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かつて大賢者だった黒猫は王子に転生しても魔王ひとすじ  作者: 前野羊子


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6【フロート】

お読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 未開の森の向こう、北にそびえる山の雪が半分になるころ、ランデルソール王国の王都ではミモザ祭りが開催される。

「いいなあ、ぼくも屋台めぐりをしたいなぁ」

「本日は殿下には大事なご公務がありますから」

「うん」

 朝ごはんもそこそこに、ひらひらの付いた礼服を着せられていた。

 紺地に金色の装飾のジャケットとパンツ。でも膝が出ていて、ハイソックスとエナメルの靴。

 まだ、膝がスース―するよ!



 真っ白なファーが襟と裾に着いた赤いマントがまだ暖かそうに見えるけど、ハーフサイズだからばっちり生足が後ろから見ても出てしまう!

 寒いんだよ太腿丸出しだと。

 しかもこれで、今日は外に出る。


 昨日は大変だったんだよ。もう少しでこの貴重な外出さえなくなるところだった。

 王宮の中庭に引き出されていた大きなフロートと言われるもの。

 手すりの付いたテラスのようなものが、並んだ丸太の上に置かれていた。

「これが動かなくなってしまって。

 もともと車輪の無いものですから」

 いまは丸太によって動かせるのだが…。

「今から車輪をつけられないの?」

「出来ますが、明日の行事には間に合わないのです」

「去年まで動いていたのにねぇ」

「今年は初めての王子殿下のご参加ですのに」

 それは気にしなくていいんだけど。

 困り顔でぼくの顔を見るのは、ランデルソール王国の行事を取りまとめている部署である典礼院の院長。

 五十代の凡庸な男で、名前はオヴェガ・ド・ブラントン。

 先月、突然前任が亡くなっちゃって急遽この人に決まったらしい。

 いきなり院長を任されたからって、50代にもなっておろおろしすぎ。

 これまでその部署にいたんだから、何をどうやるのかは分かってただろうに。

 年中行事は、明日の祭りから始まり特に夏までは細かく目白押しである。

 その一つ目からこれだよ。

「オヴェガさん、これは何で動いてるの?」

「何と説明しましょうか……これは失われかけている古い仕組みで、動力が魔石になるのです。

 いまは歯車を動かす主流が炭や石炭による蒸気機構になっていまして…魔石はなかなか手に入らないのです」

「お隣の魔の森の中を討伐しなくなったから?」

「どうでしょう、近頃は冒険者ギルドからの魔石の売り込みの打診も減っておりまして…」

「ふうん、それは大変だね」

「そうなんです」

「オヴェガ、そのような小難しい事をファーリィン殿下に説明しても無駄ですわよ」

 毎日夜会じゃないのに、毎日パーティー並みの盛装ドレスのクリサテーモ王妃がやってきた。

 騎士や侍女、侍従はもちろん、お友達のご婦人もいらっしゃる。

「これは王妃殿下、それに皆様」

「ごきげんよう殿下」

「王妃様?」

「王子殿下、今や魔法の時代は終わりを迎えているのですわ、ですから出来るだけ蒸気など新しい機構に切り替えて…」

「でもね、蒸気機構は小さいものには向かないんだって。

 図書室の本に書いてあったよ!」

 ぼくの言葉に典礼院長はにっこりする。

「殿下は良くお勉強をされておりますな。

 そうです、新しい技術を取り入れるにはお金もかかりますからな。

 ですから、これまでも魔道具が動くなら、できるだけ使おうって方針なのです。

 特にこの伝統的な行事の物は特に」

「うん。古いのを大事にするのわかる」

「まあ、殿下は子供なのに古臭いのですね」

まあ、中身はそうだし。

「私は明日の準備で忙しいから失礼しますわ」

「はい」

 市井でもお祭りがあるけど、王宮内でも夜は大人だけのパーティーだそうだね。

 王妃たちも会場の設営とかを見守るのかな。


「あれもパレードみたいなもんだな」

「くす…そうですね」

「で、オヴェガ典礼院長、魔石は何処だっけ」

「魔石?」

「それが空っぽだから動かないんでしょ?」

「はいよくご存じで…魔石は上にあるんです…」

 そう言って横にくっつけられていた脚立を使って台の上に乗っていく。

「ぼくも見に行こう」

「では私が先に」

 当然のように後ろにいたエリスが先に上がり、手を伸ばしてくる。

 エスコートされなくても登れるよ!毎日梯子訓練をしているんだもん。

 でも、ここは優雅に!

「ありがと」

 フロートの前の方には直径20センチ高さ1メートルぐらいの柱が立っていて、その側面に船の操舵(ステアリング)のような取っ手が八つ外側に着いた丸いものが取り付けられていた。

 柱の上部にキラキラ太陽光が屈折している丸い透明なガラス玉のようなものがはめ込まれていた。これが魔石。

 大きさは直径七センチぐらい。

 でも飛び出ている所だけだからね、この下にはもっと大きなものが埋まっているよ。

 そして操舵(ステアリング)の真中にも見た目直径三センチの同じような魔石が埋まっていた。

「この魔石の属性は何だっけ」

「風でございます」

「ふうん…触っても良いかな?」

「どうぞ」

「殿下お気を付けください」

「石を触るだけなんだから」

 エリスは心配性だな。

 ペチペチ

 魔石に色が入っていく。黄色くなっていく。

 黄色は風属性の色。

 これは確かワイバーン二匹分を合成したんだっけ。

「つるつるとして冷たくて触るのが気持ちいいね」

「そうですか?」

 ヴン…

 大きい方が満タンになったよ。

「殿下…」

「それは?」

「エリス、典礼院長…内緒だよ!父上にもね。

 これは僕からの命令じゃなくてお願いだから!ね?」

「わかりました」

「はい」

「あとはこっちだね」

 小さい方の魔石にも触る。こっちは魔木の植物の魔石だった。

 こっちはゆっくりゆっくり…緑色に変わっていく。

 確かこの魔石の下には仕掛けがあって、フロートの台の下にも仕込んである魔石に繋がっていて、それらへの充填もここからで。

「ふう、よし、んじゃロックを外してみて…」

 操舵(ステアリング)の軸の横に鍵があるんだよね。

 プチ

シューーシューーーー

フロートの床が少しせり上がる気がする。

「浮きましたな」

「うん!これで明日は大丈夫だね」

「ありがとうございます殿下!」

「これからも魔道具でどうしても困ったことがあったら、こっそりぼくに相談してね。

いい?こっそりだよ」

「わかりました!」

「殿下…」

「エリスも!内緒だから!」

「わかりました。魔法は王族なら多少は魔力が残ってるのは理解できます」

「そう?」

「王后陛下も最後の大魔女と言われるほどの方でしたから」

「ぼくの能力は遺伝なんだね。母上のことはあまり覚えていないけど嬉しいな」

「はい」

「内緒だよ」

「ただ一つ…解せないことが」

「なあに?」

「フロートのスイッチの場所もご存知だったとは」

「あ…偶然じゃない?

 ほら、さっき触った時にポチってあったからそれかなって」

「そうなんですか」

「だって、初めて乗ったんだってエリスも知ってるでしょ?」

「はい」


…ごめんね、あのフロートを作ったのは〈俺〉なんだよね。

こっそり探索(スキャン)の魔法をかけて他に不具合が無いかも見ておく。

「うん、大丈夫そ」

「どうされました?」

 だって、明日ほく達が乗るのでしょ?壊れていたら怖いじゃない。

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