80【寂れゆくかつての王都】
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赤レンガで分厚く作られた城壁の門を潜ったのは、門限より幾分早かった。というか門限はあるのか?兵士などは見当たらない。門扉もない。ただのアーチ状の入口だった。
リーンたちはホッフン町に到着した。
「改めて見ると、寂れすぎだな」
「建物の数だけ見たら、町というより街なんだけど」
「そりゃあな、もともとホッフン伯爵領都で、さらにその前はホッフン王国の王都だったのだから」
「寂れたということですか?」
「そうだな。寂れたどころの騒ぎじゃないけどな」
ファンダー王が統合した頃の、煉瓦造りの美しい町並みの名残が五百年経ち、通り沿いに残るのみ。
建物は残っていても、道ゆく人や馬車は、領都と呼ぶにはあまりにも少ない。
ランデルソール王国では、各領の人口の増減を五年ごとに王都から派遣された文官が調査して、街のランクを見直す。そこにはもちろん住民たちの様子をみたり、商人の話も聞いたりすることも入っている。
村が大きくなれば町に、町が発展すればさらに街に昇格する。建物が密集しているところだけじゃなく、周りの決められたエリアにある農地や自然の様子をも管理するようになっている。
そうして、地域のランクが上がれば、ギルドを誘致したり、誘致したギルドの規模が上がったり、国から派遣される兵士も増えて治安の維持につとめてもらえると、自然災害の時も少しは安心だし、主要道路の舗装に国から補助金が交付されたりしてインフラが良くなる、そうして街が発展して、さらに経済力が上がり、治めるべき税収が増えて、でも払えるようになる。
地域の予算は領主や代官の財布とは別にしてあって、不作や不況があったときに、使われる。蓄えは金銭以外に麦や非常食などももちろんある。
五年おきの調査の後では、貴族家の当主全員が参加を義務付けられている会議で、貴族の爵位と関係なく、治める領地のランクが発表される。これが上がれば、領地持ち貴族にとっては誉れであり、下がれば恥とされている。ただし、辺境など国防の方が大事な領地は公表されない。
よっぽどのことがない限り、街のランクが落ちることはなく、もしその寂れ方が急激で民が苦しんでいたりするなら、領主から領地を取り上げて、他の貴族の領地に替えたり、直轄地にしたりして、立て直すようにしている。
なのに元は王都であった目の前のそこが、町に降格されているのだ。都だったところが降格していく場合、建物は緩やかに朽ち果てるだけで、村から町になった地域とは雰囲気が違う。
「これじゃあ、たしかにパブロ村まで目が届かないわけか」
夏だと言うのに、冬枯れたような風景にため息が隠せない。
「どうだろ」
「代官に突撃したいところだけど、二つのギルドに様子を聞いて、施療院に寄るぐらいにしようかな」
「だな」
そもそも、王都で長らく病気療養中のホッフン伯爵は跡取りがおらず、王妃の父である義理の息子が代官を置いて面倒を見ているという。
王も王妃の手前、領地経営についてあまり強く言えないのかも知れない。
「でもこの空き家の多さは問題だ」
建物が少ない町と空き家の建物が多い町では、治安の管理の仕方が違う。
そんな三人に、クレストとノワールが思い詰めた表情をして見ていた。
「どうした?二人とも」
「いつに増して暗いぞ」
「そうだね、そろそろ、明るくなってほしいけど」
「⋯⋯もともとこういう性分なんです」
「⋯⋯」
クレストは言葉も出ない。しかし、リーンから見ると言いたいことはあるように感じている。
必要最低限だけ荷物を持ち出して、門の近くで馬車は収納済み。三頭の馬は商業か冒険者ギルドにいる馬を見て交換するか考えて、そのまま連れて行くならケアを施す。
街道から繋がっているメイン通りを歩いていると、商業ギルドと冒険者ギルドの建物が隣り合って建っていたが、
「商業ギルドは、やってないんですね」
入口のドアを、木の板で覆うように塞いで、張り紙もあったのだろうか、名残りだけ残して取れている。窓も太い面格子を取り付けられていて、牢屋の窓のようになっている。
歴史を感じさせる煉瓦造りの重厚な建物だっただけに、不気味な雰囲気を示している。
「いえ、冒険者ギルドの中に有ります」
ノワールはここを通ったことがあるんだね。
「ノーダッシュ町みたいな感じか」
「ギルドも縮小してるんだな」
商業ギルドは、採算が合わないと、すぐに縮小する。商業を扱う以上そういうことには敏感だ。受け身じゃなくてもっと前のめりに活動してほしいところだが、国の機関ではないのでそうは言えない。
大きな建物を管理するより、隣の冒険者ギルドを間借りするほうが安上がりなのだろう。
「アズール」
「なんだ?」
「やっぱり辺境伯の宿を借りようかな」
「ぜひ!ぜひ!うちに向かってるのだからもちろんだよ」
「うん。先にチェックインしに行って待ってて」
「うん、宿屋の名前は〈根の爪先〉だよ」
「わかった。
あ、アズールは辺境伯の家族用の部屋でいいけど。俺達は一般用の大部屋で」
「えーそんな寂しいこと言わないでしょ」
「だって、お忍びだし一応」
「う⋯⋯、とりあえずチェックインしよう。満室ならギルドにすればいいし」
「うん」
「あと、ここでパーティー申請しようと思ったけど、辺境伯領まで保留で」
「わかった」
「それまでパーティー名を募集しまーす!」
「なんだそれ」
「クレストとノワールも考えておいてよね」
「ふふふ」
「わかりました」
少し表情がやわらぐ二人に安心する。
「とりあえず、俺は先に木炭を降ろさなくちゃね」
「そうだな」
「二手に別れよう、アズールはクレストとノワールを連れて〈根の爪先〉に」
「わかった。じゃあ馬も宿へ」
「うん手綱かしてスボール」
「ああ、私たちはギルドだな」
「そうだ、疲れてる所悪いな」
「ずっと馬に乗ってたのだ、疲れてないよ」
冒険者ギルドの扉を二人でくぐる。
この中は普通でちょっとホッとする。いや、そうでもないのですぐに気を引き締める。
依頼の達成報告のカウンターに行く。
「お疲れ様です。ようこそ、ホッフン町冒険者ギルドへ」
制服姿の受付のお姉さんに話すのはスボールの方。
「冒険者のスボールです、連れはリーン。ダッシュ領から木炭を預かってきたのですが、どこに下ろせばよいですか?」
「ああ、それじゃ商業ギルドのほうの倉庫へ、ご案内します、こちらです」
そうして裏から回って商業ギルドの方に入る。表はあんなにガチガチに固めてたのに裏は出入りできるのだ。
ここでも裏通りが市場になっているが、店はまばらに出ているだけで活気がない。
「荷物は馬車ですか?台車はこれで、炭は此処においてください」
と、倉庫の一角を示される。
確かにその隅っこには木炭が少し残っていた。
「炭を置き終わったらまた呼んでください。数えに来ますので」
「わかりました。このままいてくださいお姉さん」
「このまま?」
「じゃあ出しますよ」
「出す?」
「少し下がってくださいね」
«イジェクト»
そこには、ポブレ村で下ろした木炭の残りが積み上がっていた。
「うわぁ。リーンさんの魔法収納ですか?」
「まあね。内緒にしてくださいね」
「ええもちろんです、この町では特に隠したほうが良いです」
「この町は、魔法使い刈りが?」コソッ
「帝国の人が多いです。代官の上司が帝国に繋がってるから」コソッ
職員は炭の束を数えながら話すという器用なスキルを披露しながら話す。
「レフィテーラ伯爵か⋯⋯」
唸るようにスボールが言う。
「お兄さんは、よくご存知で」
「私は一応、王国騎士でもあるので」
「なるほど、はい、木炭の数は書類どおりですね。もう一度カウンターにお越しください」
「はい。あと、この町の施療院は何処ですか?」
「ああ、それですよ」
ここでも冒険者ギルドの裏口の向かいにあった。確かにこの距離だと冒険者が利用しやすいのは確かだ。
「患者は多そうですか?」
「そうですね。もともと大きな施療院だったんですけど、建物は小さくすることが出来ないので、ベッドだけ減らしてる状態で、五十床ぐらいで⋯⋯でもそれが埋まってるので、急患の怪我人が出たら礼拝堂に入れてる状態です。
「礼拝堂なら一階だしね」
「そうですそうです」
「夕方とはいえまだ明るい。ギルドの用件が終わったら先に施療院かな」
「わかった、アズールを呼ばなくてもよいか」
「うん、あ、晩ごはんも宿がいいな」
「どうして?」
「レストラン見ただろ?」
「そういえば、青い髪の冒険者が多かった」
カウンターに戻ってきたリーンたちは、さっきの受付の女性に伝言を頼む。
「〈根の爪先〉って宿に通信の魔道具有りますか?連れがそっちにいて、伝言を頼みたいのですが」
「もちろんです。あの宿は貴族の経営ですからね」
「じゃあこれを、宿泊客のアズールあてにスボールから」
〈二人で施療院回ってくるから、そっちで待機するように〉
「施療院に行かれるのですか?」
「はい、事情があって、慰問しながら進んでます」
「わかりました、ではシスターへの顔つなぎだけいたしましょう」
「お願いします」
「スボール様こちらを、依頼達成の書類です。お金は三人等分で良かったでしょうか」
「はい」
クレストとノワールはまだ、パーティーじゃないから分配が出来ないのだ。
「後で二人に振り込んでおくか⋯⋯」
「まだ二人は何もしてないけど」
「そう?でもさ、帝国のご家族へお金送る必要があるでしょう?」
「⋯⋯」
お人好しの雇い主に、何も言うことができない若き騎士だった。
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