61【処分の準備】
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「アズール、お茶を入れ直して、今度は皆の分も」
「わかった」
「まず、貴方達は俺を襲った時点で最悪の刑が待っているのは理解している?」
「いや?」
「もしかして魔法使いはそれほどに優遇されているのか?」
「そうではない、この国では魔法使いという職業は長い間いなかった。帝国からのいざこざをおそれてね。でもこれからは魔法使いや魔女が登録されたら優遇されてもいいけどね。まあ、出来ることによるかも知れないけれど。
俺のことを知らなくて、ただ魔法使いだと思って襲ったのなら、話してから処分を言う前に話さないとね」
「「⋯⋯」」
ゴクリとつばを飲み込む音が聞こえたのはどちらだろう。
「俺の公式な名前は、ファーリィン。フルネームは、ファーリィン・ラ・ランデルソール」
「ランデルソール」
「まさか」
王子の印章が付いた宝剣を見せる。こんな物を見せたところで帝国の人間が理解しているかはわからないけど。
「王子だったのか」
「そうだ、この方は、次期王太子のファーリィン・ラ・ランデルソール王子殿下であらせられる」
改めて恭しさを足してスボールが俺を紹介する。
「そんな、じゃあ本当に俺達は死ぬしか⋯⋯」
「帝国でも皇帝一族に絡んだら死罪なのだ。そりゃこの国でもそうか」
別にそうではないけど。一応、裁判などを経て刑を執行するわけだけど。
「はいリーン、お茶入ったよ。砂糖とミルクもちょっと多めに入れたよ」
「サンキュ、アズール」
コクリ。
温かい香りと甘さが落ち着く。
「さて、今まで俺を襲って極刑になったものはいない。貴方達が初ってことになるね」
「う⋯⋯」
「⋯⋯」
「ただ、俺には自分であるいは部下に命じて処分執行を出来る権限があるけど、せっかく見つけた、魔法使いの種かも知れない貴方達を思うと、ちょっともったいないと思うんだよね」
「ファーリィン殿下、ここはけじめも必要ですよ」
「でも、二人は俺が王子だと思って狙ったわけじゃないんだよね」
「はいもちろんです」
「優秀な魔法使いだと思っただけなんです」
後ろで縛られてても、背筋だけは伸びて、態度と言葉遣いが変わる二人。
「優秀な魔法使い相手に銃としょぼい剣だけで挑むのには敬意を払いたいほどだが」
「ぷっ」
「これ、アズール」
「ごめん」
俺は、薪の炎が揺れる温かいテーブルに指をコツコツとしながら考えを巡らせる。
帝国の対魔法省とか魔法使いを誘拐するように連れて行ったり、求職者に都合よく見える求人で他国の労働者を募集しておいて、カラカラになるまで魔力を吸い出し、生命力を使い込んだりして放り出すとか、許せるものではない。かなり悪意を感じるし、すぐにでも乗り込んでいって、ランデルソール王国民や他の国々の人たちを救い出しに行きたい。すごく行きたい。
でも、それでは戦争になってしまう。俺から戦争をしに行くのは駄目だ。大義名分があったとしても。
「二人は奥さんや子供さんがいないようだけど、親や兄弟は?」
「母親はいます、実家には兄がいて、妻や子供もいます。子供はスボール殿より年上です」
「ということは、ほぼ成人と」
「はい」
ダンゲには同居していない家族がいる。
「俺は両親が揃っています。祖母もいますし、妹もいて、まだ学生なんです」
ボゥグ には両親と妹。それにお祖母ちゃん。
「妹さんは可愛い?」
「生意気ですけど、可愛い方です」
緊張から少しやわらいだ表情になる。
「殿下、わざわざ処分しにくくなるような内容を聞き出さなくても」
「スボール、ここはね、賢くやっていったほうがいいんだよ。
正直、帝国の知り合いなんて一人もいたことがなかったし、これはチャンスと思わなくちゃ」
「知り合いって⋯⋯」
「でも、貴方達を信じることは俺の立場上許されていない」
二人を見る。
「はい」
「分かります」
「貴方達にはしばらく俺と魔法によるネイチャーパルス契約をしてもらいます」
「ネイチャーパルス?」
「契約?⋯⋯」
「紐で縛って連れ歩くのも現実的じゃないしね。もっと自由で見えない。だけど紐」
「リーンちょっと、それって何?聞いたことないんだけど」
「平たくいえば奴隷契約だねスボール。思想的に違うやつからすれば、眉を寄せて詰めてきそうだけど、一時的な処置だよ」
「お願いします」
「おい、簡単に了解するなよ」
「でもこれしか生き残る方法はないのでしょ?」
「ああ、嫌なら命はないね」
「なるほど、⋯⋯つぅ⋯⋯。べつに俺の命はどうでもいいが、確かに家族のことを思えば⋯⋯」
「でしょ、ダンゲ足の痛みがひどくなってる?止めたのは出血だけだからね。まだ弾丸も埋まったままだし。ネイチャーパルス契約をすれば怪我も治します。それと一時的だけど魔法が使いやすくなるかも知れない」
「魔法を?」
「つながる契約の相手は俺だから。では処置する前に内容をいいますね」
拒否権はないのに重要事項を言う。俺って黒いよなぁ。
「その前に使い魔って分かります?」
「魔獣と契約して使役することか?」
「そう、従魔ともいうね。魔法が廃れて、使い魔の技術も消えつつあるけれど、それです。
使い魔契約ができなくなってからというもの、魔獣は討伐することしかできなくなってるけれど、契約して使役すると、素晴らしい身体能力を借りて活動することが出来るんだよ」
「で、それと、ネイチャーパルス契約?だっけそれとどういう関係があるの?」
「⋯⋯これは、人を魔獣化して契約するんだ、アズール」
「魔獣化?」
「このおっさんたちに獣の耳や尻尾が生えたりとかするってことか?」
「うわっ」
思わず頭を抱えるボゥグ。
生えないって!
「ダンゲ、動物と魔獣の違いを知ってる?」
「たしか、魔力を持ってて体内に魔石を持ってるのが魔獣」
「そう!人間が魔法を忘れても、魔獣は魔法を忘れないんだよ。そうなればどうなることやらっとごめん、脱線した」
「確かに、ファーリィン殿下に⋯」
「リーンでいいよ。負担は呼び捨てでね」
「リーンに言われて、この世の中から魔法を根絶するには無理があるとわかります」
「どうして帝国はまわりにけんかを売ってまで魔法を排除しようとしたのでしょう」
「貴方達は帝国で学業は修めてるんでしょ? 役人だもんね」
「「はい」」
「そこで、帝国の歴史は?」
「ありました」
「それまでも、結構好戦的だったけど、あるときから魔法を忌み嫌い出したきっかけがあるでしょ」
「あ!」
「勇者たち⋯⋯」
「それが原因だね、それより早く治療をしたいから、契約をしよう」
「ああ」
「ちょっと準備をするからその間に魔法入門書でも読む?」
「へ?」
「ただの暇つぶしさ」
「自分が読みたい」
「私も」
アズールとスボールにフリフリさせた尻尾が見える気がする。
「君たちには完成したのを進呈するから待って!」
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