64【従魔といえば】
「従魔と主人の俺でできることがもう一つあって」
「できることですか?」
「なんでしょう」
「召喚と送還だよ」
「召喚?」
「何処にいても俺が呼べば強制的に呼び出される」
「なるほど?」
「瞬間移動みたいなものですか?」
「そのとおり。そして、呼び出す前の地点は魔獣として本能的に記憶していて、俺が送還する時にそこに戻ることが出来る。ただし、都合が悪ければ召喚も送還もずらすことが出来るのだ」
「うん?どういうことだ?」
二人の代わりにスボールが聞く。ブレスレットの問題じゃない。従魔ではないスボールにできるわけじゃないんだけど。まあいいか。
「たとえば都合悪く入浴中や着替え中、すぐに抜けられない食事中やトイレ中、または大事な会議中とかね、そういう時に召喚がかかった時。その場合は召喚に応じるまでは、自分で最大十分まで後ろにずらすことが出来る。魔力が一旦引っ張られるのですぐに引っ張り返すんだ。やり方はその時分かるけどね。引っ張り返さなかったら直ぐに俺のもとに瞬間移動となる。引っ張っても10分経ったら強制的に飛ばされる」
「なるほど」
「たしかに、トイレ中は待ってほしいです」
「そして、元いた地点に戻る時は時間じゃなくて地点を十五メートルまでずれることがある、これは自動的にずれる」
「ずれる?」
「例えば紛争しているところにいて召喚した後に、すぐに送還される場合、戻った途端に流れ弾に当たってしまっては困るでしょ」
「なるほど」
「そこで、元の地点からずらすことを送り出される君達でずらすことが出来ます。それは水平方向だけでなく垂直方向。つまり高さですね。たとえば二階にいたのに、戻ってくるのは一階にできるとかそういう感じです。高さに関しては現地の状況によって補正されます」
「すげー」
「どういう仕組み?」
アズールとスボールは好奇心丸出しに聞いてくる。そりゃそうだろうけど
「ひ・み・つ・!
あと、君達が危険を感じてその場を離れたいとか、俺に急を要する報告があったり物を渡したりしたいときに、召喚をリクエストできます。それはその時に繋がりを引っ張ってくれたら良いんだけどね。
召喚と送還、あとで段階的に練習してみよう」
「「はい」」
「馬が見えたぞ、あれじゃない?」
アズールの声に幌のすきまから前を見る。
街道の脇の木に二頭の馬が繋がれていた。
「あれです、良かった無事だ」
「ナイトアリゲーターにやられてなかった。対策がうまくいってた」
それもそのはず、消えかけのランタンが、木の枝にぶら下がっていた。
一晩これが光って馬たちを守っていたのだろう。
「荷物は?」
「荷物は鞍の下に挟んであるんです。殆ど衣類ですけど⋯⋯ああ、ありました無事です」
「普通の服は持ってる?」
何しろ二人は、まだ全身黒い。
「はい、冒険者の装備があります」
「ならそれに着替えてから追いかけてきてくれ」
「わかりました」
途中、数箇所別々の野営広場から出てきた旅人も街道に合流している。
後から追いついたクレストとノワールもパカパカ馬車の前と後を行く。
「あの二人どうするんだ?」
「冒険者をする割には弱すぎだよね」
「そうなんだよね~、帝国内では銃があるからそれでも良かったかも知れないけど」
「銃なんて当たりどころが悪くなければ小さな怪我だよ」
「だよな、怪我の処置が失敗すると命に関わるかもだけど」
「そんなの、どんな怪我でも同じさ」
「二~三日辺境伯領で大叔父さんに預けらんないかな」
脳筋だからな、国の兵士も自領の部下たちも自分で鍛えているぐらいだから。又甥のお願いを聞いてくれたら良いな。
「大丈夫だろう、充分に内容を伝えれば、リーンがあの二人をどうしたいかも含めて」
「うん。でも復路で他の子たちを拾って王都に帰るなら、護衛としてちょうどいいんだけど、実力が心もとないから」
「確かに」
「とりあえず、道中は魔法を練習させながら行こうかな」
「魔力循環とか」
「二人は道中も続けてるからちょっとは魔力が増えてるよね」
「ああ」
「なあリーン、王都に連れて帰る連中って、ダッシュ領から向こうじゃない?」
「そうだね」
「じゃあ、ダッシュ領についたときに召喚してその後連れていけば、それまで訓練できんじゃね?」
「ナイスアイデアだよアズール」
「良いアイデア?」
「うん」
「じゃあ、お願いがあるんだけど」
「なに」
「今夜も野営で、其の次のポブレ村まで碌な標識がないからさ、馭者の練習をさせてほしいんだけど」
「何だそんな事。もちろん良いよ」
無免許でも、町の外や人が少ない所の荷馬車なら馭者は許されている。
「後で標識の勉強はするからさ」
とはいえ馬に乗ってる時点で必要な標識は覚えているはずだ。
「んじゃ次の休憩地点で、スボールと交代するから、まずは隣に座ってやり方を見て。そのあとは自分で手綱を持ってみて」
「わかった」
それから、スボールと交代でアズールの馭者練習の面倒を見たり、単騎に乗ってる二人も交代で馬車にも乗って。常に一頭は曳き馬状態で先に進むことにした。人を乗せていない時は鞍なども外してやって、頭絡と手綱だけで身軽にする。
「よしよし、背中が楽になってよかったな」
休憩中は三頭の膝や足首などを少し冷やしてやって、背中が軽くなった子はマッサージ代わりのブラッシングをする。
昼食を終えて食休みの後はノワールと馬車の荷台に乗る。
「次の野営広場でトイレに行くときに召喚と送還の練習しようか」
「はい」
野営広場は、昼間でもトイレや休憩に使えるようにしている。
俺自身が行く用事がなくても、止まるたびに浄化魔法だけしていく。本当に臭いから。
「到着するまでちょっと魔力の訓練をしよう、なあに五分で出来るようになるさ」
「⋯⋯ごふん」
荷台のなかでトレーニング開始。本当はクレストと一緒にやるほうが手間がないけどさ。荷台に乗ってる時間は暇だし。有効活用ってことさ。
「俺との魔力の繋がりが分かるでしょ」
「⋯⋯はい、心臓とはちょっと違うけれど近いところに、なんとなく引っ張られている感覚があって、それがリーンにつながっていることは分かります」
「うん。それをもっと意識してみて、じゃあ俺がちょっと引っ張ってみるよ」
そうして俺自身の左胸、心臓のあたりをげんこつで叩いてみる。
俺の方は、ノワールとクレストを切り替えることが簡単だ。両方を同時にもいけるしね。ここはノワールの繋がりの方を刺激しておく。ただ召喚と送還をするには別のアクションが必要だけどね
「あ、引っ張られるのが分かります」
「じゃあノワールも同じように左胸を一度叩いて。これはグローブを嵌めていても大丈夫」
「はい」
トン
「おっけー、ちゃんと引っ張られたよ」
「よかったです」
「緊急のときにぱっと引っ張れるように練習したいんだよね」
「⋯⋯わかりました」
ひとしきり魔力の繋がりや魔力循環などを練習した後、雑談に入る。
「ノワールってさ、八歳の俺から見たら立派な大人だけどさ。でも、大人になりたての若い兄ちゃんじゃん。今はまだ緊張してるとは思うけど。もともとそんな感じ?」
大人しいよなぁ。
「いえ、あの⋯⋯そうですね、学生の時はよくいじめられていました」
「ふむ」
「それで、割と一人でいることが多かったです。帝国にも対等な友人がいませんでした。年齢が近しい話し相手といえば妹ぐらいで」
「でも、それが帝国から出て魔法使いを探す任務に向いていたのかな」
「いえ、人見知りがあるので、魔法使いの噂の聞き込みとかは、ダンゲじゃなかったクレストに任せきりでした。俺いや普段は僕と言ってるのでそう言いますね」
「言いやすい方でいいよ」
「僕は何をやっても平均以下で、学生の時の成績もそうだし、役所に入った時も母のコネでやっと入って」
「うん。でも冒険者も俺ぐらいの時から始めててCランクなんでしょう?」
「はい、この引っ込み思案な性格を改善しようと、自己啓発と言いますか」
馬車の中で大人の体をかがめて三角に座っている。
「で、話は変わるけどさ、魔法使いについてどう思う?」
「帝国にいる時は、魔法は魔女や魔法使いなど特別な存在が使える邪悪で攻撃的な能力だと教わってきました」
「うん」
「でもそうやって民衆に浸透させといて、銃を作って広げてまわりを威嚇しているのが帝国の現実だということも、人々は薄々わかっています。でもそうやって立ち上がりかけた魔法使いたちが過去に皇帝たちに鎮圧されて、それはひどい処刑をうけたそうで。
父方の曽祖父はそれを免れた一人でもあるんです」
「ということはノワールの曾祖父さんは魔法使いだったのかも?」
「⋯⋯そうです」
「なんだ、それで君の魔力が多いんだね。具体的な数字はここでは分からないことにしておくけど」
「はい」
「俺はね、実のところ二人のネイチャーパルス契約は然るべきときには解消して君達を解放するつもりなんだ」
「え?そんな⋯⋯」
なぜそんな不安そうな顔をする? 解放する約束なのに。
「でも、それには君達が俺に協力してくれて、ある程度活躍してもらってからなんだけど⋯⋯」
「ファーリィン殿下を襲ったのですから、処刑されないのなら何でもします」
「うん。まあ、それもあるんだけどね。
それより、ノワールはもうちょっと自信をつけることが大事だね」
「自信⋯⋯ですか」
「まずはAランク冒険者を目指してトレーニングかな。まだ若いから大丈夫でしょ」
「帝国では銃だけで魔獣を狩ったりしていたので⋯⋯、乗馬と銃のスキルしか無いんですけど」
「それはクレストも同じかな」
「はい、彼はもともと事務仕事の役人のほうがメインで、仕事のために冒険者登録をしたと聞いてます」
「ま、どっちにしてもトレーニングだね。クレストはちょっとお腹がポヨンってしてるからさ」
「プッ、そうですね」
笑うと、可愛らしいところがあるノワール。大人の女性に受けるのでは?
「彼には内緒だよ。
じゃあ、次の休憩では交代だな」
「はい」
会ったばかりの二人を繋げちゃったけど。俺が本当に繋がりたい人は、森の奥に住んでいる。




