4【猿ではない】
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頭を使った後は体だ。
図書室での勉強が終わったぼくはズボンのベルトに付けられている外付けのポケットに勉強道具と 今夜寝る前に読む本を入れる。
このポケットには魔法の仕掛けがあって、大きさは五歳のぼくのげんこつが入るかな?って感じだけど、もっとたくさん入るのだ。
ぼくが図書室へ通って勉強を始める時に、父上が宝物庫にあったこれを下さったのだ。
「これなら、欲張って沢山の書物や勉強道具が運べるであろう…これは、王族しか使えない道具だからな」
「はい!」
このポケットは〈俺〉がその昔、国を興した友達にお祝いにあげた物のひとつ。
確か家名が今のぼくと同じランデルソール。
彼は魔法使いとしても優秀だったけど、このポケットを使うために余計な魔力を消費しちゃ可哀そうだと思って、容量を荷馬車一つ分にしたんだ。
でも、自分が使うなら遠慮はいらないよね。
今このポケットの容量は無限になっている。
っていうか、もともと無限だったのをロックしていただけなんだけどね。
本当はね、空間魔法もいくつか思い出したんだ。
それはいざという時において置くんだ。
え?食堂から図書館に行くときもそこに入れておけば手ぶらだったって?
でもね、〈今から勉強に行くんですよ!〉って見せて歩かないと、五歳児じゃ遊びに行くのかと思われて、すれ違う人に変な所に誘われちゃうでしょ?宮殿の中とは言え。
だから、持って歩いたんだよ。
でも、勉強が終わったのだから、仕舞うよ。
図書館と宮殿本館を挟んで裏側には騎士が訓練をしている大きな場所があって、ぼくはそこに向かう。
図書館から宮殿の庭に出るほうから出る。
季節は春になったばかりだからまだ少し寒い。
庭に出て少しストレッチをしたら、ジャケットを脱いでこれもポケットに仕舞って走り始める。
準備体操がわりに体を温めるためにね。
庭師が手入れしてくれている美しい庭園の間を模様の線のように広がっている石畳を走っていく。だんだん早くって、前を走ってる女性が。
「殿下!スピードを上げますよ!」
「はい、エリス!」
食堂から図書館についてきてくれていた女騎士が、今度は師匠だ。
彼女はエリス・ド・シャンパンティエ。男爵令嬢だ。
彼女がどうして騎士になったかというと、貴族令嬢は家のために結婚をしなくてはいけないけれど、騎士の社会にいれば多くの男性にも接することがあるので、家や家より高い身分の貴族の言いなりになって不幸な結婚をすることがないようにと騎士になったそうだ。
同じように生きてきた彼女のお母さんもそうやってお父さんと結婚して、今は男爵家を牛耳り、男爵を尻に敷いているのだとか。
そんなお母さんの勧めもあって騎士団入りしたらしい。
この国の女の人は逞しいのである。
でも、ぼくは小さいながら足には自信があるんだよ!
エリスをあっという間に追い越して、宮殿の本館を大きく避けて走り続ける。
だって、エリスは思い剣を持って鎧を着てるんだもん。僕よりハンデがあるよね。
本館の壁を過ぎると、闘技場が見えてきた。初めから見えていた塔が目の前だ。
でも、すぐには入らないんだよ。
ぼくは、闘技場を囲むように引かれている道に入ってぐるりと一周猛ダッシュで走る。
そして塔に戻ってきた。
「ふう…ふう…ふう」
足踏みをしながらゆっくりダウン。
「殿下、お水を」
塔に立ってた一人の兵士が水の入ったコップを渡してくれる。
コップだけで大丈夫なんだけどね、まさか僕が水の魔法が使えるとは知らないからさ。
この人は衛生担当兵。主に騎士の健康管理をしている。
「ありがとう」
「はあはあ殿下。さて、次に行きますか」
女性騎士が近寄ってきた。
「エリス、君も息が切れてるじゃない。
はい、お水。
もう少し休憩したら?」
「いえ。次は私はご一緒しませんので」
「なるほど?」
塔の北側に回る。
こちらは裏側になるので、表から見えない色々なものが取り付けられている。
付き合わないけれど見守るエリスが、ぼくにハーネスを取り付けてきた。
それを、塔の一番上からぶら下がっているロープと接続する。
一番上の窓には、見張りの騎士が反対側のロープを持っている。あちらのロープは大きな糸巻のようなものに繋がっている。
あれを回すと、このロープが短くなるんだ。
ぼくの隣にも同じようなハーネスとロープを取り付けた少年が立っている。
10歳と言ってた。彼は見習い騎士で、訓練中なのだ。そばかすにブラウンヘアの可愛いやつなのである。
それがぼくの体力づくりに付き合ってくれる。
「では、行きますよ」
「はい」
「用意…」
エリスが片手をあげて言う。
塔の北側の壁には飛び出た煉瓦が取り付けてあったり、やたら長い梯子が二本並んでつけられている。
二人は梯子の前に立つ。
「ドン!」
ガガッ
目の前の梯子を上っていく。出来るだけ早く。でも絶対に踏み外さないように。
ハーネスのロープはゆるゆるで、ぼくを引っ張ることはしてくれない。滑落しても地面にぶち当たらない程度しかロープを上げてくれないのだ。
「え?まじか?はやい!殿下は猿ですか?」
隣で登ってる少年がつぶやく。
失礼な!せめて猫みたいだと言ってくれ。
「そんなこと言ってていいのぉ?ぼくは本当に速いよ~」
「待ってください!殿下に負けたらお昼ご飯減らされるんですよ~」
「なら、集中!」
「はい!」
なぜぼくは競争相手に活を入れてるんだ。
塔は五階建て。屋根と尖塔も足したらもっと高いけど、五階の窓に伸びてる梯子は高さ十七メートル程。
「殿下は軽そうでいいですね!」
「君はぼくより手も足も長くて羨ましい!」
「そりゃ年上ですから!」
「どっちがハンデがあるかは分からないって事!」
「はい!」
「騎士見習いの昼ご飯ってどんなもの?」
「はあはあ…肉ですよ」
「夜ご飯は?」
「はあはあ…肉です」
「野菜は?」
「…あんまり…はあはあ…何故ですか?」
「肉だけは良くないんだよねぇ」
「はあはあ」
「とにかく先に行くよ…」
「え?そんな!殿下待ってくださいよ!」
「やだね~」
するすると登って、最上階の塔にぶら下がっている鐘を叩く
ゴーン…
「あああ!」
窓に足をかけて途方に暮れた少年が情けない声を上げる。
「残念!」
「殿下の勝ちだな」
見張りの騎士にも確定される。
「うう…昼飯が…」
「リベンジする?」
「はいっ、ぜひ!」
「んじゃ降りようか」
「では行きますよ!…スタート!」
ゴーン
再び鐘が鳴る。
鐘はそのまま鳴り続けている。
なにしろお昼の時報だからね。
で、ぼく達は今度は梯子を下りていく。
騎士はともかく、王子であるぼくは梯子を下りる方が大事。
将来何かがあってどこかに閉じ込められても、こうやって逃げ出せるようにね。
梯子のある塔なんてないだろうけど、煉瓦の突起のほうでの上り下りも練習しているよ。
この塔の裏側にそんな訓練設備があるなんて、表からは見えてないんだけどね。
ちなみにもう一対、軍の方の塔にも、この上り下りの設備はあるよ。あっちには鐘がないんだけどね。
「この設備を考えたのは〈積層の魔導士〉でいらっしゃいますよ」
図書館でのやり取りを知ってるエリスがタオルでぼくの汗を拭いてくれながら言う。
「?あれは冒険者ギルドの設備だったと思うんだけど」
「ええ。そうです。
冒険者用の訓練設備は騎士や兵士の体力作りに役に立つと、冒険者ギルドにも所属している兵士がもちこんで…」
「そうだったんですね。あ、自分で拭けるよ!」
「まだ背中が汗だくですよ」
「そうだけど」
自分で背中の汗を拭くにはシャツを脱がなくちゃいけないんだよね。
王族は男でも人前では服を脱いじゃダメなんだって不便だよね。
でもエリスがぼくの首から騎士のくせにほっそりした腕を突っ込んで背中の汗を拭いてくれる。
「ちょ、汗臭いんだから!」
「殿下の汗なんか全然臭いませんよ。男の騎士の汗に比べたら」
「そりゃまあ」
毎日花びらが浮かんだお風呂に入ってるからね。
「こんなに毎日訓練していたら、そろそろ外に出てもよくない?宮殿のすぐ外ぐらい」
「だめですよ!
殿下はまだ剣を学んでないでしょ?」
「剣なら使えると思うんだけど…」
ずっと前はAランクだったんだしね!
「では、明日は剣の稽古に取り掛かりますか。
国王陛下に聞いてみましょう」
「やった!」
とにかく早く外に出たいんだよね。
自分のお金を得て、お手紙を出したいから!
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