59【魔法のケトル】
56話から少し修正しました。
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「魔法使いって何だと思う?」
「その名の通り魔法を使うものだろう?」
「その定義は対魔法省の?」
「そうだ」
「アズール、二人が話しやすいように飲み物を入れようか」
喉が乾いていると声が出にくいよね。
「⋯⋯わかりました」
「スボール、ダンゲとボゥグの右手の束縛を外してくれない?」
「ああ」
ダンゲの前に凝った模様のケトルを一つ置く。
銀で出来てるようで実はミスリル製の超高級品のアンティーク物だ。
「ダンゲ、まずはこのガラスペンを持ってみて」
本当は魔石ペンだけど。
「あ?ああ?」
「⋯⋯結構光ったな」
「ね。しかも赤いよ」
「羨ましいことだ」
「どういうことだ?」
「自分からは言えない」
「まあまあ、じゃあ、ボゥグも持ってみよう」
「私が持ってる方を使います」
「わかったスボール⋯⋯光ったね」
「青?いや赤?これはどちらでもない?」
「紫色だ、珍しい」
「どういうことだ」
「まあまあ(二回目)、
そんなことより、喉が渇いているだろう?見たところ荷物はないようだし」
「荷物はある、ここから東の方に馬を二頭繋いでいる」
「そう」
ナイトアリゲーター対策はしてあるんだろうか。
「まあ、馬はまたあとでね。どうせ俺達も東の方に移動する予定だ。
さて、お茶だよ。ここにケトルがあるでしょう?」
「ああ」
「蓋を開けるから覗いてみて?触ってもいいよ。ただしこのケトルは金貨五枚の価値があるからね」
「五⋯」
「Aランク冒険者なら子供でもこんな物が用意できるようになるんだ」
「そんなわけ無いだろ」
「ふふふ」
パカッ そして傾ける。
「すげえな、中が焚き火に反射して、夜だと言うのに見て空だと分かる」
俺は革手袋を嵌めて触っている。
「そう、空っぽ。ケトルって水を入れる口は大きめだからね。蓋にも仕掛けはないよね」
と見せる。
「ああ、別に厚みがあるわけではない」
蓋を閉める。
「うん。じゃあダンゲ、これを持って普通に手で持つんだよ」
「あ、ああ」
「俺は一旦手を離すよ」
「軽いな」
「でも重くなってきたでしょ」
「あ⋯⋯」
「じゃあ、その取っ手の上のところに赤いルビーが嵌ってるでしょ?」
「ルビー?」
「それに親指を当ててしばらくいてね」
「は?」
「いいからいいから、あ、段々熱くなるから気をつけるんだよ」
「熱く⋯⋯?」
シュー
「わわっ音がする」
「うん、水が入ってさらにお湯になるように沸かしている」
「なんだ、これは魔道具か」
「そう、魔道具は帝国にはないの?」
「ある、役所では魔道具が結構たくさんある」
「その魔道具は何で動かしてるの?」
「焼成魔石というものだ。だからそれを入れるために大きな物が多い」
「ふうん、魔石使ってるんだ。わけ解んない」
「もしかしてその焼成魔石って、魔力を充填するタイプ?」
「そうだ」
「魔力を充填するためにはどうやってるの?」
「役所に焼成魔石のための部署があってそこで空になったものと交換して使う」
「交換するのにはお金が必要なのか?」
「ああ、役所が使うものは無料だが、一般が使う為の焼成魔石は有料だ」
「焼成魔石は日常の魔道具にしか使わないのか?」
「いや⋯⋯殆どは工業用に利用されている」
「蒸気機関では不都合な機械の動力に焼成魔石を使った機械で動いている」
「⋯⋯まさかそれって」
「口にしないのスボール」
「分かった、悪い」
シュンシュンシュン
ピー
「わわわっ」
「落とさないでね!」
ケトルのお湯が湧くと笛がなる。そんなの、魔道具じゃなくてもあるよ。
「んじゃ、こっちのポットに茶葉を入れて⋯⋯
ダンゲ、こっちのポットにお湯を入れて」
「ああ⋯⋯⋯。熱湯が出てきたな」
「そう、何もないところから熱湯が作れる魔道具だ。この程度のものなら帝国にもある?」
「こんな小さなものはない。せいぜい大きな魔導コンロとかだ」
「なるほど」
「リーン。カップを置くよ」
「うん、ありがとうアズール。そろそろいいね」
ポットから熱い蒸らし終わった紅茶を三つのカップに注ぐ。今はスボールとアズールの分はない。寛いでいるわけじゃないからね。
「二人は、お砂糖とミルク入れる?」
「砂糖とミルク?」
「そう!美味しいよ!」
「美味しい?
じ、じゃあ両方を」
「⋯どうぞ。ボゥグは?」
「俺は何もなくて良い」
「わかった。はいどうぞ」
「ありがとう」
「おい、ボゥグ。子供が出したものだからって油断するな」
「あっ⋯⋯」
ボゥグは案外食べ物に釣られる?タイプ?
「この紅茶のお湯を作ったのはダンゲなんだけど? 信用できないなら俺も飲むね。
⋯⋯うん、美味しい、さすが王家御用達の高級紅茶だ」
「王家⋯⋯」
「さ、二人ともどうぞ。あ、ボゥグの右手も外してくれてるんだっだね」
「流石に俺の手から飲ませてやるのは嫌だ」
「ははは、分かる」
「フン。⋯⋯ふわぁ」
ボゥグが一瞬、複雑な顔をした後に紅茶を飲んで顔が緩む。
「なにこれ、美味しい」
「でしょ? なんならお菓子もどうぞ」
「ビスケット? はいらないや好きじゃないんだ」
「帝国のビスケットとは違うぜ。俺が自分用に作って焼いたんだ」
なんなら、毒見代わりに一つ食べる。
サクッ
ドライフルーツをふんだんに使った一品だ。旨い。
俺が食べると二人もビスケットに手を出して口に持っていく。
「⋯⋯本当に美味しい」
「確かに旨いな」
「でしょ。もしかして、帝国って役人でもあのビスケット?」
「多少形が違うが味は同じだ」
「まずいんだよね、外国の人達が羨ましい」
「任務で外に出た途端、帝国の食事は口にできなくなった、正直なところ」
「でも、俺を捕まえたら帰国する予定だったんだろ」
「ああ。しかし目的が達成できたらまた出国すれば外の飯が食える」
「我々は役人だから、出国はしやすいのさ」
「さて、もう一度縛るぞ」
スボールが言う。
すっかり大人しくなってるけれど、ここは慎重にね。
「⋯⋯いいぜ」
「俺も」
「で、二人は捕まえろと言われている魔法使いの、定義とはなにか分かる?」
「超常的な攻撃の出来るものとしか聞いてません」
「帝国ではそう教わっていて、魔法が使えないものには敵にしかならないと」
「魔法使いが帝国に攻撃した記録はないんだけどなぁ」
「そうなんですか?」
「それより例えばこれ、積層の魔導士が書いた、〈魔法入門書〉の現代語訳本の改訂版なんだけどね」
「そんなのありましたっけリーン」
「俺が今現代語訳してる最中で、まだ校正段階なんだけどね」
「すげ」
「なにしろ原書からずいぶんずれちゃっててさ」
「もしかして原書から現代語訳してるの?」
「そ」
何しろ原書を書いたの俺だし。本物の原書は違うところに保管されているらしいから、ランデルソール王宮図書館にあったのは何代にも渡って書写されたものだけどね。
二人の帝国人は大人しく俺達を見ている。
「で、魔法使いを見つけて連れて行くつもりだったと思うけど、二人は魔法使いや魔女ってどういう人のことだと認識している?」
「魔力が沢山あって魔法を使う人」
「そうだね。そこで、魔法の使い方にも色々あるけれど」
と、一つの魔法の杖を後ろ手のアイテムボックスから出す。
これは魔法係の納屋にあったほう。エルダートレントを磨いて、ワイバーンの魔石を嵌めてある。納屋にあったときは魔石の魔力がすっからかんだったけど、いまは水属性にして魔力もパンパンに充填してある。
「魔法使いってこんな杖も使うのを知ってる?」
「ああ」
「魔法使いといえば、杖で攻撃をすると」
「まあね。これは今は水属性にしてるから、水の矢とかができるよ」
詠唱しようかな
«水の精霊よ、その矢の力を示せ»
パシューッ ガッ
「すげー!」
「え?でもそんなの無くてもリーンなら」
俺サイドのギャラリーが湧く。
「しっ今は黙って」
それでも杖を使って出した水の矢を見た二人は固まっていた。
「あそこの石が割れたぞ」
「水で?」
「いやいや、銃でもあの石ぐらい割れるでしょ?」
「銃は鉄の弾だぞ、水の矢ってことは水なんだろ?」
「そういえばそうか。おどいちゃうか」
拘束されてる二人が頷く。
「つまり魔法使いの杖も魔道具ってことなんだけど」
「ああ」
「理解した」
「ここで、このさっきの〈魔法入門書〉の冒頭に書いた文章に、〈魔法使いの定義〉ってのがあるんだけどね。読むよ」
〈魔法使いの定義:魔法使いとは、自分の魔力を利用して、直接的にあるいは杖などの魔道具を使用し、自身の属性あるいは補助を使って他の属性の魔法を使う者のこと。
魔法は、日常的文化的な活動を補助するもの、心身や自然の具合に活用するもの、生産の補助になるもの、そして狩りや戦の時に身を守るものあるいは攻撃そのものに活用するものまで多岐にわたる用途や活用がある。〉
まあ、魔法使いや魔女をやるにはそれなりの魔力量や魔力操作の能力が長けていないと名乗れないんだけどね。魔力が無くても大きな魔石で魔力操作ができれば魔法使いとしてやっていける。その先のジャンルに制限があるけどね。
「この定義によれば、俺は勿論さっきから魔法を使いまくりだから当然〈魔法使い〉なんだけどね、ダンゲもボゥグもコンロなどの魔道具が使えるだろう?」
「ああ」
「確かに魔導コンロなら使ってる」
「それが杖を使って水鉄砲を出すことと程度の差はあれど、魔法を使ってることになるでしょ」
「あっ」
「そんな⋯⋯」
「貴方達も定義の中では魔法使いなのさ」
「なるほど、魔法を使うものは魔法使いだな」
おじさん二人と違って、スボールやアズールは王都でのちょっと楽しい魔法教室の続きみたいなものだ。
「自分たちも魔法使いになっちゃってたんだね」
「そう!スボールやアズールも風魔法の練習中だよね」
「ああ」
「そうだね。じゃあダンゲは立派な魔法使いってことじゃねえか?」
スボールが明るく言い切る。
「⋯どういうこと?」
ボゥグはまだ二十歳だから時折子供っぽさが出る。それは中身が子供ではない俺だから感じるんだけどね。
「さっきのケトルか」
「そう、あれは魔道具。取っ手の内側に水属性の魔石があって、上の赤いルビーと言ったのは火の魔石。それを掴めば誰でも最低カップ一杯分の湯が魔法で出せるのさ。魔石は属性を整えて発動させるためだけのもので、それを動かせるほんの少しの魔力さえあれば本人の属性は関係なく使える。
この魔道具は幼い子供や、魔力枯渇症でもない限り使えるのさ。
そして、ダンゲは三杯分どころか、このケトル満タンのお湯が作れた」
「そうだな」
「ただ、この魔道具の仕組みをつくる技術は失われかけたものだ。手に入れるなら高級アンティーク店で、金貨五枚分もお金が必要なんだ。けどね、魔法が衰退していない時代なら、こんなケトルは金貨どころか銀貨二枚もあれば買えたのさ」
「銀貨二枚で湯を出す魔道具⋯⋯」
「そ、不便だよね」
「たしかにそのケトルがあれば、デカい水の樽を馬車に積む必要が無いな」
「魔道具を作っていたのは魔道具に特化した魔法使いだからな。今は殆ど失われた技術さ。
しつこく魔法使いを狩りにくる帝国のせいで、何代も前から魔道具の仕様を捨て、薪や炭で食事を作ってるんだよ」
「帝国でも庶民はそうだ」
「だが薪や炭での煮炊きは、締め切った部屋でやると見えない毒ガスが出て、死んでしまうのだ」
「見えないぶん瘴気より恐ろしい」
「それが?」
「帝国は比較的南にあるが、フーリオ公国などの北国は冬は寒いのだ。そんな時に窓を開いて朝餉を作る家庭のお母さんたちは大変だろうな。煙突があるからって、暖炉で料理をするのも面倒だしな」
「それでも、帝国からのあんた達みたいな、魔法使い狩りが怖くて、魔道具コンロを捨てたのさ。一時は魔道具を使うだけでも連れて行ったらしいじゃないか」
「魔法を勝手に嫌うのはいいけれど。帝国がその思想を力ずくで周りに押し付けたって歴史を習ったぜ」
「ああ。迷惑な話だ」
「だよね。自分たちは工場や役所で魔道具を使ってると言うのに」
「そんな⋯⋯」
「そんなことは知らなかった」
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