65【マスターとげんこつ山】
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「あの⋯」
「何でしょう」
「リーンさんのことを〈マスター〉と呼びたいんですけど」
ブッ
クレストが二つ目の野営広場で落ち着いたときに言ってきたので、口に入れかけたパスタでむせそうになった。
「リーンさんとか、ファーリィン殿下と呼ぶと、違和感があって」
「分かります、父に間違って妹の名前を呼んでしまうような」
ノワールにも言われてしまう。
「えー」
「すみません」
たしかに!知性が高くて話せる従魔をもつテイマーは、〈主〉とか〈マスター〉とか言われていた。
賢者とか言われていた頃にネイチャーパルス契約を開発したが、自分が〈マスター〉として使うのは今回が初めてだった。当事者じゃなければ分からないことがあるんだね。
「君をリーンさんと呼びかけるのに、一呼吸必要というか⋯⋯」
「それほどに従魔というのは、マスターが絶対的なものだと分かりました」
「うーん、でもさ、ファーリィン殿下と呼ばれるならまだしも、マスターはおかしいよな」
「なんとか慣れてくださるとよいのですが」
「わかった、そのぐらいなら俺の方の慣れだからな。しょうがない」
「申し訳ないです」
「お願いしますマスター」
「お、おう。早速か⋯⋯」
そんなところまで従魔化するとは思っていなかった。いつか、この人たちを解放しよう。
「いいな、マスター。自分も呼ぼうかな」
「やめろアズール」
「えー」
「私も、リーンなら年齢は関係なくマスター呼びしてもいいな」
「給料が減るぞスボール」
「別に構わない」
「そうそう、養う家族もまだいないし」
「でも駄目」
日が暮れて今回は初めて一つテントを張り、クレストとノワールはテントで、俺達は荷馬車に寝る。
交代の火の番は二人ずつ交代で。
ところで、
「俺の火の番はいつ?」
「リーンは早めに起きて朝飯係」
「わかった」
「マスターが料理をされるんですか?」
「ああ、今回の食事も半分はリーンが作っていた。もちろん自分たちも手伝ったけれど、主に手伝っていたのは、宮殿の料理長で」
「それでこれほどに美味しいんですね」
「食べ物を考えたら二度と帝国に帰りたくなくなってしまいます」
二人はすっかり、料理で胃袋を掴まれているのか、帝国に帰りたいとは言わない。
俺のほうが気にするほどに。
「おいおい、それは駄目だよ。家族がいるんだから」
「わかってますけど」
「まずその家族たちを、ランデルソール王国に呼べるように準備しような」
「はい」
「家族に美味しいもの食べてほしいしさ」
「そうですね」
「ありがとうございます」
次の日は小さな村を目指して進む。そこで上手く泊めてもらうためには、
「手土産が必要だな」
「自分用のご飯とお世話になる人のご飯」
「一応作ってきてるけど」
「追加があってもいいんじゃない」
「うん」
「狩りだな」
「気楽に言うけど、この先難所だよ」
「でもまだそうでもないんでしょ?」
「もう一つ難所はあるけど。そうだな、この先は単騎と徒歩で行くか?
麓に着いたら切り替えよう」
「わかった」
「いいよ」
街道での難所とは山のことだ。最初に越えるのはげんこつ山 。
そのヘシャゲたS字カーブに差し掛かる。
ここにも野営広場があるので休憩にする。この後上り坂が続くからその前に。とはいえ頂上を超えるわけじゃない。
「んじゃ、クレストこの馬車を収納しておいて」
「分かりました。«ロード»
うわっ消えた!あんな大きな馬車が!」
「自分で驚いている」
「ははは。馬車の中身は俺が持ってるから、難所を越えるまで頼むね」
「ええ、全然重いとかないですし大丈夫です。それに、アームレットの魔石に触れば馬車が入ってることが分かります」
「でしょ」
「これは本当に素晴らしいですね」
「だよな、いいなークレスト」
「俺達も従魔にしてよ」
「だから!二人のアームレットも作ったから!魔力の引っ張り合いも出来るようにしたから!
はい!これ!魔力を引っ張る時はアームレットの魔石のところを叩くんだよ。服や手袋越しで大丈夫だから」
「やたっ!」
「なるほど、これで通信できるんだな」
「まあな。片手旗信号ぐらいの内容しか無理だぜ。召喚や送還も無理」
「それで充分だ」
「それに、二人のは、この三人共通で通信することになるから、俺に内緒でスボールだけとは無理だからなアズール」
「そりゃそうか」
「歩きながら練習しよう」
「うん」
男子は昔から新しいツールが好きだよな。子供はもちろん大人になってもさ。
「んで、このアームレットはいくらで売ってくれるんだ?」
「値段は分かんない」
何しろ魔法係の納戸にあった廃魔石や屑ミスリルの再利用だし。革も鎧からバラして持っていたものだし。
「だけど本当に沢山の魔石がポケットの中に仕込まれているんだな、上から触ってもわかったよ」
「その魔石は、収納のための魔力と、攻撃などいざというときの魔力のブーストだ。大技だと一発しか無理だけど、限界を覚えておくのも大事かも。
でも、寝ている間や昼間などに、身につけている腕から魔力を充填するから、交換しないでいいからな」
「なんつー」
「商業ギルドのやつが聞いたら大金貨出しても欲しがりそうだな」
「トレランツには見せないようにせねば」
「俺が専門の職人になれるなら考えるけど」
「まあ、無理だな」
「王子殿下の手作りだぜ。それだけで値の付けられるものじゃ無いかもな」
「ま、まさかこのブレスレット⋯⋯」
「マスター⋯⋯」
クレストとノワールが青ざめた顔をする。
「二人には、従魔の首輪のようなものなんだから、ありがたそうに思わないの!」
「「それは無理です」」
それからは馬とともに山道を歩きながら、剣を出し入れする練習をする皆だった。
«イジェクト»
ガシャン
「掴みそこねた」
アズールの足元に剣が落ちている。
五人歩いて馬が三頭なら二人は手ぶらなのである。
「人とすれ違う時はするなよ。メンバー以外には見られないように」
「はーい」
コゥルロロロロ
コゥル
ルロロロ
「いたな」
「あれはなんだ?」
そこには山鳩のようなフォルムと色の鳥が群れて騒いでいた。
「あれは、雹鳥 だ」
「もしかして」
「魔獣だが、旨いぞ」
「手土産にぴったりですね」
「あれを食べるのか?」
「そう、お肉という食材は、命を有り難くいただくものなのさ 」
「じゃあスボール、今から二十分でどっちが多く狩れるか競争しよう」
「弓ではアズールに負けないぜ」
二人はもともと持っていた魔法のポケットからそれぞれ弓を出し、矢筒を背中に掛けると、街道から山に入ってしまった。とはいえ岩山だから見えてるけどね。
「二人もやってみる?」
「未経験ですけど」
「自信ないな」
「じゃあ、スリングショットならどうかな。伸縮性のある弦で石を飛ばすんだ。はいこれ」
冒険者ギルドでつい買ってしまったいくつかのうちの二つをそれぞれに渡す。
「なら僕が持ってた銃弾がまだたくさんありましたよね。銃もマスターに渡したままだけど」
「銃はこの国では使用禁止だし、銃弾は火薬が入った薬莢が付いてるからやめておこう」
「わかりました」
コーッ
ルーッ
時間切れを知らせるために、俺にも着けたアームレットの魔石を叩く。
「ふーっ、獲ったよ」
「自分は四羽」
「私は五羽だ」
「がーん、スボールに負けた!」
両手に一羽ずつ下げてきたけど。他はポケットかアームレットに収納してるんだな。
入れておくと、鮮度が保てて、捌くのも後回しにできる。
「でも、リーンの合図はちゃんとわかったよ」
「ああ、弓矢を使っててもわかった」
「そりゃ良かった」
「これ⋯⋯騎士団にも導入しろって言われそうじゃね?」
「たしかに。軍にも便利そう」
二人のつぶやきをまるっと無視して先に進む。
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