69【鳥と押し麦のリゾット】
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クゥ
「やだ、恥ずかしい」
皮膚の炎症が収まって座った一人の女性のお腹がなった。
「ふふふ、さらに元気になるために、なにか食べましょう。いい香りが下からしてきましたよ」
「そうね、何かしら」
「じゃあ、皆さん一旦着替えましょう」
髪を手ぐしで整えていた。
「わかったわ」
「じゃあ俺は下に」
リビング・キッチンではブラウンソースやバターそしてチーズの香りが漂っていた。
「リーンのソースを使ったよ」
宮殿の厨房で用意していたブラウンソース。
「うん。使って使って」
「マスターが作った料理だと聞きました?」
ノワールが目を輝かせて聞いてきた。やっぱりこの人は食べ物のことが好きかも。
「これは料理の素ってやつさ。肉が入ってないシチューを粗漉ししたものなんだ」
「さっきリーンがくれたレシピで、雹鳥 の腹に押し麦を入れてブラウンソースで煮込んでいたんだ」
「銀蓬をアク抜きの魔法陣ごと下茹して押し麦と一緒に煮込むって初めてだわ」
「さっきまで患者だったおばさんが手伝ってくれたんだ」
「確かにハム用の糸で絶妙な縛り方。ありがとうおばさん」
「とんでもない、お礼を言うのは私たちよ。でも言葉だけでは足りないわ。
貴方たちに恩を返すにはどうしたら良いの?」
「礼はいらないよ。礼がいらない理由は後で言うね。それより先に食事をしよう。
今回は皆のために、マジックポーション代わりの料理も考えたんだよ。ちょっとでも魔素を回復させるために」
「それで銀蓬が入っているのね」
「そう」
「さあ、ここから仕上げをしよう。皆、病み上がりだからもうちょっと柔らかいものが良いよね」
「そうね」
さっき庭で見つけておいたローズマリーを千切って入れる。
そしてせっかく縛ってくれた糸を鋏で切ってほどいて、さらに闇魔法と火魔法をうまく使って、煮込み時間を倍にしたような仕上がりにしていく。
そこへ、追いチーズを。
「よし、よそっていこう。レードルでほぐしながら」
つぶつぶの麦が、ブラウンソースと鳥の肉汁を吸って、ふっくら仕上がっている。
「うまそー」
「後は私がやるわ」
「兄ちゃんたち先に食べな」
「えー先に病人から」
「いいからいいから」
「じゃあ、皆で食べましょう」
広くはないキッチン前に、テーブルを増やして椅子も増やす。
足りなければ、隅っこに積まれていたスツールも出す。
俺たち五人も一緒に食べることになった。
二十人いる患者のうちの十五人がペチカの前に並んで座る。
他の人は長く食べてなさすぎて、もっと流動食がいいだろうと、シスターがパン粥を作っていた。
皆の前には俺が錬金術でアルコールを抜いたワインがちょっとずつ並べられている。
「じゃあ、今日私たちを救ってくれた天使たちに感謝をこめて」
かなり元気になった男性患者が音頭を取る。
「天使だって」
「いやいや、皆さんの全回復を願ってー!」
思わず反論。
「ははは、かんぱーい」
「「「かんぱーい」」」
「「「かんぱーい」」」
「皆さん元気になってよかったです」
ノワールがぽつりという。
「⋯⋯病気の原因は帝国ってことか」
「そうだろうね」
「やっと人心地ついたわね」
「ええ」
「皆さん帝国にいらっしゃったということですが、どういう経緯で行かれたのですか?」
「わたしは、隣のカリドー王国で薬師をしていたのよ、そこに魔女狩りが来て」
「俺はこのランデルソールのカリドー王国側の国境の麦農園に雇われていたんだ。土魔法が得意だったからな。そこである日、魔法封じの手枷をされて荷馬車に詰め込まれたのさ」
「ひどいな」
「あたしたちは帝国の、集合住宅のようなところに住まわされていたのよ」
「そこから大まかに二組に分けられていたのさ、たぶん魔力が多い人と少ない人。
蒸気機関の工場の動作なのになぜ?と思ったぜ」
患者が一人話し始めたところに、他の人も続ける。
「そうそう、それで毎日、同じ建物の中の作業場に通わされるの。朝から夜まで」
「私の作業そのものは、糸巻きだったわ。大きく巻き取られていた糸を小分けにするのに、専用の道具に芯を取り付けて巻いていくの」
「えー?それは機械式じゃなかったの?」
「手動なのよ、そしてどういうわけか、そのハンドルから魔力が吸い取られていくのよ」
「ハンドルを回すだけなのに、一日で割とだるくなってしまうわね」
「同じ敷地を移動するだけだから、体力は使わないんだけど」
魔法を使ってた人ほど体から吸い取られていく魔力の動きには敏感だろう。
「そういう仕組み?」
「男の俺たちも同じ軽作業だったぜ」
「他の人も同じ仕事?」
「魔力が少ない人は工場内で検品みたいなことをしていたわ」
「あの椅子に座ってると怠くなる、立ってるほうがまし。でも座らないと監督に怒られる、って言ってたわ」
「一般のやつからも魔力を採ってたのか」
「そして、配給される食事が、まずいビスケットなのよ」
父からもらって一口食べた記憶が、皆の話でさらにまずさを蘇らせる。せっかく美味しい食事なのに。
ふと傍らを見ると、食事もそこそこにアズールがメモを取っていた。
さすが俺の筆頭文官兼侍従である。
「仕事熱心なのは良いけど、先に食べちゃえば?」コソッ
「いえ⋯⋯そうですね。ちゃんと食べますから気にしないでください」
反対側では、クレストとノワールが青ざめた顔をしている。
それを見て、スボールに目で合図をするけど拒否られた。
この会話を聞かせておけってことだね。
たった二人の帝国人に聞かせたところでとは思ってるけれど、彼らの話を聞いた感触では帝国でも病人が増えているみたいだし。
「で、リーンたちのことを教えてくれないかい?」
「そうそう!私たちを救ってくれた天使の正体を」
「天使って⋯⋯ただガキンチョなだけでしょ」
「そんなことはない、たしかに小さいけど、立派な魔法使いだよ」
「そうそう!調薬も素晴らしかったわ」
シスターが言う。
「じゃあ、コホン。えーっと」
一旦皆を見回す。
「改めて、俺はファーリィン。ファーリィン・ラ・ランデルソールです。
アルコアーズ・ラ・ランデルソール国王陛下の息子になります」
「ということは王子殿下!」
「天使は王子様だったのか!」
「そして、傍らの彼は、アズール・ド・オーレンタ辺境伯爵子息」
「おお!あの脳筋の!」
「そうなんすよ」
「わはは」
「さて、我がランデルソールをまとめた初代国王、ファンダーは偉大な魔法使いでありました。積層の魔導士であるリィーン・ラ・ビブリオーと友誼を結んでいたほどに。
彼は魔法を国民のために有効に活用し豊かな国を目指して、小国をまとめ、政に取り組んでいました。
彼の意を思い出し、父は魔法省を復活させるよう決意したんです。そしてその実行に俺を指名してくださいました」
「なんと!魔法省が」
「これで魔法使いが保護されるかも知れないのね」
「もちろんです。弱ってしまった、魔法使いや魔女たちの支援に取り組んで、また、国でも多くの魔法を使える人たちを雇用して、国力や防衛力を上げるために動き始めます。
とはいえ、俺はまだこれから学校に就学する子供なので具体的に動くのは卒業する五年後です」
「五年⋯⋯」
「でもそれまでになんとか、帝国で苦しんでる国民を帰らせたい。そのためにはいつでも動きます」
「じゃあ、俺たちも動けるようになったら、積極的に活動しよう」
「ああ」
色めき立つ男性たち。
「ま、待ってください!
まだ、この国には魔力を求めて、人を捕まえに来ている組織が帝国から来ています。
表立って動かないでください。もう少しこらえて、ただ、魔法の鍛錬は続けてください」
「「「もちろんだ」」」
「あれ?リーン、いやファーリィン殿下」
「リーンでいいですよもちろん呼び捨てで、ブルハさん」
「じゃあ、リーン、あの二人は?」
クレストとノワールの方を顎で示しながら、帝国人だろう? 口パクで続けられる。
「彼らは協力者なんです」
「協力者?」
「縁があってね。彼らは俺を裏切ることは出来ないので安心してください」
「なるほど、リーンがそう言うなら信じよう」
二人は従魔契約で縛ってるんだよ。ブルハはなんとなく察したかも知れないけれど。
なにしろ、ボゥグとダンゲはこの村に立ち寄っているはずだから。
街道沿いにはしばらく野営地しかないから。一宿を求めて、村に声をかけたのだ。だから髪色は変わってても顔が同じ二人を帝国人だと見抜いたんだろう。
「さて、リーン、少し手狭だけど、五人は隣の家に泊まりなさい。時々辺境伯様も泊まっているのさ。アズール様も幼いときに泊まったことがあるんだよ」
「覚えてないですけど⋯⋯」
「そりゃあね、他のお兄さんたちも一緒だったからね。じゃあ寝床を整えてくるから待ってておくれ」
「お願いします」
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