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かつて大賢者だった黒猫は王子に転生しても魔王ひとすじ  作者: 前野羊子


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78【またお風呂の話】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 シャカシャカシャカシャカ

 ノワールに粉挽きモードに変わった石臼を任せて、リーンは風呂の設置に入る。

 «ライト»の魔法も、あと一時間ぐらいは点いているだろう。


「使ってない小屋はこちらです。二階建で狭いですが、解体しようかと思っていたんですけどね」


「どれ⋯⋯」

 アプローチを上がった真ん中に玄関があって、玄関の正面に伸びている階段で左右に分けられている。右手に土間とダイニングキッチン。左手に小さな部屋とちょっと広めの寝室。

 階段を登るから、床に高さがあって。

「ちょうどいいね、ブルハ村長!」

「しかし床が抜けてまして」

「それがいいんだよ。根太っていうかこの支えの角材はしっかり残ってるからね」

「はあ」

「んじゃ、一時間後にできると思うからそれまで、コソコソするからまってて。たぶん、さっきの粉も出来てるだろうし、見てきて飯を先にやってて、って皆に言って」

「一時間後!?⋯⋯わかりました」


 遡れば、この旅に出る準備をしていた頃。

 ファーリィンは王宮の自室で地図を見て唸っていた。


「街道のこのルートを行くなら、こことここんとこを見て⋯⋯旧街道もチェックしたいよなぁ。今は殆ど使ってないって、アーノルドのギルマスも言ってたけど、小屋は残ってると思うし。橋が心配だよな⋯⋯」

 

 そう感じたファーリィンはいつもの訓練として、騎士団ヘ走ったついでに、いろいろなものを漁り出した。


 騎士団や兵士の仕事の中には、お金にならない解体業なども含まれている。

 たとえば火事になって、死んだ人が出たり、一人暮らしの老人が亡くなった家、もともと空き家で、犯罪人の温床になる危険と街の景観を損ねるような物を撤去する。

 解体費用が出ないから、専門業者がやりたがらないというのもある。

 その時出た廃材や、敷地を囲っていた杭などが積まれていた廃資材置き場が、軍の訓練場と宮殿の間にあった。

 そこは、外からも直接出入りできて、時々大工が安い板切れや、古くて味のある木材を求めにきていたが、大体は放置されて積み上がっていた。


「ここを、将来魔法省にしたいから、場所を空けないとね」

 と、アズールとスボールにも選別させては洗浄させてアイテムボックスに入れていた。

 そうやってアイテムボックスを使っているうちに、アイテムボックスが変化することに気づく。


「ああ。今回も出来たか!」

 そもそも、元来無限に入るアイテムボックスは、生まれ変わっても同じアイテムボックスだったのだ。

 魂で、冒険者ギルドカードが紐づいているように、アイテムボックスも実はずっと同じ物を使っていた。


「いつかは整理しないとね。あ、蛇の巣山(スランゲネストベアグ)の橋の床板が大量に残ってるじゃん!取替用に切ってたやつか。今回は必要そうだなぁ。また、予備も用意しておかないとね。あと、山道用の丸太も残っている。よしよし」


 そんな事もあってリーンのアイテムボックスがとんでもないことになっていたのだ。もはや積層の魔導士と言われていた時代の何倍も物が入っている。魔女時代の高級なドレスや高価な石を使ったネックレスなどの装飾品、ドレッサーにいたってはなぜか同じデザインのものがいくつもある。


 そして古民家を利用した風呂づくりに意識が戻る。


「こういうのって、アイテムボックスの在庫品を出すのにいいよね!いや、宮殿で物を足したんだけどさ。」

 

 DKのキッチンを取り去る。

「でも換気口はそのままで、窓は高窓に変更」

 外壁が都合良くも下半分が石造りで上部は木材の板が張り巡らされていた。そこに石灰モルタルを塗り、廃材からかき集めておいたタイルを手際よく貼っていく。


「おい、リーン何やってるんだ飯だぞ」

 スボールがやってきた。

「ああ、先に食べといてって村長にも言ったんだけど」

「そんなこと出来るか、子供たちや村の人達はもう食べてる」

「なら良かった。

 ほら、蛇の巣山を越えてきたから今日も風呂に入りたくてさぁ。この村には風呂がないんだって。だからついでに作っちゃえって」

「ついでって⋯⋯」

「だけど、さすがに樽の風呂よりは時間かかるよ、一時間ぐらいでできるから待ってて」

「手伝うぜ」

「ありがとう!、なら隣の寝室の石壁にもこのモルタル塗ってきて。出来る?」

 とモルタルがたっぷり入った樽を示して、コテ板とコテを渡す。

「多分」

「石壁と隙間を作っちゃ駄目だからね」

「わかった」


 スボールと話しながらも手を止めずにまたたく間にタイルが貼り終わった。

「ここで、タイル壁が固まるまで何日もかかるところを魔法でやっちゃえ」


«大地の女神よ、闇の神よ、我が心の完成予想の実現を助け給え。タイル壁の仕上がりをここに!»


「さて、次行ってみよう」


 共同風呂だから洗い場が必要になる。部屋の真ん中の床下に、こっちもモルタルでつなぎながらレンガづくりの溝を組んでいく。これが排水だ。組み終わったら、また魔法でモルタルを硬化して溝は完成。そして、洗い場にする床をそれに向かって僅かに傾斜するように下地の構造用板を貼る。その上に仕上げ用のフローリング用板を並べていく。ちょっと隙間を開けながら筋が排水溝に向かうように気をつけて。全部を耐水性の接着剤で貼り付けたら。床全体に蜜蝋ワックスを塗布して、さらに魔法で防汚防水効果を付与。


「そしてさらに、宮殿で拾ってきたこれ!昔の宮殿の風呂桶だったらしいから。高級品だぜ」

そして魔法を詠唱して、新品の状態に復活させる。そしてちょうど排水の栓が溝の上に来るように設置。

「わあ、かっこいい!完璧じゃない!」


 そして水の蛇口と熱湯まで行かないけれどそこそこ熱い目のお湯が出る魔道具の蛇口を湯船側の壁に取り付ける。

 さらに、それと似た魔道具でシャワーと一体になってる魔道具を壁に二つ設置。


「二人同時にシャワーできる」

 

 壁にはすでに魔導線を仕込んでいて後で屋根に魔素集積の仕組みを仕込む予定。


「さ、お風呂場は出来たから、脱衣場だね」

 脱衣所にするところは土間だったので、根太簀の子になる角材を渡してその上に下地の板とフローリングを並べる。こっちは排水を考えなくてよい。


「あ、窓⋯⋯、すだれを目隠しにしようかな、どっちが女湯になるか分かんないけど、男もヒゲは剃るから⋯この、余ってるドレッサーを二つここに置こうかな。これも水とお湯がちゃんと出るよ。この魔道具は、カランを持った人の魔素を利用するタイプ。

 ドレッサーの洗面ボウルの排水は外へ、その先は後でなんとかしよう」

 とりあえず今使うためにお湯を入れ始める。


「おーいスボールぅ」

「リーン?」

 モルタルに続いて、セメントを貼っていたスボール。

「こっちできたから、そっち参加する」

「ああ、って出来たのか?はやっ」


 好奇心に負けて見に行ったスボールの叫び声が。


「すっげー」

 それを聞きながら得意になって作業を続ける。


 もう片方の浴室と脱衣所を仕上げたら裏に回って、ドレッサーの排水の下に溝をつけて、浄化の効果を付与してから家の外にある水路に合流させる。

 風呂の排水のところも左右の浴室から合流させて、浄化を施してから水路へつなげる。


「あとは?」

「魔素集積の装置を屋根に取り付けるんだ」

「って手に持ってるそれ?」

「そう!」

 リーンは何色もの線で模様を付けられた、大皿のようなものを持っている。

「さっきのモルタルで貼り付けたらいいんだ」

「わかった。いつの間にかはしごも付いてるし」

「ふふーん。«ライト»

 暗いから気をつけて登ってね」

「うん。«ロード»」

 モルタルの道具を一旦仕舞っている。


 二人で屋根に登る。

 屋根はそんなに損傷していないが、建築当初の状態に魔法で戻した上で、大皿を取り付ける。


「これで完成!」

「やった!」

「じゃ、早速お試しでお風呂に入ろうかな。スボールは先にできた方に入ってみて。

もうお湯も溜まってるし。使い方わかる?」

「わかる」

「じゃあ、また後で」

「ああ」


 さらに一時間後、さっぱりした五人がようやく食事についた。

「風呂は贅沢だと思っていましたが、一度入ると毎日使いたくなりますね」

 爽やかな笑顔でクレストが言う。

「でしょー。贅沢というより、健康管理の一環だよ。清潔を保つのが一番大事なのさ」

「なるほどです」


 今は口頭で注意事項を言って、皆に使ってもらっている。

「あとで注意事項を書き出そうかな」

「そうですね」



 食事が終わって取り出した板切れにリーンが向かう。

 注意事項の内容はすでにメモに書き出している。


〈共同風呂使用時の注意事項〉


◎皆で気持ちよく使うためにはルールを守りましょう。


1、脱衣所に貴重品は持ってこないようにします。

2、妊婦は大人の女性と入りましょう。

3、体調が悪くてもどうしても入りたいときは、身内や知り合いと入りましょう。

4、お腹の調子が悪い人は、最後に入りましょう。その後すぐに掃除を頼むか自分で掃除をしましょう。

5、異性の家族と入りたいときは、午前中に貸し切りなら入れます。

覗きは絶対いけません。後で痛い目に遭います。


◎村の外から来た旅人が利用する場合。

1、利用料を村長に支払いましょう。

 大人:五百フィラ(大銅貨一枚分)

 子供(十歳未満):二百フィラ(中銅貨三枚分)

2、ルールを守って村の人に迷惑をかけないでください。


◎お風呂の入り方。


1、コップ一杯の湯か湯冷ましを先に飲みます。

2、トイレも済ませておきます。

3、服を脱いで浴室にはいったら、まず体をお湯で流してから浸かります。

4、畑仕事の後など、汚れが酷いときは先に体を念入りに洗います。

5、五分ぐらい浸かったら出ます。長く入りたい場合は五分おきに出て休むのを繰り返してください。

6、お風呂から出るときは、洗い場で体の雫を拭ってから脱衣所に移動します。

7、二階で休憩して、火照った体を少し冷まします。その時に水を飲みます。

8、髪を洗うときは、外で先に櫛などである程度髪の毛を落としてから洗ってください。

9、洗い髪はしっかり拭いて乾かしましょう。


◎その他

※掃除当番は守りましょう。

※この施設で洗濯をするなら午前中掃除の前にしましょう。


★清潔を保って健康管理。

★疲れを取って翌日元気に!


 *~*~*~*




「長い?くどい?」

「しょうがないよ、風呂のない地域の初めてのルールなんだから」

「ああ、必要な内容だ。それより最後にお前の名前を入れておけ、ファーリィン殿下」

「なぜ?」

「その方がルールを守ってもらえそうだろ」

「なるほど、じゃあ⋯⋯

〈注意書き作成:ファーリィン・ラ・ランデルソール〉

 刻印も押しておこう⋯⋯よし」


「これで立派な風呂になったぜ。

 僅かでも村の収入になるかも知れないからな」


「たしかに、それならもっと大きなお風呂を作ればよかったー!」

「次の機会でいいんじゃね?」

「うん」


「明日の朝二階に、飲み水用の蛇口と、休憩用のなんかを置こうかな」

「何かって?」

「チェスとか?」

「チェス?は女性はあまりやらないんじゃねえか?」

「女の人は玩具なんていらないよ。どうせ、おしゃべりしたり、編み物を持ち寄ってやるんだ」

「そういえば、母親がお茶会する時も、お茶とお菓子だけで何時間もしゃべってた」

「でしょ」

「さすが詳しいなリーン」

「ま、まあね」


 翌朝、二階のリフォームを終えて降りてきたリーンは一階のポーチで跪いてる村長夫妻に会う。

「なあに?」

「おふろだって」

「この家が?」

「すげー昨日はなかったのに」

 夫妻の後では子供たち。


「おはようございます、ブルハさん、ルベリーさん」

「お、おはようございますファーリィン殿下」

「あれ?ああ、注意書きの板を見たんだ」

「はい、どういうことかとアズールさんに聞きまして。ああ、アズール様も辺境伯爵様の御子息だとか」

「まあ、俺達はこの通り、じっと出来ない性分なので。冒険者活動をしているときは気にしないでください。

 それと、旅人からお風呂台を取る時のお釣りに困るだろうから、これを預けておきますね」

 と革で出来た袋を渡す。


「なんでしょうか結構重いですね。⋯⋯ひっ!」

 中身を見た村長が引きつった声を上げる。

 そこには大銀貨までの硬化がずっしりと入っていた。

「まあ、ありがとうございます。でもこんなには預かれませんよ。お返しします」

 妻のルベリーのほうが緊張感は柔らかい。


「寄付ですよ!子供たちの役に立ててください」

「本当にありがとうございます」


 村長の大きな家から、香ばしいパンの香りがしていた。


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