54【旧ダッシュ王城2】
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「本来この人は後回しにするべきなんですが、きっともう今夜には⋯⋯」
「わかりました」
もはや魔石ペンで確認するまでもなく、魔力が枯渇しているのが解る。
眼球がまぶたの奥で落ち込み、頬はこけ、口は力なく少し開いたその唇は乾いてひび割れている。
ただ、老人のようなその風貌とはおよそかけ離れた、つややかなボルドーカラーの髪を枕のまわりに少し広げて眠っている。
今日はシスタースタイルだから見てないけれど、正月にちらりと挨拶してきたヘンヒブレと同じ髪。いや、歴代の彼女たちと同じ色。きっと目を開くとルビーのような瞳が出てくるのだろう、ヘンヒブレたちのように。
つまり、
「この人は領主ヘンヒブレの兄弟?」
「二つ上の兄のテキスティです。もし、男が優先的に跡継ぎになる他領でしたら、この人が領主をしたでしょう」
「どちらが領主になるかのこだわりはよく分からないけど、それでも、領のために頑張ってきたんだね。元気になったら色々聞けるといいな」
「はい、もちろんです」
どう見ても三十代半ばのヘンヒブレの二つ上がこれ⋯⋯。とにかく魔法使いなんだから速く治療を。
「ヘンヒブレは無属性の魔力を扱える?」
「いえ、私は四属性と光です」
「あ、いやそうじゃなくて⋯⋯じゃあ後で教えるから
帝国帰りの人たちは一様に魔力が枯渇してるから、テキスティほど消耗していたら、無属性から流すべきなんだ」
そして首の頸動脈から、無属性の魔力を流す。ヘンヒブレにも見えるようにちょっとあふれるぐらい。でも流し込む量はちょっとずつ。
「いま無属性魔法を流してるけど、色がないけど煙みたいな物が俺の手の周りに漂ってるのが解るでしょ」
「はい」
「そして、次に水か光属性。ここは水にしておこうかなを無属性に混ぜる」
水属性は青い光。
「なるほど薄い水属性の色ですね」
「でも無属性混ぜているから魔力量はあるのさ」
隙間の開いていた唇が一度閉じられて、瞼がピクリと動く、そして穏やかな表情に変わるのが解る。
「ふう⋯⋯温かい」
「兄上!」
「その声はヘンヒブレか」
「ええ。兄上、首筋から魔力が流されていることが分かりますか?」
「ああ。温かいよ」
「それを全身に動かせますか?」
「おや?子供の声」
「後でご挨拶しますね」
「分かりました。魔力ですね⋯⋯動かせますよ。魔法使いでしたからね」
目をつぶったまま魔石ペンを握ってもらう。
「すごい、四属性あるんですね」
「ああ、魔力量は⋯⋯先祖より減ってるけれど、属性の数は⋯⋯なんとか引き継げている」
「よかったです」
目が開く。ヘンヒブレと同じルビー色の瞳。
「おや、貴方様は⋯⋯もしかして、ファーリィン王子殿下 」
「わかっちゃいましたか。俺はテキスティに会った覚えは無いですけど」
「貴方が三歳の誕生日とお披露目のパーティーに参加させてもらったのです。ご挨拶は一瞬でしたけど」
「そうなんだよ!あんな三歳児に一瞬で貴族たちに挨拶してもらっても覚えられないんだって」
「形式だけですからね」
「とりあえず俺は急いでるので、テキスティこれ飲んで」
とマジックポーションの小瓶を渡す。
「二本行ってみようか」
喉乾いてたのかな、立て続けにごくごく飲んでる。
蓬の汁だからね飲みやすくは無いと思うけど、少ないから。
「んじゃ口直しに水を」
手近のテーブルにあったコップに魔法の水を入れてやる。意識して水属性を溶け込ませるように。
「ありがとうございます。これは美味しい水ですな。殿下は水魔法が得意なんですか?」
「うーん、どれが得意か特化した属性は分から無いけど。結構沢山の属性が扱えます」
「それはそれは、ランデルソールは安泰ですな」
「そう?
それより、帝国にはちょっとコソコソした動きになるけど、父上に言われて魔法師団を復活させるんだ。
それにはすそ野になる魔法使いの数も増やさなくちゃいけないから、はやくテキスティは元気になって、魔法使いとして活躍してほしいのさ」
「わかりました、回復したら必ずや」
「頼んだよ」
ポーション二本と水を飲むためにベッドに座ったテキスティは、始めに見た老人のような雰囲気は和らいで、若く見え始めた。
「帝国のこと色々聞きたいんだけど、時間がなくて、そのうち聞くね。
まずはテキスティはご飯をたべて、体型と体力を取り戻して」
「分かりましたありがとうございます」
いつの間にかいなくなっていたヘンヒブレが戻ってきた、手には流動食の入ったお盆があった。
「兄上、どうなることか。本当に良かったです」
「結構ギリギリでしたね」
思わず本当のことを言ってしまう。
「やはりそうなんですね。まずはゆっくり食事を」
「はい」
「では殿下、次の患者をお願いできますか?」
「わかりました」
個室を出て次へ向かう。
「殿下、そのポーションはマジックポーションですね?」
「はい。銀蓬のポーションです」
「それなら作り方を覚えております」
「なら、冒険者ギルドに採集の依頼をかけてるので、流通してもらえると思います」
「なんと!分かりました!」
「あとは、絞りカスで銀蓬パンを作ってそれを食べてからポーションを服用させれば効果が増幅するので是非。王都では孤児院で銀蓬パンを焼いて施療院に届けてます。パンの製造費を孤児院に渡して、運営の足しにしておりましてね」
「素晴らしいですね、参考にさせてもらいます」
最終的にアズールやスボールでも対処できた軽症の人も合わせると、50人近くに上った。
「リーン、自分の手持ちのポーション無くなってしまった」
「私のは残り一箱」
「まずいなぁうーん⋯⋯」
「リーン、私のポケットに銀蓬入ってるんだ。先日、騎士の訓練場の裏に群生しているのを見つけて採集して、提出するの忘れてた!」
「さすがスボール!頼りになる!」
「んじゃこれ」
そう言って出してきたのは一抱えもある袋に入った銀蓬だった。
「問題は、瓶がね」
「そうだな。これまでの瓶も一応回収しているけど、洗浄してないぜ」
「殿下、本館に製薬室がありますよ」
「ほんと?ヘンヒブレ。ちょっと借りれるかな」
「もちろんですとも、ご案内しましょう」
「やたっ!お願いします!」
「ううっ。殿下」
「何でしょう?ヘンヒブレ」
「いえ何でも」
一瞬聖女か!と思ったその人は顔を赤くしてうつむく。
「自分は領主の台詞が何となく分かるぜ」
「私も、よく王城でつぶやかれていますよね」
「お可愛らしいって」
「ええ、そのとおりです」
「えー俺はもう八歳なんですけど!」
「顔は可愛いんじゃね?」
「大人から見れば」
遠慮が無いことは良いんだけどね!
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