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かつて大賢者だった黒猫は王子に転生しても魔王ひとすじ  作者: 前野羊子


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55【旧ダッシュ王城3】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 王城だったダッシュ領の複合館。当時は〈パレス・コンプレックス〉と言われていた。今はロードタッシュ・コンプレックス。


 通り沿いに教会と施療院。アプローチを挟んで冒険者ギルドと商業ギルドがある。

 アプローチを入ってずっと向こうの突き当たりに本館。その手前は、通り側から、施療院の後ろに国軍の訓練場を兼ねた詰め所、領の軍と領の騎士団の詰め所訓練場は別にある。出動するために入口近くにあるのだ。向かいは冒険者も使える一時的な滞在から軍人がすむアパルトメント。

 本館寄りに迎賓館。迎賓館とは乗客を滞在させるのに良い響きだが、相手によっては本館に一歩も入ることなく終わってしまうらしい。


「パレスの時代から殆ど同じ配置」

「そうですねそれも図書館にあるんですか?」

「はい。国軍の訓練場はもとはダッシュ王国軍と騎士団が使ってたんでしょう?」

「よくご存知で」

「ランデルソール史は各領の歴史が書いてある書物も図書館にあるからね」

 っていうより、この配置を相談されたんだよね。


「ちょっといいかな?」

「はい?どうぞ?」

 

 ふわりと訓練場に足を入れる。

 «ライト»

 光魔法を浮かべながら。


 夜だから人はいないけど、真っ暗ってのがいただけない。

 やっぱり魔法訓練のための防御魔法が切れている。壁が結構破損している。

 防御魔法が切れていたら普通に飛び道具なんかでも煉瓦造りの壁が破損する。

 俺が積層の魔導士と言われていた時代のさらに若い頃に、ダッシュ女王に頼まれて建設を監督した複合館。この壁に防御魔法を施してから六百年経っている。

 それ以来多少はメンテナンスしてるだろうが、大掛かりな魔道具を修復できる魔法使いは今は少ない。

 きっと今の女領主ヘンヒブレであってもなのだろう。


 訓練場をズンズン歩いていって、奥の壁の装飾にたどり着く。

「ファーリィン殿下?」

「これが破損してるんだよね」

 真ん中の大きな魔石が割れて光を失っていた。

 手持ちにはこの大きな魔石は持っていないけど、組み合わせればいいだろう。

「なぜそれを?」

「図書館にあったんですよ」

 何でも図書館のせい。今生でも役に立ってる。ありがたいことだ。


 短剣を出してガツガツと割れてる魔石を取り除く。


「殿下、私がやりますよ」

 スボールが声をかけてくれる。確かに力がある方がいいよね。

「たのむ」


 引き続きガシガシと魔石を割って取り除く音がする横で、俺は手持ちの魔石を取り出しておく。

 魔法係の納戸から失敬していた空魔石で近しい大きさの物を取り出す。この魔石はきっと小さめのワイバーンぐらいだろうか。最近見かける魔石の中では大きな方だ。

 そこに土属性メインに魔力をそこに充填していく。

 

「この魔道具は王宮の訓練場にもありましたよね」

 アズールも見覚えがある通り、王宮の騎士団と軍のそれぞれの訓練場にもこの仕掛けはある。

「だろ?これがないと耐えられないはず」

「今は魔法訓練があるわけじゃないですからそんな必死じゃなくても」

「でもねヘンヒブレ、帝国の武器にちょっとでも対抗できるようにするには魔法が大事。

 俺は魔法を復活させるよ。だから、君にも手伝ってほしい。この領地で」

「ふふふ、たしかにそれは夢のようですね!もちろんですよ」


「殿下取り除けました」

 スボールからの合図。

「了解」


 エメラルド色に輝き始めた魔石を新たな守りの要としてはめ込む。


 ヴンン⋯⋯


 ほんの少しの振動があって、装飾と思われていた魔法陣が描き直されて光っていく。

「わぁ!きれい」


「なんだなんだ」

「もしかしてアズールと殿下?ダッシュ領に来てるんだ」

「すげ⋯⋯」

「やっぱり殿下は凄い魔法使いなんだな」


 軍の兵士たちが平服でわらわらと出てきた。

 国軍のほうだから、見たことがある人も二~三人いる。さっきの馭者もいた。


 そして訓練場の中が綺麗に整っていくのがわかる。俺の〈ライト〉を消してもぼんやり光っているのだ。


「よし、これで」

 何もかも修理するのはむりだけど、通りすがりにちょっとずつね。

「ヘンヒブレ、もし魔法の訓練をするなら必ずここで」

「そうですね。ありがとうございます」


「さてごめん、寄り道した。早くポーション作りに行かなくちゃ」

「とんでもない。ありがとうございます。修理の費用はどうしましょう」

「これは国軍の施設の方でしょ?王子の俺が修理したなら修理費用は国が出すべき。もちろんダッシュ領が使ってもいいんだよ」

「殿下⋯⋯貴方様はまるで⋯⋯」

「まるで?」

「いえ、将来は伝説の魔道士のようになられるのじゃないですか?」

「ははは、まさかー。名前の韻だけもらっただけですよ。さあ調薬室に行きましょう」

「はい!こちらです」

 っぶねー。まさかあのおっさん肖像がのひとと一緒にしないでほしいよね。中身はいっしょだけどさ。


 本館に踏み入れた俺達は入口で手洗いを借りる。

 建物に入ったら手を洗わせてもらうのはエチケットだよね。


 なんとなく見覚えのあるホールの真ん中に降りている階段を登って二階に案内される。


 唐草の魔法で閉じられた扉がひとつあって、領主が自分でそれを開ける。

「こちらです」

 扉を開けてもまだ廊下。


「ここはダッシュ領の魔法省跡?」

「はい」

「すごく年季入ってますねぇ」

「でもきちんと管理されてるよ。多少は使ってるみたいだけど」

「お恥ずかしながら、王国だったときからあまり変わってないらしいです」

「でも、あの訓練場と違って保存の魔法が効いているから綺麗なんだね」

「そうですね、調薬室はこちらです」


 そこには本当に六百年前から変わらぬ調薬室があった。


 引き出しが一面に並んだ壁。

 別の壁面一面には年季の入った本が並ぶ書棚、大きな板ガラスが高価だった時代の細かな桟《さん》が入った美しいガラス窓。

 重厚なカーテンは流石に六百年前ではないだろう。


 キッチンにも応用できる魔法設備。水魔法の蛇口が付いた流し、コンロ。

 そして部屋の中央に幾つかの作業台。台の足の装飾がまた凝ってて時代を感じる。


「ここの道具を借りていい?」

「もちろんです」


 棚に整然と置かれている魔道具たちから幾つかの器のようなものを取ってもらう。背が届かないからスボールに。


「これで終わりですか?」

「うん、じゃあまずこれらを洗おう」

 キッチンで洗ってもらってきれいな布巾で拭ってから光魔法で浄化。



「ヘンヒブレ、銀蓬のポーション作れる?」

「はい、ちょっと思い出す必要がありますけど」

「んじゃ、一通り俺がつくるから見ててね⋯⋯」


 そうやって、一通りポーションをつくる。

 なにしろスボールが持ってた銀蓬の嵩がすごく多くて。


 アク抜きなどの必要な魔法陣を描いた魔羊皮紙だけ渡して、二周目のポーションづくりを彼女に任せる。

 傍らには彼女お抱えの文官がメモを取っているから、安心だね。補助にスボールもついてくれてるし。


 その間に小瓶の再利用だ。とはいえ、この立派な調剤室にも未使用のガラス瓶が揃っていたので、今回はそれを借りて、代わりに手持ちの瓶を洗浄して渡すことになった。


 まずはミルサーって魔道具。

 これは今も現役で、王宮の厨房にもある調理道具。外から見たらジョッキのような樽に見えるが、内側にアダマンタイト入りの硬い合金を薄く貼ってある。

 そこに、今日の朝食で頂いたゆで卵の殻を入れる。

「自分たちの卵の殻まで欲しがるってどういう事?って思ったんですけど」

「ここで使うんだ?なにに?」

「まあまあ」


 ミルサーには風魔法を内側に付与した蓋があるんだよね。それを締めて、締めないと動かないからね。そして蓋側面には四つの魔石で出来たポッチが。

 魔石が小さいものから、〈粗〉〈粒〉〈細〉と表示してあって一番大きな魔石に〈粉 〉とある。粉にするほうが魔力を使うからね。まあこんな小さな道具じゃほんのちょっとだけどさ。

「今は〈細〉でいいかな」

〈細〉と別にある〈起動〉魔石に触れる。



 シューシャカシャカシャカ

「小さく砕いてるってことなんですね」

  サー

「音が変わったね、よし」

 蓋を開けて少し手に取る。

「ほんとに粉になってる」

「〈粉〉ボタンはもっと細かいのさ。でも今はこのぐらいで」

「これは何に使うんですか?」

「使い終わりのポーション瓶の底に緑色のものが付着しているでしょ?」

「銀蓬のカスですかね」

「うん、くわえたところに付着しているものもある。

 肝心の底に届くタワシとか無いからね、この粉で汚れだけを研磨するのさ」


 次に、真空の魔道具を取り出す。これはミルサーよりは何倍か大きい。

 ここに使用済みのポーション瓶と小さい蓋も入れる。

 そして、殻の粉を適量入れて、水を入れる。満タンじゃなくていいのさ。

 それらをちょっと混ぜてから蓋をして、少し中の空気を抜く。


「空気を抜くと、どうなるんですか?」

「瓶の中に勝手に水が入るんだ、どれ⋯⋯こんな感じかな」

 このあとは手を突っ込んでぐるぐる混ぜる。土のついた芋を洗うみたいにね。


 そして、器を傾けて、殻の粉ごと水を捨てる。でもこの水は花壇に役立つので、バケツにね。瓶の方は笊に受けて⋯⋯くれるのはアズール。

 そして今度は水を入れては捨てるを少し繰り返す。殻の粉が入ってない水は廃棄。

 

 ザー

「どう?」

「緑色の付着や、口の汚れはなくなっています」

「キレー」

「素晴らしいですね」

 もう一人の文官が俺達の作業を観察していた。


「んじゃ最後に水をいれて煮沸しよう」

「はい」

 空気を抜いて、瓶の中に水を入れてから火魔法で水をぐつぐつ沸騰させる。キッチンあるけど魔法で。


 そうして、ポーション用の空瓶がきれいに復活した。


「それが乾いたら私どもで収納しますので、そのままでいいですよ」

 文官が申し出てくれる。

「ほんと?ありがとう助かるよ」


 振り向くと冷めてきたポーションの方から瓶詰めが始まっていた。

 温かいうちに蓋をすれば、空気を抜く必要がないからね。


「できたー!」

「よかったー!」


 結局、王宮を出た時に持ってた以上のポーションが出来上がった。

 アズールの実家への進路は帝国に近付いていくんだから、それぞれの施療院の患者が多くなっていくだろう。

 

 これでちょっと安心だね。

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