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かつて大賢者だった黒猫は王子に転生しても魔王ひとすじ  作者: 前野羊子


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7【フラワーフェスティバル】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 魔の森では、平野ほどではないけど四季折々の変化を見せていた。


 春は(プラム)山桜(チェリー)薔薇(ローズ)


 それらを摘んでは、デュークさまのお部屋に飾っていた。

 薔薇などは、香油を作ったり、ジャムにしたり色々な用途にも出来るから、沢山取ってくるんだ。

 野生に生えてるものだから遠慮しないよ。


 その日もコトコトと、砂糖と一緒に薔薇と、その横で出来たジャムを詰める瓶を同時に並べて煮込んでいた。


 火を止めて、冷めるのを待っている視界の端に、黄色い何かが走っていった。


(にゃ)?」


 すると、デューク様が鮮やかなミモザの花が着いた枝を持っていた。


「これも綺麗だろ?」

 俺の目の前に持って来て見せる。

「にゃ」

 頷きながら


「ほら」

 と目の前からヒョイとその枝を持ち上げたから、


「にゃっ!」

 思わず追いかけるようにジャンプ!


「ほら!」

 

 今度は横に動かしてヒョイ。


「!にゃ」


 どうして、猫はこういうのを追いかけちゃうのだろう。


 俺は、魔法を使える人間だった時の記憶が沢山あるのに!しかも大賢者と呼ばれていたのに!


「ほら!…ふふふ可愛いねリィン」

「にゃーん」

 こんな猫と遊んで笑うデュークさまも可愛いよ!


 だから付き合ってあげるんだからね!


 〇●●●〇


「お早うございます父上」

「おはようファーリィン、その格好はどうしたのだ?今日はこの後式典が目白押しなのだ礼服を」

「大丈夫ですこの下に着こんでいますから!ジャケットとマントはエリスに」

「そうか、で?どうして厨房のスタッフの白衣を着ているんだ?」

「ええ、一番小さいのが見習い用のこれだったんですけどね。今日は父上の朝ごはんを僕が作りたかったので」

「では、この皿の料理はお前が作ったのか?」

「はい!今日の朝食は春野菜のソテー、ミモザ風スクランブルエッグ添えです」

 どうしても食べてみたくなって!

「ほう、確かに緑鮮やかな青菜に卵がミモザ風で鮮やかだな。

 盛り付けも美しいじゃないか!」

「ありがとうございます!」

「あら、殿下、王族が料理をするなんて前代未聞ですわ」

 出たな王妃!

「お言葉ですが、王妃殿下、男子たるものいついかなる時でも基本的な料理ぐらいは出来なくてはいけないのです。王族であっても」

「どういうことですの?」

 エプロンを外しながら、自分の席に座る。

「それはな王妃よ」

 ぼくの代わりに父上が説明してくれる。

「戦や災害で人手が足りないときは王族と言えども、何不自由ではない王宮と違って、与えられるのを待ってるわけにはいかないのだ。

 機転を利かせて自分で自分のことをして、部下の手を王族の世話でなく国の民のために向かわせることが人の上に立つうえで心がけるべきことなのだ」

「素晴らしいですね父上!」

「うむそうか?」

「そんなこと…いざということにならないようにすればいいだけじゃないですか」

 王妃が反論する。

「戦は防げるが天災は難しいものじゃ」

「ですが…」

「父上!」

 二人の会話を遮る。

 ここはぼくがふたりの壁にならなくちゃ!

「父上にも得意な料理があったりします?」


「余は燻製を作るのに凝ったことがあるな」

「まあ」

「燻製ですか?」

「ああ、王太子のころ野営の演習で教わって、宮殿に帰っても裏庭に小さい物置を作ってもらって燻製小屋にしたのさ」

「すごいですね!でも最近は作られないのですか?」

「さすがに王に即位してからは忙しくてな、それに旨い燻製が出来たらワインが進んでそれはそれで弊害が出てな」

「ぼく、父上が作った燻製を食べてみたいです!」

「そうか?」

「ね!王妃殿下も食べてみたくないですか?」

「そ、そうですね、国王陛下手ずからのお料理なんて国宝級でしょう」

「普通の燻製だよ。だがそうだな、休暇が取れたら作ろうぞ」

「はい!」

「ふふふ、楽しみですわ」


 王妃の機嫌が直って美しく笑う。

 よかった!

 ミモザ風の朝ごはんを食べたぼくは改めて口の周りをチェックしてジャケットとマントを装着して、王宮の正面へ出る。

 フロートの下には昨日みたいな丸太は敷かれてはいない。直接石畳の上に置かれている。

 昨日はただの手すりだけだったのに、あの後取り付けたのか今朝早くに準備したのか、手すりが見えないぐらいに黄色いミモザの花がたっぷりついた枝で装飾されている。

 ミモザ以外には黄色いバラやフリージアも組み合わされている。

 見た目も美しいが香りも美しい。

「殿下これを」

 乳母のバレリアがぼくの頭にフロートの飾りと同じようなミモザで出来た花冠を乗せようとする。

 ミモザ以外にちいさなカスミソウも組み合わさってるんだね。

 可愛い冠だけど男の僕に似合うかなぁ。

「お似合いですよ殿下」

 そんなエリスもいつもの鎧のスロットにミモザの枝が刺さってる。

「この冠、エリスの方が似合いそうなんだけど」

「何を仰いますか!さあ、乗りますよ」

 昨日の脚立は同じだった。

 警護のために同乗するエリスに今日も引っ張られて乗り込む。

操舵(ステアリング)の前にはエリスとお揃いの鎧を着た美しい青年が立っていた。

 あの人はぼくの又従兄で、ブランカ・ド・オーレンタ子爵である。

「お早うございますブランカ従兄(にい)様」

「お早うございますファーリィン王子殿下。

 公では私のことは呼び捨てますように」

 それはちょっと寂しいけど、しょうがないよね。

「わかりました、オーレンタ子爵」

 せめて爵位で呼ぼう。

「殿下はこちらに」

 せっかく見晴らしの良いフロートなのに前には行かせてもらえず、オーレンタ子爵とエリスの間に立つことに。

「この手すりを必ず片方で持ってくださいね」

「わかりました」

 腕の力には自信があるよ!ちょっとの揺れぐらい平気さ。それにこれは地面から浮いているから、馬車よりは揺れないんだよ。

 ぼくの隣には父上が乗ってきた。キラキラの王冠を被って。

 父上の後ろには王妃のティアラを付けた王妃殿下が乗ってくると彼女は椅子に座った、その後ろには彼女にいつも付き添っている侍従。

 するとすぐにフロートが浮き上がる。

 乗り込んだ脚立のあったところに手すり状の扉がエリスによって閉められた。


 ぼく達の前には近衛兵制服を着た音楽隊がビシッと揃って優雅な音楽を鳴らし始めた。まずはランデルソール王国の歌から。

 そしてゆっくりとフロートは進む。

〔わあ!国王陛下ばんざーい〕

〔王子殿下ばんざーい!〕

〔ファーリィン王子可愛い!〕

〔クリサテーモ妃殿下~綺麗~〕

「ぼくはまだちびっこいから、なかなか見えにくいのでは?」

「そんな事はありませんよほら、彼方を」

 後ろから囁いてくれたエリスが示す方を見上げれば、沿道の建物の窓やバルコニーが綺麗に並んでいる。

 建物もミモザでいっぱいに飾られている。

 そこから人々がフロートに向かって手を振っていたのだ。

「あれなら、ぼくが見えるか」

「殿下に見えるならあちらからも見えるでしょう」

 フロートがすすんでいくと、ひらひらと黄色い花びらが舞い降りてくる。

 ミモザの小さな花もばらばらと飛んでくる。

「うわ…ミモザってちょっと衝撃!」

「そうだな、虫が混ざってることもあるから気をつけなさい」

「え?父上本当ですか?」

「ああ…ほらお前の頭に!」

「え?なに?」

「蜜蜂が来ているぞ」

「なんだ、蜜蜂なら平気です。びっくりした脅かさないでくださいよ父上」

「ははは」

 ふと振り返ると王妃には後ろに立ってる侍従から柄の長い日傘を

刺してもらっていた。

 あれなら虫も避けられそう。

 ミモザ祭りをいつから始めたかは覚えていないけど、たしか北の国で、長い冬が開けたイベントをしたいけど良い案はないか?と聞かれて〈俺〉が適当な思い付きをつぶやいたのだった。

「花で何かすればよいのでは?

 食べるものを育てて収穫するだけでは、ちょっと寂しいでしょ。

 花も栽培できるほどの国なら余裕を感じられて豊な証拠じゃない?」

 なんてさ。

 それがいつしか近隣諸国でも行われる行事へと発展したのだった。

 雪が深くない国でも、春は待ち遠しいよね。忙しくはなるんだけどさ。

 そんなことをちょっぴり思い出しながら沿道に手を振る。

 手すりに摑まることも忘れて両手を。

 そしてちょっと身を乗り出して前の方が見えるようにする。

「危ないですよ殿下」

 ぼくのウエストのベルトをエリスがマントで隠れるように掴んでくれている。

「うんちょっと…あの人たちひしめき合いすぎてない?」

 すぐ近くの民衆の塊を指さす。

「たしかに、おーい!危ないぞ離れなさい!」

 この道は少し狭くなっている。

 本来は兵士に民衆を整理させなければいけないポイントじゃないかな。

 もう少ししたら横道に抜ける交差点になるけれど、人々で封鎖されていて交差点として使えないんじゃないかな。

 通り抜けるまで待ってね。

 〔キャー〕

 〔危なーい〕

 不穏な気配がして遠隔で操舵(ステアリング)の魔石の操作をして地面から五十センチしか浮き上がっていないフロートを二メートルぐらいまで浮上させる。

「きゃ、なにフロートが壊れたの?」

「浮きあがっただけだ。うろたえるなクリサテーモ王妃」

「はい陛下」

 フロートの下では人が数人潜り込んでいる。

「大丈夫か!」

 どうやら沿道の人ごみに押し出された母娘が道路に飛び出してきてしまったようだ。

「大丈夫ー!?」

「上から声をかける」

「はい!大丈夫です殿下!」

バタバタバタ

兵士が走ってきた。

「おい、大丈夫か?」

「大丈夫です、フロートにぶつかるかって怖かったけど」

「あんなに浮き上がるのねぇ」

「ちょっと擦りむいただけです」

「よし、簡単な治療しかできないが救護所へ」

「すみません」

「お母さん見て!!」

「なあに?」

「フロートの底ってあんなに奇麗なんだ」

「本当ね!黄色と緑色の線が光っているわ」

「あれは魔法陣らしいですよ」コソッ

「まあ!兵士さん」

「魔法陣?すてき!じゃああれは絵本の物語に出てくる魔石かしら沢山光ってるわ」

「きれいね。本当に素敵」

「シッ、魔法を肯定する言葉は帝国の者に聞かれると厄介ですからな」

「そうね、祭りだと人が多いから来てるかもしれないわね」

「でも、魔法って綺麗なのね」

「そうよ」

「どうして廃れちゃったの?」

「どうしてでしょうね」

「我々は復活してほしいのですがね」コソッ

 フロートの底は六割が風属性の魔法陣。ぼくはそれを引っ張って会話を聞いていたのだ。

 娘さんを抱っこしている兵士が後ろの方に遠ざかっていく。

 二メートルも浮き上がっていたフロートがゆっくり降りながら前に進む。


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