44【ひよこのおやすみ】
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「ファンダーの像を運ぶ任務って、わざと俺に当たるように仕掛けてきたのかな」
フィンゲン叔父上との夕食を終えて、寝泊まりする客室に引き上げた三人。
それぞれ別の部屋だったんだけど、なんとなく俺の部屋に集まっていた。
「可能性はあるね。叔父上が可愛い甥の顔を見たかったから手を回したのじゃないか?
あるいは陛下がそう仕向けたか」
「⋯⋯いつまでも子供扱いを⋯⋯」
「子供だから仕方ないよ」
「そうだけど」
俺とアズールのやり取りを静かに聞いているだけのスボールがポツリ。
「王族は貴族よりめんどくさそう」
「わかってくれるか!」
「わはは」
コンコンコン
「ファーリィンおにいさまおきてますか?」
「もちろん起きているよプルチー」
「しつれーします」
天使が入ってきた。金髪に碧眼、透き通るような白い肌。そして何よりお母さんに似て美しい。
お母さんつまり叔母は、二ヶ月前に男の子が生まれたばかりで、さっき赤ちゃんを見せてもらったけど、そっちも天使だった。叔母さんはちょっとおつかれだったね。
「お疲れのところ申し訳ありません殿下」
その後から女性。
天使の名前はプルチーノ・ド・ランデルソール。フィンゲンの娘で俺の従妹でアズールとも又従妹になる。
一緒に入ってきた女性は彼女付きの侍女で乳母に近い立ち位置のベテランだ。
「おにいさまたち、子どもだけで旅行なんてずるいですわ」
「どこがずるい?」
「ぜんぜんずるくないぞ、自分の里帰りなだけだ」
思わずアズールと二人で反論だ。
「楽しそうでずるいですわ」
「楽しいものではないぞ」
楽しいけどね。
「お仕事なんだよ」
「楽しそうな、おしごとですわ」
いつの時代も女は鋭い。子供でも。
なんて、自分が女だったこともあるということは忘れて言う。
「アズールの里帰りについて行ってるだけだよ」
「アズールおにいさま、いつもファーリィンおにいさまといっしょでずるい」
「プルチーは相変わらず殿下が大好きなんだね」
「もちろんですわ」
この三人の会話の間に、スボールがこっそり自分の部屋に逃げていた。
ずるいと言いたいのは俺達だ。
「じゃあ、そんなプルチーにお守りをあげよう」
「おまもり?」
そう言ってマジックポーションが1ダース入った巾着を渡す。
紐がついた小銭入れのようなポシェットだけど、この中には沢山のものが入るようになっている。
巾着の表面にはひよこのワンポイントを刺繍している。こういうこともあろうかと思って準備したんだよ。刺繍は魔女の時に会得したスキル。
スキルってほどではないな。色のついた糸でチクチクするだけさ。
「ひよこの御守り」
「かわいい!」
中から一つ取り出す。
「ぽーしょん?」
「東の方から帰ってきて調子の悪いひとに、これを飲ませるんだ。必ず大人と一緒にやるんだよ」
「はい」
「失礼ですが殿下それは?」
侍女が追加の説明を求めてきた。
「帝国に出稼ぎに来ていた人が体を壊して沢山戻ってきているでしょう?」
「はい」
「明日、施療院に寄ってその様子も見に行くけれど、魔力が枯渇していて調子が悪いんだ。 移る病気ではないから、そこは安心してね」
「王都の施療院にもたくさんいたんだよ」
「そうだ、結構大変だったんだよね」
「そうだったのですね」
「だから、この巾着に入っているものは王都で生産を始めたマジックポーション。
完治するわけではないけれど、症状は緩和されるから。
その後は森や海など、自然の魔素が濃い地域で療養すればもっと改善すると思うから」
「わかりました。皆にもそう言いましょう」
「いや、どこに帝国の手のものがいるか分からないから、こっそりね」
「⋯⋯はい」
この侍女はバレリアの年の離れた妹だから大丈夫。
「おにいさま、明日のせりょういんに、わたしも行きたいわ」
「だあめ」
「どうして?おにいさまたちは行けるのでしょう?」
「俺たちは鍛えているからね」
「そうだ」
「毎日沢山走って、剣を振って、もちろん勉強もしているんだ」
「まあ」
「プルチーはまだ五歳だろ」
「はい」
「もうちょっと大きくなってからだな」
「貴族の慰問も大事な仕事ではあるからな」
「はい」
「さあさ、プルチーノ様、殿下たちはお疲れですからもう下がりましょう」
「ええ、おやすみなさい」
「「おやすみ」」
二人で順番に彼女の額にキスをして手を振る。
「機嫌治ってよかった」
「魔力枯渇病より手強いぜ」
「ははは、じゃあ自分も寝るよ」
「おーおやすみ!」
「おやすみ」
一人になったら、やっぱりちょっと疲れていたのか、すぐに寝てしまっていた。
鍛えていても、子供の体はスタミナが少ないよね。
〇●●●〇
翌日、馬車を公爵邸に預けたまま、そこからてくてくと三人で施療院にむかう。
いや四人以上に増えてる。
同行者は公爵閣下と護衛だ。
「陛下から殿下が優秀な魔法使いだと聞いた時はびっくりしたけど、この目で見られる時が来るとは」
「しっ!俺は冒険者のリーンだよ。
叔父上も変装してるのに台無し!」
昼からファンダー像の除幕式だろうに、ちょっとリッチな商売人程度の服装で俺達についてきたここの領主。護衛も平民の警備員みたいな格好だ。
「すまん」
でも、俺達も次の予定があるからちゃっちゃと済ます。
準王都ファンダーの施療院には王都より若干多い魔力枯渇の患者がいたのだ。
もともと王都だったからこの施療院は国で一番古くて大きい。
「叔父上、そろそろここを建て替えないの?」
何しろ建国当時のままだ。あの時は、大理石の真っ白な建物だったが、状態維持の魔法が切れてずいぶん経っているのだろう。
雨による水垢などで汚れたり少し腐食したりしている。中の機能には影響がないが、いや、中の機能が古すぎる。本当に建国当時のままだ。しかもあのころは魔法治療がメインだったから、魔法のための部屋がいくつか残っていて、だが使われずに物置になっている。
「ここ、製薬室なんだな」
王都の魔法係の部屋を見たことがあるアズールもつぶやく。
「だけど、あっちよりボロボロだな」
「あっちは俺が復活させたからな」
とりあえず、この部屋を使える人がいつ出てきても良いようにと、シスターにお願いをしておく。
「そうですね、掃除はしたほうが良いですね」
「はい!清潔を保つのは施療院には大事ですもんね」
わかってるのか?このシスターは。
製薬室には、ゴミが散乱していて、置いてあるものも廃棄しても良いようなものばかり。
思わず片付けかけているスボール。
「これは布巾?あ、違うこれって弁当?うわくっせ」
とりあえず、そのシスターはあとで上の人にしっかりしてもらうように公爵経由で通達してもらうだろう。今直接言うのは良くない。
「ポーションだけでは難しい患者がいたが、リーンはそれもあっという間に治療できるとか、すごいな」
「叔父上も、何処かから魔法使いか魔女を雇ってください」
「そうだな。年嵩のものからつてを探してみるよ」
「叔父上も王族なんですから、魔法の鍛錬をしてくださいね」
「わかった」
「ちょうど、患者の中に一人魔法使いがいましたよ」
「そうだったな、彼にやる気があるなら、魔法使いとして復帰してもらいたい。なんならあの製薬室を任せても良いかもしれぬ」
「はい、援助してやってください」
「もちろんだ」
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