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かつて大賢者だった黒猫は王子に転生しても魔王ひとすじ  作者: 前野羊子


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8【転生】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 「リィン!おいリィン!」


 泣かないでデューク様!俺は戻ってくるから。


 大人になっても、愛しいデューク様の両腕に簡単に抱えられるほどの大きさにしか成長しなかった黒猫は、自分の力を見誤ったんだ。


 瞬発的な魔力は出せるけど、総魔力量はこれまでで一番小さかった。

 そりゃそうだ、魔力を溜めるところが本当に小っちゃかったんだもん。


 こんなことなら、見習い魔法使いみたいに常に魔石を持っていればよかった。失敗したよ。


 目を開けていてもぼやけてきた視界の端には人里を目指していた巣立ったばかりのドラゴン。

 あれはまだ精神が幼くて、遊び感覚で村を踏みつぶす存在だ。成熟したドラゴンより始末が悪い。そして成熟したドラゴンと同じだけ頑丈だ。


 それを防ごうとデューク様が城の塔の上でドラゴンを討伐しようと魔力を練っていた。

 その隣では俺も。


 だけど人里に出る手前で、やつはデューク様を見つけて降下してきたんだ。

 ドラゴンは魔力を得るために人間を襲う。

 だからより魔力の多いものは狙われやすい。

 だが、ドラゴンを討伐するのも魔法使いを抱えた冒険者たちだった。


 俺はとっさに何も考えずに、かつて大賢者として、そして冒険者だった時に使い慣れていたドラゴンを一発で仕留めることが出来る大魔法を使ってしまった。昔は何発も撃てた魔法だったから、本当に気軽に撃ったんだ。


 目の前にちらつく花火…激しく割れそうな頭痛。しまった…大きすぎた。


 ドラゴンは倒せたけれど、俺自身もあっという間に空っぽになってしまった。


 「リィン!おいリィン!」


 デューク様が必死に俺を呼ぶ。

 どうやら俺にゆっくり魔力を注いでくれているみたいだ。

 だがせっかくの愛しい魔力が流れてきても、俺にはそれを受け止める力さえ残っていなかった。


「リィン…あんなに慌ててドラゴンを殺らなくても良かったのに。

 でも、やはりリィンはあの大賢者だったリィーン・ラ・ビブリオーだったんだね」


 そう、あの魔法は今でも俺しか使えなかった。なにしろ大量の魔力が必要で、普通の術者ではかなりの負担だ。だからあの王国の図書館の禁書庫のさらに地下深くに魔導書を封印したんだ。


 よろよろとなんとか肉球をデューク様のほほにつける。


 魔王と呼ばれているハイダークエルフが俺なんかのために泣いちゃだめだよ。

 泣いてくれるのはちょっぴり嬉しいけどさ。

 俺が好きなのはあなたの笑顔なんだ。


「にゃ…あ…」

「ああ、リィン、何度でも愛しているというから逝くな」


 泣かないで!俺もデューク様を愛している!

 でも、黒猫の姿も悪くなかったな。


 おかげで大好きな森の香りの腕の中で永い眠りに入ることができる。

 こんなことは本当に初めて。本当に幸せ。


 今回は十年ぽっちだったけど、ずうっと一緒に入れたし、毎晩ベッドに入れてもらって眠れたし。


 次も猫がいいなあ。


 おやすみデューク・ラ・フォレスティオーザ。魔の森を統べる魔王よ。


 またね。



 〇●●●〇


 おぎゃあ おぎゃあ


 俺はまた猫の声で泣いている?

 やった!また猫に転生したんだ!


「王后陛下、玉のような王子でございますよ」

「まあ、何て美しい金色の瞳なのでしょう。それに見て、つややかな黒い髪」


 うん。その組み合わせはいつもそう。


 俺は女神のような美しくて可愛らしい女性の腕の中に運ばれた。


「本当に可愛らしい。私が生んだとは思えないほどね」

「何を仰います。王后陛下にそっくりですわよ」

「でも陛下にこの目元がにているわね。

 黒い髪も美しいわ。私のお祖父様も黒い髪だったと実家に飾っていた肖像画にあったわ。あなたは曾祖父様の特徴も持ってきたのね」

 そう言っておでこにキスをしてくれた。


 まだ生まれたばかりのぼんやりしていた俺は、反射的にその柔らかいものに吸い付いて暫く眩しい世界をなんとなく見まわしていた。


 なんだ…猫じゃないみたいだな。ざんねん。


 目の前にあるちいさな拳骨。

 色は違うけど、毛もないけど猫みたいじゃない?


 力が抜けて拳骨が開いてしまう…


 指ある…また今度は人間だったんだ。

 これはなかなか問題だぞ。俺はいったいどこの国に生まれたのか。

 しかし今回は生まれた時からこれまでの記憶を持ってこれた。


「王妃ローゼリア。よくやった、なかなか聡明な子だ」

「陛下!」


 この人はローゼリアというのか。今生の俺の母親。

 で、俺にかぶさるようにしてローゼリアにキスをしているのが父親ね。


 …陛下って言ったぞ?これは…自由になるのに時間がかかるやつだ!

 こまったな…。


 

 そんなことを考えていたら罰があたったのか。

 俺は次の日には母親から離され、乳母だというバレリアという女性に育てられていた。


「王后陛下は産後の肥立ちが悪く熱が下がらないのです。

 母上様が良くなればまた抱っこしていただけますからね」


「あう!あう!」


 そんな!産後の肥立ちなんて甘く見てたらだめだよ!

 俺を母上のそばに連れて!

 ちょっとでも診させて!


「あう!あう!」


「これ、だめですよ。

 あなたは大事な王子殿下なのですから。

 王后陛下の体調も不安ですが、あなたは健やかに育つ義務がありますからね」


 そんな難しい事を赤ん坊に言ってもしょうがないだろう普通は!


 でも、あの女性の元へ行きたい!


 でも…瞬間移動をしようと魔力をぐるぐる練ろうとするけど、生後二日ではさすがに体の中で魔力を動かす事しか出来なかった。

 なにしろ、首さえ座っていないのだから。


「おぎゃあ おぎゃあ」


「あら、大変。

 殿下もお熱が出て来ちゃいましたね…お医者さまを呼ばなくては」


 熱じゃないんだ!これは魔力を回したからなんだって!


 ベッドに置かれて、自由になったのに、手足をバタバタする事しか出来なかった…。


 この、生まれたばかりの非力な期間は何とかならないのか…


 気が焦り、泣くことしかできない俺は、他の侍女からは難しい赤子だと言われて、乳母以外は部屋に入ってこなくなった。




 それから半月後、俺の前には憤怒の父が立っていた。


「お前の名前はファーリィンだ。王后ローゼリアが最後に残していった名前だ。

 正直、お前のせいだと思ってしまう…。

 暫く顔を見に来ることはないが、健康に育ちなさい」


 ああ、あの女神のような母はもう逝かれてしまったのか。


 彼女にも次の生があるといいなぁ。

 悲しいけど、一度しか抱かれた記憶が無いけど、優しい人だった。



 乳母のバレリアは侍女としても優秀で、まだ話せない俺に話しかけては世話をする。


「殿下は聡明でいらっしゃいますね!

 ばあやの言うことが分かるのですか?」


 なんとか半年で座れるようになった。


「あう」


「では、ばあやも殿下の気持ちを当ててみましょうかね」


「あうあうあう」

 人差し指で、コップを指し示す。

 その傍らには水差しが。


「お水を飲まれますか?」

 

「あうー」

 ちがーう!欲しいのはコップだけ!


「コップで遊ぶのですか?」

「あいっ」


 いつもあの水差しの水をコップに入れてスプーンで掬って俺に飲ませてくれるけれど正直美味しくない。

 水差しを洗ってないんじゃないか?水がまずいのか?どっちだろう。


「どうぞ」


 ちょっと持っててね。

 乳母が持つコップのそこに右手を当て、左手を上にかざす。


 まだ詠唱が出来ないけどへいきさ。もともと無詠唱派なんだから。


 ぱちゃん

 いまは半分ぐらいでいいよね。


「え?あら……これはお水?

 もしや殿下は魔法が使えるのですか?」


 こっくり


「そんな…生まれてまだ半年だというのに…」

 

 え?そんな大層な表情をしないでよ。

 確かにちょっと早いかなーって思ったけど、美味しいお水が飲みたかったんだよ!

 そのまま乳母の手ごとコップをもって口をつける。


 ごくごくごく


「まあ、コップで水を飲めるのですね。すばらしいわ」


 あーおいしい。

 やっぱり俺の水魔法は健在だ。

 風魔法は時々使うけど⋯⋯火魔法はまだ確認できていない。

 もうすぐ暖炉に火が入り出したらやろうかな。


 飲み干したコップに再び水を入れる。こんどはたっぷり、そしてサービスで氷もちょっぴり。

 今は夏なのかな?暑いもんね。



「まあ、何かが浮いているわ…まさか氷?」


 こっくり



「あうあうあう」


 俺は身振り手振りで、コップの氷水を飲んでみろとバレリアに伝える。


「では⋯⋯なんてことなの?

 山登りで飲んだ湧き水の様に美味しいなんて」


「あうー」

 だろう!


「では、これから殿下のお水はコップだけで良いのですか?」


 こっくり

 でも内緒だよ。

 と、まだちいさな人差し指を口の前にもっていく。


「まあ⋯⋯内緒なのですね。それが良いでしょう。わかりました」


 こっくり。


 しばらくしたら父上の気持ちも落ち着いたのか、穏やかに俺に接してくれるようになった。


「ファーリィン、お前はローゼリアに似てるな」

「そうなの?

 ははうえは、どんなかたでした?」


「女神のように優しい女性だった。どのような民にも分け隔てなく微笑み、声をかけ、草花に出冴え話しかけるような少女だった」


「そうなんですね。

 ちちうえ、おつらいかもしれないですけど、もっとははうえのおはなしをしてください」


「うむ…」


 そう言って謁見の合間で、玉座に座った膝の上に俺を抱っこして頭を撫でてくれるようになっていた。


 父上のお膝も悪くないよ。

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お星さまくださ~い☆

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