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かつて大賢者だった黒猫は王子に転生しても魔王ひとすじ  作者: 前野羊子


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42【次は始まりの地】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 翌日、商業ギルドによると、待ってたのは大きな荷物だった。

「これをお願い致します」

「え?これ?大丈夫?」

 それは、原寸大の男性の彫刻だった。

 しかも、見覚えがある人。

「保険入ってますか?」

「ええ勿論。これを作成した人本人が入りました」

「本人が?」

「これを作った人はもう高齢で、注文を受けるのはこれが最後だから、修復も出来なくなるだろうと」

「なるほど」


「リーン、この銅像の人…」

「建国王ファンダーだね」

 古いデザインの軽鎧に身を包み、ハーフマントを少しなびかせて、利き手の左手で剣を逆手で持ち、柄頭を前に出して構えている。

 あの剣はむしろ魔法の杖としての方が使い勝手が良かったからな。今も宮殿の宝物殿にあるが、リィーン・ラ・ビブリオーが若い時に愛用していたものだ。

 頭には、シンプルだけど威厳を象徴する王冠。



 建国王ファンダーの像は宮殿の正面ホールに立ってる。しかもそれは真っ白な石像で本来の身長の倍ぐらいある。

 しかし、それがブロンズで作られている。身長も原寸大だろう。


「自分達が運ぶのか?」

「ね、他にいないのかな」

「そりゃいないだろう、運んでやれよリーン」

 ご先祖様だろ?と顔に書いているアズール。

 君だって子孫なんだからね!


「わかりました。梱包をお願いしたいのですが」

「それが、ギルドの職員が建国王の彫刻の梱包を拒んでおりまして、かくいう私も」

「どうして?」

「もしもの事があればと思うと」

「ファンダー様の指が欠けたりしたら誰が責任取るか揉めそうだな」

「まあ、俺のせいで指が欠けたら責任もって修復するぜ」

「流石リーン」

「しかしこのまま乗せられないよな」

 なにしろ立ってるし。

 父上も背は高い方だけど、ファンダーも背が高くてリアルに戦っていたからガッチリしていた。

 この彫刻家は見たことがあるのか?あれ?でもないな、そりゃそうか。ファンダーは左肩に傷跡があったよな、ここからここに掛けて。

 と指でなぞってたら、

「リーン、不必要に触っちゃだめ!」

 又従兄殿に怒られちゃった。


 帝国を中心に全体的に荒れた時代だったから、あいつも常に戦っていた。


 まあ、そこはリアリティは不要か。

 何しろ五百年以上昔の話だ。知るものは書物と俺だけだ。


「すこし、小部屋を借りていいですか」

「はい…こちらへどうぞ」

「銅像も持ってきてください」


 その部屋で俺は、四つ切りにした魔羊皮紙に同じ魔法陣を書いておく…四枚でいいか。


 〈防壊、防汚、状態保存〉の組み合わせで。


 そして、一枚をファンダー王冠の額に押し付けるように魔力を通すと、紙が光ってから消えた。

「すげ…」

「吸い込まれた?」


「え?消えました?紙…」


ギルド職員も驚いている。


それをマルっと無視して、服を着てるデザインだけど胸と、尻にも同じようにした。


「あとは台座の裏なんだけど」

 台座とは言え足をつなげているだけの平べったいお盆のようなもの。

 これをまた立派な台座に乗せるのだろう。

「傾けようか」

「ああ」

「私も手伝います」


 職員もお手伝い。

 俺が何をしているのか分かっているのか…。


 とにかく傾けてくれている台座の下へもぐりこんで、魔法陣の魔羊皮紙を張り付ける。


「これで良し」

「うん」

「今のは魔法陣ですか?」

 職員が尋ねる。

「はい〈防壊、防汚、状態保存〉の重ね掛けの効果を銅像そのものに付与しました。これをどこに置くか分からないけれど、帝国の武器を向けられてもかすり傷さえ付かなくなりますよ」

「それは素晴らしいです。商業ギルドは国とは別の組織ですが、私自身はランデルソール王国の人間なので、このファンダー王の銅像が傷つくのはイヤですからね」

「わかりますよ!」

「私も思います」

 アズール達も同意していた。


「お兄さん、せめて布と紐はありますか?」

「あります」

「確かに丸出しで乗せられないよな」

「もう壊れないから、包んで」

「わかりました。ありがとうございます。魔法付与の費用は追加させますので」

「いや、俺もこの国の民なんだ、建国王の像は傷つけられたくない気持ちは同じだ」

 しかも、本人を知ってる身としてはなおさらだ。


「リーン、待ってる間に朝飯にしようか」

「うん」


 商業ギルドにもレストランコーナーはある。

 ギルド違いだから割引が効かないかなって思ったけど、大丈夫だった。

 サンドイッチを二つずつ買って一つは弁当用にカバンに入れて、一つを食べる。

 

「あ、二人とも水筒出して」

「あ?ああ」 

「はい」


 そこへ氷入りの水を入れておいてやる。


「助かる」

「夏に氷水ほど贅沢はないよな」

「ああ」


「リーン様。梱包終わりました」

「はい」

「じゃあ馬車を出してもらおうか」

 

 今日は昨日と違う馬だ。

 昨日一日中馬車を引いてくれたコは今日はお休み。


「馬車に乗せました」

「わかりました」

「では出発します」


 今日の馭者はスボールから。




 出発してすぐに王都の境目を超える。やっとだ。


 次に目指すのは〈準王都ファンダー〉。

 もともとこっちが王都だった。

 というか、ファンダーはもともと小国ランデルソールの王で、周りの領主からも信頼が厚かったのだ。頭が良くて武にも長け、魔法も上手かった。

 ランデルソール国があったのが準王都ファンダーの辺りだ。

 ランデルソールが広い国の名前になったので、もともとの王国はあいつのファーストネームを取って〈ファンダー〉という地名にしたのだ。



 だから奴の街にこの銅像を持っていくことに誰も疑問を持たないのだ。



 さて、俺とアズールが並んで座った向かいには梱包されて寝転んでいるファンダー。


「それにしても魔羊って大事なんですね」

 魔法陣の話から魔羊の話題に変わっていた。


「だろ?魔羊皮紙もこんなに使い道あるのにさ、あれ一頭で捨てるところはないって話だよ」

「ふうん」

「肉はうまいし、内臓があればもっと効率的な上級マジックポーションが作れるし、骨からはいい出汁が出て、出汁を取り切った骨は細かく粉にして薬の散剤にできるし、頭蓋骨で出来た馬のヘルメットはちょっとどうかな?って感じだったけど」

「なるほど」

「そう言えば、魔羊も目が赤いやつだとコカトリスみたいに相手を石化させるやつがいて、その目を建物の基礎に沈めたら、その建物はより頑丈になるって信じられていたんだよ」

「いまも建物を起工するときに羊の小さな焼き物を鎮めるっていうけど、目玉だったんですか」

「うん」

「じゃあ、本当に魔羊は大事なんですね」

「最後のは唯の迷信だと思うけどさ」


 幌の隙間から見える風景は幾分のどかになってきたけれど、まだ農地より建物が多い。

 時々森の中を抜けることがあるけど。夏は森の中の方が過ごしやすいから、あえてそこで休憩する。

 

 すでにスボールは知らない世界だ。

 だけど、準王都も直轄地なので騎士団が地域の安全を守っている。


「スボールまだ変わらなくてよいか?」


 桶に魔法の水を入れてやると馬が飲む。



「大丈夫です。むしろ馭者のほうが楽しいんで」

「わかるよ」


 アズールは免許がないからね。俺と二人で交代するしかない。


 傍らの木は馬が好きそうなやつだ。

 あ、実がなってんじゃんこっちは俺たちのおやつ。

 赤い実が甘く香って思わずひとつ手に取る。野生種だからちょっと小さめだけど、絶対甘いはず。


「これ食う?桃」

「いいですねぇ」

 三つだけで手に山盛りになった桃の実の隙間から水を溢れるようにこぼして、ちょっと洗う。

「どうぞ」

「ありがとう」

 皆皮ごと!

「頂きます」

「甘酸っぱい」

「これは爽やかです」


 葉っぱの柔らかいところを摘んでやって馬にやる。


「美味いか?」

 鼻筋を撫でる。


「リーンは馬とも話せるのか?」

「だから無理だって。猫だけだよ」

「いや、馬と話せたらいろいろ悪いこと出来そうだろ?」

思わずじっとりとスボールを見る。


「まだ俺は競馬には関われないからね!」


 スボールの実家、サバダリファの地域は昔から馬の名産地で、競馬という大人の遊びも盛んだ。

 辺境という立地から、隣の国からもレースを楽しみに人々がやって来るそうだ。


俺は桃の葉をアズールに交代してもらって、馬の足首や膝に触っていく。そして付け根のところ。

「気を付けろよリーン」

 触り方を間違えれば蹴られるからね。


「大丈夫…」

 

 魔法で少し冷やして、疲れを取ってやる。


 休憩毎にやってるんだよ。


 魔法は使わず旅をすると言ったけど、こんなことは出し惜しみしない。

「頑張ってくれてるもんな」



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