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かつて大賢者だった黒猫は王子に転生しても魔王ひとすじ  作者: 前野羊子


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51【ベルトア総合繊維販売】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

「というわけで、オランジェ譲とフレーマーを帰りに引き取るので、それまでお願いします」

 ただでさえ掛け持ちで忙しい、ノーダッシュ町長にしてギルマスのマッソリーノと女将さんにお願いする。

「ああ」

「それと、オリアンタが魔女として暮らしていけるように見てほしい」

「任せといて、オリアンタが退院したらスタイを引き取ってもらうのさ」

「スタイを?」

 

 トラ猫はギルド入口のポーチに座っている。自由なやつだ。

「オリアンタの妹がスタイの飼い主だったのさ」

「そうなんだ、猫は魔女の仕事と相性がいいから丁度いいね」

 俺も昔は魔女の猫みたいなことをやった経験があるしね。

 あの時は魔女の飼い猫じゃなくて、彼女と取引している野良猫だったんだけどね。

 いや、飼い主はディーン様だったかも知れない。


「だろ?」


〝にゃー〟

 噂をしたらやってきた。

 しゃがんでお願いする。

「魔女をよろしくな(にゃー)」

〝まかせて(にゃー)〟

 人差し指と鼻でツンツンしてお別れ。


「おまたせしました、トレランツさん。出発しましょうか」

「ご苦労さまでした。カリノはお邪魔じゃなかったですか?」

「いいえ、手伝ってくれて助かりました。とくに女性患者のところには女の子と一緒のほうが良かったですもん。ね!カリノ」

「わたしは、なんだか凄い場面を一気に見ちゃったわ」

「そう?」

「それに、魔法使いになれるなら私も勉強したいなぁ」

「ほんと?協力するよ!」

 とにかく魔法師団の人材を確保したい。


「カリノが魔法ですか?」

「はい、属性は水だけですが結構魔力があるので」

「それは良かったです。特に水魔法は私も憧れます。行商の時は特に」


 馬車に乗りながら続きのお話。馭者はスボール。

 今回トレランツさんは馬車代を支払ってくれました。荷馬車なのに。もちろん昨日の分も合わせて。

 怪我した馬は置いてきちゃったよ。もともと商業ギルドのお馬さんらしいので。



「私は、家に着いたらすぐにまた王都に行く準備をしなくてはいけないのよね」

「また行商ですか?トレランツさん」

「いえ、カリノは国立学園の飛び級入試に合格しましてね、今度は入学のために」

「まじ?」

「へえ!自分たちも入学するんだよ」

 アズールが嬉しそう。



「え?アズールはあたしと同じ歳だけど、リーンは一つ下でしょう?」

「うん、八歳。だから二年飛び級」

「えーそれは凄すぎる、リーンは黙ってたら確かに八歳に見えるけど、もっと老け⋯いや大人っぽく感じる」

「老けて見えるっていいかけたでしょ!」

 思わず口を尖らせて膨れて見せる。

「あはは、見た目は可愛いわよ。女の子みたい」

「どっちにしてもひどい!まあいいけどさ」

「うふふ、いいの?」

「やだ」


「なんだそれ」

 アズールの合の手で終わる。

「「「ははは」」」


「この馬車にもうひとり乗れるよね」

「まだ途中で誰か乗るの?」

「いや、帰りの話」

「そうだな、フレーマーとカリノはまだ子供だし、オランジェ嬢も十五歳なら子供と言っても良いし」

 まだ目的地は程遠いのに帰りのことを考える。フレーマーはとにかく、人材が沢山でホクホクである。女性も、オランジェ嬢とカリノの二人がいる方がよいし。

 

「うん。なら辺境伯領でもっと乗り心地の良いクッションを仕入れておこうかな」

「だな。ただ、父から大人の騎士か兵士を一人足すように言われるかも知れないが」

「えー、それなら馬1頭じゃ足りないじゃん」

「まあな。無理じゃないけど遅くなるな」

 休憩しながらスボールとも会話。

「忙しいのに」

「アズールのおやっさんって結構脳筋だったよな」

「おやっさんて、辺境伯様を⋯⋯いくらリーンでも」

「ハハハ」

「中隊長と模擬戦をいつもやってたって言ってたな」

「やっぱり。じゃあ、俺様の実力を見せて、護衛は足さずにとお願いするよ」

「自分の実力も見せろと言われそう」

「それは、もちろん聞かれるのでは」

「だから帰りたくなかったんだけど」

 アズールが返りたくなかった本当の理由を吐く。

「わはは悪いな、俺のわがままで」

「いえ、昇進の報告なんで大丈夫です」


「まあアズールって私と同じ、これから学園のまだ九歳なのに、昇進って兵士として?見習いから卒業したってこと?」

「あ、いや、自分は兵士からファーリィン殿下の側近に変わって。まだ見習いだけどね」

「そりゃ凄いですな。王子の文官ともなれば将来は安泰ですね」

「辺境伯の息子とは言え、末っ子なので助かりました」

「で、その王子様がリーンってこと?」

「そ」

「ということは私は王子殿下の御学友になれるかも知れないってことね!」

「学園に入学するまで外での俺は平民のリーンで頼むよ」

「自分も新人冒険者のアズールとスボールで」


「ふふふ。秘密は守るわ。スボールさんも入学するの?」

「はい、私はそもそも学校に行くことは考えていなかったので。

 騎士の訓練で教養も得ましたし」

「でも、近衛騎士となると学校を出る必要があるんだよな」

「わかったわ、外ではもちろん三人の秘密は守るけど、その代わりお貴族様のお作法も教えてね」

「一般的な貴族の作法は分かるけど、女性の作法はわかんない」

 本当は知ってるけど。

「だな」

「ダンスくらいかな」

「まあ!たのしみ」


「一応、最低限の下級貴族の侍女ぐらいは出来るように育てておりますよ」

「なら、帰りの片道だけオランジェ嬢の侍女を頼まれてくれない?給料は出させるから」

「出させるって⋯⋯わかったわ。頑張る」


 パカパカパカパカパカ

 ガラガラガラガラ


 馬車は順調に街道を東に進む。

 途中の村で、馬を休憩させてから再び出発した。すでに進行方向の影が長くなっている。 


「ダッシュ領都の入口が見えてきたぞー」

 馭者のスボールが合図をする。

「おお」

 たしかにノーダッシュ町の門よりは立派な門が見えてきた。

 今日は閉門まで余裕で通れた。


「今回は大変でしたが最後は助かりました。思わぬ御縁も出来ましたし」

 この街でも噴水の周りが賑わっている。その近くの落ち着いた通りにその店が見えてきた。

「いえいえ」

「取られたのは私たちの古着だけだったし。それを知って何処かに捨ててきたみたいだったし」

「母さんに怒られやしないかそれが心配だよ」

「そうね」

「ふふふ、商売人の女将さんはどこでも逞しいからねぇ」

「ノーダッシュ町のギルドの女将さんも、あの大きなギルマスを尻に敷いていた感じがしたよね」

「ほんとほんと」


〈ベルトア総合繊維販売〉

 トレランツのこの店もそうだが。通りを挟んで何十件も繊維を扱う店が並んでいた。



「今夜はうちに泊まっていってください」

「そんな、ご迷惑では?」

「何をおっしゃいます。御三方は私には命の恩人なのですから、お留めするのは当然です。しかも娘の学友になられるのですし」

「そうよそうよ!

 さっそく母さんに言ってくるわ」


 カリノが女の子なのに誰の手も借りずにぱっと荷台を降りると駆けて行く。

 これは、お作法を教えねば。まあ俺が貸したパンツルックだったけどさ。


「ここは糸や布を扱ってるのですか」

 繊維の店が立ち並ぶ商店街の端っこにある繊維専門の商業ギルドにバシャと馬を一晩預ける手配をして。通りを歩く。

 幾つかの建物に全部〈ベルトア総合繊維販売〉の札が貼ってあった。

「はいダッシュ領はもともと木綿の産地ですからな、それと養蚕も木綿農家が同時にやっとります」

「へえなるほど」

 店舗が並んでいるというのに、シャカシャカと機械の音がする。

「ここの設備は、蒸気機関じゃないのですか?」

「父の代の時に、蒸気機関を取り入れようと帝国に視察に行ったことがあったそうです。ですが⋯⋯

 その時、帝国の紡績工場が火事になってましてね」

「火事?」

「蒸気機関のボイラーから火がまわったみたいで。繊維の、特に糸になる前のものは燃えやすいですからな」

「なんと!」

「その点、魔道具なら燃えることはありません。火魔法でも仕込んでない限り。繊維工房で扱う魔道具の属性は無属性ですからな。摩擦による発火を防ぐために油を指す必要はありますが」

「この通りがそんな事になったら燃え広がりそうですね」

「たしかに」

 火事の処理も兵士や騎士の仕事だったりするので、アズールもスボールもちょっと真剣に通りを見ている。

 中にはちょっと老朽したような工房も路地の隙間に見えている。


「トレランツさん、羊毛も扱えますか?」

「ええ。多くはないですけどね、冒険者ギルドから野生の羊やヤギの毛がまわってきますからな」

「なるほどなるほど」


 ちょっとニヤリとする俺の横でアズールが嫌な顔をする。

「もしかしてリーン、やっぱり魔羊狙い?」

「バレたか。お肉食べたいし!魔羊のローブ欲しいしぃ!」

「なんと!魔羊狩りに辺境に行かれるのですか?」

「そう!魔羊皮紙の手持ちがなくて!切実なんだよ。で、当然付属的に手に入る肉や毛をね!」

「普通の羊でも捨てる所はないですからねぇ」

「それこそバゲッドみたいな、ハムみたいなソーセージが作れるんですよ」

「なんだって!それは食べたい!」

 スボールの反応が子供みたいで可愛いよ。

「だろ?」

「よし、頑張る!」

 急にやる気の連れが心強い。

「えー」

 辺境出身が嫌がる。

「アズールはお父さんと遊んでたらいいから」

「それもいや」

「何だそれ。やっぱりお貴族様のぼっちゃんだなぁ」

「わがまま~」

「リーンに言われたくないね」

「俺は自分のやりたいことを自分でやるだけさ。やっとできるって感じだけどね」


 本当は未開の森のもっともっと奥に行きたいっての。

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