43【水が滴るまえに】
長く休んでて申し訳ないです!
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ランデルソール王国では主だった街には噴水がある。
ちょっとした山や森が多いから水が豊富なんだよね。だけど、生活に川の水を利用するのではなく地下水が推奨されていた。
地下水は、川の水に比べればある程度地中の土の層で濾過されるから綺麗なのだ。
だけど、あっちこっちにボコボコ井戸を掘ると、区画整理などで埋めたりするとその地盤がゆるんで物が建てにくくなる。
だから、山から続いている太い水脈から街の広場に人工の泉代わりに噴水を設置して、そこから方々へ水道として各ブロックへ流す。
水道なら地中の浅いところを通るから井戸ほど地中を傷めない。
この仕組みは、隣のヴォーレスタ王国から始まってこのランデルソール王国、そして南に隣接しているカリドー王国でも採用されていて、水不足に陥ったときは互いに水がシェアできるようになっている。
それも国同士が仲良しだからできるんだよね。
水道完備。
だからと言って煮沸もしてない水をいきなり飲むのは、甘やかされて育った俺やアズールには命取りかもしれないから、朝、水筒に氷水をサービスしたけど、それ以外は持ち歩いている樽の水を使う。こっちは煮沸した水だからね。
ちなみに俺は水筒を持っていない。
コップや、手でも十分だからね。
ちなみに下水も完備。
下水は、水道から何メートルもの真下に通っていて、最終的に川沿いに大きな下水管を埋めてあって、海の近くで河に合流する。その際、魔法陣を貼りまくった魔道具を通って浄化し、ただの土や泥に変わって水とともに排水される。
この土や泥は栄養は豊富なので、そのまま掬って田畑の土壌改良に使われたり、海洋生物が豊かになることに貢献している。
それでもときどき、河への出口に堆積することがあるので、それを掬い出したり海へ押し出す仕事が冒険者に回ってくる。
主に、長年低クラスのままの熟年冒険者がやってくれている。
水は危ないけど、魔物ほどでもないし、定期的な収入になるからか、作業者には事欠かない。
ちなみに内陸のヴォーレスタ王国からの下水は一旦浄化されてから、ランデルソール王国の下水に合流している。
その仕組みを大昔に魔法で構築したので、国は魔法を捨てきれずにいるわけだ。
帝国は知らんけど。昔から魔法を使うことに消極的だったからね。
ただ、魔法の仕組みを使わずに汚水を河に垂れ流していた。
だけど、帝国も内陸だから、その川の水がカリドー王国に流れてきていて、よく喧嘩(国同士の喧嘩はつまり戦)になっていた。
それで、帝国から流れてくる川の水を一旦下水道に取り込んで浄化する仕組みを構築して、しょうがないからカリドー王国が泣く泣く自費で浄化設備を運営していた。
だから、帝国からカリドー王国への出入りにかなりの入出国税を取ってその費用の一部に充てている。
帝国からの物資にもかなりの関税をかけている。
で、他の国もそのとばっちりがこないように、同じ関税をかけて、カリドー王国へ少し寄付を回している。
そうやって、昔から帝国対他国の構図は出来ていたのだ。
近年では帝国の例の激しい工業化がカリドー王国を苦しめているらしい。
それで、父上もカリドー王国に流れてくる川の水の浄化費用を回している。
なにしろ、あの王国も麦を始めとする穀倉地帯で、そんなところの水が汚染されていたら、自分たちの口にも入ってしまうかもしれないからね。
準王都ファンダーにたどり着いた俺達は、そこの商業ギルドのファンダー支部にお邪魔する。
「ご苦労さまです」
至極丁寧に出迎えてくれた女性は支部長だそうだ。
「いまから、設置するそうなのでお付き合いいただけますか?」
「そこまで持っていくということですね」
「ええ、この目の前ですので」
そう示された向こうには噴水があって、数人の工事をするような人が待ち構えていた。
「わかりました」
アズールが馬の手綱を取り、そちらまで引っ張っていく。それに支部長も付いてくる。
「リーン、あの人さ…」
「げっ、叔父上」
「だよね」
噴水近くまでたどり着いた先には、このファンダーの地の代官をしている、フィンゲン・ラ・ランデルソール公爵が立っていた。父上の弟、つまり王弟だ。
すぐ後には護衛の騎士が一人。だがアズールを見ても分からないみたいだから、フィンゲン直属の騎士なのだろう。
ただの冒険者には雲の上の人のはず。
俺達は像の隣で頭を下げたままでいた。
「其方達が、ファンダー様の像を運んでくれたとか。礼を言う。顔を上げてみよ」
ほんのちょっとだけあげて声を出す。
本当は偉い相手に〈顔を上げろ〉と言われたら、ちゃんと目を合わせるのがお作法だよ。
「はっ。
公爵閣下におかれましては、我々としても職務ゆえ礼には及びませぬ。
それに、無事に運べたかどうかまだ確認できておりませぬので」
頭を下げたまま恭しく言ってみる。
「そうだな。
これは設置してから梱包を外すのがいいか?」
傍らの工事人に聞いている。
「は、下のところだけ外します」
「うむ」
「僕がします」
こういうのは、やったことがある人がしないとね。
足元の梱包にナイフをちょっと引っ掛けて外しているうちに、噴水のバルブを閉めたのか水音が止まる。
「ではお願いします」
男たちは造園工事に慣れた人々のようだ。
手際よく立像を噴水の真ん中に置き、沢山のビスでぐるりとねじ込んでいく。
だけど⋯⋯
「閣下、このビス周りはこのままですか」
「このままだが、都合が悪いかな?」
ファンダーはブロンズだがビスは鋼鉄だった。これでは噴水の飛沫で錆びるし、見栄えも悪い。
「ちょっと手を加えさせていただいても?」
「わかった、やってみろ」
俺はすっかり魔法の杖代わりにしている魔石ペンを取り出して、噴水にかかってる梯子を登っていく。
「気をつけろよリーン」
「大丈夫だよアズール」
ブロンズの足の間に首を突っ込むようにしながら、魔石ペンで石畳をスケッチするようにビス周りのブロンズを動かして、ビスの上を覆うようにさせながら石畳のテクスチャーを再現する。
ちょうど噴水の周りのようにね。
「おお、素晴らしい。あなたは魔法使いなのですか?」
もう一つの梯子に登っていた一人の造園スタッフが声を上げる。
「冒険者ですよ」
こんな事、ちょっと腕の良い土属性持ちの魔法使いならすぐに出来たんだけどね。
そして状態維持の魔法陣を描いた魔羊皮紙を彼の足の間に置いて、魔法を発動すると、魔法陣が光りながら溶けるようにして紙が消えた。
「終わりました。これでサビや苔も出てこないですから」
「そうか、ご苦労だった」
「いえ、俺達もファンダー王は長く格好良く立っていてほしいですからね」
「わかった」
俺が梯子を降りると入れ替わりで再び他の男が登っていって、上の方の梱包を外していっていた。だが、せっかく姿が見えた立像にふわりと布がかぶせられて、裾の方でぐるりと紐で固定された。
「明日、除幕式なのだ。その方たちも見ていかぬか?」
「ありがたいですけど、うーん⋯⋯」
「閣下、除幕式は何時頃なのですか?」
「昼過ぎだ」
「残念ながら次の予定がありまして」
「なっ!貴様ら、冒険者の分際で公爵閣下のお誘いを断るのか?」
騎士がすごい顔で睨む。
「え?お断りすると罪になるんですか?」
アズールがびっくりする。
「まあ、普通の冒険者ならな。
よい、この二人なら私の誘いを断ることは出来るのだ」
「は?
はっ、失礼いたしました」
「うむ、な?
ファーリィン、それにアズールだろ、もう一人は知らぬな」
「バレてましたか」
「そりゃそうですよね。
叔父上、この者はスボール、彼も騎士であり、俺達の冒険者パーティーのひとりです」
「はじめまして、スボールです」
「うむ、二人をよろしく頼むな」
「はっ」
「で、除幕式は無理でも、せめて私の屋敷で泊まっていきなさい」
「えー」
「私だって可愛い甥っ子や又甥と晩飯ぐらい食べたいのさ。
それに、子供達も君たちに会ったら喜ぶからな」
そう言われてアズールと顔を見合わせて肩をすくめる。
叔父上の子供は確か五歳と三歳。
しょうがないよね。
「わかりました」
「お邪魔させていただきます」
「じゃあ、馬車でそのまま公爵館に来なさい」
「はい」
「君、この二人の馬車の馭者を」
そのまま造園スタッフと思っていた一人に声をかける。
「はっ」
「いいか、大事な客だからな、失礼のないようにするのだ」
「わかりました」
立像に布がかかったまま噴水が再開される。
この噴水からの水も生活用水になるので、長く止めることは出来ないのだ。
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