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かつて大賢者だった黒猫は王子に転生しても魔王ひとすじ  作者: 前野羊子


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56【野営広場】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

「リーン達遅い!」

 ダッシュ領の複合館ロードタッシュ・コンプレックスから、馬車でベルトア総合繊維販売のトレランツの邸宅に送ってもらった俺達は、お腹を空かして少しお怒りのカリノに出迎えを受ける。


「ごめんごめん」

「リーンが寄り道するからさぁ」

「寄り道?馬車で行ったのに?」

「そう、あっちに付いてからだけどね」

「中が広いし」


 アズールが調子に乗って勝手にバラす。カリノの前で良い格好をしたいお年頃か。

 バラす相手がだれでも良くはないからね。後でちょっと注意しなくてはね。

「しょうが無いじゃん」

「ほほほ、そうですよ、こんな夜更けに遊んでたわけてはないのでしょう?」

「そうだよカリノ。リーン殿に失礼だよ」

「ごめんなさい」


 両親にたしなめられて大人しくなる。


「それに、御者の兵士に聞きましたぞ。施療院の患者を全員治したとか」

 俺達を待ってくれていて、遅くなってしまった夕食を一緒にいただく。

 メインはラムのステーキとシチューだった。

「はい!今施療院にいる人は症状が緩和しました。それに領主がマジックポーションの作り方を思い出してくれたみたいだし、領主の兄も元気になったから、彼が魔法使いとして頑張ってくれると思います」

「それは安心ですね」

「ええ、ただ、これから帰国する人はまだいますからねぇ」

「そうですな。でも、回復するという希望が出たのは大変素晴らしいです」

「うん」


 翌朝、俺達はダッシュ領を出発しようとしていた。

「では、申し訳ありませんがこの荷物をおねがいします」

 トレランツのベルトア総合繊維販売が連なる端っこにあった商業ギルドで、領主の兄のテキスティから荷物を預かる。

 カウンターの傍らには天井近くまで積み上がった麻袋があった。

 中身は秋に入り冬に向かう季節に欠かせない、炭だ。

 ここから先は平地が多く林や森が少ない。

 生えている木は低木に限っていて、建材どころか燃料にも難しい物が多い。

 そこで、冬越しの炭を配達するのだ。さらに村々へ配給品として配っていくもの。

そしてそれは一年に一度きりではなく何度も。だが、俺のアイテムボックスの能力を知った商業ギルドが半数を運ぶよう頼んできたのだ。

「ここからパブロ村までの、ギルドか町長宛に置いていってください。数はこの紙に表示してあります」

「わかりました」

「あの、かなり多いですが大丈夫ですか?馬車へ運びましょうか?」

「大丈夫ですよ、こんなに沢山そもそも、馬車に乗りませんよ」

「は?」

「では預かります」

 

 ちょっと多いから、麻袋の一つを触ってアイテムボックスに仕舞う。

 シュン


「おおー」

「すばらしい」

「でも、床が」

 炭の破片や粉で黒くなっている。

「麻袋は目が荒いですからな落ちてしまうのです。

 はっ、もしや貴方様のアイテムボックスとか言うものの中でこのように散らばるのでは?」

 テキスティがそれは困ったように聞いてくる。


「心配無用です。アイテムボックスの中では蓋のない鍋のスープもこぼれないのです」

「なるほどです。何しろ空間魔法は知識としては知ってましたが実際目にしたのは初めてです」

「ん?収納の魔道具はありますよね」

「それらは失われた技術で、今まであった物をリメイクして作ってるものばかりです。新しい魔法の鞄というものはないはずです」

「そうなのか?」

「⋯⋯自分達が殿下にもらったのってそんなに貴重なんだ」

 アズールが少し青い顔でつぶやいている。

「いや、それらは俺が付与したやつだから、貴重じゃないよ。そもそもアンティークじゃないし」

「なおさら貴重じゃん」

「まあまあ、それより出発するよ」

「「はい」」


 これで、施療院の訪問に炭の配達が足された。

 後は余計なことはできるだけ避けて、辺境伯領にたどり着きたい。


「途中で落とし物を拾わなければいいけど」

「し!口に出すと本当になるかも知れないんだぜ」

「あっごめん」



 三人組の馬車が平原をゆく。


 俺達は今度こそスムーズにダッシュ領の端っこのライリーブルグ町の商業ギルドに炭を降ろし、施療院を回ってから一泊して日の出とともに出てきた。見た目は手ぶらに近いが、大量に炭を運んでることで、新たな荷物は引き受けなかった。


 この後は二日野営して、三日目も小さな村だ。そこでも下手をすれば野営かもとこの街道を通ったことがあるアズールが言う。

 でもね、変な小屋に泊まるぐらいなら野営のほうが良いんだよ。


 そして、野営となると、明るいうちに落ち着く必要がある。馬の交代もないから早く休ませたいしね。

 まだ夏だけど、一時より日暮れが早くなってきた。それに内陸に向かうにつれて夜は寒い。

 

「野営広場が見えてきたぞ」

「おー」

「はーい」


 今回初めて訪れる〈野営広場〉。前回の冒険者リーンの時もお世話になったけどさ。ここではなかったけど。

 国によっていろいろ仕様が違うけど、ランデルソール王国では建国当時から街道沿いの野営地を広げて整備している。兵士が巡回する時に修復したりしてね。


 井戸、簡易トイレ、そして、魔物よけの結界⋯⋯壊れてんじゃん。

 杭はまだ使えそうだからこのままやろうかな。

 夜に光ってないと壊れている証拠。


「アズール、前に通った時もこんな感じ?」

「ああ、誰もいないと真っ暗だよ」

「なるほど」

「それが?」

「ダッシュ領の訓練場と同じで、結界が壊れてて。このままじゃ魔物が入ってくるよ」

「ここって、魔物を避けられてたの?」

「本来はね」

「いつも、ナイトアリゲーターがそっちの沼地からやってくるから、絶対交代で見張るんだよ。彼奴等は光に弱いから、細めの薪を持ってきて、絶対焚き火が消えないように⋯⋯って薪なんて用意してる?」

「ちょっとはあるよ」

「ちょっと?」

「とりあえずこの野営広場の結界を復活させよう。それだけで明るくなって魔除けになるから。でも、睡眠を妨害するほど明るいわけでもないからね」

「うん」


 暗くなってしまう前に折りたたみの簡易コンロを出す。

 これはローテーブルになってて、真ん中がコンロになっている。五徳も付いてるし、網や鉄板を置いて屋外でバーベキューをする時に活躍している道具だ。コンロのところは煮炊きの時は炭を入れるけれど、屋外で動物を避けるなら薪をくべて炎を絶やさないようにするんだ。

 食事のための鍋を五徳に置く。中身はまだ熱いからちょっと再加熱だけ。

 その他の食材やカトラリーなども周りのテーブルに置いていくのはスボール。後はランタンも一つ。これは生成した羊の油が燃料だ。

 アズールは続いて、椅子を馬車から取り出してセットしてくれている。


 その間に俺は、トイレに行って、その様子をチェック。

「やっぱ、くっせ」

 ちょっと離れて魔法で出した熱湯で洗浄乾燥。

«ピリフィケーション»

「よし」


 続いて井戸。

 釣瓶が切れてるじゃん。脇に置かれたバケツ。この状態では水は汲めないね。

 


 本来兵士の仕事だけど、俺だってこの国のスタッフみたいなものさ。

 手持ちのロープを出して付け替える。

「これでよし」

 ついでに井戸の底に向かって浄化魔法。


 そして、早くしないと。

 暗くなるとナイトアリゲーターが出てくる。

 あいつは明るいと臆病だが、暗いと強気になるんだよ。

 そして強烈な闇魔法の魔物。噛みつかれたらそこから呪いのように裂傷が悪化する。普通の治療では治せなくて、解呪を組み合わせなくてはいけないんだ。

 魔法が衰退してるこの国でも解呪の魔法は残してある。

 あれ?解呪なんて魔法しか無理なんだけどな。帝国ならどうやって治療するんだ?

 あの国にもナイトアリゲーターは出たと思うけど。




 そんな黒いワニを始めいろいろな夜行性の魔物や獣、そして虫も避けられるスグレモノの結界が壊れているなんてありえないよね。


 会場をぐるりと見回して、メインの魔道具を見つける。一番太い杭。

「うーん」

「それを抜くのか?」

「そう、抜くのは出来るけど、木槌を持ってきて」

 身体強化をして、それを抜く。

「わかった」

 

 ズボッ


 抜いた部分にスリットがあるから底を持ってねじると、ミスリルに包まれた魔道具が出てきた。

「やっぱり、ここの回路がきれてるね」

 地中からの自然な魔素を取り込む仕組みが切れてる。これじゃ結界を起動するための魔力が足りなかったんだ。

 その魔道具をさらに開いて中に入ってた、大人の拳骨ほどの大きさの空っぽの魔石を取り出して、とりあえず魔力を籠めていく。

 光魔法に特化した魔石と魔道具。眩し。

 それを再びもとに戻して杭の下部にねじって固定。


 顔を上げると他の杭も光り始めたのが分かる。

「すげ、こんな事になってたんだな」

「そ、だから杭を減らしたら駄目なんだよ」

「邪魔なのになんで杭が残ってるのか知らなかったな」

「でしょ、大事なんだよ」

「よし、私が杭を打ち込むよ」

「サンキュ、スボール」


 コーン コーン コーン


 杭が打ち込み終わったらますます結界のつながりが白く光出す。


 トイレや井戸を含んだ広場。魔物や獣、害虫だけが入ってこない。

 それでも、馬車の中まで明るくするわけではないから、睡眠妨害になるわけでもない。


「風呂作ったら入る?」

「入る!」

「こんなところで?」

「うん、出来るよ」

「恥ずかしいけど」

「幕で囲むから」

「じゃあ」


 本当は土魔法でガッツリした物を作りたいけど、今回は木樽風呂だ。

 

 もともとそれのための溝が、トイレと井戸の間にある。

 溝を挟むように置いてあるレンガを整える。ちょっと足りないな手持ちのレンガを足して、その上に王都で買ってあった風呂桶を載せる。栓を溝の上に来るように置くのが大事。


 水を少し入れてから傾き具合を確認して、そこいらの石などを挟んで整えたら今度はいきなり湯を入れていく。

 湯が増えるのを待ってるうちに。残りのレンガの上に簀の子を敷き詰める。そして手桶と風呂椅子を置く。

 そしてそれらの周りにパーテーションを並べて、出入り口の部分に暖簾をぶら下げたら完成だ。


「風呂できたぞ」

「すげ」

「シャワーがないからね。この、簀の子スペースで体を洗って流してから最後に浸かるんだ。出る時はこの栓を外して湯を捨てながら出てきて」

「なるほど、それでお湯がたくさん入ってるんですね。こんなの溢れちゃうからもったいないと思ったけど」

「そう、頭と体を洗ったらちょうどよい湯量になると思うんだ」

「わかりました」

「風呂桶の内側は防汚効果を付与してあるから、洗わずにすぐに次の湯を入れるからね」


「⋯⋯」

 俺とアズールとのやり取りをじっと見ていたスボール。

「どうした?」

「リーン」

「なに?」

「この屋外の風呂も図書館の本に載ってたのか?」

「たぶん⋯でも、一応やり方は考えていたんだよ。あとは王都で風呂桶を買った時に店員さんに教えてもらったんだ。風呂桶を馬車の屋根にのせて移動するらしい」

「なるほどな」


 王都の冒険者ギルドの並びにあった樽・桶専門店 ってあって、そこに色々あったんだよね。風呂グッズ一式もあった。

「あ、石鹸これ」

 柑橘の香りのお気に入りの石鹸を、小さなラックに乗せて風呂桶に引っ掛ける。ここなら流されにくい。

「よし、じゃあ誰から入る?あ、俺は最後でいいよ」

「そんな、一番風呂はリーンが」

「入れ替えるんだから一番もラストもないよ」

「じゃあ、アズールから入れよ」

「わかった」



「ふぃー」

 最後の風呂に入る。

 露天風呂なんていつぶりだろう。

 そういえば、コカトリス狂竜鶏(ドラグーンバッド)の巣の捜査で入った絶壁山の麓に温泉があったよね。あの山はもともと火山で。

 いつかディーン様と訪れようと思ってたけどまだ入れずじまいだな。


 今生では行けるだろうか。それよりまだあの地に温泉は湧いているだろうか。

 湯気が混ざる満点の星空を見て過去と未来に思いを馳せる。


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