47【ノーダッシュ町1】
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「リーン、不本意かもしれないが、ここは自分の身分を使って門を開けておいて貰おうと思ってるんだけど」
アズールが提案する。
確かに、二人の追い剥ぎを相手にしていて、門限に間に合わないかも知れない。
「じゃあ、俺が先に行って話をつけてくる」
休憩していた、保護した方の馬に乗る。
「は?」
「皆で気をつけて来てね!慌てちゃ駄目だよ」
「いやリーン、お前が一人で行ってどうするんだよ!」
「大丈夫!俺のほうがほら、軽いから」
「そういう意味じゃない!なんのために自分たちと動いていると思ってるんだ」
「いいからいいから!な。お前、頼むよ」
ヒヒーン
「よしいい子。じゃ!」
「気をつけろよリーン!」
傾いてきた夕日を背中に感じながら、東に向かって単騎で駆ける。
先日マジックポーションとは別に作っておいた黄色いタブレットを、さっきの休憩で二頭の馬に与えていた。
人参や青菜から抽出したエキスと、蜂蜜と、ドライ林檎、とうもろこしの粉を固めたものだ。それに体力回復の魔法を付与してある。
まあ、人でも食える、要はビスケットだ。俺も破片をちょっと齧ったよ。帝国のご飯より全然うまい。あれより甘いから喉が乾くってほどでもない。水は飲んだほうがいいけどね。
「いけー!」
ヒヒーン!
すっかり元気になった馬が街道を駆ける。骨折の腫れもひいていたけど念のためにゲートルは巻いたまま。
辺りが赤くなって行く。でも振り向いて夕焼けを楽しむ余裕はない。目の前には閉じかけの門とそれに滑り込もうとする列。
俺もそれに並ぶ。馬から降りる。
夕焼けの地平線にあとから来る馬車のシルエットはまだ視界に入ってこない。
俺の後に並ぶ人はいない。
改めて門を見る。
〈ノーダッシュ町 西門〉
「今日は坊主で最後だな。身分証を」
門番は若い兵士だった。成人したてかな?15~16歳ぐらい。8歳児の子供から見たら本来なら普通の大人に見えるはず。
「はいどうぞ。それが俺には連れがいるんです」
「連れ?どこに?」
「後ろから馬車が来るんですけど、それについて報告もあって」
「なんだ?」
「実は、途中で追い剥ぎに襲われた商人の男性とその娘さんを拾ったんです。お父さんの出血が酷かったので、治療は出来たのですがゆっくり運んでいます」
「なに!」
「この馬も怪我をしていて」
「なるほど、足に布を巻いているな」
「一応治したんですけどね」
「治した?確かに軽そうだがお前さんを乗せてたな」
「で、その追い剥ぎは?」
もう一人の兵士が出てきた。その人はもう少し年上だし、醸す態度が違うから上司かな。あ、肩章の線が二本。班長だね。
「うむ、しかし、規則だからな、間に合わなければ野営をしてもらうことになる。もう死にそうではないのだろう?」
「そうですけど、俺達も急ぎたくて」
タイトなスケジュールなんだから!
「それと、追い剥ぎは捕えて街道に置いてありますので、引き取りに行ってほしいのです」
「それは朝になってからでいいだろう」
「もちろんです!」
哀れ追い剥ぎ達。朝まで無事だといいね。
「坊主はリーンというのだな、この身分証は本物か?八歳でAランクは怪しいな。
で、連れの名前は?」
「王都で騎士をしているスボールと、兵士見習いのアズールです」
「王都の騎士と兵士見習いか、休みなのか?」
「いえ、アズールの里帰りとついでの冒険者業務で。
あ、二人とも騎士などの証も持ってます。それと俺もこれを⋯⋯」
騎士もそうだが、王族や高位貴族とそれの息子にも持たされている短剣がある。
俺の場合は、ランデルソール王国を表す黒ライオンの⋯仔ライオンが右を向いて冠を被っているモチーフがブラックゴールドでエンボスされたリングが嵌っている宝剣だ。
このリングは取り外して親指にはめることも出来るし、ファーリィン・ラ・ランデルソール第一王子の印章としての機能もある。つまり王族としての正式な手紙の封蝋のエンボッサーだ。
「これは!」
「何ですかこれは?黒猫ですか?」
仔ライオンは鬣がないからね。黒猫に見えるよね。まあ、黒猫と言われても怒らないよ。黒猫だったのは本当だしね。
「バカを言うな!殿下失礼しました!」
「でんか?」
「もうお前は上がれ、あとは私がやっておくから。それより明日朝一番で追い剥ぎを捕えに行く準備をしておけ」
「はっ!」
「⋯⋯明日は勉強会だ」
「げっ。⋯⋯失礼します」
班長、下っ端は時々教育しておこうね。
「教育が足らずに申し訳ありません。私は今このノーダッシュ町担当の班長です」
「よろしくね。だけど今はお忍びなんだ、内緒にしてね。こんなことで特権を使うのは気が引けるけど、それにあとから来る連れも兵士の方は辺境伯の息子さんだから」
「なんと!わかりました、お通ししましょう。殿下はそれをお待ちいただくので?」
「俺は今は平民のリーンだよ」
「は、申し訳ありません。リーン殿は連れが来るのを待っているのか?」
「そう」
「では、こちらの詰め所に」
「いや、馬もいるしこのまま立って待つね」
「わかりました。リーン殿、身分証をお返しします」
「はい」
「それにしても、先ほども言いましたが、十歳未満のAランクは始めてみました」
「でしょうね、しかも俺、これが初依頼で」
「は?そんなことが」
「まあ、俺も知らなかった謎システムでランクが決まっちゃって。結局不便なんですよね。見た目との釣り合いがおかしいし」
初対面の大人には、相手の身分が高くないと分かっていても敬意をもって対応する。
なにしろ、今は平民を装ってるんだから。
「そうですな。驚きますよ」
「なんのために平民を装ってるんだか、目立たないようになのにさ」
やれやれというゼスチャーに班長が少し笑う。
「で、このノーダッシュ町ってギルドがあるの?道を教えてほしいんだけど」
「はい、冒険者ギルドと商業ギルドが一緒になってる建物です。門の前の道をちょっと行った三つ並んだ酒場の先にあります。この街にはそこにしか女や子供が泊まれるような宿泊設備はありません」
壁に貼ってある地図を指さしながら班長が言う。
「よかった、保護したのはお父さんと娘の親子なんだ。
それと、施療院は満員?」
「さあ、帝国帰りで病床は埋まってるかも知れませぬな。王都でもそうでしょうが、帝都からの脚気患者が多くて」
「この街もそうなんだ。なら明日朝慰問だな」
「よろしくお願いします」
「うん、
俺先にギルドで空室確認してこようかな」
「分かりました、アズール殿が到着したらギルドに行くように言いましょうか」
「いいの?」
「もちろんです」
「じゃあお願いします」
「お任せください」
馬をひいて、門を出たところで、トラ猫を見つける。フリーの迷い猫かな。首輪とかしてない。
「にゃ―」
話しかけてみる。
〝にゃー〟
この猫もレディだった。
「馬車が来るんだけど、ギルドに行けなさそうなら教えて」
〝タダ働きは嫌よ〟
「んじゃ明日の朝ごはんで」
〝分かったわ〟
これでよし。
猫と会話できるスキルは結構便利。
馬を連れて、教えてくれたギルドを訪ねる。
「お邪魔します~」
ギルドというより、宿屋にギルドがくっついてる感じだ。でも剣と盾のピクトグラムと、二匹のヘビのピクトグラムの二つの標識が張り付いていた。
「はいはーい」
「冒険者のリーンといいますけど、今夜泊まる部屋は空いてますか?出来たら三部屋あると良いのですけど」
「三部屋?他の連れはどこだい?」
カウンターのおばちゃんもギルド職員というより、どっちかと言うと宿屋の女将さんだ。
「これから来ます、そのうち二人はトレランツっていう商人の男性と娘さんで」
「ああ!あのふたりね。一ヶ月ぐらい前にも泊まったよ。帰ってきたんだね。わかった。
そして護衛したあんたとその仲間ってことだね」
「はい、そうです」
「トレランツ親子は二人で一部屋でいいんだよ」
「そうなんですか?」
「節約だって。金持ちなのに堅実なことだよね。
よし、二部屋なら開いているから、お前さんはえっと」
「リーンです」
「リーンだね。押さえておくから、連れが来たら改めてチェックインを」
「わかりました。それと馬を、預かってください、もうつなげてるけどね。馬車の馬もあとから来ます」
「わかった。リーンは小さいのに慣れてるんだな」
「そう見えました?でも、王都を出たのは実は初めてなんだよね」
「ふうん」
〝にゃーん〟
「あ、さっきの」
「あら、スタイちゃん」
「このトラ猫、スタイっていうの?」
「ええ、以前この町の魔女が飼ってた猫なんだけどね。魔女が亡くなって、野良になっちゃったのさ」
「なるほど、どうして魔女は亡くなったの?」
「⋯⋯帝国の魔女狩りにあったという噂なんだけど。この町で亡くなったのじゃないのよね。遺体だけ運ばれてきてね」
「ふうん、気の毒だね」
「そうなの。魔女はあたしの友達だったのさ」
ちょっと寂しそうな空気をぶち破ってスタイに話しかける。
「馬車来た?」
〝通れた。もうすぐ見えてくるわ〟
「ありがと」
時々食べたくなって作った猫向けのクッキーを少し出して手持ちのお皿に入れてあげる。
「それは?」
「これはカリカリっていうんだ。人間には薄味だけど、旨いよ。食べます?」
自分でもポリポリ。
型抜きでは猫には大きいので、ナイフで六角形に切って。そうすると小さすぎるから、天板に並べるのが手間すぎて、結局は薪オーブンじゃなくて火魔法で焼いたんだよね。
黒猫時代もオーブンが使いにくくて、火魔法一択だった。
「猫のクッキー?人でも食べられるのかい?どれ」
ポリポリ
「ちょっと生臭いわね。でも、チーズが入ってるの?塩振ったら酒のツマミにいけそう」
「なるほど、その発想はなかった!」
「そりゃあんたはまだ子供なんだから、アテどころか酒の味はわかんないだろう?」
「ちょっとは舐めるよ。俺、料理するから」
「なるほど、で、このカリカリっていうの、何が入ってるんだい?」
「鶏のレバーのペーストと、牛乳とチーズと、卵黄と、つなぎに小麦粉ちょっと」
「ふむ」
「調味料は入れないのがミソなんだ」
「猫用ならそうだな」
「クッキーだからってここで砂糖とかはちみつを入れると、レバーと喧嘩するのか苦くなるんだよね」
「隠し味ぐらいなら大丈夫かもしれないよ」
「かもね」
そうやって、馬や猫の餌も持っていたのだった。
ガラガラガラガラ。
ヒヒーン
「どうどう」
「到着したわね」
「うん⋯⋯みんなお疲れ!」
「リーンこそ!」
「もう宿はとったよ、もちろんトレランツさん達の部屋もね」
「ありがとうございます」
「リーンありがとう!」
カリノも疲れているだろうに、襲われたことなんて感じられないほどの笑顔だった。
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