71【山の麓】
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「なんだ、先に行ってなかったのか」
先を行ってるはずのアズールとクレストがすぐ近くで待っていた。
クレストがアズールの魔法のポケットに入れてあったテーブルと折りたたみのスツールを広げていた。
「二人だけで先に進んでもしょうが無いだろう。そろそろ昼ごはんだし準備するうちに来るだろうと思ってね」
「なるほど」
「終わったのですか」
「ああ、リーン一人で片付けちゃってさ」
「マスターってすごいんですね」
「ですね、ネイチャーパルス契約を施されるときに従魔契約みたいなものって、どうなるかと思ったけど、今となってはかなり誇らしいことだと思っています」
「えー、よしてよ。持ち上げたってこの低い鼻が高くならないんだから!」
「まあまあ」
その傍らの木に馬たちを繋げていた。そこにノワールの馬も繋げる。
馬たちには、樽を縦に割って作られている餌箱二つを今度はリーンが出して、一方は魔法の水を、もう片方に飼葉を入れる。
空気を抜いてギチギチに固めてある乾燥オーツ麦をほぐしながら適当に入れ、りんごを幾つかスライスして加える。
「あ、こら、りんごばかり食うなよ。まあ、疲れてたら甘いもの欲しいか」
続いて、餌に夢中な馬の足の関節を少し冷やしてやる。冷やし過ぎは厳禁だ。
その後食事のために手を洗って拭っていると。
「お~いリーン」
さっき別れたおじいさんの一人がやってきた。
「はーい。どうしました?種坊が暴れたのか?」
スボールが先に問う。
「いやあいつらはまだ寝とる、これをおまえさんたちに」
「どうやらたくさん入る収納も持ってるようでな、あんなデカいボアを二頭も入れてしまうなんて」
そう言って白いリネンの袋をいくつも渡される。
「これは?⋯⋯わあ!!ひまわりの種の砂糖がけ!美味しそう!」
「大したもんじゃねえけどよ、おまえさんたちの旅の供にどうかと思って」
「充分嬉しいよ!俺こういうのめっちゃ好き!」
早速ひとかけら摘んでみる。
皮を剥かれたひまわりの種が数個ずつ砂糖でコーティングされてくっついている。多分ローストしてから砂糖がけにするのかな。カリッと香ばしい感じもある。
「この向日葵とお砂糖もこの畑で採れたものなんですね」
「ああ」
「俺こういうの好きなんですよ⋯⋯うん、美味しい!」
飴のようだけどザクザクしてる。
「そりゃ良かった」
「ほらアズールも」
「うん⋯⋯うまい。けど。これ何処かで見たことあるなぁ。食べたことあるよ」
「これは辺境伯領都の雑貨屋に置いてあって、その店は私どもの息子が商っておるんじゃ。リーンはさっき辺境伯領に行くって言ってたから、よかったら覗いてやってくれ」
「わかった⋯⋯けどおじさんたちの名前をを教えてくれ」
「わしはヘリクでこっちは弟のリサムだ」
「ヘリクとリサムだね。どうもありがとう」
「なんの、儂らこそ、助かったワイ」
「おまえさんはあっさりブッシュボアをやっつけたがな、種坊ならまだしも、成魔獣となると、追いやるのが精一杯さ」
「そう、ならよかった」
「アズールのお父さんへの手土産が増えたもんね」
「あんなデカいボアを二頭も⋯⋯」
「でも、辺境伯領は兵士も多いし、お肉なんてどれだけあっても足りないでしょ?」
「そうだけどさ」
「それとこれも、持っていきな」
麻袋も差し出された。リネンの袋より大きい。
「これは⋯⋯とうもろこし!」
「ブッシュボアが食べそこねたぶんだ。完熟に近いから甘いよ。数はあるから」
「ありがとう!さっそく今夜食べようかな」
「うむうむ」
ヘリクとリサムと別れ、テーブルを片付けて、再び旅路に戻る。
「やっぱりリーンはなにか拾うよね」
「今回はラッキーを拾ったからいいじゃん」
「それはそうだけど」
ランチを食べて、お腹がこなれたら、再び歩き出す。
次は十四時までに五・五キロメートルを目標に歩いて休憩を取る。その後ちょっとずつ休憩までの間隔を縮めて、十七時に野営広場に到着した。
「わあ、結構な山ですねぇ」
初めて見るスボールが声を上げる。
「こんなの赤ちゃんみたいなものだよ、未開の森の奥の絶壁山に比べれば」
と口から出るのをリーンはこらえている。なにしろ、今世ではまだ王都から出る初めての旅の筈だから。
難所を越える前の野営広場には他に三組の旅人がいた。
リーンはいつも通り、トイレを浄化し。ドラム缶風呂を今夜は二つ設置。
なにしろ他の組には女性もいたし。口には出さないけれど王子としては民へのサービスにも些末なこと。
そして、広場の結界はやっぱり破損しているので修理。
その間にスボールが、もらったばかりのとうもろこしを皮ごと炭火に入れていた。
「アズール、あっちの女性にお風呂を勧めてきてよ」
「どうして自分が?」
「俺には少し声をかけづらくて」
「えー、しょうが無い行ってくるよ⋯⋯ってあ」
「来ちゃったね」
噂の女性たちが挨拶にやってきた。女性は三人、一人はいかにも貴族で後の二人は年嵩の侍女だとわかった。他に二人の兵士も野営の設営をしていた。
「こんばんは、こっちは男性五人組なのね、あら?アズールじゃないの」
「⋯⋯姉上、偶然ですね」
その貴族はアズールの四つ上の姉、ルーアン・ド・オーレンタだった。
「もしかして実家に帰るの?」
「そうですけど姉上は、夏休みが終わるのはもっと先では?」
ルーアンは王都の学園の三年生だ。
「宿題を王都のタウンハウスに置いてきちゃってるから、さっさと帰ってしないといけないのよ」
「なぜ実家に持っていかなかったのですか?」
「忘れたら困るじゃない。それに、生徒会もやってるから、休みが開ける前には学園に行くのよ」
「それは大変ですね」
「アズールはどうして実家に帰るの?兵士の休みは年末でしょう?」
「あれ?聞いてなかったですか?自分も学園に入学するんですよ。9月から」
「え?一年早くない?まさか飛び級入学なの?」
「はい、一応合格したので報告を、他にも言うことありますので」
「で、お連れさんは兵士友達ではなくて?」
「冒険者パーティーと自分の上司で。あれ?リーン?
逃げた?いつの間に」
「リーンっていうの?」
「そう、五人組パーティで一番年下で、Aランクなんだ。そして姉上とも知り合いで」
「うん?私にはAランクの知り合いはいないけれど、ひょっとしてさっきからちょこちょこ動いてた子?
「そう」
「顔は見てなかったな。Aランクには見えなかったけど。」
「じゃあ後で改めて紹介するよ。絶対、姉上の知り合いだけどさ。
そんなことより、そのリーンがお風呂を用意してくれたんだ片一方は女性が使ってと」
「まあ、アズール案内して」
「こっち⋯⋯あ、リーン!」
「アズール、案内してくれた?」
「いやこれから、姉上、ほらこの方がリーン」
「この方がリーン?
⋯⋯もしかしてファーリィン殿下?」
「しっ姉上、ここではリーンと呼んでやって」
「ご無沙汰してます、ルーアン嬢。きちんとご挨拶したいところですが何分手が汚れていまして」
「お久しぶり、リーン?」
「姉上、リーンも入学するんだよ」
「え?⋯⋯アズールより一つ下でしょう?まさか貴方も飛び級?しかも二年も?」
「色々ありまして、それに俺の幼少期からの家庭教師は、学長のラマーノ先生ですから当然です」
「当然って⋯⋯」
「それより山を越えられたのでお疲れでしょう?お風呂をどうぞ。ほら、アズール案内して」
「ああ姉上こっち」
「色々、びっくりしたけど」
「ですよね」
「⋯⋯相変わらず可愛かったわね」
「もう八歳ですよ彼は」
「わかってるけど、三年前とあまり変わらなかったわ」
「それを本人に言わないでよ。背伸び必死なんだから」
「ふふふ、わかったわ」
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