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かつて大賢者だった黒猫は王子に転生しても魔王ひとすじ  作者: 前野羊子


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66/80

66【夏のペチカ】

62話から色々本文を大工事しました。

読み進めてくれてしまった方は再読してくれると嬉しいです!

このお話はep65話だったのですが62話を2つに分けたためズレました。

 *~*~*

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 げんこつ山の街道での最高度地点を超えると緑が増えてきた。

 鬱蒼と茂る木々の間に、銀蓬が見つかるので、摘んでいく。

「アズール、次のポブレ村には行ったことがあるのか?」

「そうだな、かなり限界集落って感じだよ」

「クレストとノワールは?」

「病人が多いです」

「先日通った時も脚気患者が沢山いて」

「そりゃ大変だな」

「この銀蓬すぐ使うことになりそうだな」

「ああ、救いがあるとすればこの山の麓なら、魔素が多そうだし軽症なら治るかも知れないよ」

「そうだといいな」


 なんとなく懐かしい風景なのに不安を感じる。

 この先はそもそも魔女の多い町だったはずだ。

 魔女でもあるダッシュ領主のヘンヒブレも、そこにプライベートな小さな家を持っていて、時々息抜きに過ごしては他の魔女とかとお喋りをする。普通の女性としてリラックスするための地域だった。


コゥルロロロロ

ルロロロ


「また、雹鳥(ハーゲルストーム)ですね」

 頭上の梢で鳴いている。カップル同士で仲良くしていて油断してそうだ。


「試してもいいですか?」

 クレストが手を上げる。

「いいよ」

 さっき俺が渡したスリングを取り出している。

 Y字の形の硬い木に、弾力がある魔獣の短いベルトを取り付けて、さらに伸縮するように付与してある真ん中には弾を受けてつまむための革。

「連射できないから、一発必中だよ」コソッ

「はい!」コソッ



 弾は俺が返した、銃の弾頭だ。薬莢がないからね。


 狙うは斜め上、距離は十メートルと言ったところか。


 ギリ⋯⋯

 ヒュッ

 バシッ


「当たった!」

「落ちたぞ」


 コーッ


「番が怒ってきた」

「気をつけろ!飛んでくるぞ」

「何がですか?」

「雹だ!雹鳥(ハーゲルストーム)は氷魔法を使う魔獣だ」


 バラバラバラバラ


「わー!」

「落ち着け!」


「あいつがクレストに気を取られているうちに、ノワールいけ!」

「ハイッ」


 ヒューッ

 パーン


「当たった!」

「うまい!」


 ガンマンってスキルはスリングショットにも使えるのかも知れないな。二人とも初めてなのに一発必中だった。


「捕れましたけど」

「俺はビチョビチョになった」

「ははは」

「ま、そのまま収納しておいて、鮮度は保てるから」

「はい」

「血抜きはしなくてもいいですか?」

「できる場所に行ってからで良いよ」


 雹《ひょう》がいくつも当たって濡れたクレストを、魔法で乾かしてやりながら先に進む。

 馬は三頭とも鞍を外して手綱を挽いている。


「リーン、集落が見えてきたよ」

「クレストとノワールの髪色が変わってよかったな」

「前にこの集落を訪れた時は泊めてもらえなかったです」

「この村はとくに帝国人を嫌っているのさ」


 魔女や魔法使い帝国人を見たら怖がるかも知れないからね。



 蛇行していた下り坂が緩やかになって視界がひらけていく。

 およそ140年ぶりに訪れる魔女の町。その前にも何度か来ているけどね。

 だけど、


「本当に寂れちゃったね」

「ああ」


 今通ってきた山の粘土で作った鱗模様の瓦屋根が特徴の円錐の建物が五棟ぐらいある。

 他にも建物だったであろう瓦礫はある。

「一番大きな建物が長の住まいだろう」

「いえ、あの建物は教会と施療院を兼ねていますよ」

「なるほど、ならそれからいくか」

「はい」


「リーン、あそこに魔女?がいるよ」

「魔女?まさか」

 スボールの指さす先には、今は被るほうが危険な黒い魔女の三角帽を被った人が何人かバラバラと立ってた。

「あっ。あっちにも!」

「あれはカカシですよ」

 ノワールが答える、こっちに来るときに見たのだろう。

「カカシ?」

「俺達は辺境から来たからな」

 クレストが言う。

「堂々としてる魔女だなと近づいたら、顔は藁の束に布を巻いたものだった。一応顔は描いてるけどよ」

「そうそう、口紅も塗ってあるんですよ」

「へえ」

「でも畑で育ってるのはどう見てもかぼちゃだし、そっちはなんだろう葉っぱばっかりだけど。前に来た時は麦畑だったんだけど」

 アズールが指さす。

「それはさつまいもだ。アズールは辺境伯の冬の社交に付いてきて、それから兵士見習いをやってたんじゃないのか」

「そうか今は夏だもんな。でも小鳥ってかぼちゃを食えるのか?」

「あれは猪とか畑泥棒よけだ」

「たしかに、鎌も持ってるぞ」

「ははは」



「だれだ」

 街道の脇に立ってるカカシから声がした。と思ったらその後から一人の中年の女性が出てきた。手袋や長靴を身につけているところを見ると、草取りでもしていたのだろう。彼女は鳶色の布帽子(コイフ)を被り、木綿っぽい衣類とエプロンを着ていた。

「俺達は冒険者だよ」

「何処から来た?」

「王都からです、俺は冒険者のリーン。他の四人も同じ冒険者のパーティーで辺境伯領に移動しているんです」

「あたしはブルハ。ここいらのまとめ役をやらされている」

「ということはブルハさん、貴女が村長さんですね」

「そんな大したものじゃないよ。動けるのがあたしだけだからしかたなくだよ。今日はこっちで一泊するのか?この村には宿はないよ」

「存じてます。夜露がしのげる程度の小屋でもいいですけど」


「ふむ⋯⋯こっち来な」

「はい」


 土の道をついていくと、古い家がポツポツと見えてくる。

 だがどれも、坂の上から見えていた瓦礫のような家だ。


「人がいなくなっちゃってるんですね」

「ここらは魔女の家だ。皆、この村にいては帝国からの魔女狩りに遭うからと、家を捨て出ていった先で掴まったのか⋯⋯何十年か経って馬車に乗って帰ってきたのさ」

「ブルハさんは魔女じゃないのですか?」

「⋯⋯そんなことは言えないよ。そっちの兄ちゃん達はもしかして帝国の人間だろ?」

 鋭いね。髪色が変わったってのに。

「ええ、前はね」

「前は?」

「今は違いますよ」

「⋯⋯なら泊まっていって良い⋯⋯ただし、その男手を少し貸しておくれ」

「良いですけど、何をするんですか?」

「施療院の病人を動かすのさ」


「分かりました」

 返事をしたのは、クレストだった。


「こっちだ、そういえばあんたら荷物は馬だけなのかい?」

「隠して持ってるんです。馬車もありますよ」

「隠して⋯⋯そうかい、久しぶりにそういうことを聞くよ」


「じゃあ、あっちに馬を繋げておきな。この村には馬場はそこにしかないからな」

「俺が連れていきます」

 手を挙げたのはノワールだ。

「頼んだよ」

「はい」

 たった一日ですこし背筋が伸びて、目つきが良くなっていた。


「施療院はこっちだ」

「はい」


 そこは昔懐かしい、いかにも魔女の家だった。ババヤーガの宿より特徴が強い。

 玄関を入ったら台所の付いた居間だったのだろうか、コンロやオーブンと暖炉が組み合わさったペチカがあって、離れたところにシンクがある。壁一面には戸棚が張り付いていた。他には窓の前にぶら下がっているハーブ達。

「ここは調薬設備があるのですか?」

「骨董商でも欲しがらないような、古い道具だけどね」

「魔法薬も作れますか?」

「リーン⋯⋯おまえさん⋯⋯まあいい。

 魔法薬を作るには材料がない」


「ここに来るまでに銀蓬は摘んできましたが」

「銀蓬なら、あたしも今朝摘んだよ」

「では何が?」

「魔羊皮紙がないんだ。だから普通に銀蓬の料理を食べさせてる。あまり美味くないから不評だけどね」

「魔羊皮紙なら多少残ってます。手持ちをお譲りしましょうか」

「本当かい?」

「やっぱりブルハさんは魔女なんですね」

「そういうリーンこそ若いのに色々知ってそうだね」

「まあね。それより先に病人たちに会わせてほしいです」

「わかった。ちょうど二人ほど動けなくなったから、そっちの兄ちゃんに移動してほしいんだよ」

「まだお亡くなりじゃないんですよね」

「ギリだな。先月は二人死んだよ」


「死⋯⋯」


「じゃあ急がないとですね」

「こっちだ」


 ペチカの裏に当たる場所に部屋があって、むせるように暑い。

「すごく暑いですね」

「これでも、皆寒い寒いっていうんだよ」

「なるほど」


 そこには一人のシスターらしい女性がいて、そのまわりに五つのベッドがあり、その三つに人が寝ているようだ。

 シスターの頭はベールに包まれているけど、ノースリーブの服を着ていた。この部屋暑いもんね。


「ブルハさん、おかえりなさい。

 あら、その子達は?」

「冒険者パーティーだ。今日この村に泊まるから」

「そう、いらっしゃい」

「「「お世話になります」」」


「この空いたベッドに先月亡くなった二人が寝ていたのさ。でも、この部屋が一番温かいから、他の部屋で寒がってる人をこっちに連れてきたいのだ」

「なるほど、わかりました」

「シスター案内してやって」

「はい、どうぞこちらです」


 シスターに連れられて、クレストとノワールが部屋を出た。

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