45【壊れた馬車と二人と一頭】
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馬車は街道を急ぐ。
施療院に寄り道していたから急がないと、次の街に入れなかったら野営だ。
野営は極力予定より減らすようにするのは冒険者として当然なことだ。
まあ、次の街の手前は人里があるから、なんとでもなるけどね。
とはいえ、まだ町中の街道だから人や馬車などが行き交っている。
今回は何も預かっていない。一応商業ギルドに寄って聞いたけど、今日はなかったんだよね。
まあ、途中で誰かを拾うならそれもいいしね。
馭者は俺。いつも子供の目線で歩いてると、馭者席っていいよね。見晴らしが良くて。
しばらく人里が途切れて畑の中を行く。
ガラガラガラガラ
すると脇に馬車が止まっていた。
馬車がちょっと傾いて⋯?車輪が外れているのか。
「ちょっと止まろうか、どうどう」
手綱を引きながら声をかける。
ヒヒーン
「どうしたリーン?」
スボールが俺に声をかけてくる。
「あれじゃないか?」
アズールも例の馬車に気がついたようだ。
「そう。どうなってるんだろうか、怪我人いたりしたら大変だし、手伝えそうならそれで」
「わかった」
近寄ると、子供らしい泣き声がして、馬が座り込んでいる。
そして少し鉄の匂い。
「お父さん、お父さん!」
「静かにしなさい、お父さんは⋯⋯大丈夫だから、誰か通ったら呼び止めなさい」
「でも、これを離せない。それにさっきみたいに⋯」
「その時は⋯しょうがない」
「あのー」
「ひゃっ!」
「脅かしてごめんなさい」
どうやら親子が馬車の影に人がいた。
俺ぐらいの年齢の少女とお父さんと思われる男性だった。お父さんの年齢も父上ぐらいだろうか。
「ああ、良かった、冒険者のパーティーですか?」
「はい、とりあえず詳しいことを尋ねる前に、お父さんの怪我の処置をしましょう」
「ありがとうございます」
少女がお父さんの首元を布のようなもので押さえている。
その布が真っ赤に染まっていた。
「大丈夫だから、手を離して、俺と交代しよう」
「は、はい⋯でも、血が止まらなくて」
「大丈夫だから、ほら、せーので」
「はい」
「せーの」
押さえていた布を外すとなるほど血管が切れているらしく、出血が始まる。
俺はすぐに光魔法を発動して、止血と切り傷の修復に入る。
彼は左腕と左のスネも骨折していて、何かにかなり抵抗していたようだ。お父さんは背中にも打撲などがありそうだ、上着の背中にも泥がついている。
少女の手も血まみれだが、ちょっとした打撲ぐらいで、血はお父さんのものだろう。
「俺は冒険者のリーン、もう一人はアズールで大きいのはスボールです。
お嬢さんの名前は?」
「あたしはカリノ、この人は父のトレランツ。ダッシュ領の商人です」
揃って栗色の髪と緑の目の親子。
「カリノとトレランツさんね⋯よし、首の怪我は治ったよ、背中もたぶん大丈夫、次は手足の骨折だねちょっと待ってね」
「凄い。リーンさんは魔法使いなんですね」
「うん、そうだよ内緒にしててね。大怪我した人は放っておけないからさ」
「はい」
左脛は罅でよかった、骨の修復は終わったけど、布を水で軽く絞って患部に巻き付けてから布だけを凍らせる。これで腫れや内出血がちょっとマシになればと。
左腕は二の腕の方だ。ちょっと変に曲がってるなぁ。
「スボール、ちょっとこの人の肩のここを両手でしっかり押さえてて」
「へ?はい」
「トレランツさん、ちょっと痛いけど我慢してくださいね」
「はい、⋯⋯もちろんです⋯」
肘の方をゆっくり引っ張って、折れてしまってる骨を正常な位置に戻す。
スキャンの魔法をかけながら位置を確認。
「うっ⋯ぅぅ⋯⋯」
脂汗がトレランツの額に浮かぶ。
「お父さん⋯⋯」
「よし⋯これで繋がった」
「ふう、ありがとうございます」
こっちも内出血が始まっていたので、そっちの血管を塞ぎながら、濡れた布を巻き付けてから凍らせる。
「ちょっとの間冷たいけど」
「いえ、痛かったので気持ち良いぐらいです」
「うん、もうちょっとじっとしてくださいね。結構出血してるし。次は馬だね」
馬の方はアズールがなだめてくれていた。患部を冷やしてくれていたようだ。
馬も前右足が折れている。
彼の痛みを冷気で緩和させてやりながら、アズールと引っ張りあって骨の位置を戻し、繋げる。
「まだ、立ったらだめだよ」
折れていた足の周りを、予備のすね当てで固定しながら水魔法で湿らせてから布だけをちょっぴり冷やす。
スボールが俺達の馬車の樽から水を盥に汲んで、タオルをいくつか絞って、カリノに渡し、彼女は自分自身を、そしてスボールがトレランツさんの血を拭いていた。
「着替えありますか?血がついたままだと危ないですから」
「それが、盗賊にやられて着替えなどの荷物を持っていかれてしまって」
「大事なものは無事だったんだけど」
「では私の着替えを使ってください、ちょっと待ってて」
スボールが馬車に戻って行こうとするのに声をかける
「待ってスボール、トレランツさんを俺達の馬車に寝かせて、まだかなり貧血しているから、ちょっとずつ水を飲ませて」
「わかった。トレランツさん私に掴まって、ゆっくりでいいですからね。
私たちの馬車に行きましょう」
大人並みに背の高いスボールにしか頼めない。彼がいてよかったよね。
「すみません」
「遠慮しなくていいですからね」
「ありがとうございますスボールさん」
「カリノ達は王都に行く途中?それともダッシュ領に帰るところだったの?」
「ダッシュ領に帰るところだったんです。逆向きならもっと危なかったの」
「見たところ盗賊?」
「はい、帰りだったので、大した荷物はもうなかったし取られなくてよかったです」
馬の処置をしている俺の近くでそれを見守ってくれる少女。
「それにお父さんはカリノを一番に守ったのではないの?」
「はい。感謝しています」
「取られたものに大事なものはなかったんだ」
「はい、商売の返りだったので、売上はギルドの口座ですし、大事なものは馬車から持ち出されていないと思います」
「カリノ、俺達もダッシュ領を通る予定なんだ、それにこのままではその手前のノーダッシュの町の閉門に間に合わないし、馬車も直せないし、このまま一緒に俺達の馬車に乗っていきなさい」
「ありがとう、馬車はどうしようかしら」
「それも運ぶから」
「運ぶ?馬車が壊れちゃってるんだけど」
修理したら使えそうだからね。捨て置くのはもったいない。
「大丈夫、俺達の馬車に持ち込んだほうが良いものを先に出して、食器とかタオルとか、着替えはある?」
「着替えの入ってた荷物を取られちゃったの」
「ああ、じゃあ俺達の服しかないけどそれをとりあえず貸すね。男物だけど、そのほうが盗賊対策にいいからね。まばらに人家があるとは言え獣や魔物がいないとは言い切れないから、カリノも血のついたその服を着替えよう」
上着一式をポケットから取り出して渡す。ちょっと唐草の刺繍が入ってるから、男物の中でもまだ可愛いと言えるだろ。
「!はい。リーンさんは魔法のポケットをお持ちなんですね」
「そう!ここに馬車も入れちゃえるよ。馬はだめだけどね」
「まあそんなに沢山!
じゃあちょっと待っててください、傾いちゃってるけどあの馬車の中で着替えてきます」
「うん、気をつけてね」
馬の首筋から体力回復の魔法を小さく唱えながら魔法の補助に魔力を少し流し込んでやる。
そして馬に手持ちの鞍をつけ、手綱を短いものに変える。
「俺を乗せてね」
首筋を撫でると、小さく頷いた気がした。
「鞍をつけたのね」
カリノの声がして振り向く。
「あれ?俺の服なのに違うものに見えるや」
「本当だ、どういうことだろうな」
「ふふふ」
「それが荷物だね」
彼女が下げている荷物をスボールが預かる。
「ありがとう」
「じゃあ馬車を仕舞うね。早く動かないとノーダッシュ町に遅れてしまう」
「ええ」
「アズール、トレランツさんにこれを飲ませておいて」
スープが温かいまま入ってる陶器の瓶を渡す。
「わかった」
「俺はこっちの馬の様子を見ながら前を行くから、後ろからついてきて」
「了解」
一応俺達の方の馬にも水を飲ませて、疲労回復の魔法をかける。
こいつはずっと道端の草を食べてたけどね。
「じゃあ出発」
ヒヒン
それにしても、誰かを拾っても良いねと思ったけど、こういう展開はちょっと⋯。
「リーンは何かを引き寄せがち」
ため息交じりにスボールが呟く。
それ、大昔に言われたことある。
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