67【魔女と魔法使い達の診療所】
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「んじゃ、ブルハさん、軽症者は俺の連れが見に行くから、部屋を案内して。
これマジックポーション」
「リーンおまえさん」
「説明は後でするから」
「わ、わかった」
「ペチカ裏の熱い部屋で、三人の患者を診る。
こんなに暑い部屋なのに、三人の体温は低い。
でもいつも通り、頸動脈の辺りから魔力を流してやると、意識が戻り、さらに三人とも本来魔法使いだったので、直ぐに自分で俺から受け取った魔力を循環させていた。
「ふう、やっと生きた心地が戻ってきたよ」
「温かいのは良いねぇ」
「助かったわ」
「よかったです」
「二人を入れます」
「はい」
入ってきたのはノースリーブのシスターと、それぞれに患者を横抱きにしたクレストとノワールだった。
「あら、三人はもう回復したの?」
「緩和したってとこですよ」
「でも、すっかり良くなった気分だ」
「この小さい魔法使いさんのおかげですよ」
「本当に助かった」
「応急処置だから、まだゆっくりして」
「すごいわね」
「それより、マスターこの人」
「うん、二人を空きベッドに寝かして」
「「はい」」
二人は女性だった。
つまり魔女だね、きっと。
「じゃあ、こっちから」
もうこの作業も慣れてきた。何なら同時に二人といきたいけれど、こういうのは横着したくない。
「マスター、これが魔力の治療?」
ノワールが聞いてくる。
「そう、今は無理やり俺の魔力を入れてるんだけどね。でも生活していたら消費するものだから、自然に取り込まないといけないんだ」
「この村には魔素があるらしいけど。そこから山だし、畑もあったし」
「でもね、魔素を取り込むための最低限の魔力さえ無くなってたらそれも難しくなるのさ」
「ああ⋯⋯そういう事か」
そして軽度でも横になっていても帝都では回復できない」
俺の処置を見ながら、クレストがつぶやく。
「魔素があふれる自然がないから」
「どんなふうになってるか俺は知らないけれど」
「帝都の施療院も病人が溢れているのです」
「だろうね。帝都の施療院は帝国人しか収容しないの?」
「帝国人優先です」
「なら良かった。ランデルソールに帰る口実になる」
二人の女性の目が開く。
「楽になってきたわ」
「ありがとう」
「じゃあちょっと座って、マジックポーションを二本ずつ飲んでおこうか」
「はい」
「ポーション瓶を久しぶりに見るわ」
「ふふ、美味しいのね」
「そうか?銀蓬だぜ」
「帝国のビスケットよりは美味しいわよ?」
「それはないだろう。まあ、回復したなら良かった」
ペチカの裏の部屋を出ると、リビングにアズールが戻ってきた。
「リーン」
「どうした?」
「若い女性が何人かいて、ちょっと触れにくくて」
「おやおや、あれは触れてはダメだよ」
俺の返事の前にブルハが言う。
「でもヤバいんだ」
「んじゃ行こうか」
「頼む、助けてやってくれ」
「任せて!とは言い切れないかもだけど最善を尽くすよ」
「マスター」
「クレストも来るかい?」
「はい」
リビングから急な階段を登っていく。
二階のその部屋は、一階と対照的に窓を開け放たれ、夏とはいえ爽やかな風が森の方から入ってきている。
くん⋯⋯
でも、それぞれのベッドからは嫌な匂いがしていた。
「なるほど、これは触れにくい」
「だろ」
「痒い⋯⋯」
「痛い⋯⋯」
ペチカの裏にいた人と違って、意識はありそうだが、問題は表面の状態だ。
まだ若い皮膚の所々に広がる粗ヤスリのような部分。それは乾燥してキラキラした粉が乗っている。そしてさらにその乾燥した部分がひび割れてジクジクと血液の混じった体液が染み出している人もいる。
首から頬にかけて、顔にも拡がってる人もいて、女性でこれは気の毒すぎる。
「砂肌か。しかも荒砂肌。魔素不足によって、体の機能が落ちているんだね」
「そうなんだ」
「石化の呪いとかじゃないのか?」
「呪いではないさ、現に解呪魔法をかけてみたけれど、ちっとも変わらない」
「ブルハ、試したんですね」
「もちろん、その顔にも出てるのは私の妹なのさ」
「それは手を尽くしたくなりますね」
「だろ」
これは、ポーションで回復するだけでは駄目だ、急激に元に戻ろうとして、かえって痒みが増すタイプだ。それを乗り越えれば元に戻るんだけど、すでに痛いほど痒い人にこれ以上負担は難しい。
「まだ、ポーションは飲んでいないんだな」
「うん」
「よかったそれで良い、ちょっと待ってね。なにかないか探すから」
「どうするんだいリーン」
「ブルハさん、あの人達の保湿とかはチャレンジしました?」
「ああ、だが砂に水をまいているみたいで吸い込む一方なんだ」
「うーん」
一旦庭に出る。
「どうしたリーン、悩んでるのか?珍しい」
「うーん、スボール、それよりさ、さっきの雹鶏を捌いておいてよ」
「わかった」
「あと、料理のレシピはこれ」
「いつの間に⋯⋯」
「前から持ってただけだよ」
「なんだい?おや、雹鶏じゃないか」
「魔法の収納に入れていたからまだホカホカだぜ。でも出すなら血抜きからしないとで」
「じゃあ、こっちに⋯⋯おや、あんた達むちゃをしちゃいけないよ」
さっきまでベッドに寝転んでいた男性が着替えて出てきていた。
「リハビリさ」
「兄ちゃんそれを捌くのかい?」
「よっしゃ、手伝おう」
「ああ、どのみち貴方達のご飯にもなるんだ」
「なら張り切らねえとな」
「はい」
⋯⋯あっちはもう大丈夫そう。
「ブルハさん、油ないかなぁ、肌に塗れそうなやつ」
「オリーブオイルなら食用のがあるよ」
「それは、半年以上前の搾汁のだよね」
「そうさ」
「もうちょっと新鮮なやつが必要だ。その方がその素材にも良い魔素があるからね」
「なるほど」
そこだけ手入れされた生け垣が目に入る。夏の日差しを受けてツヤツヤした緑色の葉っぱ。そしてその間に鈴なりになっている姫林檎のような実。十メートルほどに渡ってそれが続いている。
「これって椿?」
「そうだけど、それから油を取るにはあと一月は待たないと難しいよ」
「大丈夫、ちょっとこの端っこの一本を借りて良い?」
「借りるって、あの娘たちに使ってくれるんでしょ。全部採っていってくれてもいいさ」
それを聞いて俺は、ノワールを召喚する。
「お呼びですかマスター」
「召喚うまく行ったね」
「はい」
無理やり召喚されても、嫌がってなくてよかった。
「なにか御用で?」
「ちょうどいいから闇魔法の練習しようか」
「闇魔法ですか?リーン」
返事をしたのはブルハの方だった。
「いいかい?いまからこの実の完熟のイメージを送るからそれを意識してこれの時間を一~二ヶ月進めるんだ。ちょっと目をつぶって」
目をつぶったノワールの額に俺の人差し指と中指を揃えてのせ、かつてよく見たこの実の完熟のイメージとそこに至る動きを駆け足で送る。
「割れて中の黒い種が出てくるんですね」
「そう、そうなれば止めるんだよ」
「わかりました、やってみます」
「枝の負担もあるから、5分はかけたらいいから。パッとしちゃ駄目だよ」
「難しいですね」
「練習だと思って、怖がらないでいいから。ちょっと待ってね俺も準備するから」
「はい」
「葉っぱが多少枯れ落ちてもかまわないから、やっとくれ」
ブルハからも応援が入る。
でも、イメージを流しても属性がなければ出来ない。それにこれは闇魔法だけじゃ足りないんだよね、土魔法も足さないと。
俺は左足だけ靴と靴下を脱いで、椿の木の根元に裸足のつま先をピトッと付ける。
そして右手をノワールの肩に。
「じゃあいくよゆっくりね」
「はい」
«時の精霊よ、この椿に新しい時間を注ぎ給え»
ノワールが真剣な顔で椿に向き合う。
「おお!実が生きているようよ」
ピシッ ピシピシッ
実に中心から三股に分かれた筋が入りだす。
ポン ポポン ポン ポコン
「開いた。よし、ノワール、魔力を止めて」
「は、はい」
「じゃあ二人はゆっくり休んでて、収穫と油の抽出はやるわよ。
普通でいいんだろ?リーン」
「うん、もちろん。あ、薬草も色々育ててるんだね」
「そうさ、先祖代々受け継いだ畑だからね」
「ミントあるかな」
「あるよ、こっちだよ。丸禿げにしてもいいから、遠慮なく使ってくれ」
「ふふふ、ちょっとでいいよありがとう」
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