3【今生のお勉強】
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「リィン、魔法の羽ペンで手紙を書くなんて、横着になったものだな」
魔王様のライティングデスクによじ登って、目の前の羊皮紙を真剣に睨む。
そこでは、氷上のスケートのように羽ペンが滑って文章を描く。
「にゃあっ」
だって、肉球じゃ上手くつかめないんだもん!
かといって、羽ペンの軸を両手で挟んだら、ペン先が見えないから変な文字になるし!
右手をインク壺に突っ込んで文字を書いたら叱るじゃん。
「で、何の手紙を…?
ああ、私が断りたいって言ってた夜会の返事だね。
代筆してくれたんだ」
と言いながら俺の頭から背中を撫でる。
「にゃ」
だって、デューク様も文字が綺麗なのにお手紙書かないじゃん!
「私の文章は古くて読めないらしいからねぇ。
ありがとう。愛しているよリィン」
棚から封蝋セットを取り出しながら、俺の額にキスをくれる。
だから!俺が「にゃー」しか言えないときに限ってそんな事を言う!
〇●●●〇
ランデルソール王宮の図書館は、一年前から午前中は一般の人への開放をやめている。
それは、ぼくがその中で勉強を始めたからだ。
四歳になった次の日から、家庭教師のラマーノというバレリアの元夫という人が訪ねてきて、ぼくに勉強を教え始めた。
始めは、文字や数字を数える玩具のようなものを持ってきて教えようとしたんだけど。
すでに部屋にあった大人向けの本を読んでいる途中でしおりを挟んでいるのを見られちゃった。
〈ランデルソール王国・経済白書、門外不出〉五年前のだけど。
ぼくが生まれる前の分だね。門外不出と書いてあるけど。ぼくの部屋はもちろん門の中だから!誰が貸してくれたのかは秘密。
それでも、確認のためと二つのテストをさせられちゃった!読み書きと計算だけどね。
「王子殿下は神童ですな。
読み書きも計算もすでに高等科の域を超えていらっしゃいます!
文字はそこいらの文官より整って読みやすいですし、計算もお早いです」
そりゃね、昔は商売人をやったり、司書みたいなこともやったりしてたからさ!
司書の時は違う文字の文化だったから、その後は面倒な時もあったけど。
前の時は文字を読めても書くのが大変だったし。
だけど、単語のスペルも結構思い出したよ!過去百年のブランク分だけ覚えたら大丈夫!
言葉は変わっていくものだから。
「ラマーノ先生!」
右手をハイと上げて元気に言う。
「ぼくは、地図(今の地理)のことと、この国の物語(百年ほどの歴史)が分からないです!」
「そうですね。
王族は読み書き計算以外の勉強の方が大事です」
こっくり
「では、図書館でお勉強が出来るように手配いたしましょう」
国で一番大きな図書館は、僕が住んでる王宮の門の並びにあった。
だからそれまでは、国中の人々や学者迄が知識を求めてそこを利用していた。
一部は貸し出しもしたりしていて、老若男女国民に人気の施設だ。
なのに、ぼくのために午前中だけとはいえ使えなくなっちゃうなんて。
これは少しでも早く勉強をおわらせなくちゃね。
だから、朝ごはんの時にはもう勉強の用意をして、そのまま図書館に出かけることにしたんだ。
なにしろ、自分が住んでいる所の施設だというのに、十五分は歩かなくちゃたどり着けないんだよ。
食堂の外で待機してくれていた女性騎士を伴って、走らないように素早くスマートに、ちょこちょこ歩いて図書館に急ぐ。
焦る気を堪えてたどり着いたドアの前に立つ。
王子たるもの、自分でドアを開けてはいけないのだ。
「どうぞ、ファーリィン・ラ・ランデルソール王子殿下」
図書館のドアに立ってる別の騎士がドアを開ける。
「ご苦労様。
うっ」
ドアの向こう、一階のホールの突き当りには一人の男性の肖像画が飾られている。
毎回うろたえてしまう。
もちろん初めて図書館に来た時も、腰を抜かしそうになって…五歳なのに!
「うわぁ!っ」
青い絨毯敷きの床に尻もちをついてしまった。
「どうしたのですか王子?
肖像画など王宮の色々な部屋に飾ってますのに、何を驚かれました?」
「いえ」
その絵の人は、今のぼくと同じような黒い髪に金色の瞳を少し細めて、手に分厚い本を広げて持ちこちらを見ている。年齢は四十ぐらいかな。白髪が増えるちょっと手前。髭は生やしていない。いやあまり生えないんだよね。だから中途半端だから剃ってたんだよね。
「それに別段怖い顔ではないでしょう?
むしろ謁見の間にある歴代王族の肖像に比べれば何とも柔和で、心の和む表情をされていますよね」
「うん?そうかな。
で、この方はだれ?王族ではないよね」
一応聞く。
「はい、あのお方はリィーン・ラ・ビブリオー様です。
およそ今から五百年以上の昔、今でいうヴォーレスタ王国の地で人々に知識の大切さを説き、知識は個々で独り占めすることなく、広げて共有こそ大事だと謳われて、〈図書館〉という設備の設立に尽力されました。
逆に技術は本人の意思で一人占めか公開が選べるようにすることが大切だとも。
今では各国に図書館は存在し、国や民の知識や学術の殿堂としてなくてはならないものになっているのです。
〈積層の魔導士〉とも言われている大賢者でもあるかの方を、人ではあったものの図書館においては神に等しいと言う存在として、その国の王より一番良い所に肖像を掲げているのです…」
…そのひとは、そんな崇高な目的で図書館を作ったのじゃないよ。
手持ちの本が沢山になっちゃって困ったからその時の友達の文部大臣に頼んだだけなんだ。管理は自分でするし皆に開放していいから、書庫を作ってくださいって。
まあ余計なことはここでは言わないけどさ。
しかもあの絵は茸のレシピを探してた時のものだと思うんだよね。表紙の模様に見覚えがあるよ。
「国王陛下は、積層の魔導士のお名前の韻をとって王子殿下のファーリィンと言うお名前に決めたと言われておられました」
「有難いようなそうでないような…」
「お勉強を積み重ねられれば、殿下も〈積層の魔導士〉みたいになられますよ。
お会いしてからまだ二日ですが、私は今まで貴方様ほどの神童を見たことはありません」
「おだててもお給料は変わらないよ」
「ふふふ、ですが魔法が誰より得意だった〈積層の魔導士〉の時代と違って、今は魔法はごく限られた人しか使えなくなってしまっています。それは技術が魔法に置き換わってきたからです」
「技術ですか、それは素晴らしいですね!」
さて、今日もその肖像画に見守られて一緒についてきてくれていた女性騎士も一緒に入り、閲覧室の三階の奥に進む。
ここは、我が国ランデルソール王国の地理や歴史の資料を整理している場所であり、僕が今知りたいものが並んでいる。
その奥のちょっと広まったところに、一組の机と椅子が置かれていた。
その向こうには黒板と教壇が僕のために設置されていて、傍らにラマーノ先生が立っていた。
「お早うございます殿下」
「お早うございます。今日もよろしくお願いします」
ぺこり。
なにしろ今日は念願の近隣諸国のお話が始まるのだ。
大きな地図が広げられている。
「これまでにもお教えした通り、ランデルソール王国は西に海に面し、北と南、東、の三方向にそれぞれ他の国と国境で接した位置にございます。
ここ、王都は海に面している北よりのこちらですね」
「はい」
こんなのは復習だ。
百年前とは肝心なところがあまり変わってなくてちょっぴりほっとする。
「先生、この旧街道のほうが、隣のヴォーレスタ王国の王都に行くのに近いのに、どうして今は封鎖されて、こんな遠回りの街道があるのですか?」
「良い質問ですね。
この旧街道の周りをご覧ください。なんて書いてありますか?」
「未開の森です」
「はい、そうですね。未開の森は文字通り開発が進んでいない広大な森で、魔物が多く危険なのです。奥の方には魔王もいると言われてますからね」
「魔王?」
「ええ、本当は魔王ではなくて、ハイダークエルフなんですけどね。何千年も前からこの森の奥に住んでいると言われています」
「デューク…」
「何といいました?」
「いえ何でもないです」
先生は、孫もいるというのに耳が良い。
先生の孫は乳母のバレリアの孫でもあるんだけどね。
「で、未開の森なのに昔はこの道を使っていたのでしょう?
この図書館の本で読みました!」
「ええ、ですが今はこの道を守る結界がところどころ滅びていまして、昔はこの道から外れさえしなければ安全だったと言われていましたが、数年前からは魔物が横切っているという報告がありまして、今は封鎖しています」
「結界を修復すればいいのではないですか?」
「残念ながら。今は失われた技術なのです」
「失われた?」
「旧街道が開通した当初は、この世界では魔法が発達しておりました。
魔物と戦ったり、戦に使ったりはもちろん、人々の生活もちょっとした魔法で文化的な営みが行われておりました」
「先生は前にもそう言われてましたね」
「はい、80年ほど前に、帝国から蒸気機構の文明が入ってきて、それまで魔法で行っていた事柄の八割は帝国の技術にとって代わってしまったのです」
「じゃあ、未開の地の魔物の駆除とかは?」
「今は、森から溢れる魔物を討伐する程度です」
「魔王様は助けてくれないのですか?」
「魔王があの森の中に住んでいることは確かですけど、なにしろ連絡方法が手紙しかなくて」
「森に入れないのにどうやって手紙を配達するのですか?」
「…森の出口に、魔王の郵便受けがあるのです」
「魔王にお手紙を出すにはどうすればよいのでしょう。
先生、魔王の住所って知ってますか?」
「いいえ。
魔王の郵便受けがどこにあるかは、冒険者ギルドしか把握していないです。
しかも、Aランク以上の冒険者にしか配達を依頼できないですから、お金も大層かかります。何しろ隣の国のさらに奥ですからね」
「そうですね…Aランクに仕事をお願いするのには、どの位用立てすれば足りるのでしょう」
「おそらく、日当で一人当たり大銀貨5枚必要です…」
「ぼくにはまだ、そこまで自由になるおこずかいはないよねぇ流石に」
「そうですな。
王族は一般庶民よりかなり上級な暮らしが出来ますが、買い物が自由というわけではないのです。
外での行動には常に責任が付きまといますから」
ですよね。
「殿下、もしかして魔王にお手紙を出したかったんですか?」
「うん」
「どんな内容を?」
「挨拶と、ご機嫌うかがい…かな?」
〈こんにちは、今回はファーリィンと言います。お元気ですかデューク様。もうちょっと待っててくださいね〉って手紙を。
「殿下、そのような内容のために、いくら殿下が切り詰めてお小遣いを溜めても、冒険者ギルドに依頼をたのんではいけませんよ。
殿下に使われる予算は、国民の血税なのですから」
「はーい」
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