように笑ったが、その表情はどこか楽しそうだった。


「それより、あの子たちはどうだった?」


「ああ、みんないい人だったよ。正直、罪を犯して原罪種になったようには見えなかった」


朔夜は率直な感想を口にする。

ヨーゴたち四人は、人間離れした身体的特徴を持つ原罪種だった。


中央都市でも何人か見かけたことがあるが、この世界では罪を犯した者が原罪種へと変貌すると聞かされている。


それでも、彼らからは凶悪さや狂気は微塵も感じられず、ごく普通の人々と変わらないように見えた。

その印象と「罪人」という言葉が、朔夜の中ではどうしても結びつかなかった。


「……」フィアは視線を落とし、一瞬だけ悲しげに目を伏せた。


そして静かに口を開く。


「あの子たちは、原罪種じゃないわ」


「え?」朔夜は思わず聞き返す。


「でも……」


「原罪種になった人たちの"子供"なの。正確には、人間と原罪種の間に生まれた子。半血よ」


その言葉に、朔夜は黙って耳を傾けた。


「この世界では、性犯罪も原罪種になる罪の一つ。でもね……原罪種になった後も、そういう人間は犯行を繰り返すことが少なくないの」フィアの声には、わずかに怒りが混じっていた。


「誰も……止めないの?」


「止められない、の方が正しいわ」フィアは膝を抱え、ゆっくりと言葉を続ける。


「人は罪を犯してすぐにアビスになるわけじゃない。理性を失うまでには二回の猶予があるの。最初の罪で身体が原罪種へと変わる。二度目の罪ではまだ理性は残っている。そして三度目の罪を犯した時、完全なアビスとなって討伐対象になる」


「じゃあ、一度原罪種になった人がまた人を殺したら?」


「本来なら、その時点で処分したい。でもできないの」


「どうして?」


「まだ"人間"だからよ」フィアは苦々しく笑う。


「原罪種とはいえ、アビスになるまでは混沌のルール的には人間として扱われる。だから普通の人がその人を殺せば、その人もまた罪を犯したことになってしまう」


「……だから、原罪種に原罪種を殺させる?」


「そう。どうせ次に罪を犯せばアビスになるなら、その役目を押し付けてしまおうって考えたの」


「合理的ではあるね」朔夜は迷わず答えた。


「でもね」フィアはその言葉を静かに否定する。


「アビスになるかもしれないと分かっていて、それでも人を殺すような人間よ? そんな人に『原罪種になったんだから、この原罪種を殺して』なんて言って、素直に従うと思う?」


「……全然。まったく思わない」


「でしょ?」フィアは小さく息を吐いた。


「ある時悲劇が起きたの。性犯罪の被害に遭った女性が妊娠した。けれど、混沌のルールでは堕胎は認められていない。だから産むしかなかった」フィアはそこで言葉を切る。


「生まれてきた子は……最初から原罪種だったの」


「……」朔夜は何も言えなかった。


生まれた瞬間から罪人として扱われる命。

本人は何一つ罪を犯していない。


それなのに、人とは違う姿で生まれたというだけで、その人生は始まる前から決められていた。

それは悲劇という言葉だけでは、とても片付けられない現実だった。


「しかもね、その子たちには、生まれながらにして六度の猶予が与えられていることに、ある人間が気付いてしまったの」フィアの声が少しだけ低くなる。


「六度も……?」


「そう。本来の人間よりずっと多い。だから考えたのよ。『だったら、その猶予を利用すればいい』って」フィアは唇を噛み締める。


「その子たちは、二度目の罪を犯した原罪種を処刑するための存在として国が引き取るの。母親は被害者だから、加害者との間に生まれた子どもを育てろなんて国も言えない。……言ってはいけないもの」そこでフィアは拳を強く握り締めた。


白い指先から血の気が引くほど力が入っている。


「国はその子たちを育成するために、《断罪局・特務執行隊『レクイエム』》を創設したの。表向きは治安維持組織。でも実態は、子どもたちを"処刑人"に育てるための施設よ」フィアは吐き捨てるように続ける。


「六度の猶予があるということは、理論上、一人で六人の原罪種を処刑できる。だから幼い頃から徹底的に洗脳する。命令は絶対、感情は不要、原罪種を殺すことに疑問を抱かないよう教育して、国家に忠誠を誓う兵器として育て上げる」フィアは静かに目を閉じた。


「あの子たちは、自分の意思でナイフを握ったんじゃない。生まれた瞬間から、その役目を押し付けられているの。」


「みんな六度、原罪種を殺したり、傷つけたりしている。もちろん自分の意思じゃないわ。命令されて、命令されるままにね。だから……あと一度でも罪を犯せば、あの子たちはアビスになってしまう」


「……」朔夜は何も言えなかった。


他人事には思えなかったからだ。

幼い頃から人を殺す技術だけを叩き込まれ、自分が何をしているのかも分からないまま命令に従い続ける。


その生き方は、自分とあまりにも似ていた。

違うのは、道具として使われた理由だけだった。


「だから七度目を迎える前に、この第七区域へ送られてくるの。ここ『フィーネ・デレテルノ』は、そういう子たちを受け入れるための場所。今は私がみんなを引き取ってるってわけ」フィアは微笑む。


けれど、その笑みには温かさよりも、悲しみと悔しさ、そして諦めが滲んでいた。


「……そんなのおかしい」朔夜は思わず声を漏らす。


「性犯罪者を放置していることもそうだ。そんな人間が街を歩いているなんて安心して暮らせるわけがない。それに、何の罪もない子どもたちを利用するなんて……」


「そんなの、人道に反してる」朔夜は拳を握る。


「それを主導しているのが……絶望の終焉種、エレジアよ」フィアは静かに頷いた。


「……え?」朔夜は目を見開く。


「エレジア……?」


屋敷で会った彼女の姿が脳裏をよぎる。

人懐っこく笑い、人類のために尽くしていると言っていた、あのエレジアが。


「そう」フィアは短く答えた。


「あの子たちみたいな存在がいなければ、二度目の罪を犯した原罪種を止める人がいなくなる。普通の人が手を下せば、その人まで原罪種になってしまう。そうやって被害は連鎖して、いずれ人類は崩壊する」フィアは息を吐く。


「だからエレジアは、この制度を維持している。性犯罪者を見逃しているんじゃない。……見逃さざるを得ないと判断したの」その声には怒りがあった。


だが、その怒りはエレジア個人だけへ向けられたものではない。

誰かが犠牲にならなければ成り立たない、この世界そのものへの怒りだった。


「だから私は、この世界を変えたい」フィアはまっすぐ朔夜を見つめる。


「混沌だけじゃない。終焉種の呪いそのものが、あの子たちみたいな悲劇を何度も生み続けている。私は、それを終わらせたいの」一度言葉を区切り、静かに微笑む。


「みんなが笑って暮らせる毎日を作りたい。それが私の願い」フィアは一歩だけ朔夜へ近づいた。


「サクヤ。だから、あなたの力を私に貸してほしいの」


「……俺に、そんな力があるのかな」朔夜は小さく苦笑した。


正直、自分でも分からない。

自分は人より少し力が強いだけだと思っている。


エレジアと対峙したとき、手加減はしていない。

それでも、あの拳は軽々と受け止められた。


しかも、エレジアは終焉種としての力の大半を汚染の抑制に割いていると言っていた。

あれほどの存在が、まだあと五人。


自分に本当に、その怪物たちへ立ち向かう力があるのだろうか。

不安が胸をよぎる。


そんな朔夜の迷いを見透かしたように、フィアはふっと笑った。


「大丈夫よ、サクヤ」そう言って立ち上がり、一歩近づくと、小さな手をそっと差し出した。


「私もいるから。一緒に戦ってほしいの」朔夜はその手を見つめる。


白く細い指先。

今にも壊れてしまいそうなほど華奢な手だった。


けれど、その小さな手は、誰よりも強い覚悟を握り締めているように見えた。


「……分かった」朔夜はその手をゆっくりと握り返す。


その手はとても温かかった。


「ところで」朔夜はふと思い出したように尋ねる。


「フィアは戦えるの?」


「戦えないわ」


「……え?」


あまりにも即答だった。


「なんだよ、それ……」朔夜は肩を落とした。


世界を変えようと熱く語った直後に、当の本人が戦力外宣言である。

あまりの落差に思わず苦笑すると、フィアもつられるように吹き出した。


「ふふっ、大丈夫。応援はいっぱいするから」


「それ、全然安心できないんだけど」


二人の笑い声が、静かな部屋にゆっくりと広がっていった。

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