63【お揃いの予定】
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「おはようリーン」
「ごめん寝坊した」
「もう出発するよ」
「そんな!まって、トイレと洗顔」
「クス、ゆっくり行ってきて」
「はーい」
あたりはまだ薄暗い。それでも馬が走るには十分だ。
二人の帝国人は後ろ手のまま地面に横になっていた。
「二人のロープを外してやって」
「わかった」
馬は立ち上がって草をはんでいた。彼用のバケツに水を入れてやる。
「今日も頑張ろうな」
ブルルッ
「ふうっ」
「うーん」
帝国人二人もそれぞれに伸びをしていた。
「トイレに行って顔を洗ってきたら」
「はい」
「そうですね」
日が消えた灰を集めてコンロを片付け、椅子だけ出しておく。
水場から戻ってきた二人に一旦椅子に座ってもらう。
「これを、右の二の腕につけて」
革でできたアームレットを一つずつ渡す。
「それは?」
目ざとく聞いてきたのは、アズール。
「これは魔力ブースト装置」
「魔力ブースト?」
「激しい攻撃を助けるために使うんじゃなくてね、どうやら帝国は魔素が少ないみたいだから。二人があっちに帰ったときに困らないように」
「帝国に帰れるのですか?」
「時が来たらね」
「それと、どうして帝国で困るのですか?」
「魔法がつかえなくても帝国ならかえって普通ですけど」
「ネイチャーパルス契約。つまり君たちを魔獣として従魔契約をしたわけだけど、今、俺とそれぞれ魔力でつながっているのはわかる?」
「はい」
「なんとなく分かります」
「これは二人がつながっているのがわからなくなるときもあるけれど、それは俺のほうが秘密の場所に忍び込んでいる時にそうしているだけだから気にしないでね。
俺からは常に君達とつながっているのは分かる仕様だ」
「「はい」」
「ただ、この繋がりが途切れたら、君達は体に埋め込んだ魔獣に変化してしまうかも知れない」
「そ⋯⋯」
「なるほど。処刑になったかも知れないことを考えたら、それでも生かされているということですね」
「そう、でも魔物なら討伐されてしまうよ」
「「はい」」
「魔素は土や緑、大気、川など自然にあるもの。その魔素の繋がりで俺と君達がつながっている」
「なるほど?」
「リーン話してるとこ悪い。朝飯」
スボールがサンドイッチを渡してくれる。
「あ、サンキュ」
「二人も」
「ありがとうございます」
「じゃあ食べながら聞いて」
「はい⋯⋯これ、めちゃくちゃ旨いですね!」
ノワールは結構食いしん坊キャラになるかも。
「さて、アームレットの続きだけどね」
「帝国は魔素が薄いということと関係ありますか?」
「そう、俺は行ったことはないけれど、帰ってきた魔法使いたちが口を揃えて言ってるんだ。土が見当たらなくて、草木が模造しか無いと」
「たしかに帝都の工場地帯はそうです」
「労働で体力とともに体内の魔素が少なくなっても、普通なら一晩である程度回復するんだけど、魔素がない環境ではそれも出来ないみたいなんだよね」
「回復できない⋯⋯」
「クレスト、この世の人はね、誰にも魔力がちょっとはあってね、それがゼロになったら死んじゃうんだよ」
「まさか」
「それはロードランダの人間だけの話ではないんだ。
帝国人で、脚気と呼ばれる病気で寒さに震えている人はいないのかい?
俺達は王都からここまで街道沿いの施療院に入っている帝国帰りの人たちが、ことごとく魔力枯渇病で干からびたようになっていた。ギリギリ生きていたから助けることは出来たけどね」
「帝国で脚気患者が増えたのは、蒸気機関での工業が少し変わってからです」
「うん」
「工業化が発達するにつれ、動力が石炭から焼成魔石に変わり始めて⋯⋯、でも工場自体の人手はあまり必要じゃなくて、皆単純な作業だけになっていたんですけど、何を生産するか分かってないような作業をこなしているうちに、脚気になって倒れているんです」
「なるほど」
「ひどいな、他国民だけじゃなく自国民からも搾取していたんだ」
「そうだね、アズール、
脚気はね、チアミンという栄養素の一つでね、でもそれはあの帝国のビスケットには添加されている。多分原材料のアーモンドとかそこら辺だとおもうんだけど」
「では、やはり脚気ではないのですね」
皆がサンドイッチを食べるのが途中で止まってしまった。
「というわけで、帝国に行っても、君達が魔獣化するのを防ぐために魔素の繋がりが切れないようにそれをつかって、自然に存在する魔素が少なすぎたときに補助して、俺とつながれるようにするんだ」
「なるほど分かりました」
革のベルトには小さなポケットが付いていて、ポケットの蓋に一つの平べったい魔石がボタンのようにくっついている。
「かっこいいですね」
「そう?よかった」
「ほんとかっこいい、羨ましいよ」
アズールが凝視している。
「ふふふ、ポケットも小さいけれど、小銭は入りますね」
「そうそう金貨が銀貨ぐらいは入るでしょ。大銀貨は難しいけれど。でもねその蓋をあけてみて?」
「はい?」
「わ、すげ!」
「どれ⋯⋯」
二つのアームレットを五人で見ている。
「その小さなポケットの中に一体いくつ魔石を入れてるんだよ」
魔石はガチガチに縫い付けてあるから、入れたコインを出してもこぼれないよ。
「えっと沢山。まあ、あまり覗かないでよ。
それで、二人ともペンとか剣とかは右利き?」
「「はい」」
「んじゃ右の二の腕に装着して、今は脚でも履けそうな太さだけどね」
「はい⋯⋯あ縮んできました」
「わあ。右腕にぴっちり」
「血が止まりそうとかでもないでしょ」
「はい」
「もうそれは腕から外れない」
「え?そんな」
「服を脱いだり出来ないのか?」
「違う、手首までずらしたりはできるから服を脱着する時はそれで対応して。防水防汚仕様になってるから風呂の時もずらしながら腕を洗えばいいから」
「なるほど」
「昨日の背中ほどではないですけど、ほんのり温かいですね」
「そうだね、んじゃ次に、そのポケットの蓋のボタンに見えている魔石を左手で触って。素手で触る必要があるから、後に手袋を用意するなら指先が出るものを買うといいよ」
「わかりました⋯⋯あ、これもしかして」
「ふふふわかった?」
「はい、このアームレットって魔法収納になってるのですか」
「そして、剣が一本入ってるのが分かります」
「じゃあそのまま左手でその剣を意識して、心の中で唱える «イジェクト»。
口に出すなよ」
ガシャン
「わわっ!」
クレストの足元に剣が転がっている。
チャッ
「手からでてきた」
ノワールは鞘の部分を掴んで顔の前に持ってきた。
「クレストおしい! 剣の柄を直接握れるように練習する必要があるね。収納する時は «ロード»」
「«ロード» 消えた、あ。腕の中に戻ったことが分かる」
「口出さずに心で唱えて、クレスト」
「⋯⋯。仕舞えました」
「よし、最終的には剥き身の剣の柄を直接掴めるように、イジェクトできるように練習しておいて」
「「わかりました」」
「その収納の容量はその馬車一台分以上」
と、これから乗り込む荷馬車を指さす。
「すげ」
「あと、そこに入れられるものは生きた生き物以外何でも。死んでたら人でも入る。ゴミを入れる時は、ゴミ箱を収納しておいて、ゴミ箱をイジェクトして、そこにゴミを入れてロードする。直接入れるのは禁止で。ゴミ箱を用意するまではゴミを入れないで」
「なるほど」
「ゴミはゴミ箱から溢れる前に中身を捨てる」
「了解」
「それを装着してることが不自然な場合は袖の中に、手首にずらしておけば物の出し入れは長袖でもできる」
「なるほど」
「あとは、どうしても隠す時は «デシーヴ» 心で唱えて」
「「⋯⋯」」
「消えた⋯⋯」
「でも感触はあります」
「俺も」
「どれ⋯⋯」
スボールが触れに行く。
「何もないぞ」
「これは俺なら触れるはず⋯⋯うん。ちゃんとあるよ」
「つまり主人であるリーンと本人なら分かるんだな」
「そう、そしてもとに戻すときは«アンデシーヴ»」
「⋯⋯」
「⋯⋯見えた」
「出てきたな」
「⋯⋯これは素晴らしいですね」
「まあね、できることは収納だけだ」
「いやいや、改めて魔法の素晴らしさを実感します」
「そりゃよかった」
「ねえ、リーン」
「なあ!」
スボールとアズールが目をキラキラさせて俺に迫る。
「なに」
「自分も欲しいっす」
「私も!」
「魔獣になっていいから!」
「こら!いくらなんでも俺の又従兄殿を魔獣にして従魔にできるわけ無いでしょ!
スボールも貴族なんだから」
「でもねぇ」
「ほしい」
従魔になって無くても、フリフリしている尻尾が見える気がするよ。俺は犬は得意じゃないんだ!
「えー、君たちには魔法のポケットを渡してるでしょ!」
「ふふふ」
「ほら、クレストに笑われてる!」
「アズールさんは王子の親戚だったのですか」
「そ、この先のオーレンタ辺境伯の息子だ」
「アズール・ド・オーレンタだ、よろしくな」
「私は、スボール・ド・サバダリファ」
「そうだな、獣魔用の機能はなくても、魔力ブーストと収納の機能をつけて。
五人組のパーティーでも組むか」
「それいいなリーンもおそろいのアームレットしようよ」
「なるほどな、二人はそれでもいいか? 表向きは普通のパーティー冒険者で」
「はい、頑張ります」
「よろしくお願いします」
「じゃあ、二人の馬を探しに行って、先に進もう」
「「わかった」」
「「わかりました」」
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