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かつて大賢者だった黒猫は王子に転生しても魔王ひとすじ  作者: 前野羊子


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49【ノーダッシュ町3】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 病室は二階と三階らしい。施療院の一階は受付と外来的な診療スペース。それにシスターの詰め所。あの窓のある部屋だね。

 だけど医者が常駐しているわけでなく、もう一人のシスターが薬師を兼ねているらしい。

でも、この設備のメインは奥の礼拝室だ。つまり教会に施療院がくっついているわけだ。


 階段を登りながらギルマスが話しかけてくる。

「王都の施療院の患者が治ったって聞いてたんだ。もしかしてと思って」

「ギルマスには言ってもいいんだけど、あれは魔力枯渇病なんですよ。だけど魔法使いが罹る深刻なものじゃなくて、ただ体の魔素が無くなってしまっただけなので、森や畑などがあるようなところで療養できれば、健康を取り戻すはずなんですけど」

「森か、このノーダッシュ町にもあるな」

「そこで空き家とかを借りて、帝国帰りの調子悪い人をしばらく」

「わかった、手配してみよう。確かに帝都や工業地域には自然が殆どないって言ってたな」

「それが原因の一つです。国からも支援金の予定があるので待ってください」

「ありがたい」

 階段の隣にはストレッチャーが一台置いてあって、その真上に吹き抜けが三階まで繋がっている。

「この吹き抜けは?」

「一番上に鎖のついた滑車が幾つかあるだろう?」

「うん」

「あれで、ストレッチャーごと上げ下げするんだ。歩けないやつは階段が難しいからな」

 確かに井戸の釣瓶のような滑車が四つとそれにぶら下がってる鎖があり、一階の壁面にはハンドルが取り付けられている。あれで人力で動かすんだな。

「へえ、なるほど。工夫されているんですね」

 アズールが感心するように言う。

 でもこれじゃ少人数のシスターたちで扱うのは大変そうだ。

「大昔は魔法であげてたらしいがな」

「本にはそう書いてました」

 実際俺が魔法で上げ下げしたこともある。ノーダッシュ町ではないけども。

 昇降機も作ったんだけどな。廃れちゃったかな。まあ目的は図書館の資料を運ぶためだったんだけどね。設計図も残してたんだけどなぁ。



「自分はこのフロアの人々の様子を先に見ておきます」

「たのむ」

 アズールは二階でとどまって、俺達は階段を上がりきった。そこのホールにシスターがいた。歳の頃はお婆ちゃんって感じの人だ。宿の女将さんよりちょっと上かな。

 シスターっていうよりグランマって感じだけど、どんな見た目でも頭髪を白い布で隠してさらに黒やグレーの無彩色のベールを被っているのはシスターと言われている。

「おはようございます。私がこの施療院で薬師をしております。薬師と言ってもよくある風邪や頭痛や腹痛を和らげるようなものを調合するしか出来ないんですけどね」

「朝早くからお邪魔します。俺はリーン、連れは友人のアズールといいまして、共に新米冒険者です。

 今朝は王都から辺境までの旅の途中に寄らせていただきました。この女の子は⋯」

「カリノですね。二年ほど前に熱を出して数日ここで寝てたことがあるのです」

「お久しぶりです。シスター。父は今はギルドにいてます」

「なるほど、大きくなったわね。

 で、リーン、帝都帰りの患者達の病気がなにかわかってるのですか?」

「はい、王都の中心地の施療院の患者については、症状を改善させました」

「リーンがですか?貴方様は⋯⋯薬師や医師の免状をもらうには年齢が足りませんね。もしかして魔法使いなのですか?」

「はい」

 

「なるほど分かりました。よろしくお願いします。

 さて、この三階のフロアは女性患者が五人、そのうちの四人がこちらの大部屋で、もう一人は身分の関係でそちらの一人部屋です」

「では、大部屋からいきましょう」

「ですが、女性の病室なので、ギルマスは外でお待ちください」

 シスターがマッソリーノを押し留める。

「え?なぜだ?カリノは分かるが、俺が駄目でリーンが入れるのはどういうわけだ?」

「俺は子供だからいいですよね?シスター」

「ええ。ギルマスは二階でアズールと待っててください」

「う⋯⋯わかった」


「悪いけどカリノも手伝ってくれる?」

 革手袋をはめながら魔法ペンを一つ出す。魔法係の倉庫にたくさんあったんだよね。最初から父上に聞けばよかった。そして一本は王都の施療院に寄付してきた。

「まあガラスのペン?綺麗。何をするの?」

「これ触ってみて」

「うん⋯⋯わあ青く光ったわ」

「結構光るな。凄いじゃん。じゃあこの革手袋をはめる。子供用だけど⋯」

「⋯⋯はめたわ」

「でさっきのこれを持って」

「今度は光らないのね」

「そう、これは魔石ペン。魔法契約とかに使うものだよ。これは触った人の魔力で光るから」

「え?じゃあ、さっき光ったってことは」

「カリノは魔法使いになれるかもよ。しかも水の」

「水!本当なら嬉しいわ!」

 魔法使いの原石発見!そのうち魔法師団にスカウトせねば。

「それより、患者の体温を触って確かめてから肌にこうやって押し当ててきて。冷たい人は光りにくいから」

 とカリノの腕の皮膚に魔法ペンを当てると再び青く光る。

「うん」

「光が弱い人から教えて」

「わかったわ」


「懐かしいわ、魔石ペンなんて久しぶり見たわ」

 お婆ちゃんシスターが言う。

「そうですか?シスター。

 では一番症状が重い人から診ていきましょう」

「そちらの奥のベッドの人です。たぶんこのままだと一週間以内には夢の橋を渡ってしまいそうです」

「そりゃ大変だ」


 そこには、今にも夢の橋に片足引っ掛けてるような、青白い女性が仰向けに寝ていた。

 王都で見た患者のようにもう悪寒を訴えることもなく、かすかな呼吸だけが生きていることを示していた。


 そっと掛け布団をめくって手首を探る。

「脈がわかりにくいなぁ」

 こんなにやせ細っているのに、脈が取りづらい。でも分からないわけじゃないけどね。

「それに冷たいのです、でもまだ生きてらっしゃいますよ」

 俺ももう一つの魔法ペンを取り出して手のひらに押し当ててみるけど、やっぱり光らない。

 魔力が枯渇しているんだな。


「なるほど、光らないなってことは。魔力が枯渇してるんですね」

「でしょ」

「⋯⋯脚気じゃなかったのですね」

「そう、魔力枯渇病」

「体内の魔力を増やす薬の⋯⋯魔法薬の処方は学んでいないです。廃れた知識となっていまして」

「ではこれを」

 魔法のポケットからマジックポーションの一ダースの箱を二つ出す。患者が十四人じゃ一ダースでは足りないよな。

「これは、マジックポーションですね。幼い頃に見たきりです」

「只今王都で量産中です。症状がひどい人には間を開けて二本を、それ以外のひとは一本とりあえず飲ませて様子見てください」

「魔力枯渇で軽度なら、田舎で療養すれば改善しますね。まあ王都から来たリーンから見たらここでも田舎でしょうけど」

「ふふふ、まあ、そうですね。でも王都にも森はありますよ」

「そうでした。それでこのポーションは一本いくらなのですか?」

「値段は知りません。今はまだ気にしないで良いと思います。

 ですがシスター、絶対転売はしないでくださいね。必ずシスター達から直接患者に飲ませること」

 シスターの瞳を見つめる。

「わ、分かりました」


「でも、この人は目も開かないね」

 もともとは黒髪なんだろうって感じの長いグレイヘア。

「そうなんですよ。まずは目を覚まさななければ、ポーションを飲ませるのは難しいでしょう」

「うん、でも急がないと。かなり冷たくなってる」

「もはや寒がることも無くなっています」


 冷たい首筋の脈打つところを探す。手首よりはマシだけど、拾いにくい。

 そこからそろそろとゆっくり俺の魔力を流していく。ここは意識して無属性のなにもない魔力を。そして流れの助けになるように段々水属性を足すんだよ。早く治るように一気に流すとそれはそれで負担だからね。


「⋯⋯う⋯⋯」

 顔が少し痙攣する。

 一瞬眉間に力が入ってから弛緩する。



 もうちょっとしたら、ポーションは飲めるかも知れないけれど、よもぎパンがないからなぁ。どうしようかな。

 今朝、ギルドで食べたラビオリならマシかな。山菜を入れてもらって。


「ふう⋯⋯温⋯⋯かいよ」

 女性の口が少し動いてかすれた声がした。

「温かくなりました?」

「ああ、まだ胸のあたりだが」

「温かいの動かせます?」

 女性の目が開く。深い森のような緑色の瞳だった。

 ゆっくり瞬きを繰り返しながら、目の力が強くなっていく。

「これは⋯⋯君の魔力なんだね。わかった、動かせるよ。昔はよくやってた」

 再び目をつぶったけど。今回は自分自身に向き合っているのが分かる。

「もしかして、あなたは魔石からも取り込めたりします?」

「ああ」

 もう一度手袋をして魔石ペンを彼女にあてると、緑色の光が出てきた。瞳と同じ色だね。


「じゃあこれを」

 彼女の瞳と同じ色の魔石を渡す。魔法係の部屋でみつけた沢山の空魔石に魔力を充填したもののうちの、土属性の魔石だ。

「久しぶりに見たけど美しいわ」

「うん」

「お姉さんは、もしかして魔女?」

「⋯⋯ああ、昔は。お前さんみたいな子供にお姉さんって呼ばれる歳じゃないさ。おばさんでいいよ。畑仕事が得意な魔女だったのさ。小さな魔法使い君」

 段々生気がもどって、最初の印象より若く見える。とはいえ五十代かな。


 それにしても、もともと魔力が多い人のほうが魔力枯渇病の症状が強いのかも知れない。

 そんな仮説を頭の隅に引っ掛けながら元魔女だという女のベッドから離れる。


「本当に。魔力がなくなる病気だったのですね」

「無くなるというより、帝国の帝都には自然がないから、取り込みにくくなってたみたいだよ。シスター」

「取り込みにくい?」

「そう。なのに体が活動するには多少なりとも魔力が必要でしょ」

「いやそれは百年以上昔の、今では根拠がないと言われている常識ですよ」

「人間が百年ぐらいでそんな基本的な体質まで変わらないですよ」

「⋯⋯言われてみればそうかも知れません」


「リーン」

 魔石ペンを持ってカリノが近づいてきた。

「どうだった?」

「えっと。こっちの人が光らなくて、後は弱々しいけど光るの。でも皆寒がってて」

 三つのベッドを順番に指差す。

「わかった。よし、皆を診ていこう」

「ええ」

 三人の症状が和らぎ、シスターに渡されたポーションをそれぞれ飲んでいた。

 はじめに診た魔女を含めた四人全てが上体を起こしてベッドに座って。


「あっという間だったわね」

「そうでしょ」

「君は治療が得意な魔法使いなのですね」

「一番得意なのは他にあるんですけどね」

「得意ってなあに?リーン」

「内緒、さあシスター、個室の人を見に行きましょう」

「はい」

「あ、その前に、さっきの魔女さん」

 一端廊下に出たけど俺だけ戻る。

「何でしょう」

「王都では魔法師団を復活させる予定になってます。攻撃などが出来なくても、知識さえあれば指導者として募集しています。もしその気になれば王都に生きませんか?旅費や生活費は国が出しますよ」

「いいえ、ありがたいと思うけど。この町で再び魔法使いとしてやっていくよ。この病気が魔力枯渇病なら助けになると思うから」

「そうですか、では名前を教えてください」

「私はオリアンタ」

「ではオリアンタ。定住先が決まったら教えてください。決まらなかった場合も教えてください。俺のもう一つの名前はファーリィン・ラ・ランデルソール。ギルド経由で連絡を。さすれば魔女の館建設の援助をしますので。

 あ、いや、これを渡しておきましょう。返すことは考えなくてもいいです」


 と、一瞬宝剣を見せてから、金貨が20枚ほど入った小さな袋を渡す。冒険者リーンが稼いだお金を引き出しておいてよかった。

 

「そんな⋯⋯殿下⋯⋯」

「俺達には、この国には魔法使いが必要なのです。必要な魔導書があれば連絡してください。届けるよう手配します」

「⋯⋯分かりました。助けていただいた御恩を誠心誠意でお返し出来るよう勤めます」

「はい、まずはオリアンタの穏やかな日常を取り戻すことから始めてください」

「本当にありがとうございます」

 金貨の袋と緑色の魔石を胸にいだいて頭を垂れる。


 身分を明かしてから言葉遣いが変わっちゃった魔女を後にする。

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